叙事詩じょじし(じょじし、英語えいご: epic、epic poem、epic poetry、epos、epopee)とは、物事ものごとや出来事できごとを記述きじゅつする形かたちの韻文いんぶんのこと。ある程度ていどの長ながさを持もつもので、一般いっぱん的てきには民族みんぞくの英雄えいゆうや神話しんわ、民族みんぞくの歴史れきしとして語かたり伝つたえる価値かちのある事件じけんを出来事できごとの物語ものがたりとして語かたり伝つたえるものをさす。大岡おおおか昇平しょうへいはさらに「戦争せんそうを内容ないようとする」ものとしている(「常識じょうしき的てき文学ぶんがく論ろん」)。
口承こうしょう文芸ぶんげいとして、吟遊詩人ぎんゆうしじんや語かたり部べなどが伝つたえ、その民族みんぞくの古ふるい時代じだいには次世代じせだいの教養きょうようの根幹こんかんを成なしたり、教育きょういくの主要しゅよう部分ぶぶんとなることも多おおかった。後世こうせいに書かき残のこされ、歴史れきし資料しりょうに保存ほぞんされることになったものが多おおい。
対義語たいぎごは叙情詩じょじょうし。
現存げんそんする最古さいこの文学ぶんがく作品さくひんと呼よばれる『ギルガメシュ叙事詩じょじし』もその名なの示しめすとおり叙事詩じょじしである。西欧せいおう文学ぶんがくの古典こてんで叙事詩じょじしと言いわれるものには、古代こだいにおいて『イリアス』や『オデュッセイア』『労働ろうどうと日々ひび』、中世ちゅうせいにおいて『ベーオウルフ』、『ニーベルンゲンの歌うた』、『ローランの歌うた』などがある。アジアでは『マハーバーラタ』、『ラーマーヤナ』など。民族みんぞく叙事詩じょじしとして有名ゆうめいなものには、『シャー・ナーメ』(イラン)、『ウズ・ルジアダス』(ポルトガル)、『カレワラ』(フィンランド)、『マナス』(キルギス)、『ナルト叙事詩じょじし』(オセット)、『ユーカラ』(アイヌ)などがある。文献ぶんけん学者がくしゃのエーリヒ・アウエルバッハは古代こだいの叙事詩じょじし文体ぶんたいとして、ホメーロスの『オデュッセイア』と旧約きゅうやく聖書せいしょのイサクの燔祭の2つをあげて比較ひかくした。
散文さんぶんで書かかれる時ときに叙事詩じょじしから小説しょうせつへ変化へんかするとされ、西洋せいようでは1世紀せいきのペトロニウスの『サテュリコン』、2世紀せいきの『ダフニスとクロエ』で既すでに散文さんぶん化かが見みられる。
ダンテの『神かみ曲きょく』は形式けいしき上じょうは叙事詩じょじしだが、英雄えいゆう譚たんと異ことなって筋すじを持もたない。
日本にっぽん文学ぶんがくでは、古来こらいに上代じょうだい日本語にほんごを基礎きそとする古事記こじき、日本書紀にほんしょき、万葉集まんようしゅうが有あり、その他たに『平家ひらか物語ものがたり』などの軍記ぐんき物ぶつや、アイヌのユーカラのような英雄えいゆうの冒険ぼうけん譚たんも多おおくあるが、それらを韻文いんぶんとする学説がくせつは、定さだかになっていない。
「厳密げんみつな意味いみで、日本にっぽんに叙事詩じょじしが存在そんざいしない」との説せつもあり、代かわりに和歌わかを含ふくみこんだ『歌うた物語ものがたり』が成立せいりつしたと考かんがえられ、『源氏物語げんじものがたり』なども和歌わかを含ふくんでいることから、一級いっきゅう文芸ぶんげいとして評価ひょうかされたとの説せつがある。
小西こにし甚一じんいちは、著作ちょさくの『日本にっぽん文藝ぶんげい史し』で、「日本にっぽんは、英雄えいゆう叙事詩じょじしを持もたない」と述のべている。