いとうせいこうが語かたる「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」が結むすびつけた音楽おんがくと笑わらい

取材しゅざい・文ぶん / 張ちょう江こう浩司こうじ 撮影さつえい / 斎藤さいとう大だい嗣

扉とびらを開あけたら宮沢みやざわ章夫あきおがいた

今いままで誰だれにも聞きかれなかったからしゃべったこともないんだけど、宮沢みやざわさんに初はじめて会あったのは僕ぼくがニッポン放送ほうそうでバイトをしていたときで。タモリさんの番組ばんぐみのADみたいなことをやっていて、そこの黒木くろきさんという作家さっかが僕ぼくのことを「面白おもしろいやつがいるから会あってみなよ」と宮沢みやざわさんに紹介しょうかいしてくれたんです。

──その頃ころの宮沢みやざわさんはラジオの放送ほうそう作家さっかをやられてたんですか？

そうそう。だから宮沢みやざわさんの第だい一いち印象いんしょうは「ラジオの人ひと」だった。そこでどんな話はなしをしたかは覚おぼえていないんだけど、しばらく経たって桑原くわばら茂一もいちさんがスネークマンショーの映像えいぞうを作つくるということで、そのオーディションに呼よばれたんだよ。「JUN」というファッションブランドの関係かんけい者しゃが当時とうじ、僕ぼくのピン芸げいをすごく面白おもしろがっていたんだよね。その人ひとが撮とった僕ぼくのネタの映像えいぞうが茂一もいちさんに渡わたって、「こいつ変へんだし、ちょっと呼よんでみよう」ということになったと思おもうんだけど、オーディションなんて初はじめてだしさ。そもそも「他人たにんに選えらばれるなんて腹はらが立たつ」と思おもっていたし（笑）。九段下くだんしたの皇居こうきょが見みえる古ふるいホテルだったと思おもうんだけど、扉とびらを開あけたら宮沢みやざわさんがいたんだよね。「あれ？ なんでいるんですか？」っていう（笑）。宮沢みやざわさんも作家さっかとしてこの企画きかくに入はいっていて、そのホテルに詰つめて台本だいほんを書かいてた。それが「楽たのしいテレビ」という超ちょうナンセンスな作品さくひんになって。これに参加さんかしていたシティボーイズ、竹中たけなか直人なおと、中村なかむらゆうじ、僕ぼく、そして松本まつもと小雪こゆきという女子じょしを加くわえて「ドラマンス」になった。

──1984年ねんにスタートした、ラジカルの前身ぜんしんになるコントユニットですね。

そう。「ピテカントロプス・エレクトス」という伝説でんせつ的てきなクラブで定期ていき的てきにお笑わらいというか、コントのイベントが始はじまるんです。ピテカンは茂一もいちさんの店みせでもあったから、もちろん音楽おんがくが中心ちゅうしんの場所ばしょなんだけど、茂一もいちさんが好すきな笑わらいの要素ようそも入いれたいと。スネークマンショーみたいなことを生なまの舞台ぶたいでもやりたいということで、宮沢みやざわさんに声こえがかかったんだよね。茂一もいちさんがやりたかったのは当時とうじの「お笑わらい」ではなく、そういうものとは違ちがう空間くうかんを作つくりたかったんだと思おもうんだ。それを宮沢みやざわさんのアイデアで形かたちにしていった。僕ぼくのことはまだ誰だれも知しらない頃ころなんだけど、ステージからフロアを見みたら近田ちかだ（春夫はるお）さんも（立花りっか）ハジメさんも伊武いぶ雅刀まさとうさんもいるし、2階かい席せきには景山かげやま民夫たみおさんもいるわけ。

──サブカルチャー名鑑めいかんというか。

「すごいところに来きちゃったな」と思おもった（笑）。初回しょかいはそれぞれのネタを披露ひろうし合あうような構成こうせいだったんだけど、僕ぼくのネタが終おわったあとに大竹おおたけ（まこと）さんが寄よってきて「お前まえの芸げいはロックだ」って言いうんだよ。あの人ひと、音楽おんがくをわかりもしないのに（笑）。あの頃ころは客きゃくに毒どくを撒まき散ちらすようなタイプだったし、「REMIX落語らくご」とか、ピテカンに来きてる音楽おんがく好すきを喜よろこばせるようなネタをやっていたからそう思おもったんだろうけど。だから僕ぼくにとって笑わらいは最初さいしょから音楽おんがくと関係かんけいしてるんですよ。

