オリエンタリズム (サイード)

『オリエンタリズム』（英えい: Orientalism）は、1978年ねんにエドワード・サイードによって発表はっぴょうされた書籍しょせきである。西洋せいようにおける東洋とうよう趣味しゅみ「オリエンタリズム」を思考しこう様式ようしきとして再さい定義ていぎし「ポストコロニアル理論りろん」を確立かくりつした。

オリエンタリズム Orientalism
著者ちょしゃ	エドワード・サイード
訳者やくしゃ	今沢いまざわ紀子のりこ
発行はっこう日び	1978年ねん　1986年ねん
発行はっこう元もと	Vintage Books
ジャンル	ノンフィクション、ポストコロニアル理論りろん
国くに	アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく
言語げんご	英語えいご
形態けいたい	ペーパーバック
コード	ISBN 978-0394-74067-6 OCLC 4831769 DDC 950/.07/2 ISBN 978-4-582-74402-6
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主おもな内容ないようは、著者ちょしゃがスタンフォード大学だいがくの研究けんきゅう員いんだった1975年ねん-76年ねんに執筆しっぴつされた。従来じゅうらいは美術びじゅつにおける東洋とうよう趣味しゅみなどを指さす語かたりだった「オリエンタリズム」を、西洋せいようの東洋とうように対たいする思考しこう様式ようしきとして定義ていぎし、人種じんしゅ主義しゅぎ的てき、帝国ていこく主義しゅぎ的てきであるとして批判ひはん的てきに検討けんとうした。その検討けんとうを通つうじて、人間にんげんは異い文化ぶんかをいかにして表象ひょうしょうするのか、また異い文化ぶんかとは何なになのかという問題もんだい提起ていきも行おこなった。そのための素材そざいとして、学術がくじゅつ文献ぶんけんだけでなく文芸ぶんげい作品さくひんも含ふくめて論ろんじている。

本書ほんしょで扱あつかう「オリエント」の範囲はんいは主おもに中東ちゅうとうであり、18世紀せいき以降いこうのフランス、イギリス、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくのオリエンタリズムが分析ぶんせきされている。サイードは、オリエンタリズムを研究けんきゅうすることになった動機どうきについて、パレスチナとエジプトで育そだった東洋とうよう人じん（オリエンタル）としての意識いしきをあげている。

サイードは『オリエンタリズム』や『文化ぶんかと帝国ていこく主義しゅぎ』を念頭ねんとうに、「自分じぶんで書かいた本ほんのなかで覆くつがえそうと闘たたかってきた相手あいては、「東洋とうよう」（イースト）とか「西洋せいよう」（ウエスト）といった虚構きょこう（フィクション）であり、またさらに、人種じんしゅ差別さべつ主義しゅぎが捏造ねつぞうしたところの従属じゅうぞく人種じんしゅ、東洋とうよう人じん、アーリア人じん、ニグロといった本質ほんしつ主義しゅぎ的てき分類ぶんるい法ほうであった。と同時どうじに、いっぽうで、過去かこにおいて植民しょくみん地ち主義しゅぎの暴虐ぼうぎゃくを幾度いくどもかいくぐってきた国々くにぐにでは、原初げんしょにあった無垢むくの状態じょうたいが西欧せいおう人じんによっておかされたという被害ひがい者しゃ意識いしきが強つよいが、わたしは、こうした考かんがえかたに与あずか（くみ）することなく、つぎの点てんをくりかえし強調きょうちょうしてきた。東洋とうようとか西洋せいようといった神話しんわ的てき抽象ちゅうしょう概念がいねんは端はし的てきにいって虚偽きょぎであるが、同おなじことは、かつての植民しょくみん地ち国こくが西欧せいおうに向むけて発はっする非難ひなんのレトリックのなかで駆使くしされるむきだしの対立たいりつ図式ずしきについてもいえる。文化ぶんかは、たがいに混まじりあい、その内容ないようも歴史れきしも、たがいに依存いぞんしあい、雑種ざっしゅ的てきなものであるため、外科げか手術しゅじゅつ的てきな切きり分わけをおこなって、＜東洋とうよう＞（オリエント）とか＜西洋せいよう＞（オクシデント）といったおおざっぱで、おおむねイデオロギー的てきな対立たいりつをこしらえることなどできないのである」。

