米国べいこくの景気けいき後退こうたい懸念けねんを考かんがえる上うえで重要じゅうような視点してん

2022年ねん1月がつ以来いらい、米国べいこく株式かぶしき相場そうばの下落げらく局面きょくめんが続つづく中なかで、市場いちば参加さんか者しゃの間あいだでは景気けいき後退こうたいといった“Ｒ-Word”（Ｒで始はじまる禁句きんく、例たとえば景気けいき後退こうたい（Recession））があふれている。また、悲観ひかん的てきな市場いちばの見方みかたを受うけ、“Ｒ-Word”に関かんするニュースも増ふえており、米国べいこく経済けいざいの先行さきゆきに対たいする懸念けねんは強つよい。米国べいこく経済けいざい・金融きんゆうを分析ぶんせきしている者ものとして、こうした懸念けねんは理解りかいできる一方いっぽうで、米国べいこくNY在住ざいじゅう者しゃとして景気けいき後退こうたいが身近みぢかに迫せまってきているような肌はだ感覚かんかくはほとんどない。週末しゅうまつに外食がいしょくをしたくとも、オープンテラスのレストランの席せきは空あいていない。人気にんきレストランを事前じぜんに予約よやくしようとしても、1か月げつ待まちはざらである。イベント会場かいじょうも人ひとであふれている。そして、夏なつに旅行りょこうを計画けいかくしても、フライトチケットの空あきは少すくない。

米国べいこく経済けいざいの先行さきゆきを巡めぐって市場いちばの懸念けねんと筆者ひっしゃの肌はだ感覚かんかくが乖離かいりしている。こうした乖離かいりは両者りょうしゃの視点してんの差異さいによるものといえる。市場いちばの懸念けねんは、将来しょうらいに対たいする予想よそうである。予想よそうは当あたることもあれば、当あたらないこともある。例たとえば、2018年ねんから19年ねんにかけては、金融きんゆう引ひき締しめサイクルの終盤しゅうばんに差さし掛かかり、景気けいき後退こうたい懸念けねんが強つよまったが、実際じっさいには起おきなかった。また、2020年ねん1-2月がつ時点じてんで、米国べいこくで新型しんがたコロナウイルスが蔓延まんえんし、景気けいき後退こうたいに陥おちいるとの予想よそうは主流しゅりゅうではなかった。他方たほう、肌はだ感覚かんかくはそれぞれの時点じてんにフォーカスしており、先行さきゆきに関かんする示唆しさは少すくないかもしれない。また、肌はだ感覚かんかくはあくまでも感覚かんかくであり、数値すうち化かしにくい側面そくめんがある。

米国べいこくの景気けいき後退こうたい懸念けねんを考かんがえる上うえでは、肌はだ感覚かんかくと市場いちばの懸念けねんのどちらかに偏かたよらず、両者りょうしゃをすり合あわせる視点してんが必要ひつようなのではないだろうか。その視点してんを支ささえる一ひとつの材料ざいりょうとして、ISM景況けいきょう感かん指数しすうを取とり上あげたい。企業きぎょうマインドに関かんする代表だいひょう的てきな指標しひょうであるISM景況けいきょう感かん指数しすうには、製造せいぞう業ぎょうと非ひ製造せいぞう業ぎょうがあり、一般いっぱん的てきに注目ちゅうもく度どは製造せいぞう業ぎょうの方ほうが高たかい。製造せいぞう業ぎょうマインドは短期たんき的てきな景気けいき循環じゅんかんを測はかる際さいに有益ゆうえきであり、長期ちょうきデータがあるため過去かことの比較ひかくがしやすい。他方たほうで、非ひ製造せいぞう業ぎょうは、レストランや娯楽ごらく・レジャーなど、人々ひとびとの生活せいかつにより密接みっせつしており、肌はだ感覚かんかくに近ちかい。加くわえて、米国べいこくの産業さんぎょう構成こうせいは非ひ製造せいぞう業ぎょうが中心ちゅうしんであり、米国べいこく経済けいざいの屋台骨やたいぼねである個人こじん消費しょうひもサービス消費しょうひのウェイトの方ほうが財ざい消費しょうひに比くらべて大おおきい。米国べいこく全体ぜんたいの景況けいきょう感かんを測はかる体温計たいおんけいとして、非ひ製造せいぞう業ぎょうマインドは有益ゆうえきといえよう。

こうした特徴とくちょうを踏ふまえた上うえで、ISM景況けいきょう感かん指数しすうで好こう不況ふきょうの分岐ぶんき点てんとされる50％を下回したまわった時期じきと景気けいき後退こうたい期きを併あわせてみると、製造せいぞう業ぎょうは景気けいき後退こうたい期き以外いがいでも50％を下回したまわったことがある一方いっぽうで、非ひ製造せいぞう業ぎょうは概おおむね景気けいき後退こうたい期きのみ50％を下回したまわっている（※１）。足下あしもとの動向どうこうを見みてみると、製造せいぞう業ぎょう・非ひ製造せいぞう業ぎょうともに低下ていかトレンドにあるが、水準すいじゅんは非ひ製造せいぞう業ぎょうの方ほうが製造せいぞう業ぎょうよりも高たかく、50％を大おおきく上回うわまわっている。非ひ製造せいぞう業ぎょうの景況けいきょう感かんの現時点げんじてんの水準すいじゅんを踏ふまえれば、景気けいき後退こうたいには距離きょりがあるといえる。逆ぎゃくに言いえば、非ひ製造せいぞう業ぎょうマインドが今後こんご大幅おおはばに悪化あっかし、景況けいきょう感かん指数しすうが50％に近ちかづけば、景気けいき後退こうたいの可能かのう性せいが高たかまっていることを示唆しさするシグナルといえるだろう。

（※１）なお、ISM景況けいきょう感かん指数しすうには、好こう不況ふきょうの分岐ぶんき点てんである50％という目安めやすのほかに、実質じっしつGDP成長せいちょう率りつがマイナスとなる目安めやすの水準すいじゅん（製造せいぞう業ぎょうは48.7％、非ひ製造せいぞう業ぎょうは50.1％）もある。こうしたマイナス成長せいちょうの目安めやすを下回したまわった時期じきと、景気けいき後退こうたい期きを重かさね合あわせてみても、非ひ製造せいぞう業ぎょうの方ほうが景気けいき後退こうたいを測はかる指標しひょうとしてより説明せつめい力りょくが高たかい傾向けいこうにあるといえる（図表ずひょう参照さんしょう）。

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