──ドラマンスは最初さいしょのライブからわずか数カ月すうかげつで日本にっぽん青年せいねん館かん公演こうえんをやっています。

僕ぼくは講談社こうだんしゃに入社にゅうしゃした頃ころで、人事じんじ部長ぶちょうに「あのー、すいません。当日とうじつ、日本にっぽん青年せいねん館かんでコントやるんで早退そうたいしていいですか？」ってお伺うかがい立たててさ。そしたら「いとうの晴はれ舞台ぶたいだからみんなで観かんに行いこう！」と、僕ぼくの同期どうきを連つれて観かんに来きてくれたんだよ。

──信しんじられないくらいいい職場しょくばですね（笑）。

ゆるい時代じだいだよね。いまだに当時とうじの人事じんじ部長ぶちょうと同期どうきとは年としに何なん回かいか会あうよ。その直後ちょくごにドラマンスがなくなって茂一もいちさんの手てから離はなれたときに、宮沢みやざわさんがラジカル・ガジベリビンバ・システムというのを立たち上あげたと。でも最初さいしょは宮沢みやざわさんも演劇えんげきの作つくり方かたなんて知しらないから。普通ふつうは本番ほんばんが近付ちかづいたら稽古けいこ場じょうに照明しょうめいさんや音響おんきょうさんが来きて、通とおし稽古けいこをしたりいろいろ確認かくにんしたりするんだけど、僕ぼくらは全員ぜんいんコント作つくることしか頭あたまになくて。当日とうじつに一応いちおうリハやって、そのまま本番ほんばんだったんだよ。たぶん最初さいしょに全員ぜんいんで軽かるいコントを短みじかくやったと思おもう。それで暗転あんてんして急いそいで舞台ぶたい袖そでにハケて、シュルシュルってスクリーンが降おりてきたと思おもったら、Art of Noiseの「Legs」が大だい音量おんりょうで流ながれて、「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」ってバーンと映うつし出だされた。

俺おれたちは知しらされてないから「何なにこれ？ うわっ、カッコいい......！」ってなっちゃってさ。大竹おおたけさんなんて袖そでで踊おどってたかもしれない。あの大竹おおたけさんがだよ？（笑） それくらい俺おれたちはその演出えんしゅつに度肝どぎも抜ぬかれたし、こんな演劇えんげきもコントライブも観みたことがなかった。僕ぼくにとってラジカルは、この「Legs」がかかった瞬間しゅんかんのインパクトが大おおきいんだよね。当然とうぜん、お客きゃくさんも盛もり上あがっていて、お祭まつり騒さわぎみたいな気持きもちでコントを観みるからウケるんだよ。

──客席きゃくせきがホカホカに温あたたまった状態じょうたいになっていると。

日にっテレの大塚おおつか恭司きょうじさんという名めいディレクターがラジカルのことを大好だいすきで、このときもたぶん観かんに来きていて。のちにMr.マリックさんの番組ばんぐみを作つくるんだけど、その番組ばんぐみで「Legs」を使つかうんだよ。

──ああ！ マリックさんが登場とうじょうするときのBGM！

大塚おおつかさんはラジカルの印象いんしょうがものすごくてあの曲きょくを使つかったんだと思おもう。そうとしか考かんがえられない。

──ラジカルがなければ、ハンドパワーもなかったかもしれない……。

それくらいインパクトがあったんだよね。今いまに至いたるまで、演劇えんげきやコントライブの途中とちゅうに映像えいぞうを入いれてカットアップするのも当あたり前まえになったし、もう当あたり前まえになりすぎたから違ちがうやり方かたをどうにかできないかと常つねに考かんがえてる。宮沢みやざわさんも何なん年ねんかぶりに俺おれたちを使つかってラジカル的てきなものをやったときに、逆ぎゃくに映像えいぞうを使つかわず1回かいも暗転あんてんしない舞台ぶたいにしてたから。自分じぶんたちも囚とらわれ続つづけちゃうぐらいの演出えんしゅつが、まず最初さいしょにあったんですよ。