内容ないよう

オリエンタリズムの定義ていぎ

サイードは、オリエンタリズムという語かたりに複数ふくすうの意味いみを与あたえ、それらは相互そうご依存いぞん関係かんけいにあるとした。主おもな意味いみあいとして、次つぎの3つをあげている。1.学問がくもんに関係かんけいする意味いみ　2.東洋とうようと西洋せいようとされるものの間あいだに設もうけられた区分くぶん　3.オリエントを支配しはいし再さい構成こうせいし威圧いあつするための西洋せいようの様式ようしき

オリエンタリズムの本質ほんしつを見極みきわめる上うえで、ミシェル・フーコーが用もちいた言説げんせつ（ディスクール）の概念がいねんが有効ゆうこうだとしている。学術がくじゅつ的てきな言説げんせつが帝国ていこく的てき制度せいどと結むすびつくことを、サイードはナポレオン・ボナパルトのエジプト遠征えんせいから現代げんだいのアメリカにおける制度せいど化かまでを例れいに論ろんじる。

戦略せんりゃく的てき位置いち選定せんていによるオリエンタリズム

戦略せんりゃく的てき位置いち選定せんていとは、著述ちょじゅつ家かが東洋とうようを取とり上あげた場合ばあいに、著述ちょじゅつ家か自身じしんがテクストの中なかでいかなる位置いちを占しめているかを記述きじゅつする手法しゅほう。オリエンタリズムには空間くうかん的てき、現象げんしょう的てき、歴史れきし的てきな多義たぎ性せいがあるが、これらの多義たぎ性せいは、著述ちょじゅつ家かが東洋とうようを外在がいざい的てきなものとして語かたる点てんで共通きょうつうしているとする。

戦略せんりゃく的てき編成へんせいによるオリエンタリズム

戦略せんりゃく的てき編成へんせいとは、テクストが文化ぶんかの中なかで参照さんしょう能力のうりょくを増ましてゆく過程かていと、テクスト本体ほんたいとの関係かんけいを分析ぶんせきする手法しゅほう。西洋せいようにおけるオリエントの社会しゃかいや文化ぶんかに対たいする見解けんかいには、後進こうしん性せいについての無意識むいしき的てきな確信かくしんがあると指摘してきした。さらに、西洋せいよう列強れっきょうのオリエンタリズムに基もとづいた学問がくもん的てき・実践じっせん的てきな知識ちしきが、権力けんりょくと密接みっせつに関連かんれんしながら東洋とうように対たいする西洋せいようの支配しはい関係かんけいをもたらしていると論ろんじた。

各かく章しょうの内容ないよう

第だい1章しょう　オリエンタリズムの領域りょういき

歴史れきしと経験けいけん、および哲学てつがく的てき主題しゅだいと歴史れきし的てき主題しゅだいの観点かんてんから、オリエンタリズムの範囲はんいを定さだめる。オリエンタリズムが中東ちゅうとうとヨーロッパの間あいだに設定せっていされたきっかけとして、ナポレオンのエジプト遠征えんせいによる『エジプト誌し』の誕生たんじょうをあげ、これがその後ごの関係かんけいに影響えいきょうを与あたえ続つづけたとする。そして、ヨーロッパがイスラームに対たいして自己じこ完結かんけつ的てきかつ反はん経験けいけん的てきで誤解ごかいのあるイメージを作つくり上あげた歴史れきしがすでにあったと指摘してきし、同様どうようの姿勢しせいがオリエンタリズムにもあることを見みる。イスラームへの誤解ごかいの例れいとして、バルテルミー・デルブロの『東洋とうよう全書ぜんしょ』や、ダンテの『神かみ曲きょく』におけるムスリムの扱あつかいをあげる。

