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ドラヴィダ語族 - Wikipedia

ドラヴィダ語族ごぞく

しゅとしてみなみインドとスリランカ、くわえてパキスタンの一部いちぶ話者わしゃ地域ちいき語族ごぞく
ドラヴィダから転送てんそう

ドラヴィダ語族ごぞく(ドラヴィダごぞく、Dravidian)は、おもドラヴィダじん総称そうしょうされる人々ひとびと使用しようする言語げんご語族ごぞく (ごぞく) であり、およそ26の言語げんごふくまれる。ドラヴィダは、しゅとしてみなみインドスリランカはなされているが、また、パキスタンアフガニスタンネパール、そして東部とうぶおよ中央ちゅうおうインドの特定とくてい地域ちいきバングラデシュブータンでもはなされている。 ドラヴィダ語族ごぞく話者わしゃ人口じんこうは 2おく5せんまんにんかぞえる[1]

ドラヴィダ語族ごぞく
はなされる地域ちいきみなみアジアおもインド南部なんぶ
言語げんご系統けいとう世界せかい基本きほんとなる語族ごぞくひとつ。
下位かい言語げんご
ISO 639-2 / 5dra
ISO 639-5dra
ドラヴィダ語族ごぞく分布ぶんぷ

ドラヴィダ起源きげんは、後続こうぞくする言語げんご展開てんかいおよびその分化ぶんか時代じだいともかっていない。この状態じょうたいは、ドラヴィダ諸語しょごたいする比較ひかく言語げんごがくてき研究けんきゅう欠如けつじょしているため、改善かいぜんされていない。

おおくの言語げんご学者がくしゃ南部なんぶドラヴィダ諸語しょごが、北部ほくぶドラヴィダ諸語しょご接触せっしょくしていない言語げんご集団しゅうだん接触せっしょくしたことをあらわすあるしゅ特徴とくちょうしめすという事実じじつより、ドラヴィダ話者わしゃたちが、インド大陸たいりくよこぎって、南方なんぽうに、そして東方とうほうひろがったとする理論りろん支持しじする傾向けいこうにある。ソ連それん、チェコスロバキアなどの言語げんご学者がくしゃ研究けんきゅうによれば、ぜん3500ねんごろにイラン高原こうげんからインド西北せいほく移動いどうしたドラヴィダ民族みんぞくは、やがてさん分岐ぶんきし、そのうちの一派いっぱみなみインドに移住いじゅうしたとかんがえられる。はらドラヴィダ(Proto-Dravidian)は、紀元前きげんぜん1500ねんころに、はら北部ほくぶドラヴィダはら中央ちゅうおうドラヴィダ、そしてげん南部なんぶドラヴィダ分化ぶんかした、と主張しゅちょうする言語げんご学者がくしゃたちが存在そんざいする。おおくの言語げんご学者がくしゃたちは、この語族ごぞく(sub-family)のあいだにられる分化ぶんかおおきさは、分裂ぶんれつがよりふる時代じだいこったことをしめしているとかんがえている。

ドラヴィダ語族ごぞく存在そんざいは、1816ねんに、『テルーグー(Teloogoo Language)の文法ぶんぽう』において、著者ちょしゃアレグザンダー・D・キャンベル(Alexander D. Campbell)によって最初さいしょ示唆しさされた。この著作ちょさくのなかで、キャンベルとフランシス・W・エリス(Francis W. Ellis)は、タミルテルグは、印欧語いんおうごではない、共通きょうつう祖語そごから派生はせいしたと主張しゅちょうした。とはいえ、ドラヴィダ語族ごぞく非常ひじょうおおきな語族ごぞくであるということが確認かくにんされたのは、1856ねんロバート・コールドウェル著書ちょしょ『ドラヴィダまたはみなみインドぞく比較ひかく文法ぶんぽう』を出版しゅっぱんして以降いこうのことだった。このほんは、ドラヴィダ包括ほうかつ範囲はんいいちじるしく拡張かくちょうし、この語族ごぞく世界せかいにおける有数ゆうすうだい言語げんごぐんひとつとして確立かくりつした。コールドウェルは、「ドラヴィダ(Dravidian)」という術語じゅつごを、紀元きげん7世紀せいきサンスクリットのテクストにおいて、みなみインドのしょ言語げんごすのに使つかわれていた「 drāvida 」という言葉ことばより造語ぞうごした。T・バロー(T. Burrow)とM・B・エメノー(M. B. Emeneau)による『ドラヴィダ語源ごげん辞典じてん』の出版しゅっぱんは、ドラヴィダ語学ごがくにおける画期的かっきてき出来事できごとであった。

