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中距離核戦力全廃条約 - Wikipedia

中距離ちゅうきょりかく戦力せんりょく全廃ぜんぱい条約じょうやく

中距離ちゅうきょりかく戦力せんりょく全廃ぜんぱい条約じょうやく(ちゅうきょりかくせんりょくぜんぱいじょうやく、Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)は、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくソビエト連邦れんぽうとのあいだむすばれた軍縮ぐんしゅく条約じょうやくひとつで、中距離ちゅうきょりかく戦力せんりょくIntermediate-range Nuclear Forces、INF)として定義ていぎされたなか射程しゃてい弾道だんどうミサイル巡航じゅんこうミサイルすべ廃棄はいきすることを目的もくてきとしている。

ちゅう射程しゃていおよたん射程しゃていミサイルを廃棄はいきするアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとソビエト社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわこく連邦れんぽうあいだ条約じょうやく
調印ちょういん写真しゃしん
ミハイル・ゴルバチョフ書記しょきちょうひだり)とロナルド・レーガン大統領だいとうりょうみぎ)。
通称つうしょう略称りゃくしょう 中距離ちゅうきょりかく戦力せんりょく全廃ぜんぱい条約じょうやく
INF条約じょうやく
署名しょめい

1987ねん12月8にち

署名しょめい場所ばしょ アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくワシントンD.C.
発効はっこう 1988ねん6がつ1にち
失効しっこう 2019ねん8がつ2にち
締約ていやくこく アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく
ソビエト連邦れんぽうロシア連邦れんぽう
当事とうじこく アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく
ソビエト連邦れんぽう→ロシア連邦れんぽう
言語げんご 英語えいご、ロシア
おも内容ないよう 核軍縮かくぐんしゅく
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日本語にほんごでは中距離ちゅうきょりかく戦力せんりょく全廃ぜんぱい条約じょうやくやくされているが、条約じょうやく正式せいしき名称めいしょうは「ちゅう射程しゃていおよたん射程しゃていミサイルを廃棄はいきするアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとソビエト社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわこく連邦れんぽうあいだ条約じょうやく」(The Treaty Between the United States of America and the Union of Soviet Socialist Republics on the Elimination of Their Intermediate-Range and Shorter-Range Missiles)であることから条約じょうやくめい邦訳ほうやくを「中距離ちゅうきょりミサイル全廃ぜんぱい条約じょうやく」とする文章ぶんしょうもある。短縮たんしゅくされたかたとしてはINF全廃ぜんぱい条約じょうやく、INF条約じょうやくなどがもちいられる。

アメリカは2019ねん2がつ1にちほん条約じょうやく破棄はきソ連それん後継こうけいであるロシア連邦れんぽう通告つうこくしたことをあきらかにしており、これをけてロシア連邦れんぽう条約じょうやく義務ぎむ履行りこう停止ていし宣言せんげんした。破棄はき通告つうこくから6かげつの8がつ2にち失効しっこうした。

概要がいよう

編集へんしゅう
 
1988ねん6がつ1にちクレムリンおこなわれた中距離ちゅうきょりかく戦力せんりょく全廃ぜんぱい条約じょうやく発効はっこうかんする議定ぎていしょ調印ちょういん写真しゃしん。レーガンとゴルバチョフ

中距離ちゅうきょりかく戦力せんりょく全廃ぜんぱい条約じょうやく1987ねん12月8にち当時とうじアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく大統領だいとうりょうロナルド・レーガンソビエト連邦れんぽう共産党きょうさんとう書記しょきちょうミハイル・ゴルバチョフによってワシントンD.C.において調印ちょういんされた。条約じょうやく1988ねん5月27にちアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく上院じょういんにより批准ひじゅんされて、そのとし6月1にち発効はっこうした。

この条約じょうやくでは射程しゃていが500km(300マイル)から5,500km(3,400マイル)までの範囲はんい核弾頭かくだんとうおよ通常つうじょう弾頭だんとう搭載とうさいした地上ちじょう発射はっしゃがた弾道だんどうミサイルと巡航じゅんこうミサイルの廃棄はいきもとめている。条約じょうやくさだめる期限きげんである1991ねん6月1にちまでに合計ごうけいで2,692兵器へいき破壊はかいされた。内訳うちわけアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくが846、ソビエト連邦れんぽうが1,846である。またこの条約じょうやくしたでは両方りょうほう国家こっかは、たがいの軍隊ぐんたい装備そうび査察ささつすることをゆるされた。

