羽生はぶ善治よしはるVS渡辺わたなべ明あきら、将棋しょうぎ界かい「新しんライバル戦記せんき」（３）始発しはつ電車でんしゃで一緒いっしょに帰かえった

　名めい勝負しょうぶを演えんじた両者りょうしゃには共通きょうつう点てんが多おおい。生うまれは埼玉さいたまだが東京とうきょう・八王子はちおうじで育そだったのが羽生はぶなら、渡辺わたなべは東京とうきょう・葛飾かつしか出身しゅっしん。小学生しょうがくせい名人めいじんで、中学生ちゅうがくせいで四よん段だんになったそれぞれ3、4人にん目めの棋士きし（将棋しょうぎは四よん段だんからがプロ）であり、初はつタイトルも竜王りゅうおうだった。

　07年ねんに現役げんえきを引退いんたいした桐谷きりたに広人ひろと七なな段だんは、中学生ちゅうがくせいプロの大成たいせいぶりをこう評ひょうする。

「2人ふたりの前まえに加藤かとう一二三ひふみさんと谷川たにがわ浩司こうじが中学生ちゅうがくせいでプロになり、羽生はぶまでは名人めいじんの座ざに就ついています。渡辺わたなべは名人めいじんと同格どうかくの竜王りゅうおうですから、他たの3人にんと遜色そんしょくありません」

　桐谷きりたに氏しは羽生はぶと2局きょく、渡辺わたなべとは1局きょく指さしている。羽生はぶは85年ねん12月に四よん段だんになっているが、その翌年よくねんにいきなり対局たいきょく。3局きょくとも若わかき棋士きしに屈くっする結果けっかとなったのだが、

「羽生はぶとの1局きょく目めは王座おうざ戦せん予選よせんで、相あい矢倉やぐら。2局きょく目めは後手ごての羽生はぶの四よん間あいだ飛車ひしゃ戦せん。2戦せんとも私わたしのいいところもあったんですが、負まかされました。四間しけん飛車ひしゃ戦せんは、将棋しょうぎ雑誌ざっしに羽生はぶが自じ戦記せんきを書かいています。渡辺わたなべとは私わたしが引退いんたいする前年ぜんねんぐらいの対局たいきょくで、『桐山きりやま先生せんせいとの将棋しょうぎは作戦さくせん負まけした』とブログに棋譜きふ入いりで書かいてくれた。羽生はぶもそうでしたが、渡辺わたなべの終盤しゅうばんの鋭するどさには舌したを巻まいたものです」

　桐谷きりたに氏しは将棋しょうぎ会館かいかんがある千駄ヶ谷せんだがやから、羽生はぶと電車でんしゃで一緒いっしょに帰かえることもよくあったという。

「私わたしが阿佐ヶ谷あさがやに住すんでいた頃ころで、羽生はぶは八王子はちおうじでしたから、乗のる電車でんしゃは同おなじなんです。2人ふたりとも持もち時間じかんいっぱい指さすほうで、感想かんそう戦せんが終おわると午前ごぜん2時じ、3時じになることもあった。終電しゅうでんはとっくになくなっていて、始発しはつ電車でんしゃまで待まつことになる。おしゃべり好すきな私わたしは時間じかんをつぶせるからいいんですが（笑）」

　その間あいだ、羽生はぶはニコニコしながら横よこに座すわり、桐谷きりたに氏しの話はなしを聞きいていたという。

「始発しはつ電車でんしゃが動うごくのは午前ごぜん5時じぐらい。そのせいか、『冬ふゆは朝あさが暗くらくて、怖こわい』と羽生はぶが言いったことがあって。へぇ、そうなんだと思おもったものです」（桐谷きりたに氏し）

　羽生はぶはまだ高校生こうこうせいだったが、すでに勝負しょうぶ師しとしての意地いじが妥協だきょうを許ゆるさなかったのだろう。悪わるい将棋しょうぎでも粘ねばりに粘ねばって相手あいてに間違まちがえさせる終盤しゅうばん術じゅつはこの頃ころから備そなわっていたのだ。

　黙だまって先輩せんぱい棋士きしの話はなしを聞きくタイプの羽生はぶとは対照たいしょう的てきに、渡辺わたなべは自分じぶんの意見いけんをはっきりと口くちにする。将棋しょうぎ関係かんけい者しゃが言いう。

「同おない年どしの村山むらやま慈明と2歳さい下かの戸と辺べ誠まことは遊あそび仲間なかまでもあるんですが、そろって歯はに衣ころも着きせぬものいでも知しられている。控ひかえ室しつで羽生はぶ世代せだいの将棋しょうぎをコテンパンに批判ひはんしていることもよくあった。それで『激辛げきから三さん羽わガラス』と呼よばれていたほどです。あれは痛快つうかいでしたね」