大使館たいしかん

大使館たいしかん（たいしかん、英語えいご: embassy）は、国交こっこうが成立せいりつしている外国がいこくに、自国じこくの特命とくめい全権ぜんけん大使たいしを駐在ちゅうざいさせて公務こうむを執行しっこうする役所やくしょ。総領事館そうりょうじかんや領事りょうじ事務所じむしょなどの領事りょうじ機関きかんおよび政府せいふ代表だいひょう部ぶと並ならんで、外交がいこう使節しせつ団だんの公館こうかん（日本にっぽんの法令ほうれい用語ようごでは在外ざいがい公館こうかん）と呼よばれる。

在ざい米べいロシア大使館たいしかん

なお、イギリス連邦れんぽう加盟かめい国こく間あいだでは、歴史れきし的てき経緯けいいから大使館たいしかんではなく「高等こうとう弁務べんむ官かん事務所じむしょ（こうとうべんむかんじむしょ、英えい: High Commission、参考さんこう：高等こうとう弁務べんむ官かん）」と称しょうされる。

業務ぎょうむ・設置せっち

大使たいしを含ふくむ外交がいこう官かんは本国ほんごくを代表だいひょうして相手あいて国こく政府せいふと交渉こうしょうすることを任務にんむとする。一般いっぱん的てきには大使たいしを含ふくむ外交がいこう官かんは外交がいこう交渉こうしょうを本務ほんむとするのに対たいし、領事りょうじは通商つうしょうや航海こうかい及および在外ざいがい居留民きょりゅうみんの保護ほごを任務にんむとする。

イギリスのブラウデン報告ほうこくでは、在外ざいがい機関きかんの任務にんむとして、1.勧告かんこく（情勢じょうせい分析ぶんせきや重要じゅうよう報告ほうこく、外務省がいむしょう本省ほんしょうに対たいする申さる進すすむ）、2.交渉こうしょう、3.友好ゆうこう関係かんけいの向上こうじょう、4.貿易ぼうえき促進そくしん、5.広報こうほう、6.在外ざいがい居留民きょりゅうみんの生命せいめいや権益けんえきの保護ほご、7.援助えんじょ並ならびに技術ぎじゅつ援助えんじょを挙あげているが、このうち大使館たいしかんが中心ちゅうしんとなるのは勧告かんこくと交渉こうしょう及および対外たいがい援助えんじょ（1～5及および7）である。ただし、大使館たいしかんと領事館りょうじかんの関係かんけいについては、大使館たいしかんの中なかに領事りょうじ部ぶが設置せっちされていたり、大使館たいしかん員いんの外交がいこう官かんが領事りょうじを兼務けんむすることもある。

大使館たいしかんは通常つうじょう、接受せつじゅ国こく（派遣はけん先さきの国くに）の首都しゅとまたは主要しゅよう都市としに置おかれる。カリブ海かりぶかい諸国しょこく地域ちいきやポリネシア、アフリカやヨーロッパの小国しょうこくが多おおい地域ちいきでは、その地域ちいきにおける比較的ひかくてき大おおきい国くにの1つの大使館たいしかんが数すうか国こくを兼けん轄していることがある。例たとえば、在ざいトリニダード・トバゴ日本国にっぽんこく大使館たいしかんは、常駐じょうちゅう国こくトリニダード・トバゴを含ふくむカリブ諸国しょこく9ヶ国かこくを兼けん轄している。

また、イスラエルはエルサレムを首都しゅとと宣言せんげんしているが、日本にっぽんを含ふくむ多おおくの諸しょ外国がいこくは国連こくれん決議けつぎに基もとづき同国どうこくの主張しゅちょうを認みとめていないため、テルアビブに大使館たいしかんを設置せっちしている。イスラエルの主張しゅちょうに従したがってエルサレムに大使館たいしかんを設置せっちしているのは、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく（在ざいイスラエルアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく大使館たいしかん）やグアテマラなど一部いちぶの国くにに限かぎられる。

特権とっけん・免除めんじょ

外交がいこう使節しせつ団だんの使用しようする公館こうかんに関かんしては外交がいこう関係かんけいに関かんするウィーン条約じょうやくで公館こうかんの不可侵ふかしん（第だい22条じょう）と公館こうかんに対たいする課税かぜい免除めんじょ（第だい23条じょう）が定さだめられている。なお、領事りょうじ機関きかんの公館こうかん（総領事館そうりょうじかん、領事館りょうじかん）には領事りょうじ関係かんけいに関かんするウィーン条約じょうやくが適用てきようされ、同どう条約じょうやくにも公館こうかんの不可侵ふかしん等とうが定さだめられている（領事館りょうじかん#特権とっけん免除めんじょを参照さんしょう）。

公館こうかんの不可侵ふかしん

使節しせつ団だんの公館こうかんは不可侵ふかしんとされ、接受せつじゅ国こくの官吏かんりは使節しせつ団だんの長ちょうが同意どういしない限かぎり、公館こうかんに立たち入いることができない（第だい22条じょう1）。

