京極夏彦も太鼓判、ミュージカル「魍魎の匣」開幕に小西遼生「皆さんの脳を揺さぶりたい」
2021年11月10日 20:31
9 ステージナタリー編集部
イッツフォーリーズによるミュージカル「魍魎の匣」が、本日11月10日に東京・オルタナティブシアターで開幕した。ステージナタリーでは、同日に行われたゲネプロの様子をレポートする。なおこの記事には舞台写真や演出に関する記述が含まれるため、ネタバレを避けたい読者は注意してほしい。
「魍魎の匣」は、京極夏彦による長編推理小説。同作はこれまでにマンガ化、アニメ化、映画化、舞台化されている。初のミュージカル化となる今回は、上演台本・作詞・演出を板垣恭一、作曲・音楽監督を小澤時史が担い、小西遼生が“京極堂”こと中禅寺秋彦役で主演を務める。
「魍魎の匣」を含む京極の妖怪シリーズはページ数が多いことで知られており、「魍魎の匣」文庫版は1000ページを超える。ミュージカル版では状況説明を歌で行うことで、長大な物語が約2時間50分に圧縮された。
舞台後方には、格子状の模様が描かれた背景パネルがそびえ立つ。照明や可動式パネル、小さなボックスなどによって、ステージは月夜の駅や古本屋・京極堂、“箱館(はこやかた)”と呼ばれる美馬坂近代醫學研究所などに次々と様相を変えていった。パネルには作中のキーワードが映像として投影され、「動機」「バラバラ殺人」「戦争」といった断片的なものや、「魍魎」「匣」など物語の核心に関わる語句が壁に浮かんでは消えることによって、観客の想像力が刺激される。また加藤将演じる作家・久保竣公による小説「匣の中の娘」がどのように表現されるのか、原作ファンは楽しみにしておこう。
小西は朗々とした歌声で中禅寺が“憑き物落とし”をする様子を演じつつ、時折見せる動揺した姿や笑顔から、彼の人間臭さも描き出した。イッツフォーリーズの吉田雄は、実直なこわもての警官・木場修太郎をまっすぐに演じる。榎木津礼二郎役の北村諒は予測のつかない行動や言動でストーリーを動かし、舞台に華を添えた。さらにイッツフォーリーズの神澤直也は、関口巽の不安定さや危うさをどこか頼りない表情や佇まいで巧みに表現した。
ゲネプロ終了後に行われた取材会には小西、吉田、北村、神澤、そして板垣と京極が登壇。小西は「レンガのように分厚い原作を読み、『舞台でお客様に楽しんでいただくにはどうしたら良いか』と考え続けてきました。僕の役は特に歌を用いた説明が多く、脳が休む暇がない。ゲネプロを終えて今意識がもうろうとしていますが(笑)、初日を無事に開けたい」と意気込む。
吉田は「客演の方々とご一緒できてうれしい」と胸の内を語る。吉田が「劇団の中だけだと、家族のようになりすぎてそこからはみ出せないように感じることもあって……」と打ち明けると、小西が即座に「反省はあとにしてもらえる!?」とツッコミを入れ、座組の仲むつまじさをのぞかせた。
北村は客演について「歴史ある劇団の作品に出られることが誇らしく、同時に家族の一員になったような心地良さもあります」と言い、「『魍魎の匣』はたくさんの方に愛されている。ものすごい情報量を、余すところなくぶつけたい」と気合い十分。神澤は「原作ファンの方が多いですし、いろいろなご意見もあると思います。だけど『ミュージカル版もありだな』と思ってもらえるようがんばりたい」とコメントした。
記者が板垣に原作で特に面白いと思った箇所を問うと、京極が「遠慮なくどうぞ」と板垣を促して会場は笑いで包まれた。板垣は恐縮しながらも「人間はそれぞれにささやかな事情でできていて、その1つひとつに不思議なことなどない。『物語は解釈だし、僕らは物語の中に生きているにすぎない』と中禅寺が言いますが、この言葉にはすごく感銘を受けました」と話し、「仕掛けはおどろおどろしいけど、物語の中心にあるのは普通の人間の営みなのだと感じ、ぜひミュージカルにしたいと思いました」と思いを口にした。
京極は「ミュージカル化と聞いて耳を疑った」「犯行の動機やお化けについて歌で説明するなんて、今後もないと思う」と語る。また京極は板垣のコメントを受け、「この作品は書き上げた段階で私の手を離れています。この舞台は板垣さんの解釈と、表現者の皆さんの解釈でできていて、観客の皆さんもそれぞれに何かを解釈する。そこに私の出番はありません。“原作改変”にいろいろな思いがある方もいるかもしれませんけど、完成した作品が面白いかどうかが大切。今回のミュージカルはとても面白いです」と太鼓判を押した。
また本日のゲネプロでは、北村演じる榎木津が観客を熱帯魚に例えるワンシーンがあった。京極がこれに触れて「まだ世に出ていないのですが、実は榎木津は今後、熱帯魚を飼うことになっています。でも『ミュージカルから取り入れたんだ』と言われたら悔しいから、今言っておきます!(笑)」と明かすと、北村が「そのセリフは勝手に作ったんですが……ネタバレみたいになってしまいましたね」と返した。
最後に小西が「うまくいけば、とても複雑なエンタテインメントをお届けできると思う。難しく感じる方もいるかもしれませんが、皆さんの脳を思いっきり揺さぶりたい。頭をグワングワンさせながら帰ってもらえたら」とメッセージを送り、取材を締めくくった。
公演は11月15日まで。なお14日13:30開演回と18:30開演回の様子が、Streaming+で生配信される。詳細は公式サイトで確認しよう。
イッツフォーリーズ公演 ミュージカル「魍魎の匣」
2021年11月10日(水)~15日(月)
東京都 オルタナティブシアター
原作:京極夏彦「魍魎の匣」(講談社文庫)
上演台本・作詞・演出:板垣恭一
作曲・音楽監督:小澤時史
キャスト
中禅寺秋彦:小西遼生
木場修太郎:吉田雄
榎木津礼二郎:北村諒
関口巽:神澤直也
鳥口里美:大川永
久保竣公:加藤将
楠本頼子:熊谷彩春
青木文蔵:池岡亮介
柚木加菜子:徳岡明
柚木陽子:万里紗
福本郁雄:横田剛基
中禅寺敦子:宮田佳奈
楠本君枝:米谷美穂、金村瞳
増岡靖子:神野紗瑛子
須崎太郎:堀内俊哉
雨宮典匡:浅川仁志
寺田兵衛:森隆二
美馬坂幸四郎:駒田一
コロス:明羽美姫、鈴木彩子、東城由依、矢野叶梨、近藤萌音、日野七乃葉※徳岡明の「徳」は旧字が正式表記。
※米谷美穂、金村瞳はWキャスト。
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イッツフォーリーズ @itsfollies
【公演 / 会見 レポート】京極 夏彦 も太鼓判 、ミュージカル「魍魎 の匣 」開幕 に小西 遼 生 「皆 さんの脳 を揺 さぶりたい」 https://t.co/BlHJcEEE9z