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沈香 - Wikipedia

沈香じんこう(じんこう、英語えいご:agarwood[1]、agilawood[1])は、ジンチョウゲアクイラリアぞくギリノプスぞく英語えいごばん[2][注釈ちゅうしゃく 1]樹木じゅもくにおいて木部きべ傷害しょうがい病害びょうがいしょうじたさい防御ぼうぎょ応答おうとうとして生成せいせいされる樹脂じゅしがその内部ないぶ沈着ちんちゃくしたもの[1][4][5]香木こうぼくとして利用りようされるもののひとつである[4]。なお、沈香じんこうという特定とくてい存在そんざいするわけではなく、その原木げんぼくのすべてが香木こうぼく原料げんりょうとなるわけではない[4]

概要がいよう

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沈香じんこう生成せいせいするしゅ熱帯ねったいアジアに分布ぶんぷするジンチョウゲAquilaria sinensisきばじゅ)、A. malaccensis沈香じんこうじゅ)、A. agallocha沈香じんこう)などである[1][4]。これらの樹幹じゅかんむしあなをあけるなどの傷害しょうがい病害びょうがいしょうじたさい、agarospirolやiso−agarospirolなどのsesquiterpeneるいふくあいてき蓄積ちくせき沈着ちんちゃくしたものをいうが、そのかたちいろなども千差万別せんさばんべつで、成分せいぶんひとつとしておなじものはないとされる[1][4]

沈香じんこう生成せいせいするしゅとして東南とうなんアジア山岳さんがく密林みつりん地帯ちたいなどに自生じせいするものが10しゅ以上いじょうられているが、その原木げんぼくのすべてが香木こうぼくとなるわけではなく偶然ぐうぜん産物さんぶつである[4]日本にっぽん薬局方やっきょくほうがい生薬きぐすり規格きかく局外きょくがいせいぶんまわし)にも収載しゅうさいされているが、植物しょくぶつそのものではなく、細菌さいきんなどに感染かんせんしたさい宿主しゅくしゅがわ防御ぼうぎょ応答おうとうとして生成せいせいされた樹脂じゅし存在そんざいすることが必須ひっす要件ようけんとされている[5]。「沈香じんこう」はのごとくみずしずむが、原木はらき自体じたい非常ひじょうかるいものである[4]

おなじく香木こうぼくとしてられる白檀びゃくだんとはことなり、沈香じんこうねつくわくことでこうする[4]沈香じんこう高級こうきゅう香木こうぼくとして中国ちゅうごく日本にっぽんなどで珍重ちんちょうされてきた[4]とくこう品質ひんしつのものは伽羅きゃら(きゃら)とばれ樹脂じゅし含有がんゆうりょうは5わりえる[1][4]香道こうどうでは沈香じんこう産地さんち香味こうみによりろくこく五味ごみ分類ぶんるいし、そのなか最高さいこう品質ひんしつのものを伽羅きゃら[4]

また、けんせい吐、鎮静ちんせい作用さようがあるとされ、腹痛はらいた嘔吐おうと不眠ふみんたいしてももちいられる[4]。喘四君子しくんしちょうかおりかき蒂湯などの漢方薬かんぽうやくのほか一般いっぱんよう医薬品いやくひんにも配剤はいざいされる[5]

沈香じんこう原木げんぼく成木なりきになるまでにやく20ねん沈香じんこうができるまでに50ねんこう品質ひんしつ沈香じんこうには100~150ねんかかり[4]老木ろうぼく樹幹じゅかん形成けいせいされたものはきわめて高価こうかである[1]沈香じんこう原木げんぼく乱獲らんかく密売みつばい問題もんだいになっており[4]原木げんぼくとなるAquilariaぞく植物しょくぶつぜんたねワシントン条約じょうやく附属ふぞくしょIIに掲載けいさいされ国際こくさいてき取引とりひき規制きせいされている[5]

そのため、インド東南とうなんアジアでは原木げんぼくみきくぎむなどの方法ほうほう人工じんこうてき栽培さいばいおこなわれている[1]。これは人工じんこう沈香じんこうばれるものではやくてすうねん採取さいしゅ可能かのうとなるが、すべてが沈香じんこうとして利用りようできるわけではなく、天然てんねん沈香じんこうくらべるといまかおりのしつおとるとされる[4]

