「子午線しごせんの祀まつり」プレビュー終おえた萬まん斎とき「さらに色々いろいろなものが見みえてきた」

「子午線しごせんの祀まつり」の本ほん公演こうえんが明日あした7月がつ5日にちに開幕かいまく。7月1日にちから3日にちにはプレビュー公演こうえんが行おこなわれた。ステージナタリーでは、そのプレビュー公演こうえんの模様もようをレポートする。

「子午線しごせんの祀まつり」は、「平家ひらか物語ものがたり」に材ざいを取とった木下きのした順二じゅんじの叙事詩じょじし劇げき。1979年ねんに総合そうごう演出えんしゅつ・宇野うの重吉しげよしのもと、観世かんぜ榮夫ひでお、酒井さかい誠まこと、高瀬たかせ精一郎せいいちろう、木下きのした順二じゅんじの演出えんしゅつによって初演しょえんされ、能のう・狂言きょうげん、歌舞伎かぶき、現代げんだい演劇えんげきのキャスト＆スタッフが集結しゅうけつした意欲いよく作さくとして高たかい評価ひょうかを得えた。以来いらい、たびたび上演じょうえんを重かさねており、2004年ねんから2005年ねんの上演じょうえんでは観世かんぜ榮夫ひでおが単独たんどくで演出えんしゅつを担当たんとう。世田谷せたがやパブリックシアター開場かいじょう20周年しゅうねん記念きねん公演こうえんと銘打めいうった今回こんかいは、1999年ねんと2004年ねんの上演じょうえん時じに平知盛たいらのとももり役やくで出演しゅつえんし、昨年さくねん2016年ねんに「戯曲ぎきょくリーディング『子午線しごせんの祀まつり』を読よむ」を手てがけた野村のむら萬まん斎ときが再ふたたび知ち盛もり役やくを務つとめ、本ほん作さくの演出えんしゅつにも初はつ挑戦ちょうせんする。

開演かいえん時刻じこくになると、黒くろのドレスに身みを包つつんだ若村わかむら麻由美まゆみが音おともなく舞台ぶたいに現あらわれ、中央ちゅうおうに明あかりが灯ともったロウソクを置おく。続つづけて黒くろシャツにズボンという、現代げんだい的てきでシンプルな格好かっこうの男女だんじょが、1人ひとり、また1人ひとりと姿すがたを現あらわし、客席きゃくせきに背せを向むけて、波なみ音おんのするほうをぼんやりと見みやる。空そらには満天まんてんの星ほし。そこに時ときの悠久ゆうきゅうと天てんの壮大そうだいさを語かたるナレーターの声こえが響ひびき、いつしか時代じだいは源平げんぺいの合戦かっせん目前もくぜんへと移うつり変かわっていた。

兄あにの平宗盛たいらのむねもり（河原崎かわらざき國太郎くにたろう）に代かわって平家へいけ軍ぐんを指揮しきする平知盛たいらのとももり（野村のむら萬まん斎とき）は、源義経みなもとのよしつね（成なり河かわ）により追おい詰つめられる中なか、和平わへいのために舞姫まいひめ・影身かげみの内侍ないし（若村わかむら麻由美まゆみ）を京都きょうとへ遣つかわそうとする。また豪族ごうぞく・阿波あわ民みん部ぶ重能しげよし（村田むらた雄浩たけひろ）は、知ち盛もりを立たて、新あたらしい日本にっぽん国こくの存立そんりつを画策かくさくするが、知ち盛もりは徹底てってい抗戦こうせんの道みちを選えらぶのだった。一方いっぽうの義経よしつねは、兄あに・源みなもと頼朝よりともが遣つかわした目付めつけ役やく・梶原かじはら景時かげとき（今井いまい朋彦ともひこ）とそりが合あわず対立たいりつを繰くり返かえす。そんな中なか、いよいよ開戦かいせんの時ときが迫せまり……。

