2015年ねん4月がつ、会社かいしゃ員いんの木戸きど俊介しゅんすけさん（38）は、病院びょういんの集中しゅうちゅう治療ちりょう室しつにいた。

　肋骨あばらぼね（ろっこつ）は10本ほん折おれ、顔面がんめんも骨折こっせつした。腰こしから下したは、ぼんやりとした感覚かんかくしかなかった。

　大手おおて広告こうこく会社かいしゃの博報堂はくほうどうの社員しゃいんだった。

　取引とりひき先さきとの会食かいしょくからの帰かえり道みち、交通こうつう事故じこにあった。車くるまの運転うんてん手しゅは高齢こうれいで、50メートル近ちかく引ひきずられた、と後のちから聞きいた。

　脊髄せきずい（せきずい）を傷いため、もう歩あるけない。医師いしから告つげられた。

　兵庫ひょうご県けん出身しゅっしん。筑波大学つくばだいがく4年生ねんせいのとき、サッカー部ぶの副ふく主将しゅしょうとして全国ぜんこく準じゅん優勝ゆうしょうを果はたした。

　何なに十じゅう倍ばい以上いじょうといわれる入社にゅうしゃ試験しけんを勝かちぬいて、博報堂はくほうどうに入社にゅうしゃした。

　当時とうじ、特とくに忙いそがしいとされたビールや食品しょくひん会社かいしゃの営業えいぎょうを任まかされた。

　終電しゅうでんで帰かえったあとも、呼よび出だしされれば、スーツを着き直なおして飲のみ会かいへ。

　「アホになりきって、飲のみまくるのも仕事しごとのうち」

　確たしかなやりがいもあった。

　完成かんせいしたばかりの東京とうきょうスカイツリーを、広告こうこくでジャックする企画きかくに携たずさわった。

　コワモテの上司じょうしを無理むりやり飲のみ会かいに誘さそい、打うち解とけたこともあった。

　深夜しんやに仕事しごとを終おえて、明あけ方がたまで酒さけを飲のみ、そのまま仕事しごとに戻もどることも日常にちじょう茶飯事さはんじ。

　大好だいすきなサッカーや、スポーツビジネスのプロデューサーも任まかされた。

　毎日まいにちが「文化ぶんか祭さいの前夜ぜんや」のようだった。

　事故じこに遭あったのは29歳さい。

　年収ねんしゅうは同どう世代せだいと比くらべても高額こうがく…