言語げんごとの関係かんけい

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ドラヴィダインダス文明ぶんめい使用しようされていた言語げんごとの関連かんれんせい複数ふくすう研究けんきゅうから支持しじされている。一部いちぶ研究けんきゅうしゃは、ドラヴィダを、よりおおきな分類ぶんるいとしてのエラム・ドラヴィダ語族ごぞく(Elamo-Dravidian language family)のなかにふくめている。これは現在げんざい南西なんせいイランにたる領域りょういき使つかわれていた古代こだいエラムをドラヴィダくわえた語族ごぞくである。他方たほうで、ドラヴィダウラルおよアルタイあいだにも、いちじるしい類似るいじせい存在そんざいする。地理ちりてきはるはなれたドラヴィダとウラル・アルタイ類似るいじせいにはなぞおおいが、総合そうごうてき勘案かんあんすれば、メソポタミア文明ぶんめいたずさえたはらエラムじんが、一方いっぽうではパキスタン移住いじゅうしてインダス文明ぶんめい・ドラヴィダ語族ごぞくしょうじさせ、他方たほうではひがしアジア移住いじゅうりょうかわ文明ぶんめいウラル・アルタイ語族ごぞくしょうじさせた可能かのうせいがある。エラムじんのY染色せんしょくたいハプログループはJ2想定そうていされるが、ドラヴィダじんにはJ2がやく20%ほどのなか頻度ひんど観察かんさつされ[2]満州まんしゅうりょうかわ地域ちいきにおいてもハプログループJがやく8%みられる[3]

なお、ドラヴィダ語族ごぞくを、日本にっぽん諸語しょご(Japonic languages,にち琉語ぞく)、バスク朝鮮ちょうせんシュメールオーストラリア・アボリジニ諸語しょごむすけようとした研究けんきゅうがあるが、一般いっぱん支持しじされていない。

ドラヴィダ一覧いちらん

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日本語にほんごでの言語げんごめい最初さいしょしめし、インドの公用こうようである言語げんごボールドたいしめしている。括弧かっこないは、その言語げんご使用しようする文字もじによる表記ひょうき、その文字もじマ字まじ転写てんしゃ英語えいごめいじゅんしめしている。ただし、不明ふめいなものについてはしるしていない。

南部なんぶドラヴィダ

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ちゅう南部なんぶドラヴィダ

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中部ちゅうぶドラヴィダ

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北部ほくぶドラヴィダ

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以上いじょうしょ言語げんごのうち、インドおよびスリ・ランカそと中心地ちゅうしんちをもつ言語げんごは、ブラーフーイーのみである。

音韻おんいん体系たいけい

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ドラヴィダは、フィンランドて、ゆうごえ閉鎖へいさおん無声むせい閉鎖へいさおんのあいだに区別くべつがないことが特徴とくちょうであり、実際じっさいタミルには、ゆうごえ閉鎖へいさおん無声むせい閉鎖へいさおんとを区別くべつしてしめ記号きごうがない。またタミルには、おび閉鎖へいさおん閉鎖へいさおんとを区別くべつしてしめ記号きごうもない。ドラヴィダ諸語しょご(とりわけ、マラヤラムカンナダ、そしてテルグ)は、有声音ゆうせいおん無声音むせいおん、およびおびおんおんのあいだで明瞭めいりょう区別くべつおこなサンスクリットやその印欧語いんおうごから非常ひじょう多数たすう借用しゃくようんでいる一方いっぽうで、このような単語たんごはしばしばドラヴィダ諸語しょご話者わしゃによって、ドラヴィダ語族ごぞく音韻おんいんうような調整ちょうせいけた発音はつおんをされている。(ただ上記じょうきさん言語げんごではタミルちがい、本来ほんらいドラヴィダにはないおび閉鎖へいさおん閉鎖へいさおん区別くべつサンスクリットなどをつうじてれた。)ドラヴィダはまた、非常ひじょう多数たすうながれおんくわえ、あいだ歯茎はぐき反転はんてんおんかた口蓋こうがいというさんとおりの調音ちょうおんてんのあいだの区別くべつ特徴付とくちょうづけられる。

