藤井ふじい隆たかし×冨田とみた謙けん対談たいだん　最新さいしん作さく『SLENDERIE ideal』はこうして完成かんせいしたーー二に人にんが示しめした＜SLENDERIE RECORD＞のカラー

文ぶん・取材しゅざい＝黒田くろだ隆憲たかのり、写真しゃしん＝山川やまかわ哲矢てつや

　藤井ふじい隆たかしが主宰しゅさいするレーベル、＜SLENDERIE RECORD＞のアーティストが参加さんかしたコンピレーション『SLENDERIE ideal』が10月28日にちにリリースされた。

　本ほん作さくは、ジョルジオ・モロダーとカイリー・ミノーグの「Right Here, Right Now」をカバーした早見はやみ優ゆうや、架空かくうアニメ『超ちょう空そらのギンガイアン』のスピンオフ作品さくひん『宇宙うちゅう孤児こじイブキ』のエンディングテーマという、捻ねじりまくった楽曲がっきょくを歌うたう椿つばき鬼おに奴やつ、ニューロマ直系ちょっけいの楽曲がっきょく「NEO POSITION」に挑戦ちょうせんするミュージカル俳優はいゆう・伊礼いれい彼方かなたなどおなじみの顔かおぶれに加くわえ、今回こんかいテナーサックスに初はつ挑戦ちょうせんした麒麟きりんの川島かわしま明あきらや、本田ほんだ美奈子みなこの「悲かなしみSWING」をカバーしたフットボールアワーの後藤ごとう輝あきら基もとら、新あらたなメンバーも参加さんか。もちろん藤井ふじいもパソコン音楽おんがくクラブを作さく編曲へんきょくに迎むかえた「14時じまえにアレー」を披露ひろうするなど、バラエティ豊ゆたかな内容ないようとなっている。まるで全曲ぜんきょくシングル曲きょくのような、レーベルが配布はいふするサンプルCDのようなアルバムを目指めざしたというだけあって、ベストアルバムともトリビュートアルバムとも違ちがう「寄よせ集あつめ」感かんがとにかく楽たのしい作品さくひんだ。

　＜SLENDERIE RECORD＞発足ほっそくから6年ねん、様々さまざまなアーティストや芸人げいにんの「本人ほんにんすら気付きづいていない新あらたな魅力みりょく」を引ひき出だしてきた藤井ふじい隆たかし。その愛あいに溢あふれたプロデュース能力のうりょくは、どのようにして培つちかわれてきたのだろうか。今回こんかいリアルサウンドでは、レーベルのサウンド面めんを支ささえ続つづけてきた作さく編曲へんきょく家か、冨田とみた謙けんと藤井ふじいによる対談たいだんを企画きかく。＜SLENDERIE RECORD＞のこれまでの歩あゆみや、本ほん作さくの制作せいさくエピソードなど語かたり合あってもらった。（黒田くろだ隆憲たかのり）

「冨田とみたさんのインストは譲ゆずれなかった」

ーー冨田とみた謙けんさんは、SLENDERIE RECORDのサウンド面めんを支ささえている一人ひとりだと思おもうのですが、レーベル発足ほっそくから6年ねん、お二に人にんの関係かんけい性せいはどのように変化へんかしていきましたか？

藤井ふじい：SLENDERIE RECORDからリリースした、僕ぼくの1stソロアルバム『COFFEE BAR COWBOY』（2015年ねん）は、西寺にしてら郷ごう太ふとし（NONA REEVES）さんと冨田とみたさん、そして僕ぼくの3人にんで「共同きょうどうプロデュース」という形かたちだったのですが、その時ときに西寺にしてらさんからは、「藤井ふじいさんの棺桶かんおけに入いれられるような、好すきなものを詰つめ込こんだアルバムにしましょう」と言いってもらったんです。当時とうじはあのアルバムが、僕ぼくにとってのラストアルバムになっても構かまわないというくらいの意気込いきごみで制作せいさくをしていたのですが、完成かんせいしたと同時どうじに「もっと作つくりたい」という気持きもちに変かわっていて（笑）。それはもちろん、西寺にしてらさんと冨田とみたさんのお力添ちからぞえがあったからこそですけれども。

　2ndソロアルバム『light showers』（2017年ねん）の時ときにはもう、冨田とみたさんとの意思いし疎通そつうもかなりスムーズになっていて。エンジニアの兼重かねしげ哲哉てつやさん、アートディレクターの高村たかむら佳典よしのりさん、それからメインコンポーザーとして堂島孝平どうじまこうへいさんも含ふくめたチームで一丸いちがんとなって、本ほん作さく『SLENDERIE ideal』までずっとやってきました。おかげで、例たとえば僕ぼくが突然とつぜんアイデアを思おもいつきた時ときに、相談そうだんできる窓口まどぐちがたくさんある感かんじ……僕ぼくがこんなことを言いうのはおこがましいのですけど、「これは冨田とみたさんに聞きけば間違まちがいない」「ここは堂島どうじまさんにまず相談そうだんしよう」みたいに、それぞれの分野ぶんやのエキスパートたちが、そばで支ささえてくれているおかげで安心あんしんしてやらせてもらっているんです。それは本当ほんとうにありがたいことだと思おもっていますね。

冨田とみた：藤井ふじいさんと、これまで何なん度どか一緒いっしょに作つくることをやらせてもらったことで、言葉ことばにできないようなすごく曖昧あいまいなことも、かなり伝つたわりやすくなってきたというか。コミュニケーションが取とりやすくなってきたと思おもいますね。本ほん作さく『SLENDERIE ideal』での意思いし疎通そつうはかなりスムーズでした。プロデュースの仕方しかたは人ひとによっても作品さくひんによっても違ちがってくると思おもうんですけど、藤井ふじいさんの場合ばあいは、「こんな感かんじの音楽おんがくで、こんな見みえ方かたで」みたいにパッケージを含ふくめたトータルのイメージを、ものすごく深ふかく考かんがえている。それを実現じつげんするためのブレーンを必要ひつようとしているんでしょうね。