かけたい曲きょくからコントを逆算ぎゃくさんする

──ほかにどんな曲きょくが使つかわれていたか覚おぼえていますか？

うーん、あんまり覚おぼえてないんだけど……Talking Headsは確実かくじつにかかってたかな。「Once in a Lifetime」とか。

──やはりニューウェイブが多おおかったんですかね？

流行はやっていたし、使つかいやすい音楽おんがくではあるよね。ドーンと始はじまってくれるから。あと、ヒップホップのトラックの上うえで俺おれがJB（ジェームス・ブラウン）みたいに出演しゅつえん者しゃの名前なまえをシャウトするというのもやってた。芝居しばいの中なかでもラップっぽいことをやってたと思おもう。舞台ぶたい上じょうにターンテーブルを置おいて（藤原ふじわら）ヒロシがDJをやってくれたはずなんだよな。

──コントと音楽おんがくがシームレスにつながっていって公演こうえんのグルーヴを途切とぎれさせないという手法しゅほうは、非常ひじょうにDJ的てきですよね。

そうだね。同おなじBPMが続つづいていくっていう。

──そういったアイデアの源流げんりゅうはどこにあったんでしょうか？

松尾まつおスズキさんが宮沢みやざわさんへの追悼ついとう文ぶんに書かいていた、ラジオコントの思おもい出でを読よんで思おもい出だしたんだけど、ラジカルを始はじめた頃ころに僕ぼくと宮沢みやざわさんは茂一もいちさんのオフィスに週しゅう1で通かよっていたんだよね。クラブキング（桑原くわばらが代表だいひょうを務つとめる株式会社かぶしきがいしゃ。日本にっぽん初はつのクラブカルチャー情報じょうほう誌し「DICTIONARY」を発行はっこうしていた）を立たち上あげた頃ころで、ラジオ番組ばんぐみも持もっていた。茂一もいちさんがプロデューサーで、宮沢みやざわさんと僕ぼくが台本だいほんを書かいていて。2人ふたりして茂一もいちさんの薫陶くんとうを受うける感かんじで。そこで一番いちばん大事だいじなのは、茂一もいちさんはラジオでかけたい曲きょくがすでに決きまってるということ。「この曲きょくをかけるためにはどういうコントからつなげたらいいか」「どういうタイミングでカットインしたらこの曲きょくがカッコよく聴きこえるか」「だんだんフェードインしたらみんながゾクッとするんじゃないか」……そういうことしか考かんがえていない。青山あおやまのキラー通どおりにあったオフィスに行いくと、「宮沢みやざわくん、いとうくん、今度こんどかけたいのはこの曲きょくなんだよ」と言いいながらレコードを流ながす。「うわ、カッコいいっすね！」というところから始はじまるんだよね。コントの設定せっていがあって、ギャグを考かんがえて、その合間あいまに音楽おんがくを流ながすという発想はっそうとは真ま逆ぎゃくなんだ。

──「BGMではない」ということですね。

そう。音楽おんがくからの逆算ぎゃくさんでコントができている。そんな作つくり方かたを知しってしまったのが、僕ぼくと宮沢みやざわさんにとってものすごく大おおきくて。ラジカルでコントをやって袖そでにハケるときに「この曲きょくカッコいいな」と思おもうことは確たしかに多おおくて、それは茂一もいちさんからの影響えいきょうが僕ぼくらの中なかに流ながれているということなんですね。あと、当時とうじ宮沢みやざわさんとよくしゃべったのは、モンティ・パイソンは大好だいすきだけど、コント自体じたいが面白おもしろいかというとそれは違ちがうと。イギリスの社会しゃかい問題もんだいを知しらないとわからない部分ぶぶんもあるし、ブラックジョークがキツすぎるところもあるから。じゃあ、なんでモンティ・パイソンが好すきかというと、スキットとスキットのつなぎ方かたなんだよね。グーッとカメラを引ひいていくとまったく別べつの世界せかいがあって……とか。そのカッコよさに、非常ひじょうに影響えいきょうを受うけたんです。