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アリバイ - Wikipedia

アリバイえい: alibi[1])とは、犯罪はんざいなどで被疑ひぎしゃ被告人ひこくにん犯行はんこうかかわっていないことを推認させる間接かんせつ事実じじつひとつ。現場げんば不在ふざい証明しょうめい(げんじょうふざいしょうめい)ともやくされる。

ラテン語らてんご副詞ふくし alibī由来ゆらいし、これは alius ibīalius = の、ibī = 場所ばしょに)の合成ごうせいである。

概要がいよう

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犯行はんこうおこなわれたさい被疑ひぎしゃがその存在そんざいしていなかったことを主張しゅちょう現場げんば不在ふざい証明しょうめい)し、犯罪はんざい直接的ちょくせつてき実行じっこう不可能ふかのうであったことを主張しゅちょうするのがアリバイである。もっとも、この場合ばあい、その人物じんぶつそのにいなかったことを証明しょうめいするのではなく、実際じっさいにはその時間じかんべつ場所ばしょにいたことを主張しゅちょう立証りっしょうする活動かつどうおこなわれる。どう一人物いちじんぶつが、同一どういつ時間じかんことなった2かしょ存在そんざいすることは不可能ふかのうであるため、それが現場げんば存在そんざいしなかったことの証明しょうめいになる。現在げんざいでは一般いっぱんてき用語ようごとしても使つかわれている。

事件じけんにおいてアリバイが証明しょうめいされたら被疑ひぎしゃおよび捜査そうさ機関きかん重要じゅうよう参考さんこうじんからはずれるが、アリバイが証明しょうめいされないと被疑ひぎしゃおよび捜査そうさ機関きかん重要じゅうよう参考さんこうじんからはずれないことがこりうる。しかし、刑事けいじ訴訟そしょうほうまとには当事とうじしゃ主義しゅぎ訴訟そしょう構造こうぞうをとっている刑事けいじ訴訟そしょうほうじょう当然とうぜん原則げんそくから、当該とうがい被告人ひこくにん犯人はんにんであること(犯人はんにんせい)および公訴こうそ事実じじつ存在そんざい証明しょうめいする必要ひつよう訴追そついがわ検察官けんさつかんにあるため、アリバイ事実じじつ被告人ひこくにんがわ証明しょうめいする必要ひつようはない。

刑事けいじ裁判さいばんにおいて、被告人ひこくにんのアリバイの有無うむ犯行はんこう可能かのうせい左右さゆうする重要じゅうよう要素ようそであるため、弁護べんごがわ検察けんさつがわあいだでしばしばあらそわれる。また、証人しょうにん被告人ひこくにんのためにアリバイを偽装ぎそうすることは違法いほうであり、偽証罪ぎしょうざい犯人はんにん隠匿いんとくざいなどにわれることがある。

のちの捜査そうさにおいて虚偽きょぎのアリバイを提示ていじして被疑ひぎしゃ重要じゅうよう参考さんこうじんからはずれることをもくろみ、真犯人しんはんにん工作こうさくおこなうことをアリバイづくという。てんじて、個人こじん組織そしきがのちに作為さくいめられないためだけにかたちだけ物事ものごとおこなうことを「アリバイづくり」とぶことがある[2]

推理すいり小説しょうせつなどにおけるあつか

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推理すいり小説しょうせつにおいては「アリバイくずし」がとなっており、そのため各々おのおの作家さっかがアリバイの偽装ぎそう工作こうさくアイデアらしている。アリバイもので著名ちょめい推理すいり作家さっかとしてはF・W・クロフツヘンリー・ウェイド鮎川あいかわ哲也てつや笹沢ささざわ佐保さほらがいる。

殺人さつじん事件じけんきた時間じかん完全かんぜん特定とくていできる場合ばあいに、そのにいなかった、という場合ばあいと、殺人さつじん時間じかん完全かんぜん特定とくていできない、だから被疑ひぎしゃのアリバイもその前後ぜんごちが場所ばしょにいた、という場合ばあいとではあつかいがかなりことなる。後者こうしゃほう現実げんじつてきであろう。

後者こうしゃにおいては、アリバイの主張しゅちょうもそのあいだ時間じかんに、事件じけん現場げんば被疑ひぎしゃのいた場所ばしょあいだでの移動いどう不可能ふかのうだ、ということになるから、普通ふつうにはありない移動いどうをどうやって可能かのうにしたかがわれる。これに鮎川あいかわ哲也てつやが『ペトロフ事件じけん』ではじめて列車れっしゃ時刻じこくひょうもちいて以降いこう作品さくひんちゅう時刻じこくひょうもちいることが定番ていばんとなった。とくに松本まつもと清張せいちょうの『てんせん』は秀逸しゅういつで、日本にっぽんのその推理すいり小説しょうせつサスペンスひとつの定型ていけいつくったとされる。

ぎゃくに、事件じけんきた時間じかん誤認ごにんさせることにより、アリバイが成立せいりつするかのようにせるトリックもある。

有栖川ありすがわゆう栖のアリバイ講義こうぎ

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有栖川ありすがわゆうは、『マジックミラー』のだい7しょう「アリバイ講義こうぎ」において、ディクスン・カーの『みっつのかん』の「密室みっしつ講義こうぎ」における密室みっしつトリック分類ぶんるいならって、ミステリにおけるアリバイトリック分類ぶんるいおこなっている。作品さくひんれいは、『マジックミラー』(講談社こうだんしゃ文庫ぶんこ)の「文庫ぶんこばんのためのあとがき」に紹介しょうかいされているものである。