萬まん斎ときは、重厚じゅうこう感かんある声音こわねと立たち居振いふる舞まいで、知ち盛もりの誇ほこりの高たかさ、存在そんざい感かんの大おおきさを感かんじさせる。また兄あに・宗そう盛もりとのコミカルなやりとり、阿波あわ民みん部ぶ重能しげよしとの微妙びみょうな心理しんり戦せんなど、対峙たいじする相手あいてによってさまざまに変化へんかする知ち盛もりの多彩たさいな表情ひょうじょうにも注目ちゅうもくだ。

対たいする成なり河かわは、高たかく通とおる声こえで、義経よしつねの熱あつさ、若わかさを表現ひょうげん。特とくに、慣なれない海戦かいせんを前まえに潮しおの流ながれをじっと読よみ、戦機せんきを待まつシーンでは、目めをギラつかせ、異様いような殺気さっきを全身ぜんしんからみなぎらせる。また兄あに・頼朝よりともと後ご白河しらかわ院いんへの思おもいに揺ゆれる場面ばめんでは、義経よしつねの真まっ直すぐな思おもいや人柄ひとがらがセリフの端々はしばしからも滲にじみ出でし、戦たたかいに巻まき込こまれていく義経よしつねの苦悩くのうが描えがき出だされた。さらに若村わかむらは、凛りんと響ひびく声こえ、洗練せんれんされた動うごきにより、男おとこたちの争あらそいとは超越ちょうえつした存在そんざいとして、舞台ぶたいに涼すずやかな風かぜを巻まき起おこす。

また、潮しおの満みち引びきを感かんじさせる松井まついるみの舞台ぶたい美術びじゅつ、刻一刻こくいっこくと表情ひょうじょうを変かえる空そらの様子ようすを、多彩たさいな光ひかりの襞ひだで表現ひょうげんする服部はっとり基もとの照明しょうめいが作品さくひんに深ふかみを与あたえる。後半こうはん、壇ノ浦だんのうらの合戦かっせんを描えがくシーンでは、あるときは船ふね、あるときは岸壁がんぺきにもなる階段かいだんふうの舞台ぶたい美術びじゅつを駆使くしし、幾いく艘そうもの船ふねが浮うかぶ大だい海原うなばらの様子ようすをダイナミックに表現ひょうげんした。

これまでの上演じょうえんでは、スタッフ、キャストのジャンルを超こえた“協きょう働はたらけ”が大おおきく取とり上あげられてきた本ほん作さく。2017年版ねんばんでは、群ぐん読など本ほん作さくの特徴とくちょうはそのままに、作品さくひんの核かくにより深ふかく踏ふみ込こみ、人間にんげんたちの権力けんりょく争あらそいと、その勝敗しょうはいを決定けってい付つける自然しぜんや運命うんめいの力ちから、そしてそれらが生うみ出だす歴史れきしのうねりとを、ある部分ぶぶんは淡々たんたんと、ある部分ぶぶんはドラマチックに描えがき出だした。

プレビュー公演こうえんを終おえて、萬まん斎ときは「さらに色々いろいろなものが見みえてきています。『平家ひらか物語ものがたり』を題材だいざいにした壮大そうだいな作品さくひんですので、万全ばんぜんを期きして本ほん公演こうえん初日しょにちに臨のぞみます」とコメント。成なり河かわも「この作品さくひんを通とおして、演劇えんげきは何なにのためにあるのかを改あらためて考かんがえたり、発見はっけんさせてもらえたり、それがとてもありがたい毎日まいにちです」と感慨かんがいを述のべ、本ほん公演こうえん開幕かいまくへの思おもいを新あらたにしている。公演こうえんは7月がつ23日にちまで。