ほん条約じょうやくはソビエト連邦れんぽう崩壊ほうかいしたのちはロシア連邦れんぽうがれた。アメリカは2019ねん2がつ1にち、ロシア連邦れんぽうたい条約じょうやく破棄はき通告つうこくし、これをけてロシア連邦れんぽう条約じょうやく義務ぎむ履行りこう停止ていし宣言せんげんした。半年はんとし失効しっこう

協定きょうていは、1975ねんにソビエト連邦れんぽうSS-20ミサイルひがしヨーロッパ配備はいびしたことと、そのことによる米国べいこく反応はんのうによって刺激しげきされた。SS-20は既存きそんSS-4とSS-5ミサイルを更新こうしんした。SS-20ミサイルはそれまで配備はいびされていたミサイルくらべてよりなが射程しゃてい、よりたか命中めいちゅう精度せいどたか機動きどうせい、およびだい威力いりょくっており、このミサイルの配備はいびによる西にしヨーロッパ安全あんぜん保障ほしょう状況じょうきょう変化へんか容易ようい理解りかいされた。議論ぎろんのちNATOふたつの部分ぶぶんてき戦略せんりゃく同意どういした。だいいちにソビエト連邦れんぽうアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくのINF軍備ぐんびらすための軍備ぐんび制限せいげん協議きょうぎをソビエト連邦れんぽうもとめること、だい1983ねんから最大さいだい464までの地上ちじょう発射はっしゃがた巡航じゅんこうミサイル(GLCM)および108パーシングII弾道だんどうミサイルをヨーロッパ配備はいびすることである。軍備ぐんび制限せいげんもとめつつ軍備ぐんび増強ぞうきょうおこなうこの戦略せんりゃくはいわゆる「じゅう決定けってい」としてられている。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく兵器へいきのヨーロッパ配備はいびへの不満ふまんにもかかわらず、ソビエト連邦れんぽう協議きょうぎひらくために合意ごういし、予備よびてき議論ぎろん1980ねんジュネーヴはじまった。正式せいしきはないは1981ねん9月アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくからの「0-0提案ていあん」(zero-zero offer)、またはゼロ・オプションとばれる提案ていあん、すなわちすべてのパーシングII、GLCM、SS-20、SS-4、およびSS-5ミサイルの完全かんぜん撤去てっきょもとめる提案ていあんからはじまった。イギリスおよびフランス中距離ちゅうきょりかく戦力せんりょく協議きょうぎから除外じょがいすることについての意見いけん相違そういからはないは1983ねん11月にソビエト連邦れんぽう代表だいひょうだんにより中断ちゅうだんされた。配備はいびさき各国かっこく公式こうしき抗議こうぎにもかかわらず、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく1984ねんから、西にしドイツ当時とうじ)、イタリア、およびイギリスにINFシステムを配備はいびしはじめた。

1985ねん3がつアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとソビエト連邦れんぽうあいだ協議きょうぎ再開さいかいされた。協議きょうぎではINF問題もんだいだけではなく戦略せんりゃく兵器へいき制限せいげん(START I)とSDIをはじめとする宇宙うちゅう問題もんだい(NST)での別個べっこ議論ぎろんあつかわれた。1985ねんおそくには両国りょうこくはヨーロッパとアジアにおけるINFシステムの制限せいげん協議きょうぎしていた。1986ねん1がつ15にちに、ゴルバチョフは2000ねんまでにヨーロッパに配備はいびされたINFミサイルをふくむすべての核兵器かくへいき禁止きんしするソビエト連邦れんぽう提案ていあん発表はっぴょうした。この提案ていあん米国べいこくにより退しりぞけられ、1989ねんまでにヨーロッパとアジアのINFランチャーを段階だんかいてき縮小しゅくしょうするぎゃく提案ていあんおこなわれた。これらの提案ていあんにはイギリスおよびフランスのかく戦力せんりょく制限せいげんふくまれていなかった。