1.証人しょうにん悪意あくいがある場合ばあい
証人しょうにんうそをついていた場合ばあい
れい:『ナイルに』(アガサ・クリスティ)、『不連続ふれんぞく殺人さつじん事件じけん』(坂口さかぐち安吾あんご
2.証人しょうにん錯覚さっかくしている場合ばあい
a.時間じかん錯覚さっかくしている場合ばあい
証人しょうにん時計とけいはり細工ざいくをする、にちを間違まちがわせる、曜日ようび間違まちがわせる、など。
れい:『ウィスタリアそう』(コナン・ドイル[3]
b.場所ばしょ錯覚さっかくしている場合ばあい
証人しょうにん犯人はんにん一緒いっしょにいる場所ばしょ(アパート、新幹線しんかんせんさんがわなど)を間違まちがわせる、など。
c.人物じんぶつ錯覚さっかくしている場合ばあい
犯人はんにんだま使つかった場合ばあい
れい証人しょうにんがa、b、cすべてを錯覚さっかくしている場合ばあい作品さくひん - 『ひとそれを情死じょうしぶ』(鮎川あいかわ哲也てつや
3.犯行はんこう現場げんば錯誤さくごがある場合ばあい
たとえば実際じっさい犯行はんこう現場げんばはA山林さんりんで、あと死体したいをB雑木林ぞうきばやし移動いどうさせてB犯行はんこう現場げんばおもわせるもの。
4.証拠しょうこ物件ぶっけん偽造ぎぞうされている場合ばあい
写真しゃしんトリック(合成ごうせい写真しゃしん)が典型てんけい
れい:『フレンチ警部けいぶ多忙たぼう休暇きゅうか』(F・W・クロフツ
5.犯行はんこう推定すいてい時間じかん錯誤さくごがある場合ばあい
a. 実際じっさいよりもはや偽装ぎそうする場合ばあい
たとえば3ころされた被害ひがいしゃが、2にはすでんでいたようにせかけ、2のアリバイを用意よういするというもの。
b.実際じっさいよりもおそ偽装ぎそうする場合ばあい
たとえば3ころされた被害ひがいしゃが、4まできていたとおもわれるよう細工ざいくして、4のアリバイを用意よういするというもの。
れい:2けん事件じけんでaとbのそれぞれをもちいている作品さくひん - 『かぎあなのないとびら』(鮎川あいかわ哲也てつや
A.医学いがくてきトリック
死体したいやしたりねっしたり、消化しょうかぶつ加工かこうしたりして、死亡しぼう推定すいてい時刻じこく判定はんていくるわせるもの。
B.医学いがくてきトリック
医学いがくてきトリック以外いがい方法ほうほうで、aとbのれいげたような細工ざいくをするもの。
※AとBにそれぞれaとbがある。
6.ルートに盲点もうてんがある場合ばあい
たとえば移動いどうするのに1あいだかかる2地点ちてんあいだを、意外いがいなルートを使つかって30ふん移動いどうするというもの。
時刻じこくひょう使つかった鉄道てつどうミステリに作品さくひんれいおおいが、たとえばあるいて1あいだかかる山道さんどう断崖だんがいうえからパラシュートですうふんくだったというものも該当がいとうする。
れい:『シタフォードのなぞ』『ゼロあいだ』(アガサ・クリスティ)
7.遠隔えんかく殺人さつじん
a.機械きかいてきトリック
時限じげん装置そうちによって発射はっしゃされる拳銃けんじゅう時限じげん発火はっか装置そうちなど。
b.心理しんりてきトリック
催眠さいみんじゅつをかけた相手あいて夢中むちゅう歩行ほこうへきのある相手あいてに、危険きけん行為こういをさせるというもの。
れい:『空白くうはく起点きてん』『ほのお虚像きょぞう笹沢ささざわ佐保さほ
8.誘導ゆうどう自殺じさつ
相手あいて精神せいしんてきおおきなショックをあたえて、自殺じさついやるもの。
れい:『くら傾斜けいしゃ笹沢ささざわ佐保さほ
9.アリバイがない場合ばあい
犯人はんにんうったえるアリバイが、じつはアリバイでもなんでもなく、読者どくしゃにアリバイがあるとおもませるもの。
れい:『真昼まひるわかれるのはいや』笹沢ささざわ佐保さほ

なお、くじら統一とういつろうは『ここのつの殺人さつじんメルヘン』(2001ねん)において、有栖川ありすがわゆう栖の「アリバイ講義こうぎ」におけるアリバイトリックの9つの分類ぶんるい対応たいおうする9つの短編たんぺんあらわしている。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 英語えいご発音はつおん: [ˈæləbaɪ]
  2. ^ “アリバイづくりはやめよう”. 日本経済新聞にほんけいざいしんぶん. (2018ねん9がつ27にち). https://www.nikkei.com/article/DGKKZO35802500W8A920C1UU8000/ 
  3. ^ 『マジックミラー』の「文庫ぶんこばんのためのあとがき」に紹介しょうかいされている作品さくひんではない。

関連かんれん項目こうもく

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