内奏ないそう

内奏ないそう（ないそう）とは、天皇てんのうに対たいして国務大臣こくむだいじんなどが国政こくせいの報告ほうこくを行おこなうことである。

概要がいよう

大日本帝国だいにっぽんていこく憲法けんぽう下したでは、実態じったいはともかく法文ほうぶん上じょうは行政ぎょうせい権けんを含ふくむ統治とうち権けんを総攬そうらんすることとなっていたため、国務大臣こくむだいじんら輔弼ほひつ者ものによる天皇てんのうに対たいする国政こくせい事項じこうの奏上そうじょうは当然とうぜんのこととされていた。

日本国にっぽんこく憲法けんぽうでは、象徴しょうちょう天皇てんのう制せいのもと、天皇てんのうは「国政こくせいに関かんする権能けんのうを有ゆうしない」と規定きていされ内閣ないかくは天皇てんのうに対たいしての責務せきむを負おっていないため、天皇てんのうの役割やくわりを国事こくじ行為こういのみに限定げんていするべきとする立場たちばからは内奏ないそうを行おこなう必要ひつよう性せいはないとする論ろんが唱となえられている。現実げんじつには、天皇てんのうは対外たいがい親善しんぜんなどの公的こうてき行為こういも担になっており、この現状げんじょうを是認ぜにんする立場たちばからは内奏ないそうの必要ひつよう性せいも唱となえられている。

芦田あしだ内閣ないかく時ときに内奏ないそうについて内閣ないかく総理そうり大臣だいじんによるもののみとし閣僚かくりょうによるものを廃止はいししたが、第だい2次じ吉田よしだ内閣ないかくで閣僚かくりょうによる内奏ないそうが復活ふっかつし、現在げんざいにおいても首相しゅしょうをはじめとした閣僚かくりょうによる内奏ないそうは不定期ふていきながら行おこなわれている。政府せいふは内奏ないそうについて「所管しょかん事項じこうの御ご説明せつめい等とうを申もうし上あげるということ」、「象徴しょうちょうとしての陛下へいかの御ご教養きょうようを高たかめられるというために随時ずいじ行おこなわれておること」、「国情こくじょうを知しっていただき、理解りかいを深ふかめていただくということのために御ご参考さんこうまでに申もうし上あげる」としている。また、内奏ないそうに近ちかい国政こくせい報告ほうこくとして、高級こうきゅう官僚かんりょう（各省かくしょうの事務次官じむじかんや局長きょくちょう）や学者がくしゃによる「御ご進講しんこう」がある（進講しんこうとは、天皇てんのうや貴人きじんの前まえで学問がくもんの講義こうぎをすること）。

宮内庁くないちょうは、2013年ねん10月25日にちに宮殿きゅうでん・鳳凰ほうおうの間あいだで行おこなわれた安倍晋三あべしんぞう首相しゅしょうからの国政こくせい報告ほうこくの画像がぞうを史上しじょう初はじめて公開こうかいした。

首相しゅしょうを務つとめた安倍晋三あべしんぞうによると、部屋へやの中なかで二に人にんきりで行おこなわれる内奏ないそうについて、部屋へやの外そとにいる宮内庁くないちょう職員しょくいんがドアをノックしたら、内奏ないそうを行おこなっている者ものは「これで内奏ないそうを終了しゅうりょういたします」と言いって席せきを立たたなければならないしきたりがあるという。

内奏ないそう・進講しんこうの内容ないよう

天皇てんのうの政治せいじ利用りようを避さけるため、内奏ないそうや進講しんこうの内容ないようについては明あかさないことが慣行かんこうとなっており、口外こうがいすることは重大じゅうだいなタブーとされる。以下いかに主おもな事例じれいを挙あげる（肩書かたがきはいずれも当時とうじのもの）。

• 1973年ねん5月がつ、増原ますはら惠めぐみ吉きち防衛庁ぼうえいちょう長官ちょうかんが防衛ぼうえい問題もんだいに関かんする内奏ないそうを漏もらし、長官ちょうかん辞任じにんに追おい込こまれた（増原ますはら内奏ないそう問題もんだい）。
• 2001年ねん、田中たなか眞紀子まきこ外務がいむ大臣だいじんが内奏ないそうを漏もらしたことが一部いちぶメディアで取とり上あげられたものの、本人ほんにんはこれを否定ひていしている。週刊しゅうかん誌しは「本当ほんとうなら切腹せっぷくもの」などと書かきたてた。
• 2009年ねん12月27日にち、テレビ朝日てれびあさひ『サンデープロジェクト』に出演しゅつえんした亀井かめい静香しずかが、「先日せんじつ、天皇てんのう陛下へいかと殿下でんかにお会あいしたとき、権力けんりょくの象徴しょうちょうであった江戸城えどじょう（現げん皇居こうきょ）にお住すまいになられるのではなくて、京都きょうとか、あるいは（亀井かめいの地元じもとの）広島ひろしまとかに（お住すまいになれば）と恐おそれ多おおくも申もうし上あげた」と、天皇てんのうとの会話かいわ内容ないようを明あきらかにした。
• 2010年ねん11月25日にちには前原まえはら誠司せいじ外務がいむ大臣だいじんが民主党みんしゅとうのグループの会合かいごうで最近さいきん天皇てんのうに進講しんこうしたことを明あかし、前原まえはらが「陛下へいかは外交がいこう安保あんぽにかなり興味きょうみをもたれていた」と語かたったことを出席しゅっせき者しゃが明あきらかにした。ただし、前原まえはらは進講しんこうの内容ないようには言及げんきゅうしなかったという。

