水死すいし

水死すいし（すいし）とは、溺おぼれ水すいによって引ひき起おこされる窒息ちっそく死しの一種いっしゅである。溺死できし（できし）ともいう。

水死すいし
概要がいよう
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10	T75.1
ICD-9-CM	994.1
DiseasesDB	3957
MedlinePlus	000046
eMedicine	emerg/744

日本人にっぽんじんの溺死できし

水死すいしは主おもに水難すいなん事故じこで引ひき起おこされるとの誤解ごかいがあるが、日本人にっぽんじんが最もっとも水死すいししている場所ばしょは、自宅じたくの風呂ふろである。

入浴にゅうよくによる溺死できし

浴槽よくそうで全身ぜんしん浴よくする習慣しゅうかんのある日本にっぽんでは、諸しょ外国がいこくと比くらべて浴槽よくそうで溺死できしする確かく率りつが高たかい。2014年ねんの消費しょうひ者しゃ庁ちょうの調査ちょうさでは、溺おぼれ水すい以外いがいを含ふくめて、何なんらかの原因げんいんで浴室よくしつで事故死じこしする死亡しぼう者しゃの数かずが、1年間ねんかんで約やく1万まん9,000人にんと推定すいていされているが、このうち溺おぼれ水すいによる死者ししゃの数かずは4,866人にんであり、これは2014年ねんの交通こうつう事故死じこしの4,373人にんを上回うわまわる。

溺死できし者しゃのうち、65歳さい以上いじょうの高齢こうれい者しゃが9割わりを占しめる。日本にっぽん社会しゃかいの高齢こうれい化かに伴ともない、浴室よくしつにおける死亡しぼう者しゃは急激きゅうげきに増ふえており、2004年ねんから2014年ねんにかけて、浴室よくしつにおける溺死できし者しゃの数かずは1.7倍ばいに増ふえた。ヒートショック現象げんしょうにより溺死できしする場合ばあいもある。

自宅じたくでの溺死できしは、持病じびょうがない元気げんきな人間にんげんであっても起おこりうる。疲労ひろうや睡眠すいみん不足ふそく、医薬品いやくひんの服用ふくようなどにより、思考しこう能力のうりょくや運動うんどう能力のうりょくが極端きょくたんに低下ていかした場合ばあいにのみ起おこると誤解ごかいされているため、厚生こうせい労働省ろうどうしょうや消費しょうひ者しゃ庁ちょうは注意ちゅういを呼よび掛かけている。

また、乳児にゅうじの事故じこにおいても、風呂場ふろばでの水死すいしが多おおいことが特徴とくちょうとしてあげられる。これは日本にっぽんの家庭かていでは風呂ふろの湯ゆを残のこす習慣しゅうかんがあり、つかまり立だちなど、自力じりきで移動いどうできるようになった乳児にゅうじが、残のこり湯ゆの張はられた浴槽よくそうに頭あたまから転落てんらくして水死すいしに至いたる事故じこが発生はっせいすることによるものである。乳児にゅうじがいる家庭かていでは、浴槽よくそうに残のこり湯ゆをできるだけ残のこさないことが水死すいし事故じこの対策たいさくとなる。

対策たいさく

• 入浴にゅうよく前まえに脱衣だつい所しょや浴室よくしつを温あたためる。
• 41度ど以下いかのお湯ゆに10分ふん未満みまんで上あがる。
• 浴槽よくそうから急きゅうに立たち上あがらない。
• アルコールを飲のんだ後のちや食後しょくごすぐの入浴にゅうよくは控ひかえる。
• 入浴にゅうよく前まえに同居どうきょ者しゃに一声いっせいかける。

などと言いった対策たいさくを消費しょうひ者しゃ庁ちょうでは呼よび掛かけている。

水難すいなん事故じこによる溺死できし

発生はっせい件数けんすう

2002年ねん（平成へいせい14年ねん）の警察庁けいさつちょうのまとめによると（以下いかの統計とうけいはこの資料しりょうによる）、日本にっぽんでの水難すいなん事故じこの発生はっせい件数けんすうは1,722件けんで、その内うち死亡しぼう者しゃは951件けんである。死亡しぼう率りつは約やく50%と、交通こうつう事故じこなどに比くらべても圧倒的あっとうてきに死亡しぼう率りつが高たかい。