1986ねん8がつから9月あいだ一連いちれん会議かいぎは、1986ねん10月11にちアイスランドレイキャビクおこなわれたレーガンとゴルバチョフのあいだのサミットにおいて最高さいこうてんたっした。両者りょうしゃはINFシステムのヨーロッパからの撤去てっきょ、およびINFミサイルだん頭数とうすうを100制限せいげんすることのてんについて原則げんそくとして合意ごういし、両者りょうしゃのアドバイザーに巨大きょだいおどろきをあたえた。ゴルバチョフはまた戦略せんりゃくてき関係かんけいをよりふかく、かつ根本こんぽんてき変化へんかをさせることも提案ていあんした。

より詳細しょうさい協議きょうぎは、西にしドイツに配備はいびされたパーシングIAシステムを一方いっぽうてき廃棄はいきする当時とうじ西にしドイツ首相しゅしょうヘルムート・コールの8がつ決定けっていたすけるために1987ねんにわたって延長えんちょうされた。条約じょうやく条文じょうぶん最終さいしゅうてき1987ねん9月に合意ごういされた。

べい両国りょうこく条約じょうやく履行りこう配備はいびしていたミサイルを退役たいえきさせ、撤去てっきょした。撤去てっきょされたミサイルは解体かいたい、ないしは破壊はかいされたが、15かぎ博物館はくぶつかんへの展示てんじ目的もくてき使用しよう不能ふのう状態じょうたい保有ほゆうすることがゆるされた。この合意ごういにより退役たいえきしたミサイルの一部いちぶ博物館はくぶつかん寄贈きぞうされた。ワシントンD.C.のスミソニアン博物館はくぶつかんモスクワ航空こうくう博物館はくぶつかんにはべい双方そうほう政府せいふから退役たいえきしたミサイルが寄贈きぞうされ、両国りょうこく博物館はくぶつかんではパーシングIIとSS-20がならんで展示てんじされている。

ほん条約じょうやくは1991ねんソビエト連邦れんぽう崩壊ほうかいしたのちはロシア連邦れんぽうがれた。

2010年代ねんだい、ロシアは巡航じゅんこうミサイル開発かいはつすすめたが、アメリカはこれが条約じょうやく違反いはんたると指摘してき[1]2014ねんアメリカ連邦れんぽう議会ぎかいけの報告ほうこくしょでは、ロシアが条約じょうやく違反いはんをしていることが記載きさいされた[2]。このように条約じょうやく違反いはんめぐってたびたびべい両国りょうこく対立たいりつしてきたほか、この条約じょうやく参加さんかしていない中国ちゅうごくがミサイル開発かいはつすすめている懸念けねんつづけていたアメリカは2018ねん10がつ20日はつかドナルド・トランプ大統領だいとうりょうほん条約じょうやく破棄はきすると表明ひょうめい[3]。2019ねん2がつ1にち、アメリカはロシア連邦れんぽうたい条約じょうやく破棄はき通告つうこくしたと発表はっぴょうし、よく2にちからの義務ぎむ履行りこう停止ていし同時どうじ表明ひょうめいした。ロシア連邦れんぽうもこれをけて条約じょうやくさだめる義務ぎむ履行りこうを2にち停止ていしした[4]条約じょうやく予定よていどお半年はんとし2019ねん8がつ2にち失効しっこうした[5]

影響えいきょうけた計画けいかく

編集へんしゅう
 
アメリカ国立こくりつ航空こうくう宇宙うちゅう博物館はくぶつかん展示てんじちゅう退役たいえきしたSS-20とパーシングIIミサイル。写真しゃしん中央ちゅうおうのSS-20はそのみぎとなりのパーシングIIにくらべてふとながいが、これはSS-20のほうペイロードおおく、また射程しゃていがよりながいためである。

条約じょうやくさだめるところにより以下いかしめすミサイルは退役たいえきした。そのミサイルは廃棄はいきされ解体かいたい、または破壊はかいされた。作業さぎょう検証けんしょう対象たいしょうとなり、ソビエトでの爆破ばくはによるミサイル破壊はかい作業さぎょうはマスコミにも公開こうかいされている。