言語げんご影響えいきょう

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タミルなどインド南東なんとう言語げんごは、基層きそう言語げんごであったオーストロアジア語族ごぞくムンダ影響えいきょうけている。

カンナダマラヤラムおよテルグは、印欧語いんおうごインド・アーリアぞくするサンスクリットなどの言語げんご影響えいきょう相対そうたいてきによりおおきくけており、おび子音しいん借用しゃくようれている。サンスクリット単語たんごとその派生はせいは、カンナダ、マラヤラム、そしてテルグでは共通きょうつうしている。タミルは、サンスクリットやその外来がいらい言語げんご影響えいきょうがもっともすくなく、はらドラヴィダにもっともちかかたち保持ほじしている。

またきたインドイスラームインド洋いんどようでのイスラーム商人しょうにん活動かつどうにより、きたインドのしょ言語げんごほどではないもののアラビアペルシアサンスクリットつづあらたな上層じょうそうとしてドラヴィダ諸語しょごうえにかぶさった。これらの要素ようそにはヒンドゥスターニーなどの近代きんだいきたインド諸語しょご仲介ちゅうかい導入どうにゅうされたものと、インド洋いんどよう交易こうえきつうじて直接ちょくせつ導入どうにゅうされたものがある。

とはいえこれらの影響えいきょうサンスクリットによるものにくらべれば軽微けいびであり、ヒンドゥスターニーをはじめとするきたインドのしょ言語げんごではアラビアペルシア上層じょうそうによって廃棄はいきされたサンスクリット由来ゆらい語彙ごいが、かえってこれらのサンスクリット影響えいきょうつよけたドラヴィダ諸語しょごのこっているというねじれ現象げんしょうすくなくない。


以下いかはドラヴィダ語族ごぞくにおける数字すうじの1から10のリストである。比較ひかく対照たいしょうのため、インド・ヨーロッパ語族ごぞく言語げんご付記ふきされている[4]