死亡しぼう者しゃの内訳うちわけは、高校こうこう卒業そつぎょう相当そうとう年齢ねんれい以上いじょう65歳さい未満みまんが557名めいで、水死すいし者しゃ全体ぜんたいの57.0%を占しめている。65歳さい以上いじょうの高齢こうれい者しゃが284名めい（29.1%）で、以下いか、高校生こうこうせい相当そうとう年齢ねんれい、未み就学しゅうがく児童じどう、小学生しょうがくせい、中学生ちゅうがくせいと続つづく。しかし、65歳さい以上いじょうの水難すいなん事故じこ者しゃの致死ちし率りつは一番いちばん高たかく、7割わり近ちかくが死亡しぼうしている。これは、自身じしんの身体しんたい能力のうりょくの衰おとろえに対たいする認識にんしき不足ふそくから水難すいなん事故じこに陥おちいりやすく、さらに、水難すいなん事故じこに遭遇そうぐうした際さいに対処たいしょできうる体力たいりょくがないことによると考かんがえられている。

発生はっせい場所ばしょ

発生はっせい場所ばしょは海うみが一番いちばん多おおく、501名めいの死亡しぼう者しゃが出でていて、これは水死すいし者しゃ全体ぜんたいの50％近ちかくを占しめる。以下いか、河川かせん282名めい（28.9%）、用水路ようすいろ106名めい（10.8%）、湖みずうみ沼池ぬまいけ67名めい（6.9%）、プール7名めい（0.7%）と続つづく。

発生はっせい要因よういんと対策たいさく

「着衣ちゃくい水泳すいえい」も参照さんしょう

水死すいし事故じこの大半たいはんは着衣ちゃくいの状態じょうたいで起おこっていて、着衣ちゃくいのまま泳およぐことに慣なれていないことや、衣服いふくが水みずを含ふくんで重おもくなったり、水中すいちゅうでの抵抗ていこうになることで体力たいりょくの消耗しょうもうが激はげしいことも水死すいしに至いたる大おおきな要因よういんとなっている。

衣類いるいを身みにつけたまま水中すいちゅうに落おちた場合ばあいはむやみに泳およがず、近ちかくに浮うき木きなどがあればつかまって助たすけを待まつと体力たいりょくを消耗しょうもうしない。小学生しょうがくせいならばランドセルの中身なかみを捨すてて逆さかさまにし、浮うわき具ぐのようにするといった方法ほうほうもとれる。着衣ちゃくいの場合ばあいは不慮ふりょの事故じこで水中すいちゅうに転落てんらくする場合ばあいが多おおく、負傷ふしょうしていたり、パニック状態じょうたいに陥おちいっているために適切てきせつな対応たいおうができない例れいも多おおい。さらに、こうした事例じれいは水温すいおんが低ひくい季き節ぶしでも起おこり、体温たいおんを奪うばわれることで体力たいりょくの消耗しょうもうを早はやくして溺死できしに至いたる危険きけん性せいが高たかい。着衣ちゃくいのまま水辺みずべに近ちかづくことは危険きけんであるという危機きき意識いしきを持もつことにより、水中すいちゅうに落おちる危険きけんを回避かいひし、水中すいちゅうでも落おち着ついて対処たいしょできるように備そなえることができる。レジャーなどで水辺みずべに向むかう場合ばあいは、単独たんどくでの行動こうどうを避さけることで早期そうきの救助きゅうじょや通報つうほうが可能かのうとなる。

釣つりの場合ばあい

水死すいしにいたる以前いぜんの行為こういは魚釣さかなつり・魚さかな捕とりが最もっとも多おおく、292名めいが死亡しぼうしている。多おおくの場合ばあいは水辺みずべの危険きけん性せいに対たいする油断ゆだんが招まねいた事故じこで、強風きょうふうや雨量うりょうの多おおい時ときに釣つりをしていて高波たかなみや濁流だくりゅうに流ながされる事故じこや、酩酊めいてい状態じょうたいで釣つりをしていて防波堤ぼうはていから転落てんらくする事故じこが毎年まいとし、発生はっせいしている。また、足場あしばが不安定ふあんていなどといった、危険きけんな場所ばしょでの釣つりを避さけ、場合ばあいによっては命綱いのちづなを用もちいて安全あんぜんを確保かくほをすることが事故じこを未然みぜんに防ふせぐ。クーラーボックスを浮うわき具ぐの代用だいようにして助たすかった事例じれいも存在そんざいするが、転落てんらくに備そなえてライフジャケットを着用ちゃくようすることが生存せいぞん率りつを高たかくする。特とくに船上せんじょうでは転落てんらくする危険きけん性せいが高たかいので、ライフジャケットの着用ちゃくようが法令ほうれいで義務ぎむづけられている。