野村のむら萬まん斎ときコメント　

『子午線しごせんの祀まつり』は古典こてんと現代げんだい劇げき、古いにしえ（いにしえ）と今いま、西洋せいよう化かした現代げんだい日本にっぽんと古ふるき日本にっぽんが結むすびつくような作品さくひんだと思おもいます。タイトルは英訳えいやくすると『Requiem on the Great Meridian』になるのですが、今回こんかいの新しん演出えんしゅつでは人間にんげんの死しを悼いたむ儀式ぎしき、レクイエムということを考かんがえ、弔ちょういのシーンから始はじめています。また劇げき中ちゅう、独白どくはく、対話たいわ、群ぐん読があり、対話たいわ以外いがいは語かたりですが、それぞれソロとデュエット、コーラスという声こえのバリエーションになっていて、短調たんちょうもあれば長調ちょうちょうもあるという交響楽こうきょうがくのような日本語にほんごの音楽おんがく性せいや、叙事詩じょじしとしての魅力みりょくもあります。私わたし自身じしんも演えんじるのが三さん度目どめになる平知盛たいらのとももりの、このアリアのような台詞せりふをきっちり語かたり、歌うたい上あげたいと思おもっています。
プレビュー公演こうえんを経へて、さらに色々いろいろなものが見みえてきています。「平家ひらか物語ものがたり」を題材だいざいにした壮大そうだいな作品さくひんですので、万全ばんぜんを期きして本ほん公演こうえん初日しょにちに臨のぞみます。本ほん作さくの舞台ぶたいとなる一ノ谷いちのや、屋島やしま、
そして壇だんの浦うらの合戦かっせんについて少すこし思おもい出だしていただけたら、本ほん作さくの楽たのしみ方かたが増ふえるかもしれません。そして開演かいえん直前ちょくぜんから作品さくひんの世界せかいへ導みちびくような演出えんしゅつが始はじまりますので、お早はや目めにご着席ちゃくせきいただければ幸さいわいです。世田谷せたがやパブリックシアターでお待まちしております。

成なり河かわコメント

義経よしつねという人物じんぶつの“純粋じゅんすいさ”に僕ぼくは一番いちばん惹ひきつけられています。また「言葉ことばに従事じゅうじする表現ひょうげん」というものの奥深おくふかさと難むずかしさを日々ひび痛感つうかんしながら、自分じぶんのなかでとても大おおきな化学かがく変化へんかが起おきている気きがしていまして、もう一段いちだんステップアップできる機会きかいだということを強つよく噛かみしめています。
このような演劇えんげきを演えんじる方ほうも観みる方ほうも一緒いっしょになって体験たいけんすることは、人間にんげんが生いきていく上うえで色々いろいろなことがある時ときに、人生じんせいというものを超こえていくための、すごく優やさしい訓練くんれんの一ひとつの形かたちなのかなぁという気きがしています。この作品さくひんを通とおして、演劇えんげきは何なにのためにあるのかを改あらためて考かんがえたり、発見はっけんさせてもらえたり、それがとてもありがたい毎日まいにちです。

河原崎かわらざき國太郎くにたろうコメント

いよいよ始はじまる本ほん公演こうえん初日しょにちに向むかって、楽たのしみな気持きもちが出でてきました。プレビュー公演こうえんの初日しょにちは、どのように受うけ取とっていただけるのかという不安ふあんもある中なかで迎むかえたのですが、お客様きゃくさまの反応はんのうを直じかに感かんじてひとつの確信かくしんを持もつことができました。
『子午線しごせんの祀まつり』という作品さくひんの持もつ力ちから、言葉ことばの力ちからは素晴すばらしいですが、世田谷せたがやパブリックシアターという劇場げきじょう空間くうかんも今回こんかい、作品さくひんにぴったりと合あっていると思おもいます。その中なかで、平宗盛たいらのむねもりを体現たいげんしていく一役ひとやく者しゃとしての自分じぶんと、平宗盛たいらのむねもりとしての自分じぶんとの両方りょうほうを舞台ぶたいの上うえで感かんじながら、良よい本ほん公演こうえんの初日しょにちを迎むかえられればと思おもっています。

