レトロニム

レトロニム（英語えいご: retronym）とは、ある語かたりの意味いみが時代じだいとともに拡張かくちょうされた、あるいは変化へんかした場合ばあいに、古ふるい意味いみの範囲はんいを特定とくてい的てきに表あらわすために後ごから考案こうあんされた語かたりのことを指さす。

「レトロニム」という単語たんごは、「過去かこ」を意味いみする「レトロ(retro)」と「語かたり」を意味いみする接尾せつび辞じ (-onym) の合成ごうせい語ごである。

つまり、時代じだいの変化へんかにより新あたらしい事物じぶつが生うまれたことから、既存きそんの事物じぶつを新あたらしいものと区別くべつするため「後ごから」つくられた言葉ことばを「レトロニム」と呼よぶ。一いち例れいを挙あげれば、カメラにおいてデジタルカメラが出現しゅつげんしたために「フィルムカメラ」の語かたりが生うまれ、またオンラインショップの普及ふきゅうにより「実みのる店舗てんぽ」の語かたりが生うまれた。

概要がいよう

語源ごげん

1980年ねんにナショナル・パブリック・ラジオ局長きょくちょうの Frank Mankiewicz が造語ぞうごし、コラムニストのウィリアム・サファイアが、ニューヨーク・タイムズの中なかで使用しようしたことで広ひろまった。

なお、日本語にほんごの「再さい命名めいめい」という用語ようごは、1976年ねんに鈴木すずき孝夫たかおが『日本語にほんごの語彙ごいと表現ひょうげん』の中なかで用もちいている。これは「レトロニム」に先立さきだつ用語ようごである。

レトロニムの例れい

個別こべつの例れいについては「レトロニム一覧いちらん」を参照さんしょう

• 人類じんるいの歴史れきしで、もともと樹皮じゅひから分泌ぶんぴつされる粘着ねんちゃく性せいの液体えきたいが固化こかした物質ぶっしつのみを樹脂じゅし（レジン、英えい: resin）と呼よんでいた。あくまで樹木じゅもくから採とれたものだけが「樹脂じゅし」と呼よばれていた時代じだいは非常ひじょうに長ながいが、19世紀せいき以降いこうに化石かせき燃料ねんりょう資源しげんを原料げんりょうとして樹脂じゅしに似にた物質ぶっしつが人工じんこう的てきに製造せいぞうされるようになり、それを「合成ごうせい樹脂じゅし」（英えい: synthetic resin）と呼よぶようになった。従来じゅうらい「樹脂じゅし」と呼よばれていたものをそれと区別くべつして呼よぶ必要ひつようが生しょうじ、「天然てんねん樹脂じゅし」（英えい: natural resin）というレトロニムがつくられた。
• 19世紀せいき前半ぜんはんに発明はつめいされた「カメラ」は、もともと写真しゃしんだけを撮影さつえいするものであることが当然とうぜん視しされていて、それを「カメラ」と呼よんでいた。19世紀せいき後半こうはんに写真しゃしんが連続れんぞく的てきに動うごく映画えいがを撮影さつえいできるカメラが発明はつめいされ、それを「映画えいが用ようカメラ」（英えい: cine-camera）などと呼よばれるようになった。それと区別くべつ・対比たいひして従来じゅうらいのカメラを呼よぶために、「スチルカメラ」というレトロニムがつくられた（また動画どうがに対たいして「スチル写真しゃしん」というレトロニムもつくられた）。

またカメラは写真しゃしんフィルムを使つかうのが当然とうぜんと見みなされており、それを単たんに「カメラ」と呼よんでいた時代じだいが長ながかった。1975年ねんにイーストマンコダックの技術ぎじゅつ者しゃSteven Sassonが、フィルムを使つかわずCCDを用もちいてデジタル方式ほうしきで画像がぞう情報じょうほうを記録きろくするカメラのプロトタイプを制作せいさくした。1980年代ねんだい後半こうはんから1990年代ねんだい前半ぜんはんにかけてその方式ほうしきのカメラが多数たすうのメーカーで開発かいはつされ、一般いっぱん向むけに広ひろく販売はんばいされて「デジタルカメラ」と呼よばれるようになると、従来じゅうらいのカメラをそれと区別くべつして呼よぶ必要ひつようが生しょうじて「フィルムカメラ」というレトロニムがつくられた。

関連かんれん項目こうもく

• レトロニム一覧いちらん
• 造語ぞうご
  • 合成ごうせい語ご
  • 頭字かしらじ語ご（アクロニム）
  • バクロニム