ここでサイードはアヌワル・アブデル＝マレク、R・W・サザーン、ノーマン・ダニエル(Norman Daniel) の研究けんきゅうを肯定こうてい的てきに評価ひょうかしている。また、オリエンタリストを指さして、ヴィーコの『新あたらしい学がく』にある「学者がくしゃのうぬぼれ」を引ひいている。

第だい2章しょう　オリエンタリズムの構成こうせいと再さい構成こうせい

作家さっか、芸術げいじゅつ家か、学者がくしゃたちの著作ちょさくを見みながら、オリエンタリズムの発展はってんを追おう。この章しょうでは、次つぎのような人物じんぶつが論ろんじられている。初期しょきの学問がくもん的てきな定義ていぎを行おこなったシルヴェストル・ド・サシとエルネスト・ルナン。セム語族ごぞくを後進こうしん的てきと見みなしたフリードリヒ・シュレーゲル。オリエントを旅行りょこうする際さいの基準きじゅんとなる著作ちょさくを書かいたエドワード・レインとシャトーブリアン。帝国ていこく主義しゅぎ的てきな紀行きこうを著あらわしたラマルティーヌ。『アラビアン・ナイト』を翻訳ほんやくしたリチャード・バートン。オリエント訪問ほうもんを個人こじん的てき・審美しんび的てきに利用りようしえた作家さっかであるネルヴァルとフローベールなどである。フローベールについては、『ブヴァールとペキュシェ』に見みられるように、オリエンタリストを相対そうたい化かするような視点してんを持もっていたとも論ろんじている。

第だい3章しょう　今日きょうのオリエンタリズム

1870年代ねんだいのヨーロッパの植民しょくみん地ち拡大かくだい期きから、1970年代ねんだいのアメリカ主導しゅどうによるオリエンタリズムまでを論ろんじる。差別さべつ的てきな学説がくせつがオリエンタリズムと結むすびついて植民しょくみん地ち支配しはいを正当せいとう化かしたとして、その例れいにゴビノー、キュヴィエ、ロバート・ノックスらの人種じんしゅ差別さべつ思想しそう、ハックスレーらの亜流ありゅうダーウィニズム、ランケやシュペングラーのイスラーム観かんなどをあげる。また、イギリスとフランスがオリエンタリズムを主導しゅどうした時代じだいの人物じんぶつとして、次つぎのような名なをあげる。植民しょくみん地ちにおける白人はくじんの歩あゆむ道みちを書かいたキプリング。アラブの反乱はんらんに自己じこイメージを投影とうえいしたロレンス。20世紀せいきにオリエンタリズムを包括ほうかつする著作ちょさくを生うみ出だしたハミルトン・ギブとルイ・マシニョン。

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんとアラブ・イスラエル戦争せんそう以降いこう、アメリカによるオリエンタリズムが隆盛りゅうせいをとげ、中なかでもアラブ・イスラーム研究けんきゅうの分野ぶんやで著いちじるしいとする。その例れいとして、初期しょきのオリエンタリストと同おなじイスラーム観かんを説といたグスタフ・E・フォン・グルーネバウムや、イスラームが変化へんかしないと論ろんじたバーナード・ルイスをあげる。そして、オリエンタリズムがアメリカの影響えいきょうでアラブに拡大かくだいし、自みずからをオリエント化かしている状況じょうきょうにも触ふれる。

ここでサイードは、エーリヒ・アウエルバッハ、E・ロジャー・オーウェン、クリフォード・ギアツ、ジャック・ベルク、マクシム・ロダンソン、ジャック・ワールデンブルクの研究けんきゅうを肯定こうてい的てきに評価ひょうかしている。