原木げんぼくから沈香じんこう生成せいせいされるメカニズムは、その詳細しょうさいながあいだ不明ふめいであったが、2022ねん富山大学とやまだいがく研究けんきゅうグループが遺伝子いでんし技術ぎじゅつもちいることで、複数ふくすう酵素こうそ関係かんけいしていることを解明かいめいした[6][7]

なお、香木こうぼくのにおい成分せいぶんふくんだオイルにのかけらをんだものや、沈香じんこうじゅ沈香じんこうになっていない部分ぶぶん着色ちゃくしょくした工芸こうげいひんは、そもそも沈香じんこうとはべず、香木こうぼくでもない。

名称めいしょう

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沈香じんこう」はサンスクリットかたり梵語ぼんご)で aguru(アグル)またはagaru(アガル)とう。油分ゆぶんおおいろいものをkālāguru(カーラーグル)、つまり「くろ沈香じんこう」とび、これが「伽羅きゃら」の語源ごげんとされる。とぎみなみ(かなんこう)、みなみ(きなんこう)の別名べつめいでもばれる。沈香じんこう分類ぶんるいかんしては香道こうどう記事きじくわしい。

また、シャム沈香じんこう[8]とは、インドシナ半島いんどしなはんとうさん沈香じんこうし、かおりのあまみが特徴とくちょうである。タニ沈香じんこう[9]は、インドネシアさん沈香じんこうし、かおりのにがみが特徴とくちょう

ラテン語らてんごでは古来こらい aloe のばれ、英語えいごにも aloeswood の別名べつめいがある。このことからアロエ(aloe)が香木こうぼくであるという誤解ごかいまれた。勿論もちろん沈香じんこうとアロエはまったくの別物べつものである[10]

中東ちゅうとうでは oud (عود) とばれ、自宅じたくいてかおりをたのしむ文化ぶんかがある。

日本にっぽんにおける沈香じんこう歴史れきし

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推古天皇すいこてんのう3ねん595ねん)4がつ淡路島あわじしま香木こうぼく漂着ひょうちゃくしたのが沈香じんこうかんする最古さいこ記録きろくであり、沈香じんこう日本にっぽん伝来でんらいといわれる。漂着ひょうちゃく木片もくへんなかにくべたところ、よいかおりがしたので、その朝廷ちょうてい献上けんじょうしたところ重宝ちょうほうされたという伝説でんせつが『日本書紀にほんしょき』にある[11]奈良ならせいくらいん[12]にはながさ156cm、最大さいだいみち43cm、おもさ11.6kgという巨大きょだい香木こうぼく黄熟おうじゅく(おうじゅくこう)(蘭奢らんじゃまち[13]とも)がおさめられている。これは、鎌倉かまくら時代ときよ以前いぜん日本にっぽんはいってきたとられており、以後いご権力けんりょくしゃたちがこれをり、足利あしかが義政よしまさ織田おだ信長のぶなが明治天皇めいじてんのうの3にん付箋ふせんによってあと明示めいじされている。とく信長のぶながは、東大寺とうだいじ記録きろくによれば1すん四方しほう2ったとされている。

徳川とくがわ家康いえやす慶長けいちょう11ねんごろからおこなった東南とうなんアジアへの朱印船しゅいんせん貿易ぼうえきしゅ目的もくてき伽羅きゃらくすのきかおり)の入手にゅうしゅで、とく極上ごくじょうとされた伽羅きゃらけにしぼっていた(『異国いこく近年きんねんしょ草案そうあん』)[14]香気こうきによる気分きぶん緩和かんわるために、薫物たきもの香道こうどう)の用材ようざいとして必要ひつようとしていたからである[15]

1992ねん平成へいせい4ねん)4がつに、全国ぜんこく薫物たきもの線香せんこう組合くみあい協議きょうぎかいが、上記じょうきの『日本書紀にほんしょき』の記述きじゅつもとづいて沈水香木こうぼく伝来でんらいした4がつと、「こう」の分解ぶんかいした「いちじゅうはちにち」をあわせて4がつ18にちを「こう」として制定せいていしている。

