「アートはすべての人ひとを包摂ほうせつする」英国えいこくミュージアム発はつの認知にんち症しょうケア、飼育しいく動物どうぶつと制作せいさく

「老おい」や認知にんち症しょう患者かんじゃに関かかわる取とり組くみを通とおし、市民しみんに自分じぶんたちの社会しゃかい的てきな役割やくわりを再さい認識にんしきしてもらおうと、力ちからを入いれる文化ぶんか芸術げいじゅつ団体だんたいもある。

「ミュージアムは『モノ』を大切たいせつに保管ほかんし、そこに宿やどる人々ひとびとの記憶きおくや文化ぶんかを語かたる存在そんざい。医療いりょう的てきアプローチとは異ことなる方法ほうほうで、認知にんち症しょうの人ひとや彼かれらをケアする人ひとを支ささえられるのではないかと考かんがえました」

そう話はなすのは、英えいリバプールなどにある七ななつの美術びじゅつ・博物館はくぶつかんで構成こうせいするナショナル・ミュージアムズ・リバプール（NML）のキャロル・ロジャースさん（59）。

2012年とし、当時とうじのキャメロン政権せいけんが打うち出だした認知にんち症しょう対策たいさくの戦略せんりゃくを元もとに保健ほけん省しょうの予算よさんで始はじめた、認知にんち症しょうケアを支援しえんするプログラム「ハウス・オブ・メモリーズ（HoM）」を率ひきいてきた。

元々もともと、館かんから足あしが遠とおのきがちな高齢こうれい者しゃとの接点せってんづくりに取とり組くんできた。まずは認知にんち症しょうの当事とうじ者しゃや家族かぞく、社会しゃかい福祉ふくしの専門せんもん家かたちへの取材しゅざいから始はじめた。「アート界かいの人間にんげんは、慣なれ親したしんだ世界せかいにとどまってしまいがち。そこから外そとに出でて、認知にんち症しょうの人ひとが必要ひつようとすることを理解りかいしたかった」とロジャースさんは振ふり返かえる。

最近さいきんの出来事できごとを記憶きおくするのが難むずかしくなる一方いっぽう、昔むかしの記憶きおくは保たもたれるという認知にんち症しょうの初期しょき段階だんかいに多おおい状態じょうたいに注目ちゅうもく。モノに触ふれたり、見みたりしながら昔むかしの体験たいけんや思おもい出でを語かたり合あう心理しんり療法りょうほう「回想かいそう法ほう」に使つかえる品物しなものを詰つめた「メモリー・スーツケース」を作つくった。中身なかみは古ふるい雑誌ざっしやポスター、乗用車じょうようしゃの模型もけいなどで、テーマや文化ぶんか圏けんの異ことなる約やく20種類しゅるいのスーツケースがある。

テクノロジーも積極せっきょく的てきに活用かつよう。2014年としには、自宅じたくなどでもこうした活動かつどうを体験たいけんできるアプリを開発かいはつ。コロナ禍かによるロックダウンを経へた2022年としには、引ひきこもりがちな高齢こうれい者しゃや認知にんち症しょうの人ひとに向むけて、移動いどう美術館びじゅつかんを始はじめた。床ゆか面積めんせきが30平方へいほうメートルあるコンテナを自動車じどうしゃで運はこび、内部ないぶの壁かべの全面ぜんめんに1950年代ねんだいの商店しょうてんや街まちの景色けしきなどを投影とうえいする仕組しくみ。没入ぼつにゅう型がた体験たいけんが楽たのしめる。

HoMの大おおきな特徴とくちょうは、医療いりょうや介護かいごに関かかわるスタッフへのサポートも行おこなうことだ。

認知にんち症しょう当事とうじ者しゃやその家族かぞく、介護かいご・医療いりょう従事じゅうじ者しゃの声こえをドラマ仕立したてで紹介しょうかいする映像えいぞうを見みて話はなし合あったり、スーツケースの使つかい方かたを学まなんだりするトレーニングを開催かいさい。英国えいこく各地かくちの美術びじゅつ・博物館はくぶつかんとも連携れんけいし、これまで3万まん人にん以上いじょうが受講じゅこう。受講じゅこう者しゃの約やく8割わりが、認知にんち症しょうケアに前向まえむきな気持きもちになったとの調査ちょうさ結果けっかも出でている。