第だい4章しょう　オリエンタリズム再考さいこう

初版しょはんの発表はっぴょう後ごの反響はんきょうをもとにサイードが書かいた論考ろんこう。

日本語にほんご訳やくの内容ないよう

日本語にほんご訳やくでは、サイードが原著げんちょの刊行かんこう後ごに執筆しっぴつした論考ろんこうが第だい4章しょうとして収録しゅうろくされた。平凡社へいぼんしゃライブラリー版ばんでは、「『オリエンタリズム』の波紋はもん」と題だいして、出版しゅっぱん後ごの反響はんきょうについて述のべられている。

平凡社へいぼんしゃライブラリー版ばんのカバー画がには、ドラクロワの『アルジェの女おんなたち』と、デオダンクの『モロッコの賑にぎやかな街角まちかど』が用もちいられている。装幀そうていは、1986年版ねんばんが戸田とだツトム、1994年版ねんばんが中垣なかがき信夫しのぶ。

本書ほんしょの影響えいきょう

サイードが新版しんぱんの序文じょぶんを書かいた2003年ねんの時点じてんで36ヵ国かこく語ごに訳やくされ、その中なかにはヘブライ語ごも含ふくまれている。日本語にほんご訳やく収録しゅうろくの「『オリエンタリズム』の波紋はもん」には、本書ほんしょに関連かんれんする日本にっぽんの研究けんきゅう者しゃとして、次つぎの名ながあげられている。栗田くりた禎子さだこ、三浦みうら徹とおる、羽田はた正ただし、長沢ながさわ栄治えいじ、黒田くろだ壽郎としお、青柳あおやぎ晃一こういち、青木あおき保たもつ、今福いまふく龍太りゅうた、三島みしま憲一けんいち、大石おおいし俊一しゅんいち、姜きょう尚中しょうちゅう、川村かわむら湊みなと、村井むらい紀おさむ、彌永やなが信美のぶよし、西川にしかわ長夫ながお。

サイードは、本書ほんしょの議論ぎろんをもとに著述ちょじゅつ活動かつどうを継続けいぞくし、『文化ぶんかと帝国ていこく主義しゅぎ』などの書籍しょせきを発表はっぴょうした。

書誌しょし情報じょうほう

原書げんしょ

• W. Said, Edward (1978). Orientalism (Hardcover ed.). Pantheon Books. ISBN 0-394-42814-5 
• W. Said, Edward (October 1979). Orientalism (Paperback ed.). Vintage. ISBN 0-394-74067-X 
• W. Said, Edward (August 2003). Orientalism: Western Conceptions of the Orient (Paperback ed.). Penguin Classics. ISBN 0141187425  - 1995年ねんの後書あとがきを加くわえた25周年しゅうねん記念きねん版ばん。

日本語にほんご訳やく

• エドワード・サイード『オリエンタリズム』今沢いまざわ紀子のりこ訳わけ、板垣いたがき雄三ゆうぞう・杉田すぎた英明ひであき監修かんしゅう、平凡社へいぼんしゃ〈テオリア叢書そうしょ〉、1986年ねん10月がつ。ISBN 4-582-74402-8。 
  • エドワード・サイード『オリエンタリズム　上うえ』今沢いまざわ紀子のりこ訳やく、板垣いたがき雄三ゆうぞう・杉田すぎた英明ひであき監修かんしゅう、平凡社へいぼんしゃ〈平凡社へいぼんしゃライブラリー〉、1993年ねん6月がつ。ISBN 4-582-76011-2。 
  • エドワード・サイード『オリエンタリズム　下した』今沢いまざわ紀子のりこ訳やく、板垣いたがき雄三ゆうぞう・杉田すぎた英明ひであき監修かんしゅう、平凡社へいぼんしゃ〈平凡社へいぼんしゃライブラリー〉、1993年ねん6月がつ。ISBN 4-582-76012-0。 

関連かんれん項目こうもく

• 異い文化ぶんか
• オリエンタリズム
• 人文じんぶん主義しゅぎ者しゃ
• ポストコロニアル理論りろん

外部がいぶリンク

• サイード - 「オリエンタリズム」新版しんぱん序文じょぶん - サイードが2003年ねんに執筆しっぴつしたもの。中野なかの真紀子まきこ訳わけ