水泳すいえいの場合ばあい

急激きゅうげきな体温たいおんの低下ていかは心臓しんぞう発作ほっさなどを引ひき起おこす恐おそれがあるため、泳およぐ前まえには必かならず準備じゅんび運動うんどうにより体からだを温あたため、循環じゅんかん器き系けいを活発かっぱつにすることは日本にっぽんの義務ぎむ教育きょういく課程かていにおいて教育きょういくされている。水みずが冷つめたいときは、遊泳ゆうえいを避さけることが一般いっぱん的てきであるが、訓練くんれんなどで水みずに入はいる場合ばあいは入念にゅうねんな準備じゅんび運動うんどうが行おこなわれる。

水温すいおんが低ひくい場合ばあいは、本人ほんにんが認識にんしきしている以上いじょうに体力たいりょくの消耗しょうもうが激はげしいため、短時間たんじかんで終了しゅうりょうするように計画けいかくされる。また、はじめは水温すいおんが十分じゅうぶんに高たかくても、雨あめが降ふり始はじめると水面すいめん付近ふきんは急速きゅうそくに水温すいおんが低下ていかするため、遠泳えんえいなどを計画けいかくする場合ばあいは天候てんこうに配慮はいりょされることが一般いっぱん的てきである。

自身じしんの泳およぐ力ちからを過信かしんしたことに起因きいんして波なみや風ふう、流ながれ、水深すいしんなどに対たいする警戒けいかいが不十分ふじゅうぶんなために事故じこが発生はっせいする場合ばあいも多おおい。遊泳ゆうえいが禁止きんしされている場所ばしょは潮流ちょうりゅうが複雑ふくざつに入はいりくんでいるなどの理由りゆうがある。プールの場合ばあいは、給排水きゅうはいすい口こうに強つよい流ながれが発生はっせいしている場合ばあいがあるので近ちかづいてはならないことを示しめしている施設しせつが一般いっぱん的てきである。風かぜが強つよい時ときは水面すいめん付近ふきんに飛沫しぶきが飛とぶことがあり、これがきっかけで溺おぼれる危険きけん性せいがある。また、アルコールを摂取せっしゅした場合ばあいは、体温たいおん低下ていかによる循環じゅんかん機能きのうの低下ていかを誘発ゆうはつしやすく、同時どうじに、陸上りくじょうよりも身体しんたい能力のうりょくの低下ていかが顕著けんちょになることから、飲酒いんしゅ後ごの遊泳ゆうえいは危険きけんである。

缶かんビール１本ほん飲のんで、泳およいだ人ひとが溺死できししてしまうのは多おおくの場合ばあい、心臓しんぞう発作ほっさではなく、気道きどうの蓋ぶたである喉頭蓋こうとうがいが麻痺まひしているために気道きどうに水みずが入はいり、一瞬いっしゅんで意識いしきを失うしなってしまうからである。

川遊かわあそびの場合ばあい

釣つりやキャンプなど、河原かわらで行動こうどうする場合ばあい、ダムの放流ほうりゅうや上流じょうりゅうでの降雨こううによって短時間たんじかんで水位すいいが上昇じょうしょうして、流ながれに飲のまれる事故じこが多おおく発生はっせいする。山中さんちゅうを流ながれる川かわでは天候てんこうが急変きゅうへんしやすく、滑すべりやすくなった足場あしばから転落てんらくする例れいや、急速きゅうそくに水量すいりょうが増ふえて流ながされる例れいもある。

