2020年コロナ禍に著者は勤務先オックスフォード大学の長期研究休暇を利用して、久しぶりの
日本帰国を実行します。当時コロナは全く得体が知れず、デルタ株から変異したオミクロン株
が猛威を振るい、帰国予定の12月にはイギリスで8万6609人まで急増し、帰国の際に6日間の隔
離を求められていました。ところが著者は搭乗した飛行機内での濃厚接触者に認定され、2週間
の隔離生活を余儀なくされます。
この時の体験からイギリス或いは海外諸国と日本のコロナに対する対応の違いを感じ、現代日本
の問題点を考察します。ホテルでの隔離生活は不自由さはあるものの、日本人の細やかな対応、
そして体験を自身の研究対象として自覚していたこともあり、穏やかに過ごすことが出来たよう
です。
しかし、岸田政権下での「やり過ぎの方がましであるという考え方」により必要以上に思えるコ
ロナ対策に疑問を覚え、検証を一切することのない日本社会に著者は警鐘を鳴らします。さらに、
このところ私たちが自公政権で常に感じている、政府の「やっている感」での一定の世論の支持
を得ながら、その間感染拡大を遅らせる時間稼ぎをし、そこで得られた時間をどのように使った
のか、と疑問を呈します。
日本がコロナに対して取った水際対策は「鎖国」的と言えるといい、日本において鎖される大学
入学市場、就職市場、転職市場・昇進市場での流動性のなさが、労働生産性が上がらない元凶と
との結論には大きく頷けます。
トランプがアメリカファーストを唱え、他国からの流入制限を画策していますが、アメリカの繁
栄はグローバル化によるところが大きい。ノーベル賞を数多く受賞しているが、多くは移民たち
の功績で、今やアメリカ大企業のCEOはインド系が席巻している。日本も人手不足があちこち
で叫ばれながら有効な手を打つことが出来ないでいる。理念だけでは解決は不可能だ。
思考停止社会ニッポン 苅谷剛彦 中公新書ラクレ