人種じんしゅ差別さべつの遺産いさんを広ひろく知しらせるために活動かつどうしている非ひ営利えいり団体だんたい「公正こうせいな裁さばきのイニシアティブ」は2018年ねん、全米ぜんべいで初はじめて、リンチの犠牲ぎせい者しゃのための「平和へいわと正義せいぎの国立こくりつ記念きねん碑ひ」をアラバマ州しゅうモンゴメリーに建立こんりゅうした。

　記念きねん碑ひを構成こうせいする801本ほんの柱はしらは、それぞれ高たかさ180センチ、さび色いろの鉄てつでできている。一本いっぽん一本いっぽんが、リンチのあった801の郡ぐんを象徴しょうちょうし、そこで犠牲ぎせいとなった人々ひとびとの名なが刻きざまれている。天井てんじょうの梁はりから下さげられたそれらの柱はしらは、首くびに縄なわをくくり付づけられて木きから吊つるされた黒人こくじん男性だんせい、女性じょせい、子こどもたちの体からだを連想れんそうさせる。1930年代ねんだいに、ビリー・ホリデイの『奇妙きみょうな果実かじつ（Strange Fruit）』という曲きょくが全米ぜんべいで有名ゆうめいになったが、これはポプラの木きからぶら下さがる黒人こくじんの遺体いたいを奇妙きみょうな果実かじつに例たとえた反はんリンチ運動うんどうの歌うただ。

　リンチは、司法しほうの外そとで行おこなわれる残虐ざんぎゃくな処刑しょけい行為こういだ。ただ人びとを木きに吊つるすだけでなく、性器せいきを切きり取とり、指ゆびやつま先さきを切断せつだんし、皮膚ひふをはがし、生いきたまま火ひで焼やかれることもあった。女性じょせいや子こどもも犠牲ぎせいになった。黒人こくじん妊にん婦ふの腹はらを切きり、胎児たいじもろとも殺ころされたという記録きろくもある。

1935年ねん7月がつ19日にち、フロリダ州しゅうフォートローダーデールで、木きから吊つるされたルービン・ステイシー（32歳さい）。白人はくじん女性じょせいを「襲おそった」と訴うったえられて警察けいさつに逮捕たいほされたが、マスクをかぶった男おとこたちに警察けいさつから連つれ出だされ、リンチを受うけた。NAACPの報告ほうこく書しょによると、リンチの現場げんばは彼かれを訴うったえた白人はくじん女性じょせいマリオン・ジョーンズの自宅じたく近ちかくだった。ニューヨーク・タイムズ紙しは、「後ごの調査ちょうさで、ホームレスの小作こさく人じんだったステイシーが食たべ物ものを分わけてもらおうとジョーンズの家いえを訪おとずれたところ、ジョーンズがおびえて叫さけび出だしたという真相しんそうが明あきらかになった」と報ほうじた。

ステイシーのリンチ写真しゃしんは全米ぜんべいに拡散かくさん、NAACPのジャーナルに掲載けいさいされ、後のちに雑誌ざっし「ライフ」にも掲載けいさいされた。さらに、フランクリン・ルーズベルト大統領だいとうりょうへの報告ほうこく書しょにも含ふくめられた。NAACPは、1932年ねんにルーズベルトが大統領だいとうりょうに当選とうせんしたことで、恐おそろしいリンチが止やむことを期待きたいしていたが、ルーズベルトは反はんリンチ関連かんれん法案ほうあんを一切いっさい支持しじしなかった。（PHOTOGRAPH BY ASSOCIATED PRESS）

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妊にん婦ふへの残虐ざんぎゃくなリンチ

　全米ぜんべい黒人こくじん地位ちい向上こうじょう協会きょうかい（NAACP）の記録きろくによると、ジョージア州しゅう南部なんぶで1918年ねん、21歳さいで妊娠にんしん8カ月かげつだった黒人こくじん女性じょせいメアリー・ターナーが白人はくじんの暴徒ぼうとからリンチを受うけた。前日ぜんじつに夫おっとがリンチされたことに抗議こうぎしたためだった。この事件じけんを調査ちょうさするために派遣はけんされたウォルター・ホワイトは、1929～1955年ねんまでNAACPの会長かいちょうを務つとめている。タスキジー研究所けんきゅうじょによると、1880～1968年ねんの間あいだに、ジョージア州しゅうでは少すくなくとも637件けんのリンチがあった。

　NAACPの記録きろくにはこう記しるされている。「横暴おうぼうな農園のうえん主ぬしのハンプトン・スミスが銃殺じゅうさつされ、1週間しゅうかん後ごにメアリー・ターナーの夫おっとであるヘイズ・ターナーが犯人はんにんに仕立したてて上あげられて殺ころされた。メアリーは夫おっとの関与かんよを否定ひていして、夫おっとを殺ころした人間にんげんを公然こうぜんと非難ひなんし、警察けいさつに逮捕たいほさせると脅おどした」

　翌日よくじつ、暴徒ぼうとたちはメアリーを殺ころしにやってきた。「彼かれらはメアリーの足首あしくびを縛しばって木きから逆さかさに吊つるし、ガソリンと自動車じどうしゃのオイルをかけて火ひをつけた。彼女かのじょがまだ生いきているうちに暴徒ぼうとのひとりが彼女かのじょのお腹なかをナイフで切きり開ひらくと、胎児たいじが地面じめんに転ころげ落おちた。それを暴徒ぼうとたちは足あしで踏ふみつけた。メアリーの体からだは数すう百ひゃく発はつの銃弾じゅうだんで覆おおわれていた」

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