子供こどもの場合ばあい

乳幼児にゅうようじが数すう十じゅうセンチの深ふかさで水死すいしする例れいは絶たえず、保護ほご者しゃの監督かんとく不十分ふじゅうぶんが原因げんいんである場合ばあいが多おおい。プールでは、たとえ子供こどもがプールの底そこに沈しずんでいても他たの子供こどもには事態じたいの深刻しんこく性せいが把握はあくできずに発見はっけんが遅おくれる例れいもあり、担当たんとう教諭きょうゆやプール監視かんし員いんは特とくに注意ちゅういが求もとめられている。

体からだが成長せいちょう過程かていにある子供こどもの場合ばあい、鼻はなと耳みみとをつなぐ耳みみ管かんが大人おとなより太ふとく短みじかい。そのため、息継いきつぎに失敗しっぱいすると耳みみ管かんの奥おくまで水みずが入はいり、耳みみ管かんの奥おくにある中耳ちゅうじ内ないの圧力あつりょくが高たかまり中耳ちゅうじの内うち出血しゅっけつを起おこす。更さらに、症状しょうじょうが進すすむと三半規管さんはんきかんの麻痺まひを起おこしてめまいを発症はっしょう（大人おとなでいうとひどく泥酔でいすいした状態じょうたい）し、症状しょうじょうがひどくなると意識いしきを失うしなって溺死できしに至いたる。この要因よういんは、泳およぎが上手じょうずな子供こどもに多おおい。鼻はなの奥おくに｢ツーン｣とする痛いたみを感かんじたら、中耳ちゅうじの奥おくに水みずが入はいり込こんでいて、めまいを発症はっしょうする前兆ぜんちょうなので、直ただちに泳およぎを中止ちゅうしすることで予防よぼうできる。

その他たの原因げんいんによる溺死できし

件数けんすうは少すくないが、陸上りくじょうで溺死できしすることがある。

乾性かんせい溺おぼれ水すいとは、勢いきおいよく水みずを飲のんだ時ときなどに、誤あやまって呼吸こきゅう器きに水みずを吸すい込こんだことが原因げんいんで気道きどうがけいれんを起おこし、空気くうきの通とおり道みちがふさがれて溺おぼれ水すいや溺死できしを引ひき起おこすことである。

二に次じ溺おぼれ水すいとは、水難すいなん事故じこで溺おぼれかけたことが原因げんいんで肺はいに水みずが溜たまり、その時ときは助たすかっても数時間すうじかん後ごや数日すうじつ後ごに肺はい水腫すいしゅとなって死亡しぼうすることである。

応急おうきゅう処置しょち

応急おうきゅう処置しょちの統計とうけい

溺おぼれた人ひとを水死すいしさせないためには、早期そうきの応急おうきゅう救護きゅうご(BLS)が必要ひつようである。

一般いっぱん的てきに、心臓しんぞう停止ていしからBLS開始かいしまでに3分ふんたてば死亡しぼう率りつが50%、10分ふんたてばほとんど生存せいぞんが見込みこめなくなる。

呼吸こきゅう停止ていしの場合ばあい、BLS開始かいしまで10分ふんで死亡しぼう率りつが50%、30分ふんたてばALSを開始かいししても殆ほとんど生存せいぞんは見込みこめない。

水死すいしに至いたるまでの過程かてい

急速きゅうそくな体からだ表ひょう温度おんどの低下ていかに誘発ゆうはつされた心臓しんぞう発作ほっさや外傷がいしょうなどで意識いしきを失うしなったり、体力たいりょく低下ていかやパニック状態じょうたいに陥おちいったことで水中すいちゅうから顔かおを上あげることができずに、あるいは人為じんい的てき、偶発ぐうはつ的てきに水中すいちゅうから脱出だっしゅつできない状況じょうきょうを強しいられて窒息ちっそくに至いたる。

血ち中ちゅうの酸素さんそ濃度のうどが低下ていかすると無意識むいしきに息いきを吸すおうとしてパニックを招まねく。なんとか空気くうきを吸すおうと必死ひっしにもがき動うごくため、血ち中ちゅうの酸素さんそが消費しょうひされて脳のうが酸素さんそ不足ふそくに陥おちいり、さらに正常せいじょうな判断はんだんができなくなってしまう。

