女性初の南極観測隊長 110人どう率いる?無意識の偏見学んだ訳
文系インドア少女が研究者になったきっかけは?/隊員たちとの信頼関係のつくり方
- 原田尚美
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2024年11月に南極へ向かう第66次南極地域観測隊。日本初の女性隊長を務めるのが、東京大学 大気海洋研究所 国際・地域連携研究センター教授の原田尚美さんです。幼い頃から自然に興味があったのかと思いきや、実は自然に全く興味がないインドア派少女だったそう。男性が圧倒的に多い環境でキャリアを切り開いてきた軌跡と、南極という特殊な環境下で総勢110人をマネジメントするリーダーシップについて聞きました。
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(下)同調者ゼロでも大丈夫「視点が違うだけ」 南極観測隊長・原田尚美
原田尚美(はらだ なおみ)/東京大学 大気海洋研究所 国際・地域連携研究センター 教授。第33次南極地域観測隊の夏隊(1991~92年)に日本の観測隊史上2人目の女性隊員として参加。第60次(2018~19年)で女性初の副隊長、第66次(2024~25年)では女性初の隊長を務める
物事の最終判断をするのが隊長の仕事
編集部(以下、略) 第66次南極地域観測隊(以下、南極観測隊)では、どれくらいの規模のチームを率いるのですか?
原田尚美さん(以下、原田) 南極観測隊は、1年4カ月間滞在する越冬隊と4カ月間滞在する夏隊で構成され、それぞれに越冬隊長と夏隊長がおり、そのどちらかが(年間通じての)観測隊長を務めます。第66次観測隊では私が夏隊長と観測隊長を務めます。メンバーは総勢およそ110人で、31人の越冬隊のうち7人は女性です。
―― 隊長の役割とは?
原田 物事の最終判断をすることです。隊員は毎日晴天が続くことを想定した観測計画を立てがちですが、南極ではブリザードなんてしょっちゅうですから、プラン通りには進みません。そんなとき、優先順位を判断するのが隊長の仕事。ときには「あなたのこの研究は諦めてください」とも言わなくてはなりません。
現場でいきなりそんな発言をしても誰もついてきてはくれないので、出発前の合宿などを通じて「この人の言うことなら信じて従おう」と思ってもらえるような信頼関係を築けるかが重要です。
―― 前回の参加(第60次観測隊)で副隊長を務めた際は、出発前にアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)について学ぶ機会を設けたそうですね。どう役立ちましたか?
原田 リーダーというと「強い男性」をイメージする人が多いと思います。でも私はメンバーを引っ張っていくタイプではなく、「お世話役」に近い、調整型のリーダー。ステレオタイプのリーダー像を持っている人からすると、首をかしげたくなる部分もあると思うんです。だからこそ、アンコンシャスバイアスを学んで自身の思い込みに気づいてもらうことが大事ではないかと思いました。
また、夏隊が南極に到着すると、そこには既に現地で約1年活動した越冬隊がいます。過酷な環境で冬を乗り越えてきた彼らはメンタル面でも疲れているので、夏隊の隊員がビギナー扱いされ、思いもよらない厳しい言葉をかけられてしまうことがあります。そして、そういった厳しい言葉は、女性や外国籍の隊員といったマイノリティーに向きやすい傾向があります。
私も、出発前の打ち合わせで、現地に滞在中の隊員から厳しい言葉を投げかけられたことがあります。
―― どう対応したのですか?