日本にっぽん以外いがいにおける類似るいじの制度せいど

イギリスには日本にっぽんの内奏ないそうに相当そうとうするものとして「週しゅう次じ謁見えっけん（Weekly Audience）」と呼よばれる制度せいどが存在そんざいする。これは週しゅう一いち回かい程度ていど、首相しゅしょうがバッキンガム宮殿きゅうでんを訪おとずれ、君主くんしゅと一対一いちたいいちで会談かいだんし国政こくせいの報告ほうこくを行おこなうもので、通常つうじょうは閣議かくぎの後のちに行おこなわれる。君主くんしゅは首相しゅしょうと国政こくせいについて議論ぎろんし、質問しつもんを行おこなう場合ばあいもある。なお、君主くんしゅは激励げきれいや警告けいこくを行おこなう権限けんげんを有ゆうするが、政治せいじ的てきに中立ちゅうりつの立場たちばであることが求もとめられ、首相しゅしょうに命令めいれいすることはできない。また、首相しゅしょうは王おう意いを考慮こうりょするいかなる義務ぎむも有ゆうしないとされる。通常つうじょうは首相しゅしょうのみが行おこなうが、国家こっか予算よさんの決定けってい前まえには財務ざいむ大臣だいじんも君主くんしゅに謁見えっけんする。

なお、イギリスでは2020年ねんに流行りゅうこうが始はじまった新型しんがたコロナウイルス感染かんせん症しょうへの対策たいさくのため、週しゅう次じ謁見えっけんが電話でんわによる会談かいだんに切きり替かえられたことが伝つたえられた。

スウェーデンでは憲法けんぽう（統治とうち法ほう第だい5章しょう第だい3条じょう）により、君主くんしゅは国政こくせいに関かんする情報じょうほうを首相しゅしょうから受うけ取とる権利けんりを有ゆうするとされており、スウェーデン国王こくおうは年としに3、4回かい程度ていど行おこなわれる「情報じょうほう閣議かくぎ（informationskonselj）」と呼よばれる会合かいごうで首相しゅしょうおよび閣僚かくりょうらから国政こくせいの報告ほうこくを受うける。情報じょうほう閣議かくぎは形式けいしき的てきには君主くんしゅが招集しょうしゅうを行おこなうものとされているが、実際じっさいには国王こくおうと首相しゅしょうが事前じぜん相談そうだんの上うえで日程にっていが組くまれる。

国くに	制度せいどの呼称こしょう	実施じっし頻度ひんど	君主くんしゅに報告ほうこくする人物じんぶつ・形式けいしき	制度せいどの法的ほうてき根拠こんきょ
日本にっぽん	内奏ないそう	不定期ふていき	首相しゅしょうまたは閣僚かくりょうが一対一いちたいいちで会談かいだん	なし(慣例かんれい的てき制度せいど)
イギリス	週しゅう次じ謁見えっけん	週しゅう1回かい程度ていど	首相しゅしょうまたは財務ざいむ大臣だいじんが一対一いちたいいちで会談かいだん	なし(慣例かんれい的てき制度せいど)
スウェーデン	情報じょうほう閣議かくぎ	不定期ふていき(年とし3、4回かい程度ていど)	首相しゅしょう・閣僚かくりょう全員ぜんいんを同時どうじに招集しょうしゅう	憲法けんぽうで規定きてい

関連かんれん書籍しょせき

• 後藤ごとう致人『内奏ないそう―天皇てんのうと政治せいじの近きん現代げんだい』中公新書ちゅうこうしんしょ、2010年ねん。ISBN 9784121020468。 
• 安倍晋三あべしんぞう『安倍晋三あべしんぞう　回顧かいこ録ろく』中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ、2023年ねん。ISBN 9784120056345。 

関連かんれん項目こうもく

• 増原ますはら内奏ないそう問題もんだい
• 国事こくじ行為こうい
• 上奏じょうそう

外部がいぶリンク

• 天皇てんのう皇后こうごう両りょう陛下へいかのご日程にってい（内奏ないそうに関かんしても記載きさいされている）