少子しょうし化かはどうすれば止とまるか

厚生こうせい労働省ろうどうしょう「人口じんこう動態どうたい統計とうけい」によると2021年ねんの出生しゅっしょう数すうは概数がいすうで81.2万まん人にんとなり、データがある明治めいじ32年ねん（1899年ねん）以降いこうで最少さいしょうになった。死亡しぼう数すうは144.0万まん人にんだったから、差さし引ひきの自然しぜん増ぞう減数げんすうは▲62.8万まん人にんである。数かず十じゅう万まん規模きぼの都市としが毎年まいとし消滅しょうめつすることに相当そうとうする人口じんこう減少げんしょうが起おきており、当面とうめんはそれがほぼ確実かくじつに続つづく。

子供こどもが生うまれない国くにでは投資とうしが起おきず、資本しほんが流出りゅうしゅつする。人口じんこうが減少げんしょうすれば国力こくりょくが衰退すいたいし、社会しゃかいは沈滞ちんたいしていく。単たんに減へるのではなく高齢こうれい化かが進すすむため、医療いりょうや介護かいごの費用ひようが際限さいげんなく増大ぞうだいし、現役げんえき世代せだいはその負担ふたんに音おとを上あげる。人々ひとびとは進取しんしゅの気性きしょうを失うしない、新規しんきビジネスに挑いどむこともない。若者わかものと高齢こうれい者しゃは激はげしく対立たいりつし、皆みなの憤懣ふんまんは高たかまり、陰鬱いんうつな空気くうきに覆おおわれる。世界せかいは日本にっぽんを蔑さげすみ、無視むしするようになる。—こんな未来みらいを想像そうぞうすれば、出生しゅっしょう数すうの減少げんしょうは国家こっか存亡そんぼうの危機ききと言いいたくなる。

しかし100年ねん前まえ、思想家しそうかである北きた一輝いっきは1923年ねん刊行かんこうの『日本にっぽん改造かいぞう法案ほうあん大綱たいこう』の緒言しょげんで、「我わがガ日本にっぽん亦また五ご十じゅう年間ねんかんニ二に倍ばいセシ人口じんこう増加ぞうか率りつニヨリテ百ひゃく年ねん後ご少しょうクモ二に億おく四よん五ご千せん萬まん人にんヲ養やしなえフベキ大だい領土りょうどヲ餘儀よぎナクセラル」と述のべている。大だい人口じんこうを養やしなうために満州まんしゅう国こくを作つくるなど、日本にっぽんが大陸たいりくや南方なんぽうに進出しんしゅつしたその後ごの歴史れきしは、人口じんこう増加ぞうかが平和へいわ主義しゅぎと相容あいいれないという原理げんりを示しめしている。

そして、100年ねん先さきのことなど、分わかるはずもないということだ。国立こくりつ社会しゃかい保障ほしょう・人口じんこう問題もんだい研究所けんきゅうじょによる2015年ねんの国勢調査こくせいちょうさがベースの将来しょうらい推計すいけい人口じんこう（2017年ねん推計すいけい）によれば、2115年ねんの総そう人口じんこうは楽観らっかん的てきな出生しゅっしょう高だか位い・死亡しぼう低位ていいの仮定かていで6,683万まん人にん、悲観ひかん的てきな出生しゅっしょう低位ていい・死亡しぼう高だか位いの仮定かていで3,787万まん人にんである。3,000万まん人にん近ちかくの差さがあることもさることながら、そもそもこれらはprojectionであってpredictionではない。

将来しょうらい推計すいけい人口じんこうは人口じんこう学がくに基もとづいた精緻せいちな科学かがく的てき成果せいかだが、基本きほん的てきには最近さいきんの人々ひとびとの行動こうどう実績じっせきを将来しょうらいに投影とうえいしているにすぎない。今後こんごの社会しゃかい変化へんかを織おり込こんだ予測よそくや予言よげんではないのだから、過去かこの人口じんこう推計すいけいが未来みらいをい当いあててきたわけではないのは当然とうぜんである。換言かんげんすれば、労働ろうどう規制きせいや企業きぎょう経営けいえいの改革かいかくで働はたらき方かたの柔軟じゅうなん性せいを高たかめたり、結婚けっこんや出産しゅっさん・育児いくじの希望きぼうが十分じゅうぶんに叶かなう雇用こよう・所得しょとく環境かんきょうを実現じつげんしたりすることによって、私わたしたちは未来みらいを変かえられる。

ただし、出生しゅっしょう数すうを増ふやすことそれ自体じたいを直接ちょくせつの目的もくてきにして、国くにや自治体じちたい、企業きぎょうが経済けいざい的てき支援しえんを行おこなっても永続えいぞく的てきな効果こうかは期待きたいできないだろう。むしろ、人口じんこう減少げんしょうが１人にん当あたりの資本しほん量りょうを増ふやし、希少きしょうになる労働ろうどう者しゃ一いち人にんひとりを大切たいせつに扱あつかう社会しゃかいを導みちびくことを阻害そがいしてはならない。超ちょう高齢こうれい社会しゃかいを維持いじするコストを減へらす医療いりょうや介護かいごの制度せいど改革かいかくを怠おこたりさえしなければ、生産せいさん性せいを引ひき上あげて持続じぞく性せいのある経済けいざい成長せいちょうを手てにするチャンスが到来とうらいしているのだ。

1956年度ねんど版ばんの厚生こうせい白書はくしょが「わが国くににおける過剰かじょう人口じんこうの重圧じゅうあつが、国民こくみん生活せいかつの急速きゅうそくな回復かいふくあるいは向上こうじょうを妨さまたげている」と分析ぶんせきしたように、人口じんこう増加ぞうかが生活せいかつ水準すいじゅんを引ひき下さげるという健全けんぜんな問題もんだい意識いしきを戦後せんごになっても日本にっぽんは持もっていた。ところが実質じっしつ賃金ちんぎんの引ひき上あげに失敗しっぱいし始はじめた1990年代ねんだい中頃なかごろから「少子化しょうしか」という新語しんごが人口じんこうに膾炙かいしゃし、うまくいかない原因げんいんを人口じんこう減少げんしょうにやたらと求もとめるようになってしまった。「貧ひんすれば鈍どんす」とはよくいったものである。

人口じんこう減少げんしょうは豊ゆたかさを低下ていかさせるのではなく、より高たかめる方向ほうこうに働はたらく。大だい災害さいがいやパンデミック、金融きんゆう危機ききや戦争せんそうといった想定そうてい外がいのことに対応たいおうするのは家計かけいも企業きぎょうも難むずかしいが、先行さきゆき10～20年ねん程度ていどであれば見通みとおせている人口じんこう問題もんだいに対処たいしょできないはずはない。人口じんこう減少げんしょうを前提ぜんていに考かんがえた方ほうが、多少たしょうの時間じかんはかかっても結果けっか的てきに子供こどもが生うまれる世よの中なかになるだろう。

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