リバプール市しが運営うんえいする認知にんち症しょうケアの拠点きょてん施設しせつでも、デイサービスの利用りよう者しゃの活動かつどうにアプリを取とり入いれている。マネジャーのジャッキー・カークさん（51）は、認知にんち症しょうケアに美術びじゅつ・博物館はくぶつかんが関かかわるのは「新あたらしい考かんがえ方かた」と話はなす。「アプリを使つかうことで、会話かいわが刺激しげきされる。どんな時ときにその人ひとが幸しあわせだと感かんじるかを知しる、カギにもなります」 

高齢こうれい者しゃ施設しせつでアート活動かつどう

英国えいこくでは1970年代ねんだい頃ごろから、一部いちぶの芸術げいじゅつ団体だんたいによってアートと高齢こうれい者しゃを結むすびつける活動かつどうが始はじまっていたという。包括ほうかつ的てきな社会しゃかいの促進そくしんに取とり組くむ民間みんかん助成じょせい団体だんたいベアリング財団ざいだん（本部ほんぶロンドン）の代表だいひょう、デイビッド・カトラーさん（63）は、この時期じきに「アートは社会しゃかいの全すべての人ひとを包摂ほうせつすべきだという考かんがえ方かたが広ひろまり、『高齢こうれい者しゃ』も意識いしきされるようになった」とみる。

早はやい時期じきから、高齢こうれい者しゃの芸術げいじゅつ活動かつどうに特とく化かして草くさの根ねで活動かつどうを続つづけてきた団体だんたいの一ひとつが、英えい北東ほくとう部ぶニューカッスルに拠点きょてんを置おくイコール・アーツ。高齢こうれい者しゃ施設しせつに暮くらす人ひとや孤立こりつしがちな人ひとなど、アートに参加さんかする機会きかいの限かぎられた人ひとたちに向むけ、アーティストと共ともに様々さまざまなプロジェクトを展開てんかいしてきた。

活動かつどう場所ばしょの一ひとつ、高齢こうれい者しゃ向むけのケア付つき住宅じゅうたくを昨年さくねん11月つきに訪おとずれると、10人ひとほどの入居にゅうきょ者しゃが共有きょうゆうスペースに集あつまり、施設しせつ内ないのカフェを飾かざる「パイ」をテーマにした壁画へきがを作つくっていた。

自分じぶんたちで成形せいけいした果物くだものや魚さかなのパイの形かたちの焼やき物ものを金属きんぞくのトレーに並ならべていく。「明あかるい緑色みどりいろは真まん中なかに置おいてみたらどう？」。イコール・アーツでの活動かつどう歴れき約やく15年としというアーティスト、リンジー・グリーブズさん（53）が入居にゅうきょ者しゃの意見いけんを引ひき出だしつつ、作業さぎょうを見守みまもる。

自身じしんも画家がかとして活動かつどうしていた、代表だいひょうのダグラス・ハンターさん（56）は「高齢こうれい者しゃの興味きょうみや関心かんしんに耳みみを傾かたむけて関係かんけい性せいを築きずきつつ、より高たかい到達とうたつ点てんに手てが届とどくように彼かれらを刺激しげきしていく。それがアーティストの役割やくわりです」と語かたる。現在げんざい、講習こうしゅうなどを経へて適性てきせいを見極みきわめた、約やく40人ひとのアーティストと活動かつどうする。

高齢こうれい者しゃの要望ようぼうから始はじまった、ユニークなプロジェクトが「ヘン・パワー」だ。

高齢こうれい者しゃ施設しせつの庭にわなどで雌めす鶏にわとり（英語えいごでhen）を飼育しいく。作品さくひんの題材だいざいにするなど、アート活動かつどうにも生いかす。コロナ禍かでピーク時じよりは減へったものの、今いまは約やく30施設しせつで取とり組くんでいる。

餌えさやりや卵たまご集あつめなど、世話せわを「する」体験たいけんが高齢こうれい者しゃの自信じしんにつながり、認知にんち症しょうの人ひとが穏おだやかに過すごす時間じかんが増ふえたといった効果こうかも報告ほうこくされているという。

ハンターさんは「この分野ぶんやへの関心かんしんは高たかまっている。事例じれいを示しめし、私わたしたちの活動かつどうにふさわしい支援しえんを受うけられるように声こえを上あげていくべきです」。