総予測2024＃85Photo by John Barrett

2024年ねん実施じっしの米べい大統領だいとうりょう選挙せんきょ。バイデンvsトランプの第だい2ラウンドになるか。特集とくしゅう『総そう予測よそく2024』の本稿ほんこうでは、16年ねんのトランプ氏し当選とうせんを「一般いっぱん市民しみんの怒いかりの評決ひょうけつ」と論ろんじた、米べいハーバード大学だいがく教授きょうじゅ、マイケル・サンデル氏しを直撃ちょくげきした。（国際こくさいジャーナリスト　大野おおの和かず基もと）

トランプ氏しが付つけ込こんだ
労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうが持もつ「屈辱くつじょく」の気持きもち

――2024年ねんには米国べいこく大統領だいとうりょう選挙せんきょがあります。あなたは16年ねんの大統領だいとうりょう選せんにおけるドナルド・トランプ氏しの当選とうせんを、グローバリゼーションに対たいする一般いっぱん市民しみんの怒いかりの評決ひょうけつだった、と言いいます。

　新しん自由じゆう主義しゅぎは経済けいざい効率こうりつの名なの下したにグローバリゼーションを推進すいしんし、低てい賃金ちんぎん国こくに雇用こようをアウトソーシングし、それが格差かくさをさらに拡大かくだいさせるというマイナスの影響えいきょうを生しょうじさせました。

　この40～50年間ねんかんで拡大かくだいした格差かくさ問題もんだいに関かんして、民主党みんしゅとうも共和党きょうわとうも、不平等ふびょうどうを生うみ出だした政策せいさくを見直みなおそうとはしませんでした。その代かわりに、労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうの人々ひとびとに、大学だいがくの学位がくいを取得しゅとくして自分じぶん自身じしんを向上こうじょうさせるように奨励しょうれいしました。「努力どりょくすれば成功せいこうできる」と伝つたえたのです。この傾向けいこうは米国べいこくだけではなく、他たの多おおくの国くにでも見みられます。つまり個人こじんの上昇じょうしょう志向しこうが格差かくさの解決かいけつになる、という考かんがえです。

　でもこれには、暗黙あんもくの侮辱ぶじょくが含ふくまれています。もし、あなたが現実げんじつにおいて苦労くろうしていて、大学だいがくの学位がくいを持もっていないのであれば、それは政策せいさく立案りつあん者しゃのせいではなく、あなたの責任せきにんなのだ、ということです。「大学だいがくの学位がくいを取とらない限かぎりあなたの仕事しごとは、社会しゃかいから評価ひょうかされたり、敬意けいいを払はらわれたりしません」というメッセージであり、この暗黙あんもくの侮辱ぶじょくは多おおくの労働ろうどう者しゃを疎外そがいしました。高学歴こうがくれきの人ひとに軽蔑けいべつされているという屈辱くつじょくの気持きもちにうまく付つけ込こんで、16年ねんに大統領だいとうりょうになったのがトランプ氏しです。

マイケル・サンデル　米ハーバード大学教授Michael J．Sandel／米べいハーバード大学だいがく教授きょうじゅ。1953年ねん米国べいこく生うまれ。専せん門もんは政治せいじ哲学てつがく。米べいブランダイス大学だいがくを卒業そつぎょう後ご、英えいオックスフォード大学だいがくで博士はかせ号ごう取得しゅとく。2002年ねんから05年ねんに米べい大統領だいとうりょう生命せいめい倫理りんり評議ひょうぎ会かい委員いいんを務つとめた。『これからの「正義まさよし」の話はなしをしよう』など著書ちょしょ多数たすう。　Photo by J.B.

――トランプ氏しは労働ろうどう者しゃの気持きもちに何なにが起おきているか分わかっていたということですね。

　そうです。トランプ氏しは労働ろうどう者しゃが感かんじていた深ふかい怒いかりや屈辱くつじょくを察さっしていました。ある予備よび選挙せんきょでトランプ氏しは「私わたしは学歴がくれきの低ひくい人ひとたちが大好だいすきだ」と言いったほどです。それは、大学だいがくの学位がくいがない人ひとはトランプ氏しに票ひょうを入いれたということです。

　トランプ氏しは、拙著せっちょ『実力じつりょくも運うんのうち　能力のうりょく主義しゅぎは正義せいぎか？』（早川書房はやかわしょぼう）で私わたしが分析ぶんせきしようとしていた、大学だいがくの学位がくいがない労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうに対たいして、教育きょういくレベルの高たかい人ひとが抱だいている偏見へんけんをすでに理解りかいしていたのです。

　拙著せっちょでその指摘してきをしてから3年ねんがたちますが、現在げんざいでは、ある程度ていどの改善かいぜんが見みられます。

次じページでは、米べい大統領だいとうりょう選せんを占うらなう労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうの動向どうこうや、トランプ氏しを迎むかえ撃うつバイデン大統領だいとうりょうの対抗たいこう策さく、そしてウクライナ戦争せんそうが露呈ろていした“教訓きょうくん”について、サンデル氏しが大だい分析ぶんせきする。