冤罪えんざい

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冤罪えんざい（えんざい）とは、「無実むじつであるのに犯罪はんざい者ものとして扱あつかわれること」を指さす。俗ぞくに、「濡ぬれ衣ぎぬ」^[1]や「無実むじつの罪つみ」ともいう。法的ほうてきな誤あやまりなどによって生しょうじる。

定義ていぎ

無実むじつ者ものが刑事けいじ訴訟そしょうで有罪ゆうざい判決はんけつ（広義こうぎでは少年院しょうねんいん送致そうちなどの保護ほご処分しょぶんも）を受うけることを指さす立場たちばもあれば^[2]、単たんに無実むじつ者しゃが罪つみに問とわれることを指さす立場たちばもあり^[3]、法学ほうがく辞典じてんにおいても定義ていぎには揺ゆれがみられる。

日本国にっぽんこく政府せいふは、麻生あそう太郎たろう総理そうり時代じだい^[4]、鳩山はとやま由紀夫ゆきお総理そうり時代じだい^[5]、野田のだ佳彦よしひこ総理そうり時代じだい^[6]のいずれも、「法令ほうれい上じょうの用語ようごではなく、定義ていぎについて特定とくていの見解けんかいを有ゆうしていない」として政府せいふ見解けんかいを示しめしていない。

法務省ほうむしょうによる見解けんかい

一方いっぽう、第だい78代だい法務大臣ほうむだいじんであった長勢ながせ甚遠は、2007年ねん5月がつの衆議院しゅうぎいん法務ほうむ委員いいん会かいにおいて「有罪ゆうざいになった方ほうが実じつは無実むじつであったというケースが一般いっぱん的てきに冤罪えんざいと言いわれているのではないか」「〔志布志しぶし事件じけんのように〕被告人ひこくにんが無罪むざいになったときも冤罪えんざいと言いうのは、一般いっぱん的てきではないのではないか」との見解けんかいを述のべている^[7]。また、第だい80代だい法相ほうしょうの鳩山はとやま邦夫くにおも、冤罪えんざいを「人違ひとちがいで逮捕たいほされ、裁判さいばん中なかや服役ふくえき後ごに真犯人しんはんにんが現あらわれたケース」と定義付ていぎづける立場たちばから、法務省ほうむしょうでの2008年ねん2月がつの会合かいごうの場ばで「志布志しぶし事件じけんは冤罪えんざいと呼よぶべきではない」との発言はつげんを行おこなった^[8]。これを志布志しぶし事件じけんの元もと被告人ひこくにんらから批判ひはんされた鳩山はとやまは直後ちょくごに謝罪しゃざいを行おこない、「この全まったく意味いみの不ふ確定かくていな冤罪えんざいという言葉ことば」を以後いご公式こうしきの場ばでは一切いっさい用もちいない、との考かんがえを述のべた^[8]。

しかし、その後ごも第だい88代だい法相ほうしょうの平岡ひらおか秀夫ひでおは、障害しょうがい者しゃ郵便ゆうびん制度せいど悪用あくよう事件じけんでの被告人ひこくにんだった村木むらき厚子あつこに対たいする無罪むざい判決はんけつにつき、「有罪ゆうざい判決はんけつを受うけていないという意味いみでは、冤罪えんざいに該当がいとうしない」と、2011年ねん11月の記者きしゃ会見かいけんにおいてコメントしている^[9]。また同どう時期じきには法務省ほうむしょうも、冤罪えんざいの定義ていぎを「真犯人しんはんにんではない者ものに対たいする有罪ゆうざい判決はんけつが確定かくていするなどの事態じたいを念頭ねんとうに置おいて用もちいた」報告ほうこく書しょを公表こうひょうしている^[10]。

しかし、さらに翌よく2012年ねん11月の東電とうでんOL殺人さつじん事件じけん再審さいしん無罪むざい判決はんけつ直後ちょくご、第だい90代だい法相ほうしょうの滝たき実みのるは記者きしゃ会見かいけんで、「刑事けいじ局きょくの立場たちばからすると冤罪えんざいというのは、厳密げんみつな定義ていぎの上うえでなければ冤罪えんざいかどうかの判断はんだんというのを軽々けいけいに言葉ことばで表あらわすことができない」としながらも、「常識じょうしき的てきに世間せけん一般いっぱんの感覚かんかくから冤罪えんざいを広ひろくとって言いえば、本来ほんらい罪ざいになる必要ひつようがないものが罪つみになったという意味いみでは冤罪えんざいと言いえないこともない」とも述のべている^[11]。

法学ほうがく者しゃによる見解けんかい

法学ほうがく者しゃの立場たちばからは、今村いまむら力つとむ三郎さぶろうが1945年ねんに、「世人せじんは冤罪えんざいとは、常つねに全然ぜんぜん無実むじつの罪つみに陥おちいったもののように考かんがえているが、我々われわれ専門せんもん家かのいう冤罪えんざいとは、ある罪つみを犯おかしたる事実じじつはあっても、裁判官さいばんかんの認定にんていが事実じじつの真相しんそうを誤あやまったり、あるいは法律ほうりつの適用てきようを誤あやまったりして、相当そうとう刑けいよりも過重かじゅうの刑罰けいばつに処しょせられたる場合ばあいも等ひとしく冤罪えんざいとするのである」として、無実むじつのみならず適用てきよう法条ほうじょうや量刑りょうけいの不当ふとうも冤罪えんざいに含ふくめる見方みかたを示しめしている^[12]。

また村井むらい敏邦としくには1996年ねんに、「マスコミ関係かんけいでは、冤罪えんざいというのは誤判ごはんがあったものに限かぎり、捜査そうさや起訴きその誤あやまりがあっても、裁判所さいばんしょにおいては無罪むざい判決はんけつが下くだされたという場合ばあいには、冤罪えんざい事件じけんとは呼よばないという慣行かんこうがあるやにきく」と前置まえおきしたうえで、「有罪ゆうざい判決はんけつによる影響えいきょうが極きわめて大おおきいことはその通とおりであるが、誤認ごにん捜査そうさ、誤あやま起訴きそが与あたえる人権じんけん侵害しんがいの程度ていども決けっして小ちいさくはない。捜査そうさ機関きかんによって誤あやまって犯人はんにんとして逮捕たいほされ、勾留こうりゅうされ、起訴きそされた人ひとも、冤罪えんざいの被害ひがい者しゃであることに変かわりはない」として、誤認ごにん逮捕たいほも冤罪えんざいに含ふくめる見方みかたをとっている^[13]。