藤井ふじい：本当ほんとうは、もっとサウンド面めんでも効率こうりつよくイメージを伝つたえられるようになりたくて。スタッフに頼たのんで鍵盤けんばん楽器がっきを買かってもらい練習れんしゅうしたこともあるんですけど、冨田とみたさんから「そんなことしなくていいですよ」と言いってもらえたんです。「iPhoneに鼻歌はなうたを吹ふき込こむので十分じゅうぶんですから。鍵盤けんばんを覚おぼえるよりも、自由じゆうに思おもいついたアレンジを共有きょうゆうさせてもらった方ほうがいいです」と、はっきり言いってくださったので、今いまはそこにあぐらをかいている状態じょうたいですね（笑）。

冨田とみた：僕ぼくらとしても、藤井ふじいさんの頭あたまの中なかにあるイメージを共有きょうゆうすることに対たいし、取とり立たてて悩なやむこともなくて（笑）。藤井ふじいさんのイメージを細こまかく咀嚼そしゃくしていくことよりも、そこで浮うかんだアイデアをポーンと返かえした時ときに、今度こんどはどう返かえってくるのか。そういうやり取とりそのものの方ほうが重要じゅうようなのだと思おもっています。藤井ふじいさんの最初さいしょのイメージは、あくまでも音おと作づくりのとっかかりでしかなくて。もちろん、こちらから投なげたアイデアがかすってしまう場合ばあいもあるのですが、そうやって近似きんじ値ちを出だしていくうちに、「これだ」というモノになっていくのだと思おもいます。

ーーアルバムの1曲きょく目めを飾かざる、冨田とみたさんによるインスト「ideal」は、いわばレーベルを象徴しょうちょうする楽曲がっきょくですが、どのように制作せいさくしていったのでしょうか。

冨田とみた：最初さいしょにこの『SLENDERIE ideal』の話はなしを聞きいたときは、「アルバムの中なかで何なん曲きょくかアレンジをお願ねがいします」「それぞれの楽曲がっきょくのボーカル録ろくりで、ちょっといてくれると助たすかります」みたいなニュアンスのオファーだったんですよ。もちろん喜よろこんでお引ひき受うけしたんですけど、作業さぎょうが進すすんでいくうちに藤井ふじいさんから「ちょっとoverture（序曲じょきょく）っぽいものを作つくってもらえますか？」と言いわれて。その時ときは、何なにかイベント用ようのオープニング曲きょくでも作つくって欲ほしいということなのかなと思おもっていたのですが、どうやらアルバムに入いれるらしいと（笑）。

藤井ふじい：いやいや、最初さいしょから「アルバムの1曲きょく目めをお願ねがいします」って言いいましたよ（笑）。「＜SLENDERIE RECORD＞のロゴになるような楽曲がっきょくで」って。絶対ぜったいに冨田とみたさんのインストから始はじまるアルバムにすると決きめていて、そこは譲ゆずれなかったんですよね。プロモーションクリップ集しゅうみたいなものを作つくっていて、各かく曲きょくの最後さいごに毎回まいかい2秒びょうくらいのサウンドロゴが流ながれるのですが、そこで使つかわせてもらう曲きょくがいいなと。

"SLENDERIE ideal" Promotion Clips

冨田とみた：そう。出来上できあがった「ideal」の一部いちぶを抜ぬき出だし、クリップ集しゅうのサウンドロゴとして使つかいたいと言いわれて（笑）。そういう、サウンドとビジュアルの関係かんけい性せいみたいなアイデアも、かなり早はやい段階だんかいで藤井ふじいさんの頭あたまの中なかにあったみたいですよね。僕ぼくはそのことを、ある程度ていど制作せいさくが進すすんだところで気きづいて本当ほんとうに驚おどろきました。

藤井ふじい：実じつは、アルバム最後さいごの曲きょくも冨田とみたさんのアレンジにすると決きめていました。

冨田とみた：そうだったんだ！（笑）

ーー冨田とみたさんから楽曲がっきょくが上あがってきたときにはどう思おもいました？

藤井ふじい：デモの段階だんかいではギターの音おとがたくさん入はいっていたんですよね。そこはギターじゃなくてピアノで来きて欲ほしくて、意いを決けっして冨田とみたさんに「あの……できればギターじゃなくて……」と言いったらすぐに理解りかいしてくださった（笑）。

冨田とみた：そう、最初さいしょはギターのフレーズをいろいろと散ちりばめたアレンジだったんですよね。藤井ふじいさん、ギターよりもピアノの方ほうが好すきだから「ダメ出だしあるかな、そしたらシンセに置おき換かえればいいか」と思おもって投なげたら案あんの定じょう連絡れんらくが来きましたね。「すっごくいいです！」と言いった後のちに「でもね、」って（笑）。

藤井ふじい：すみません（笑）。曲きょくそのものは本当ほんとうに良よかったので、「風味ふうみ」だけ変かえてもらいました。大好だいすきな中華ちゅうか料理りょうりを、味付あじつけだけカリフォルニアからニューヨークにしてもらった、みたいな感かんじでしょうか（笑）。そういう話はなしを理解りかいしてくださる方ほうがいるのは本当ほんとうにありがたいですことですよね。しかも「ideal」は、「冨田とみた謙けん」さん名義めいぎでは初はつの音源おんげん。それを僕ぼくのアルバムから出だせるのがすごく光栄こうえいです。