SEとプログラマー

業務ぎょうむシステム構築こうちくの工程こうていについては様々さまざまな分類ぶんるいがあるが、いわゆるウォーターフォール型がたで言いうと(1)要件ようけん定義ていぎ、(2)基本きほん設計せっけい、(3)詳細しょうさい設計せっけい、(4)構築こうちく・テスト、などとなる。この(1)(2)が上流じょうりゅう工程こうていと呼よばれ、システムエンジニア(SE)が中心ちゅうしんに担当たんとうし、(3)(4)が下流かりゅう工程こうていと呼よばれ、プログラマーが中心ちゅうしんに担当たんとうする。

ソフトウェア開発かいはつ会社かいしゃに入社にゅうしゃすると、通常つうじょうはプログラマーからスタートしてSEへ、つまり下流かりゅう工程こうていから上流じょうりゅう工程こうていにシフトしていくキャリアパスが多おおい。上流じょうりゅう工程こうていを担当たんとうするようになると、下流かりゅう工程こうていではマネージャーやリーダーとして参加さんかすることが多おおく、その結果けっか、責任せきにん範囲はんいも広ひろがり、収入しゅうにゅうも増ふえる。またSEは顧客こきゃくと接せっすることが多おおいので、顧客こきゃくの満足まんぞく度どを知しることができ、やりがいもより高たかまる。早はやく下流かりゅう工程こうていを“卒業そつぎょう”して上流じょうりゅう工程こうていへ移うつりたい…。ソフトウェア技術ぎじゅつ者しゃであれば誰だれでも一いち度どは考かんがえることであろう。

この“卒業そつぎょう”について、少すこし考かんがえたい。というのも、下流かりゅう工程こうていを上流じょうりゅう工程こうていと比くらべて難易なんい度どの低ひくい仕事しごと、作業さぎょう的てきな仕事しごとと捉とらえているユーザやプログラマーが少すくなくないように思おもえるからである。

ISO9126では、ソフトウェア品質ひんしつを示しめす6つの「品質ひんしつ特性とくせい」とその下位かいの「品質ひんしつ副ふく特性とくせい」を定さだめている。品質ひんしつ特性とくせいのひとつである「機能きのう性せい」は“ソフトウェアが必要ひつような機能きのうを実現じつげんしている度合どあい”を指さし、それらは副ふく特性とくせいである「合ごう目的もくてき性せい」、「正確せいかく性せい」等とうに分わかれる。 合ごう目的もくてき性せいとは“明示めいじされた仕事しごとに対たいする機能きのうの集合しゅうごうが存在そんざいし、適切てきせつであることをもたらすソフトウェアの属性ぞくせい”であり、一言ひとことで言いえば、ユーザの要求ようきゅうと設計せっけいがどれだけ合致がっちしているかを表あらわす度合どあいである。この品質ひんしつは主しゅとしてSEに依存いぞんする。一方いっぽう、正確せいかく性せいは“正ただしい結果けっかもしくは正ただしい効果こうか、または同意どういできる結果けっかもしくは同意どういできる効果こうかをもたらすソフトウェアの属性ぞくせい”であり、一言ひとことで言いえば、設計せっけい内容ないようとプログラムがどれだけ合致がっちしているかを表あらわす度合どあいとなる。この品質ひんしつは主しゅとしてプログラマーに依存いぞんする。

すなわち、SE・プログラマーはそれぞれ異ことなる品質ひんしつを対象たいしょうとしており、そこには、品質ひんしつを維持いじ・向上こうじょうさせるための技術ぎじゅつが、別個べっこに存在そんざいする。したがってSE・プログラマーに序列じょれつなどなく、仕事しごとの種類しゅるいが異ことなるだけなのである。ただし、プログラマーの業務ぎょうむを経験けいけんすることなく質しつの高たかいSEになることは無理むりであろう。下流かりゅう工程こうていの経験けいけんがないと、上流じょうりゅう工程こうていにおいて必要ひつようなプロジェクトの規模きぼ感かんやリスク感覚かんかく、自社じしゃが不得意ふとくいな分野ぶんやについて社外しゃがいの資源しげんを活用かつようしようとする発想はっそう力りょくがどうしても身みにつかない。プロ野球やきゅうに例たとえれば、名めい選手せんしゅは必かならずしも名めい監督かんとくになれないかもしれないが、野球やきゅうの未み経験けいけん者しゃや経験けいけんの浅あさい者ものが名めい監督かんとくになったなどという話はなしは聞きいたことがないのと同おなじである。

上流じょうりゅう工程こうていをめざす人材じんざいは、ある程度ていどの期間きかん、しっかりと下流かりゅう工程こうていを行おこなうべきである。下流かりゅう工程こうていは、決けっして“下等かとう”工程こうていではない。むしろ、下流かりゅう工程こうていで上流じょうりゅう工程こうていを意識いしきしたソフトウェアの品質ひんしつ向上こうじょう策さくのネタ・意識いしきを、いかに“仕込しこみ”、また実践じっせんしておくかが、その人材じんざいの将来しょうらいの伸のびを大おおきく左右さゆうするであろう。