今井いまい朋彦ともひこコメント

よく言いわれますが、芝居しばいの最後さいごのピースは“お客様きゃくさま”です。いくら稽古けいこ場じょうで本番ほんばんを想定そうていして稽古けいこをしていても、実際じっさいには最後さいごにお客様きゃくさまが入はいってわかることがあります。その気きづきをどう生いかし、千せん穐楽までこの作品さくひんを進化しんかさせる力ちからになれるかを考かんがえている……今いまはそんな心境しんきょうでございます。
源平げんぺいの戦たたかいを描えがいたドラマに「群ぐん読」という特殊とくしゅなスタイルが入はいる、一筋縄ひとすじなわではいかない魅力みりょくを持もつ作品さくひんです。本当ほんとうは自分じぶんの役やくを一いち度どだけ誰だれかに預あづけて、客席きゃくせきから完成かんせいした作品さくひんを観みてみたい！という想おもいに駆かられているのですが、「いけないいけない、自分じぶんには役割やくわりがあった」と思おもい直なおし（笑）、日々ひび演えんじています。

村田むらた雄浩たけひろコメント

私わたしが演えんじる四国しこくの豪族ごうぞく・民みん部ぶは人間にんげんの機微きびや裏表うらおもてというものを深ふかく深ふかく持もっている、やりがいのある役やくだと改あらためて感かんじます。純粋じゅんすいに知ち盛もりとの主従しゅうじゅう関係かんけいを全まっとうする気持きもちがありながらも自分じぶんの主張しゅちょうがあり、知ち盛もりや平家へいけに及およぼす影響えいきょうもわかっていながら画策かくさくめいたことをしてみたり。やればやるほど色いろんな風ふうに見みえてきます。萬ばん斎ひとしさん演えんじる知ち盛もりとがっぷり四よっつに組くむ芝居しばいが多おおいので、プレビューを経へて、お互たがいにどんどん高たかまっていく感かんじがします。
それにしても『子午線しごせんの祀まつり』は大変たいへんな、すごい作品さくひんです。ここ数日すうじつでもどんどんと進化しんかしているこの芝居しばい、戯曲ぎきょく、群ぐん読というものを更さらに突つき詰つめていきたいと思おもいます。

若村わかむら麻由美まゆみコメント

原典げんてん「平家ひらか物語ものがたり」の“諸行無常しょぎょうむじょう”を『子午線しごせんの祀まつり』では“非情ひじょうの相そう”と読よみ取とりましたがその深遠しんえんさを思おもい知しりました。古典こてんに根ねざしてジャンルを超こえた演出えんしゅつ家かならではの新しん演出えんしゅつは、群ぐん読とフォーメーションをジャンルの異ことなる演劇えんげき人じんが、デジタル時代じだいにチーム一丸いちがん人じん力戦りきせんで挑戦ちょうせんします。それは木下きのした順二じゅんじの「非情ひじょうの相そうを見定みさだめよ」を未来みらいに繋つなぐことだと感かんじました。
影身かげみの内侍ないしは巫女ふじょ。未来みらいを知しり天てんの言葉ことばを伝つたえる役目やくめ。体現たいげんするのに苦くるしみましたが劇場げきじょう空間くうかんに入はいって「彼岸ひがんと此岸、更さらにその此岸」の構造こうぞうがよくわかり、美術びじゅつ・照明しょうめい・音楽おんがくに支ささえられ、プレビューの一瞬いっしゅん一瞬いっしゅんが驚おどろくほど新鮮しんせんでした。それはキャスト全員ぜんいんが生いき抜ぬく様ようを見守みまもる立場たちばだからかもしれません。

※初出しょしゅつ時じより、野村のむら萬まん斎ときコメントに一部いちぶ変更へんこうが入はいりました。