自己じこ株式かぶしき（金庫きんこ株かぶ）を巡めぐる3つの誤解ごかい

2001年ねんの商法しょうほう（当時とうじ）改正かいせいにより自己じこ株式かぶしきの取得しゅとくと保有ほゆう、いわゆる金庫きんこ株かぶが解禁かいきんされて、すでに20年ねん以上いじょうが経過けいかした。株主かぶぬし還元かんげんや分配ぶんぱい政策せいさくなどを巡めぐって自己じこ株式かぶしきに対たいする関心かんしんは、なお高たかい。そのこと自体じたいは大おおいに結構けっこうなことなのだが、未いまだに様々さまざまな誤解ごかいが残のこっているのは、どうしたことだろう。こうした誤解ごかいがまことしやかに語かたられるのを聞きくたびに、残念ざんねんな気持きもちとなる。この機会きかいに、これらの誤解ごかいのいくつかを解といておきたい。

「新株しんかぶの発行はっこうと違ちがい、自己じこ株式かぶしきは簡単かんたんに売却ばいきゃくできる？」

そもそも法的ほうてきにも、会計かいけい的てきにも「資産しさん」とは認識にんしきされない自己じこ株式かぶしきを「売却ばいきゃく」するということ自体じたい、言葉ことばの誤用ごようであるということはいったん脇わきに置おこう。

会社かいしゃ法ほう上じょう、自己じこ株式かぶしきの「処分しょぶん」は、新株しんかぶの発行はっこうと同おなじ「募集ぼしゅう株式かぶしきの発行はっこう等とう」と位置付いちづけられ、同おなじ決定けってい手続てつづき、割当わりあて手続てつづき、出資しゅっしの履行りこう手続てつづきなどを遵守じゅんしゅしなければならない。

金融きんゆう商品しょうひん取引とりひき法ほう上じょうも、自己じこ株式かぶしきの処分しょぶんは、「取得しゅとく勧誘かんゆう類似るいじ行為こうい」として、新株しんかぶの発行はっこうと同おなじ扱あつかいとなっている。確たしかに、過去かこにおいては、新株しんかぶの発行はっこうは「募集ぼしゅう」、自己じこ株式かぶしきの処分しょぶんは「売出うりだし」として扱あつかわれ、自己じこ株式かぶしきの処分しょぶんの方ほうが緩ゆるい規制きせいとなっていた時期じきがあった。しかし、今いまでは両者りょうしゃに規制きせい上じょうの違ちがいはない。

新株しんかぶの発行はっこうよりも自己じこ株式かぶしきの処分しょぶんの方ほうが容易よういだというのは、今日きょうでは全まったくの誤あやまりだ。

「自己じこ株式かぶしきを消却しょうきゃくすれば、希釈きしゃく化かリスクが低下ていかする？」

「希釈きしゃく化かリスク」をどのような定義ていぎで用もちいるかにもよるが、自己じこ株式かぶしきの消却しょうきゃくと結むすびつけている以上いじょう、今後こんご、新株しんかぶの発行はっこうや自己じこ株式かぶしきの処分しょぶんによって、いわゆる社外しゃがい株式かぶしき数すうがどれだけ増加ぞうかする余地よちがあるか、という趣旨しゅしで用もちいられているものと考かんがえられる。

会社かいしゃ法ほう上じょう、社外しゃがい株式かぶしき数すうの増加ぞうか余地よちは、発行はっこう可能かのうな潜在せんざい的てき新株しんかぶ（＝発行はっこう可能かのう株式かぶしき総数そうすう（いわゆる授権枠わく）－発行済はっこうずみ株式かぶしき総数そうすう（自己じこ株式かぶしきを含ふくむ））に、保有ほゆうする自己じこ株式かぶしきを足たして計算けいさんされる。発行はっこう可能かのう株式かぶしき総数そうすう100、発行済はっこうずみ株式かぶしき総数そうすう80、保有ほゆうする自己じこ株式かぶしき5とすれば、25（＝100-80+5）となる。

確たしかに、過去かこにおいては、自己じこ株式かぶしきを消却しょうきゃくすると、発行済はっこうずみ株式かぶしき総数そうすう、保有ほゆうする自己じこ株式かぶしきだけでなく、発行はっこう可能かのう株式かぶしき総数そうすうも減少げんしょうする、という運用うんようが行おこなわれていた時期じきがあった。その当時とうじ、上記じょうきの事例じれいで自己じこ株式かぶしきをすべて消却しょうきゃくすれば、社外しゃがい株式かぶしき数すうの増加ぞうか余地よちは20（＝95-75+0）と減少げんしょうし、希釈きしゃく化かリスクも低下ていかする、と言いうことができた。

しかし、現行げんこう会社かいしゃ法ほうの下したでは、自己じこ株式かぶしきを消却しょうきゃくしても、発行はっこう可能かのう株式かぶしき総数そうすうは減少げんしょうしないとされている。従したがって、上記じょうきの事例じれいで自己じこ株式かぶしきをすべて消却しょうきゃくしても、保有ほゆうする自己じこ株式かぶしきは減少げんしょうするものの、その分ぶんだけ、発行はっこう可能かのうな潜在せんざい的てき新株しんかぶは増加ぞうかするため、いわゆる社外しゃがい株式かぶしき数すうの増加ぞうか余地よちは25（＝100-75+0）と変かわらず、希釈きしゃく化かリスクは低下ていかしないのだ。

「自己じこ株式かぶしきを保有ほゆうしておけば、機動きどう的てきなM&Aなどに対応たいおうしやすい？」

まだ紙かみベースの「株券かぶけん」と呼よばれる券面けんめんが存在そんざいしていた頃ころであれば、M&Aのために新株しんかぶを交付こうふしようとすると、大量たいりょうの「株券かぶけん」を印刷いんさつする時間じかんとコストがかかるが、自己じこ株式かぶしきを交付こうふするのであれば「金庫きんこ」を開あけて、そのまま送付そうふすればよいので、機動きどう的てきに対応たいおうしやすい、と言いう余地よちはあったかもしれない。

しかし、今いまや上場じょうじょう株式かぶしきはすべて電子でんし化かされている。もはや、このような議論ぎろんが成なりたないことは明あきらかだろう。

筆者ひっしゃが言いいたいことは、まだまだ残のこっている。例たとえば、いかに誤解ごかいに基もとづくとはいえ、「自己じこ株式かぶしきの消却しょうきゃく」というアナウンスに株価かぶかが反応はんのうする現実げんじつが、インサイダー取引とりひき規制きせいや適時てきじ開示かいじなどについて難むずかしい問題もんだいを引ひき起おこしている、といった点てんだ。しかし、紙幅しふくも尽つきたので、今回こんかいはこのあたりで口くちを閉とじるとしよう。

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