かず 南部なんぶ ちゅう南部なんぶ 中部ちゅうぶ 北部ほくぶ ドラヴィダ祖語そご インド・アーリア イラン
タミル カンナダ マラヤーラム コダグ トゥル ベアリ テルグ ゴーンディー コーラーミー クルク ブラーフーイー ヒンディー サンスクリット マラーティー バローチー ペルシア
1 oṉṟu ondu onnu ond onji onnu okaṭi undi okkod oṇṭa asiṭ *onṯu 1 ek éka ek yak yek
2 iraṇṭu eraḍu raṇḍu danḍ raḍḍ jend renḍu raṇḍ irāṭ indiŋ irāṭ *iraṇṭu 2 do dvi don do do
3 mūṉṟu mūṟu mūnnu mūṉd mūji mūnnu mūḍu muṇḍ mūndiŋ mūnd musiṭ *muH- tīn tri tīn seh
4 nāṉku nālku nālu nāl nāl nāl nālugu nāluṇg nāliŋ nāx čār (II) *nāl cār catúr cār cār cahār
5 aintu aidu añcu añji ayN añji ayidu saiyuṇg ayd 3 pancē (II) panč (II) *cay-m- panc pañca pātc panc panj
6 āru āṟu āṟu ār āji ār āṟu sāruṇg ār 3 soyyē (II) šaš (II) *cāṯu che ṣáṣ sahā śaś śeś
7 ēẓu ēlu ēẓu ēḻ yēl ēl ēḍu yeḍuṇg ēḍ 3 sattē (II) haft (II) *ēẓ sāt saptá sāt hapt, haft haft
8 eṭṭu eṇṭu eṭṭu eṭṭ enma ett enimidi armur enumadī 3 aṭṭhē (II) hašt (II) *eṇṭṭu āṭh aṣṭá āṭh haśt haśt
9 oṉpatu 5 ombattu ompatu 5 oiymbad ormba olimbō tommidi unmāk tomdī 3 naiṃyē (II) nōh (II) *toḷ/*toṇ nau náva nau nuo noh
10 pattu hattu pattu patt patt patt padi pad padī 3 dassē (II) dah (II) *paH(tu) das dáśa dahā da dah
  1. これはタミルとマラヤーラムでも数字すうじの1のべつがたとして存在そんざいするが、用法ようほうとしては、定冠詞ていかんしあらわすとき、名詞めいしかずうとき(れい:「一人ひとりひと」など)にもちいられるものとなっている。
  2. 語幹ごかんの*īrは複合語ふくごうごることができ、タミル・テルグ・カンナダ・マラヤーラムでは「じゅうばい」の意味いみもちいられる。たとえば、irupatu(20、文字通もじどおりには「10の2ばい」)、iravai(テルグで20)、iraṭṭi(タミルで「じゅうの」)、iruvar(タミルで「二人ふたりひと」)、ippatthu(ipp-hatthu、カンナダで20。文字通もじどおりには「10の2ばい」)。
  3. コーラーミーの5から10まではテルグからの借用しゃくようである。
  4. 古代こだいのサンガム文学ぶんがくでは9の意味いみでtonduももちいられたが、後世こうせいではonpaduにわった。
  5. この語形ごけいは「10より1すくない」という語義ごぎから派生はせいしている。ドラヴィダ祖語そごの*toḷはタミルとマラヤーラムではたとえば90 (thonnooru)にもちいられている。


脚注きゃくちゅう

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  1. ^ Steever, S.B., ed (2019). The Dravidian languages (2nd ed.). Routledge. pp. 1. doi:10.4324/9781315722580. ISBN 9781315722580. https://doi.org/10.4324/9781315722580 
  2. ^ Sengupta, S; Zhivotovsky, LA; King, R; et al. (February 2006). "Polarity and temporality of high-resolution y-chromosome distributions in India identify both indigenous and exogenous expansions and reveal minor genetic influence of Central Asian pastoralists". Am. J. Hum. Genet. 78: 202–21. PMC 1380230 Freely accessible. PMID 16400607. doi:10.1086/499411.
  3. ^ Hammer, Michael F.; Karafet, Tatiana M.; Park, Hwayong; Omoto, Keiichi; Harihara, Shinji; Stoneking, Mark; Horai, Satoshi (2006). "Dual origins of the Japanese: Common ground for hunter-gatherer and farmer Y chromosomes". Journal of Human Genetics 51 (1): 47–58. doi:10.1007/s10038-005-0322-0. PMID 16328082
  4. ^ Krishnamurti, Bhadriraju (2003), The Dravidian Languages, Cambridge University Press, ISBN 0-521-77111-0, pp.260-265

参考さんこう文献ぶんけん

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  • Bhadriraju Krishnamurti 『The Dravidian Languages(ドラヴィダ)』 Cambridge University Press 2003ねん :ISBN 0521771110
  • バロー、エメノーちょ 田中たなかたかしあきら監修かんしゅう『オックスフォード/ドラヴィダ語源ごげん辞典じてん』きこ書房しょぼう2006ねん :ISBN 978-4877716158
  • Robert Caldwell 『A comparative grammar of the Dravidian or South-Indian family of languages(ドラヴィダまたはみなみインドぞく比較ひかく文法ぶんぽう)』 改訂かいていだいさんはん J.L. Wyatt, T. Ramakrishna Pillai 編集へんしゅう  New Delhi : Asian Educational Services 1998ねん :ISBN 8120601173
  • A. D. Campbell 『A grammar of the Teloogoo language, commonly termed the Gentoo, peculiar to the Hindoos inhabiting the northeastern provinces of the Indian peninsula(テルーグ文法ぶんぽう)』 だいさんはん Madras Printed at the Hindu Press 1849ねん

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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