エリートは海外移住、低所得者は密入国…祖国を捨てる「中華民族大移動」が始まった！Photo:PIXTA

所得しょとく層そうに応おうじた住宅じゅうたく供給きょうきゅうが充実じゅうじつしている日本にっぽんに対たいし、持もち家いえ文化ぶんかの根強ねづよい中国ちゅうごくでは公営こうえい住宅じゅうたくの整備せいびが不十分ふじゅうぶんで賃貸ちんたいマーケットも育そだっておらず、低てい所得しょとく層そうの住すむ家いえが不足ふそく。さらにコロナ禍かの横暴おうぼうな隔離かくり措置そちを目まの当あたりにし、共産党きょうさんとう統治とうち体制たいせいに絶望ぜつぼうした人々ひとびとが自由じゆうを求もとめて次々つぎつぎと“国外こくがい脱出だっしゅつ”を試こころみているという。※本稿ほんこうは、柯隆『中国ちゅうごく不動産ふどうさんバブル』（文春ぶんしゅん新書しんしょ）の一部いちぶを抜粋ばっすい・編集へんしゅうしたものです。

なぜ中国ちゅうごくで賃貸ちんたいマンションが
敬遠けいえんされるのか

　日本にっぽんでは、若者わかものは大学だいがくを卒業そつぎょうして就職しゅうしょくしたら、自宅じたくから通かよう人ひとは別べつとして、多おおくの人ひとは賃貸ちんたいのアパートを借かりて住すむ。日本にっぽんの賃金ちんぎん体系たいけいは今いまでも年功序列ねんこうじょれつであるため、ある程度ていど年数ねんすうが経たって給料きゅうりょうが徐々じょじょに上あがれば、結婚けっこんに向むけてマンションを買かう人ひとが多おおい。なかには、結婚けっこんしてからも賃貸ちんたいマンションやアパートに住すむ人ひとも少すくなくない。賃貸ちんたいで家いえを借かりるメリットには気楽きらくさがあるだろう。

　とくに財産ざいさん形成けいせいを考かんがえないのであれば、気楽きらくに生活せいかつしたい人ひとにとって賃貸ちんたいで家いえを借かりるのは決けっして悪わるい選択せんたくではない。また、低てい所得しょとく層そうの人々ひとびとは家賃やちんの安やすい公営こうえい住宅じゅうたくに申もうし込こむこともできる。日本にっぽんでは、各々おのおのの所得しょとく層そうの多様たよう化かした需要じゅように応こたえる形かたちで住宅じゅうたくの供給きょうきゅうも多様たよう化かしているのだ。

　それに対たいして、中国ちゅうごくでは不動産ふどうさんバブルの崩壊ほうかい以降いこうも、賃貸ちんたいに乗のり換かえる人ひとが少すくなく、公営こうえい住宅じゅうたくも整備せいびされていない。低てい所得しょとく層そうは住すむ家いえがなく、大都市だいとしの一角いっかくがスラム化かしている。数すう年ねん前まえに北京ぺきん市し政府せいふは街まちの景観けいかんをよくするため、「低てい端はし人口じんこう」（低てい所得しょとく層そうの人々ひとびと）を本籍ほんせき地ちに強制きょうせい送還そうかんする措置そちを講こうじた。当時とうじの北京ぺきん市長しちょうは習政権せいけん常務じょうむ委員いいんの一人ひとりである蔡奇だ。

　都市とし部ぶにスラム街がいが出現しゅつげんすると、治安ちあんが悪わるくなるのは確たしかだが、だからといって住民じゅうみんを本籍ほんせき地ちに強制きょうせい送還そうかんするやり方かたは、明あきらかに乱暴らんぼうすぎるといわざるを得えない。北京ぺきん市しの経済けいざい力りょくであれば、日本にっぽんの公営こうえい住宅じゅうたくのような住宅じゅうたくを整備せいびして、抽選ちゅうせんで入居にゅうきょ者しゃを受うけ入いれることができるはずである。これらの「低てい端はし人口じんこう」と呼よばれる低てい所得しょとく層そうの人々ひとびとは、大体だいたいが市内しないで飲食いんしょくや宅配たくはいなどのサービス業ぎょうに従事じゅうじしていた。彼かれらが本籍ほんせき地ちに強制きょうせい送還そうかんされてから、北京ぺきん市民しみんの生活せいかつに支障ししょうが出でるようになったと報道ほうどうされている。

　中国ちゅうごくの都市とし部ぶでは公営こうえい住宅じゅうたくが整備せいびされていないだけでなく、民間みんかんの賃貸ちんたいマーケットも大おおきく育そだっていない。賃貸ちんたいマーケットが育そだつには、貸かすほうと借かりるほうがいずれも契約けいやくをきちんと守まもらなければならない。しかし中国ちゅうごくでは、法律ほうりつの整備せいびは進すすんでいるものの、法ほうの執行しっこうがきちんと行おこなわれていない。契約けいやくを一方いっぽう的てきに破棄はきしても罪つみに問とわれないため、賃貸ちんたい契約けいやくの文化ぶんかが根付ねつかないのだ。トラブルになって自分じぶんだけが損そんをすることを恐おそれ、部屋へやを貸かそうとする人ひとも借かりようとする人ひともなかなか現あらわれない。