中距離 ちゅうきょり 核 かく 戦力 せんりょく 全廃 ぜんぱい 条約 じょうやく (ちゅうきょりかくせんりょくぜんぱいじょうやく、Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)は、アメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく とソビエト連邦 れんぽう との間 あいだ に結 むす ばれた軍縮 ぐんしゅく 条約 じょうやく の一 ひと つで、中距離 ちゅうきょり 核 かく 戦力 せんりょく (I ntermediate-range N uclear F orces、INF )として定義 ていぎ された中 なか 射程 しゃてい の弾道 だんどう ミサイル 、巡航 じゅんこう ミサイル を全 すべ て廃棄 はいき することを目的 もくてき としている。
日本語 にほんご では中距離 ちゅうきょり 核 かく 戦力 せんりょく 全廃 ぜんぱい 条約 じょうやく と訳 やく されているが、条約 じょうやく の正式 せいしき 名称 めいしょう は「中 ちゅう 射程 しゃてい 、及 およ び短 たん 射程 しゃてい ミサイルを廃棄 はいき するアメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく とソビエト社会 しゃかい 主義 しゅぎ 共和 きょうわ 国 こく 連邦 れんぽう の間 あいだ の条約 じょうやく 」(The Treaty Between the United States of America and the Union of Soviet Socialist Republics on the Elimination of Their Intermediate-Range and Shorter-Range Missiles)であることから条約 じょうやく 名 めい の邦訳 ほうやく を「中距離 ちゅうきょり ミサイル全廃 ぜんぱい 条約 じょうやく 」とする文章 ぶんしょう もある。短縮 たんしゅく された呼 よ び方 かた としてはINF全廃 ぜんぱい 条約 じょうやく 、INF条約 じょうやく などが用 もち いられる。
アメリカは2019年 ねん 2月 がつ 1日 にち に本 ほん 条約 じょうやく の破棄 はき をソ連 それん の後継 こうけい であるロシア連邦 れんぽう に通告 つうこく したことを明 あき らかにしており、これを受 う けてロシア連邦 れんぽう も条約 じょうやく 義務 ぎむ 履行 りこう の停止 ていし を宣言 せんげん した。破棄 はき 通告 つうこく から6か月 げつ 後 ご の8月 がつ 2日 にち に失効 しっこう した。
協定 きょうてい は、1975年 ねん にソビエト連邦 れんぽう がSS-20ミサイル を東 ひがし ヨーロッパ に配備 はいび したことと、そのことによる米国 べいこく の反応 はんのう によって刺激 しげき された。SS-20は既存 きそん のSS-4 とSS-5ミサイルを更新 こうしん した。SS-20ミサイルはそれまで配備 はいび されていたミサイル に比 くら べてより長 なが い射程 しゃてい 、より高 たか い命中 めいちゅう 精度 せいど 、高 たか い機動 きどう 性 せい 、および大 だい 威力 いりょく を持 も っており、このミサイルの配備 はいび による西 にし ヨーロッパ の安全 あんぜん 保障 ほしょう 状況 じょうきょう の変化 へんか は容易 ようい に理解 りかい された。議論 ぎろん の後 のち にNATO は二 ふた つの部分 ぶぶん 的 てき な戦略 せんりゃく に同意 どうい した。第 だい 一 いち にソビエト連邦 れんぽう とアメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく のINF軍備 ぐんび を減 へ らすための軍備 ぐんび 制限 せいげん 協議 きょうぎ をソビエト連邦 れんぽう に求 もと めること、第 だい 二 に に1983年 ねん から最大 さいだい 464基 き までの地上 ちじょう 発射 はっしゃ 型 がた の巡航 じゅんこう ミサイル(GLCM)および108基 き のパーシングII 弾道 だんどう ミサイルをヨーロッパ に配備 はいび することである。軍備 ぐんび 制限 せいげん を求 もと めつつ軍備 ぐんび 増強 ぞうきょう を行 おこな うこの戦略 せんりゃく はいわゆる「二 に 重 じゅう 決定 けってい 」として知 し られている。
アメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく の兵器 へいき のヨーロッパ配備 はいび への不満 ふまん にもかかわらず、ソビエト連邦 れんぽう は協議 きょうぎ を開 ひら くために合意 ごうい し、予備 よび 的 てき な議論 ぎろん は1980年 ねん にジュネーヴ で始 はじ まった。正式 せいしき な話 はな し合 あ いは1981年 ねん 9月 にアメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく からの「0-0提案 ていあん 」(zero-zero offer)、またはゼロ・オプションと呼 よ ばれる提案 ていあん 、すなわち全 すべ てのパーシングII、GLCM、SS-20、SS-4、およびSS-5ミサイルの完全 かんぜん な撤去 てっきょ を求 もと める提案 ていあん から始 はじ まった。イギリス およびフランス の中距離 ちゅうきょり 核 かく 戦力 せんりょく を協議 きょうぎ から除外 じょがい することについての意見 いけん の相違 そうい から話 はな し合 あ いは1983年 ねん 11月 にソビエト連邦 れんぽう の代表 だいひょう 団 だん により中断 ちゅうだん された。配備 はいび 先 さき の各国 かっこく の公式 こうしき な抗議 こうぎ にもかかわらず、アメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく は1984年 ねん から、西 にし ドイツ (当時 とうじ )、イタリア 、およびイギリスにINFシステムを配備 はいび しはじめた。
1985年 ねん 3月 がつ にアメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく とソビエト連邦 れんぽう の間 あいだ の協議 きょうぎ が再開 さいかい された。協議 きょうぎ ではINF問題 もんだい だけではなく戦略 せんりゃく 兵器 へいき の制限 せいげん (START I )とSDI をはじめとする宇宙 うちゅう 問題 もんだい (NST)での別個 べっこ の議論 ぎろん も扱 あつか われた。1985年 ねん の遅 おそ くには両国 りょうこく はヨーロッパとアジア におけるINFシステムの制限 せいげん を協議 きょうぎ していた。1986年 ねん 1月 がつ 15日 にち に、ゴルバチョフは2000年 ねん までにヨーロッパに配備 はいび されたINFミサイルを含 ふく むすべての核兵器 かくへいき を禁止 きんし するソビエト連邦 れんぽう の提案 ていあん を発表 はっぴょう した。この提案 ていあん は米国 べいこく により退 しりぞ けられ、1989年 ねん までにヨーロッパとアジアのINFランチャーを段階 だんかい 的 てき に縮小 しゅくしょう する逆 ぎゃく 提案 ていあん が行 おこな われた。これらの提案 ていあん にはイギリスおよびフランスの核 かく 戦力 せんりょく の制限 せいげん は含 ふく まれていなかった。
1986年 ねん の8月 がつ から9月 の間 あいだ の一連 いちれん の会議 かいぎ は、1986年 ねん 10月11日 にち にアイスランド のレイキャビク で行 おこな われたレーガンとゴルバチョフの間 あいだ のサミットにおいて最高 さいこう 点 てん に達 たっ した。両者 りょうしゃ はINFシステムのヨーロッパからの撤去 てっきょ 、およびINFミサイル弾 だん 頭数 とうすう を100基 き に制限 せいげん することの二 に 点 てん について原則 げんそく として合意 ごうい し、両者 りょうしゃ のアドバイザーに巨大 きょだい な驚 おどろ きを与 あた えた。ゴルバチョフはまた戦略 せんりゃく 的 てき 関係 かんけい をより深 ふか く、かつ根本 こんぽん 的 てき な変化 へんか をさせることも提案 ていあん した。
より詳細 しょうさい な協議 きょうぎ は、西 にし ドイツに配備 はいび されたパーシングIAシステムを一方 いっぽう 的 てき に廃棄 はいき する当時 とうじ の西 にし ドイツ首相 しゅしょう ヘルムート・コール の8月 がつ の決定 けってい を助 たす けるために1987年 ねん にわたって延長 えんちょう された。条約 じょうやく 条文 じょうぶん は最終 さいしゅう 的 てき に1987年 ねん 9月に合意 ごうい された。
米 べい ソ両国 りょうこく は条約 じょうやく を履行 りこう し配備 はいび していたミサイルを退役 たいえき させ、撤去 てっきょ した。撤去 てっきょ されたミサイルは解体 かいたい 、ないしは破壊 はかい されたが、15基 き に限 かぎ り博物館 はくぶつかん への展示 てんじ を目的 もくてき に使用 しよう 不能 ふのう の状態 じょうたい で保有 ほゆう することが許 ゆる された。この合意 ごうい により退役 たいえき したミサイルの一部 いちぶ は博物館 はくぶつかん に寄贈 きぞう された。ワシントンD.C.のスミソニアン博物館 はくぶつかん とモスクワ の航空 こうくう 博物館 はくぶつかん には米 べい ソ双方 そうほう の政府 せいふ から退役 たいえき したミサイルが寄贈 きぞう され、両国 りょうこく の博物館 はくぶつかん ではパーシングIIとSS-20が並 なら んで展示 てんじ されている。