注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ AquilariaぞくとGyrinopsぞくジンコウぞくとされることがある[3]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b c d e f g h 山本やまもと福壽ふくじゅタイにおける沈香じんこう(じんこう)の人工じんこうてき生産せいさん」『樹木じゅもく医学いがく研究けんきゅうだい12かんだい1ごう公益社こうえきしゃだん法人ほうじん日本にっぽんやく学会がっかい、2008ねん、41-42ぺーじ 
  2. ^ 香気こうき成分せいぶん定量ていりょうてき分析ぶんせきによるインドネシアさん沈香じんこう評価ひょうか”. 北海道大学ほっかいどうだいがく. 2024ねん6がつ1にち閲覧えつらん
  3. ^ 香坂こうさかれい簑原みのばるあかね環境かんきょう条約じょうやく科学かがく諮問しもん機関きかん役割やくわり生物せいぶつ多様たようせい条約じょうやくとワシントン条約じょうやく(CITES)の事例じれいから~」『椙山すぎやま人間にんげんがく研究けんきゅうだい5ごう椙山すぎやま人間にんげんがく研究けんきゅうセンター、2009ねん 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 中嶋なかじまゆう沈香じんこうかお成分せいぶん生産せいさんかかわる酵素こうそ発見はっけん」『ファルマシア』だい58かんだい12ごう公益社こうえきしゃだん法人ほうじん日本にっぽんやく学会がっかい、2022ねん、1110-1114ぺーじ 
  5. ^ a b c d 成川なりかわたすくジンコウ(沈香じんこう)の品質ひんしつ評価ひょうかなに指標しひょうとすればいいか?」『ファルマシア』だい56かんだい3ごう公益社こうえきしゃだん法人ほうじん日本にっぽんやく学会がっかい、2020ねん、1110-1114ぺーじ 
  6. ^ 沈香じんこうかお成分せいぶん重要じゅうよう酵素こうそ発見はっけん』(PDF)(プレスリリース)富山大学とやまだいがく和漢わかん医薬いやくがく総合そうごう研究所けんきゅうじょ、2022ねん1がつ17にちhttps://www.u-toyama.ac.jp/wp/wp-content/uploads/20220118.pdf2023ねん9がつ23にち閲覧えつらん 
  7. ^ Identification of a diarylpentanoid-producing polyketide synthase revealing an unusual biosynthetic pathway of 2-(2-phenylethyl)chromones in agarwood”. Nature Communications (2022ねん1がつ17にち). 2023ねん9がつ23にち閲覧えつらん
  8. ^ 「シャム」はタイこくインドシナ半島いんどしなはんとう古名こみょう
  9. ^ 「タニ」は「パタニ王国おうこく」のことで、マレまれ半島はんとうにあった王朝おうちょう
  10. ^ 山田やまだ憲太郎けんたろう香料こうりょうみち中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ中公新書ちゅうこうしんしょ 483)1977、203ぺーじには、16世紀せいきすえのリンスホーテンの記事きじとして「インディエでカランバとかパロ・デ・アギラとばれるリグヌム・アロエス…」がげられている。これはインドの沈香じんこうかんする記述きじゅつである。
  11. ^ 日本書紀にほんしょきまき22。
  12. ^ せいくらいんはもと東大寺とうだいじ倉庫そうこであったが、現在げんざい宮内庁くないちょう管理かんりしている。
  13. ^ 名称めいしょうには「らん」「おご」「まち」のかく文字もじなかにそれぞれ「ひがし」「だい」「てら」がかくれており、こちらの名称めいしょうのほうが有名ゆうめいである。
  14. ^ 宮本みやもと義己よしみ徳川とくがわ家康いえやす本草学ほんぞうがく」(りゅうたに和比古かずひこへん徳川とくがわ家康いえやす―その政治せいじ文化ぶんか芸能げいのう―』みやたい出版しゅっぱんしゃ、2016ねん
  15. ^ 宮本みやもと義己よしみ徳川とくがわ家康いえやす本草学ほんぞうがく」(りゅうたに和比古かずひこへん徳川とくがわ家康いえやす―その政治せいじ文化ぶんか芸能げいのう―』みやたい出版しゅっぱんしゃ、2016ねん

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 副島そえじま顕子あきこ ちょ大澤おおさわのぼる へん植物しょくぶつめい英語えいご辞典じてん小学館しょうがくかん、2011ねん7がつISBN 978-4-09-506702-5 
  • 山田やまだ憲太郎けんたろう香料こうりょうみち中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ中公新書ちゅうこうしんしょ 483)1977ねん

関連かんれん項目こうもく

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