さらに接受せつじゅ国こくは、私人しじんによる公館こうかんへの侵入しんにゅう・破壊はかい及および、公館こうかんの安寧あんねい・威厳いげんの侵害しんがいを防止ぼうしするために、適当てきとうなすべての措置そちをとる特別とくべつの義務ぎむを負おっている（第だい22条じょう2）。この措置そちには、原状げんじょう回復かいふくのための措置そちや損害そんがい賠償ばいしょう義務ぎむだけではなく、事前じぜん予防よぼうの義務ぎむも含ふくまれている。接受せつじゅ国こくが暴徒ぼうとの大使館たいしかんに対たいする乱暴らんぼう狼藉ろうぜきを防ふせげなかった実例じつれいとして、イランアメリカ大使館たいしかん人質ひとじち事件じけん（1979年ねん）や反日はんにちデモに便乗びんじょうした暴徒ぼうとによる日本にっぽん大使館たいしかん投石とうせき事件じけん（2005年ねん）、アメリカ在外ざいがい公館こうかん襲撃しゅうげき事件じけん（2012年ねん）などが挙あげられる。

公館こうかんに対たいする課税かぜい免除めんじょ

派遣はけん国こく及および使節しせつ団だんの長ちょうは、公館こうかんが所有しょゆうか賃借ちんしゃくかを問とわず、賦課ふか金きん及および租税そぜいを免除めんじょされる（ただし提供ていきょうされた特定とくていの役務えきむに対たいする給付きゅうふとしての性質せいしつを有ゆうするものを除のぞく）（第だい23条じょう1）。

職員しょくいん

大使館たいしかんには外交がいこうの専門せんもん家かである外交がいこう官かんが配置はいちされるが、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん前まえには各種かくしゅの専せん門もんに応おうじて財務ざいむ官かん、商務しょうむ官かん、陸海空りくかいくう軍ぐん武官ぶかんなどが設置せっちされるようになった。

日本にっぽんの大使館たいしかん

日本にっぽんの大使館たいしかんの場合ばあい、在外ざいがい公館こうかん長ちょうたる特命とくめい全権ぜんけん大使たいしを筆頭ひっとうに、公使こうし、参事官さんじかん、防衛ぼうえい駐ちゅう在官ざいかん（他国たこくや明治めいじ憲法けんぽう体制たいせい下かの日本にっぽんにおける駐在ちゅうざい武官ぶかんに相当そうとう。この他ほか、参事官さんじかん、書記しょき官等かんとうの名称めいしょうを併有へいゆう）、書記官しょきかん、在外ざいがい公館こうかん警備けいび対策たいさく官かん、理事りじ官かん等ひとしの外交がいこう官かんの他ほか、派遣はけん員いん（社団しゃだん法人ほうじん国際こくさい交流こうりゅうサービス協会きょうかいが派遣はけんするもの）、専門せんもん調査ちょうさ員いん、現地げんち職員しょくいん（事務じむ職員しょくいん、窓口まどぐち係員かかりいん、警備けいび員いん、大使たいし公邸こうてい管理人かんりにん等とう）で構成こうせいされる（この他ほか、該当がいとう国こくで語学ごがく等とうの研修けんしゅうをしている在外ざいがい研修けんしゅう員いんとして入省にゅうしょう間あいだもない外交がいこう官かん補ほが配置はいちされている）。

小ちいさな国くにに派遣はけんされる大使館たいしかんでは、大使たいし以下いか外交がいこう官かんが数すう人にんしかいないところもある。例たとえば、2009年ねん1月がつ末まつ時点じてんにおける在ざいアンゴラ日本国にっぽんこく大使館たいしかんの職員しょくいん総数そうすうは5名めいであった。

フランスの大使館たいしかん

フランスでは政策せいさく責任せきにんは最終さいしゅう的てきに政府せいふだけが負おい、外務がいむ行政ぎょうせいは政府せいふの政策せいさく決定けっていを遂行すいこうする官僚かんりょう制度せいどの一いち部門ぶもんに過すぎないとされている。大使館たいしかんの首長しゅちょうは大使たいしであるが、階級かいきゅうというよりも地位ちいの名称めいしょうにすぎないとされる。

参考さんこう文献ぶんけん

• 木下きのした郁夫いくお『大使館たいしかん国際こくさい関係かんけい史し　在外ざいがい公館こうかんの分布ぶんぷで読よみ解とく世界せかい情勢じょうせい』社会しゃかい評論ひょうろん社しゃ　ISBN 4784509739　在外ざいがい公館こうかんの分布ぶんぷ遍歴へんれきを元もとに、国際こくさい政治せいじの世界せかい史し的てき転換期てんかんきを分析ぶんせきしている。

脚注きゃくちゅう

関連かんれん項目こうもく

• 外務省がいむしょう
• 外交がいこう
• 特命とくめい全権ぜんけん大使たいし - 特命とくめい全権ぜんけん公使こうし
• 治外法権ちがいほうけん - 外交がいこう特権とっけん
• 在外ざいがい公館こうかん
  • 日本にっぽんの在外ざいがい公館こうかんの一覧いちらん
  • 駐ちゅう日にち外国がいこく公館こうかんの一覧いちらん

外部がいぶリンク

• 外務省がいむしょう: 在外ざいがい公館こうかん
• 外務省がいむしょう: 駐ちゅう日にち外国がいこく公館こうかん