本 ほん 条約 じょうやく は1991年 ねん にソビエト連邦 れんぽう が崩壊 ほうかい した後 のち はロシア連邦 れんぽう に引 ひ き継 つ がれた。
2010年代 ねんだい 、ロシアは巡航 じゅんこう ミサイル の開発 かいはつ を進 すす めたが、アメリカはこれが条約 じょうやく 違反 いはん に当 あ たると指摘 してき [1] 。2014年 ねん のアメリカ連邦 れんぽう 議会 ぎかい 向 む けの報告 ほうこく 書 しょ では、ロシアが条約 じょうやく 違反 いはん をしていることが記載 きさい された[2] 。このように条約 じょうやく 違反 いはん を巡 めぐ ってたびたび米 べい ロ両国 りょうこく が対立 たいりつ してきたほか、この条約 じょうやく に参加 さんか していない中国 ちゅうごく がミサイル開発 かいはつ を推 お し進 すす めている懸念 けねん を持 も ち続 つづ けていたアメリカは2018年 ねん 10月 がつ 20日 はつか 、ドナルド・トランプ 大統領 だいとうりょう が本 ほん 条約 じょうやく を破棄 はき すると表明 ひょうめい [3] 。2019年 ねん 2月 がつ 1日 にち 、アメリカはロシア連邦 れんぽう に対 たい し条約 じょうやく 破棄 はき を通告 つうこく したと発表 はっぴょう し、翌 よく 2日 にち からの義務 ぎむ 履行 りこう 停止 ていし も同時 どうじ に表明 ひょうめい した。ロシア連邦 れんぽう もこれを受 う けて条約 じょうやく の定 さだ める義務 ぎむ 履行 りこう を2日 にち に停止 ていし した[4] 。条約 じょうやく は予定 よてい 通 どお り半年 はんとし 後 ご の2019年 ねん 8月 がつ 2日 にち に失効 しっこう した[5] 。
アメリカ国立 こくりつ 航空 こうくう 宇宙 うちゅう 博物館 はくぶつかん に展示 てんじ 中 ちゅう の退役 たいえき したSS-20とパーシングII ミサイル。写真 しゃしん 中央 ちゅうおう のSS-20はその右 みぎ 隣 となり のパーシングIIに比 くら べて太 ふと く長 なが いが、これはSS-20の方 ほう がペイロード が多 おお く、また射程 しゃてい がより長 なが いためである。
条約 じょうやく の定 さだ めるところにより以下 いか に示 しめ すミサイルは退役 たいえき した。その後 ご ミサイルは廃棄 はいき され解体 かいたい 、または破壊 はかい された。作業 さぎょう は検証 けんしょう の対象 たいしょう となり、ソビエトでの爆破 ばくは によるミサイル破壊 はかい 作業 さぎょう はマスコミにも公開 こうかい されている。
アメリカ合衆国 あめりかがっしゅうこく
ソビエト連邦 れんぽう
2019年 ねん 6月 がつ 28日 にち に行 おこな われたアメリカとロシアの首脳 しゅのう 会談 かいだん では、「21世紀 せいき の軍備 ぐんび 管理 かんり モデル」の検討 けんとう を開始 かいし することで一致 いっち 。新 あら たな核軍縮 かくぐんしゅく の枠組 わくぐ みの模索 もさく が始 はじ まった。アメリカ側 がわ は、中国 ちゅうごく も加 くわ わる3カ国 かこく の条約 じょうやく を結 むす ぶ意向 いこう を示 しめ していると伝 つた えられたが、中国 ちゅうごく 側 がわ は報道 ほうどう 官 かん のコメントを通 つう じ「協議 きょうぎ に参加 さんか する前提 ぜんてい も基礎 きそ 的 てき 条件 じょうけん もない」として事実 じじつ 上 じょう 拒否 きょひ する姿勢 しせい を示 しめ した[6] 。同年 どうねん 8月 がつ 3日 にち 、オーストラリア を訪問 ほうもん していたアメリカのマーク・エスパー 国防 こくぼう 長官 ちょうかん は、記者 きしゃ 会見 かいけん でアジアに中距離 ちゅうきょり ミサイルの配備 はいび を希望 きぼう するコメントを出 だ し中国 ちゅうごく 側 がわ を刺激 しげき 。これを受 う けて同月 どうげつ 8月 がつ 5日 にち には、オーストラリアのスコット・モリソン 首相 しゅしょう がオーストラリアに中距離 ちゅうきょり ミサイルを配備 はいび することはないと発表 はっぴょう した[7] 。
2019年 ねん 8月 がつ 19日 にち 、アメリカは、条約 じょうやく により禁 きん じられていた地上 ちじょう 発射 はっしゃ 型 がた 巡航 じゅんこう ミサイルの[8] 、また12月12日 にち には中距離 ちゅうきょり 弾道 だんどう ミサイルの発射 はっしゃ 実験 じっけん を行 おこ なった[9] 。これに対 たい してロシア連邦 れんぽう 大統領 だいとうりょう ウラジーミル・プーチン も、国防省 こくぼうしょう 他 た に対 たい し“脅威 きょうい の分析 ぶんせき と然 しか るべき対抗 たいこう 措置 そち の準備 じゅんび ”を指示 しじ した[10] 。