破棄はき決定けっていうご

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2019ねん6がつ28にちおこなわれたアメリカとロシアの首脳しゅのう会談かいだんでは、「21世紀せいき軍備ぐんび管理かんりモデル」の検討けんとう開始かいしすることで一致いっちあらたな核軍縮かくぐんしゅく枠組わくぐみの模索もさくはじまった。アメリカがわは、中国ちゅうごくくわわる3カ国かこく条約じょうやくむす意向いこうしめしているとつたえられたが、中国ちゅうごくがわ報道ほうどうかんのコメントをつうじ「協議きょうぎ参加さんかする前提ぜんてい基礎きそてき条件じょうけんもない」として事実じじつじょう拒否きょひする姿勢しせいしめした[6]同年どうねん8がつ3にちオーストラリア訪問ほうもんしていたアメリカのマーク・エスパー国防こくぼう長官ちょうかんは、記者きしゃ会見かいけんでアジアに中距離ちゅうきょりミサイルの配備はいび希望きぼうするコメントを中国ちゅうごくがわ刺激しげき。これをけて同月どうげつ8がつ5にちには、オーストラリアのスコット・モリソン首相しゅしょうがオーストラリアに中距離ちゅうきょりミサイルを配備はいびすることはないと発表はっぴょうした[7]

2019ねん8がつ19にち、アメリカは、条約じょうやくによりきんじられていた地上ちじょう発射はっしゃがた巡航じゅんこうミサイルの[8]、また12月12にちには中距離ちゅうきょり弾道だんどうミサイルの発射はっしゃ実験じっけんおこなった[9]。これにたいしてロシア連邦れんぽう大統領だいとうりょうウラジーミル・プーチンも、国防省こくぼうしょうたいし“脅威きょうい分析ぶんせきしかるべき対抗たいこう措置そち準備じゅんび”を指示しじした[10]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 米国べいこくは、ロシアは地上ちじょう配備はいびがた中距離ちゅうきょりミサイルを開発かいはつしている、とみなしている”. ロシア・ビヨンド (2014ねん7がつ31にち). 2018ねん10がつ20日はつか閲覧えつらん
  2. ^ べいNATO大使たいし ミサイルシステム「全廃ぜんぱい条約じょうやく違反いはん”. 毎日新聞まいにちしんぶん (2018ねん10がつ3にち). 2018ねん10がつ20日はつか閲覧えつらん
  3. ^ “トランプまい大統領だいとうりょうかく廃棄はいき条約じょうやく破棄はき意向いこう表明ひょうめい違反いはん主張しゅちょう. bloomberg.co.jp. ブルームバーグ. (2018ねん10がつ22にち). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-10-21/PGYE826JTSE901 2018ねん10がつ22にち閲覧えつらん 
  4. ^ “ロシアもINF条約じょうやく履行りこう停止ていし 新型しんがたミサイル開発かいはつ着手ちゃくしゅ. 共同通信社きょうどうつうしんしゃ. (2019ねん2がつ2にち). http://this.kiji.is/464383453358507105 2019ねん2がつ2にち閲覧えつらん 
  5. ^ べい、INF条約じょうやく破棄はき通告つうこく発表はっぴょう 2にちから義務ぎむ履行りこう停止ていし. 共同通信社きょうどうつうしんしゃ. (2019ねん2がつ1にち). https://web.archive.org/web/20190202212347/https://this.kiji.is/464068856942347361 2019ねん2がつ1にち閲覧えつらん 
  6. ^ べいロ、核軍縮かくぐんしゅくしん条約じょうやくさぐる 中国ちゅうごく参加さんか拒否きょひ” (2019ねん7がつ17にち). 2019ねん8がつ11にち閲覧えつらん
  7. ^ 米国べいこく中距離ちゅうきょりミサイル、豪州ごうしゅうには配備はいびせず=モリソン首相しゅしょう”. ロイター (2019ねん8がつ5にち). 2019ねん8がつ11にち閲覧えつらん
  8. ^ 地上ちじょう発射はっしゃがた巡航じゅんこうミサイル実験じっけん まい成功せいこう 条約じょうやく失効しっこう NHK政治せいじマガジン2019ねん8がつ20日はつか
  9. ^ べい 中距離ちゅうきょり弾道だんどうミサイルの実験じっけん実施じっし ちゅうロが反発はんぱつNHK 2019ねん12月13にち
  10. ^ ロシア大統領だいとうりょうべいミサイル実験じっけんへの対抗たいこう措置そち準備じゅんび指示しじ ロイター2019ねん8がつ23にち

関連かんれん項目こうもく

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