ダーク・ファンタジー

ダーク・ファンタジー（Dark fantasy）は、ファンタジー作品さくひんのジャンルの1つ。略りゃくしてダクファンとも呼よばれる。

暗鬱あんうつな設定せっていや作風さくふうを特徴とくちょうとし、得体えたいのしれない（そしてグロテスクな）敵てきと戦たたかい、肉体にくたい切きり裂さかれ血液けつえきや体液たいえきが飛とび散ちる描写びょうしゃ、おびただしい死し、希望きぼうのない未来みらい……等とうなどの要素ようそを抱かかえる作品さくひんである。ただし、定義ていぎそのものが難むずかしいとする意見いけんもある。

歴史れきし

今日きょう、「ダーク・ファンタジー」に分類ぶんるいされる作品さくひんは、14世紀せいきに書かかれた『ガウェイン卿きょうと緑みどりの騎士きし』などもあり、古ふるくから存在そんざいする。1920年ねん頃ごろに活動かつどうしたガートルード・バロウズ・ベネットは「ダーク・ファンタジーを発明はつめいした女性じょせい（the woman who invented dark fantasy）」と呼よばれる。「ダーク・ファンタジー」の語かたりを用もちいたのはチャールズ・L・グラントとカール・エドワード・ワグナーだとされるが、2人ふたりの主張しゅちょうするスタイルには違ちがいがある。ブライアン・ステイブルフォードはダーク・ファンタジーを「ファンタジーの標準ひょうじゅん的てきな形式けいしきに“ホラー・フィクションの要素ようそを組くみ込こむ”ことを試こころみる物語ものがたりのサブジャンル」として定義ていぎできると主張しゅちょうしている。また、ステイブルフォードは主おもに現実げんじつ世界せかいを舞台ぶたいとした超ちょう常つね的てきなホラーは現代げんだいファンタジーであり、架空かくう世界せかいを舞台ぶたいにしたものをダーク・ファンタジーと呼よぶべきであると主張しゅちょうしている。

ダーク・ファンタジー作品さくひんが増ふえてきたのはいつ頃ごろからかは、はっきりしない。1979年ねんの映画えいが『エイリアン』、1982年ねんの映画えいが『ブレードランナー』、1984年ねんの映画えいが『ターミネーター』、1988年ねんのアニメ映画えいが『AKIRA』といった1970年代ねんだい後半こうはんから1980年代ねんだいの「ダークな」SF映画えいがが大おおきく影響えいきょうを与あたえたのは無視むしできないであろう。

「社会しゃかいの発展はってんはよりよい世界せかいを実現じつげんする」という旧来きゅうらいの概念がいねんが崩くずれ、未来みらいに明あかるい展望てんぼうが持もてなくなった20世紀せいき末まつには、こういった意識いしきがSF映画えいがを始はじめとした創作そうさく作品さくひんにも影響えいきょうを与あたえていった。更さらには21世紀せいき初頭しょとうの同時どうじ多発たはつテロ事件じけんによって、現実げんじつに日常にちじょうの中なかですら不条理ふじょうりな死しが訪おとずれるという恐怖きょうふは世界せかい的てきに共通きょうつう感覚かんかくとなり、優美ゆうび、典雅てんがな空想くうそう世界せかいとしてのファンタジーのジャンルにも影響えいきょうを与あたえ、殺伐さつばつとしたダークな世界せかいが創作そうさくされるようになった。

ダーク・ファンタジーの特徴とくちょう

一般いっぱん的てきなファンタジーおよび幻想げんそう小説しょうせつとダーク・ファンタジーとの明確めいかくな線引せんひきは難むずかしく、作風さくふうによって出版しゅっぱん社しゃが判断はんだんしてジャンル分わけしたり、読者どくしゃが独自どくじに判断はんだんしたり、作者さくしゃがコメントなどで明確めいかくに打うち出だしたりするなど、様々さまざまである。

東京とうきょう創そう元もと社しゃを例れいに挙あげると、同社どうしゃレーベル内ないではタニス・リーやジョナサン・キャロルの作品さくひん群ぐんなどを「ダーク・ファンタジイ」ジャンルとして扱あつかっている。なお、同社どうしゃでは「ファンタジイ」ジャンルを細分さいぶん化かして、「ファンタジイ」のほか「ダーク・ファンタジイ」「ヒロイック・ファンタジイ」「ユーモア・ファンタジイ」「ロマンティック・ファンタジイ」「異い世界せかいファンタジイ」などに分類ぶんるいをしている。

他方たほう、論ろん創そう社しゃの叢書そうしょ「ダーク・ファンタジー・コレクション」では、ミステリー・SF・ホラーと幅広はばひろいジャンルを網羅もうらしたシリーズとなっている。

ハイ・ファンタジー、いわゆる異い世界せかいファンタジーの分類ぶんるいとしてのダーク・ファンタジーでは、ストーリー全体ぜんたいがシリアスなトーンで進行しんこうしているのが大おおきな特徴とくちょうで、その中なかで人間にんげんの残酷ざんこくな心理しんりや内面ないめんをえぐった表現ひょうげんや、予定よてい調和ちょうわ的てきなハッピーエンドを嫌きらった展開てんかい（バッドエンド方針ほうしん）、過激かげきな戦闘せんとうとグロテスクな描写びょうしゃ、性せい描写びょうしゃなどに特徴とくちょう的てきな作品さくひんを指さすことが多おおい。

異い世界せかいファンタジーとしてのダークファンタジー作品さくひんでは、トールキンの亜流ありゅう作品さくひんや児童じどう文学ぶんがくなどで描えがかれる中世ちゅうせいヨーロッパ「風ふう」世界せかいのメルヘン・幻想げんそう的てき=非ひ現実げんじつ的てきなイメージに対たいするアンチテーゼとして、現実げんじつの醜みにく汚けがれを世界せかい観かんに反映はんえいさせており、史実しじつに基もとづいた戦争せんそうとそれに伴ともなう略奪りゃくだつ、魔女まじょ狩かりや拷問ごうもん、飢饉ききんや疫病えきびょう、政治せいじの腐敗ふはいといったガジェットがリアリズム（場合ばあいによってはある程度ていどの誇張こちょう表現ひょうげんも含ふくむ）により生々なまなましく描写びょうしゃされることもある。

一方いっぽう、より広義こうぎのファンタジーとしての幻想げんそう文学ぶんがくの作品さくひん群ぐんでダーク・ファンタジーというラベリングをした場合ばあい、幻想げんそうと怪奇かいき、ホラーの味付あじつけの強つよい作品さくひん、ゴシック小説しょうせつの流ながれを汲くむ作品さくひんなどを指さして呼よぶことが多おおい。現実げんじつ世界せかいに非ひ現実げんじつの存在そんざいがクロスオーバーする現象げんしょう、あるいはその体験たいけんを、恐怖きょうふとして表現ひょうげんしたもので、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトやホルヘ・ルイス・ボルヘスらの作品さくひんに特徴とくちょう的てきである。