もし水みずが喉のどの中なかの喉頭こうとうあるいは声帯せいたいに入はいれば、気管きかんが凝縮ぎょうしゅくして、侵入しんにゅうを拒こばむ。肺はいには普段ふだん、この水みずの侵入しんにゅうを防ふせぐ機能きのうが働はたらいているが、一度いちど水みずが肺はいの中なかに入はいってしまえば、この機能きのうは途端とたんに無意味むいみになる。飲酒いんしゅ後ごに泳およいだ人ひとが溺死できしするのは多おおくの場合ばあい、気道きどうの蓋ぶたであるこの喉頭蓋こうとうがいが麻痺まひしているためである。

酸素さんそ欠乏けつぼうのため徐々じょじょに無意識むいしきの状態じょうたいに陥おちいり、心しん停止ていしに至いたる。まだ、この状態じょうたいになっても助たすかる可能かのう性せいはあるが、酸素さんそが一時いちじ的てきに供給きょうきゅうされなかった脳のうに障害しょうがいが残のこる場合ばあいがあり、重度じゅうどの場合ばあいは脳死のうしや遷延せんえん性せい意識いしき障害しょうがいとなる可能かのう性せいがある。

水死すいし体たいの診断しんだん

• シャウムピルツ（きのこ状じょう白色はくしょく泡沫うたかた、白色はくしょく泡沫うたかた） - 水死すいし体たいの口くちから出でてくる泡あわ。
• Treibspur ‐ 水みずに浸つかった体からだが流ながされたときにできた傷跡きずあと。
• パルタウフ斑まだら - 水死すいし体たいにみられる肺はいの内うち出血しゅっけつ。
• 漂母皮かわ化か - 長時間ちょうじかん水みずに浸ひたっていたために起おきる、手てなどのシワ。
• 蝉脱せんだつ形成けいせいは、手袋てぶくろ・足袋たびのように表皮ひょうひ層そうが剥離はくりした状態じょうたいになっていることである。
• 頭蓋とうがい底そこ錐きり体からだ部ぶの骨ほね内ない出血しゅっけつ ‐ 呼吸こきゅうや水圧すいあつなどにより発生はっせい。
• 体内たいないに侵入しんにゅうしたプランクトンの分析ぶんせき。

その他た

死因しいんが溺おぼれ水すいにならない例れい

人ひとが浴槽よくそうで沈しずんでいた等ひとし、水死すいしのように見みて取とれても、実際じっさいは水死すいしではなく他ほかの要因よういんで死亡しぼうした事ことが解剖かいぼうによって判明はんめいする場合ばあいがある。

溺おぼれ水すいによって死亡しぼうした遺体いたいの場合ばあい、肺はいを解剖かいぼうすると、中ちゅうは泡あわ立たった水みずで満みたされている事ことが多おおい。この泡あわは、呼吸こきゅうする際さいの吸気きゅうきと呼気こきによって水みずが攪拌されてできる泡あわである。肺はい内部ないぶからこのような泡あわが確認かくにんされると、呼吸こきゅうしながら水みずを吸すい込こんだ、つまり水みずを吸すい込こむ直前ちょくぜんまで生いきていた事ことを示しめすので、溺おぼれた事ことによって水死すいしした可能かのう性せいが高たかいといえる。

逆ぎゃくにこのような泡あわが確認かくにんされない場合ばあいは、呼吸こきゅうしていない状態じょうたい、すなわち溺おぼれる前まえから既すでに死しんでいて呼吸こきゅうが止とまっていると思おもわれる状態じょうたいで、後ごから呼吸こきゅう器き内ないに水みずが侵入しんにゅうしたといえる。この場合ばあい、呼吸こきゅう器き内ないに水みずが侵入しんにゅうするより前まえに、病死びょうしや殺人さつじん事件じけんなどの他ほかの要因よういんで死亡しぼうした可能かのう性せいが高たかいので、水死すいしにはならない。

この例れいは、遺族いぞくが死亡しぼう診断しんだん書しょを書かいた医師いしに対たいしてクレームを入いれるなどの争あらそいが起おきやすい。死亡しぼう診断しんだん書しょの死因しいんの項目こうもくが、病死びょうしか溺おぼれ水すい（事故死じこし）かによって、支払しはらわれる保険ほけん金きんの額がくが変かわるからである。

死因しいんの信しんぴょう性せい

死因しいんのデータについては、業界ぎょうかいにより様々さまざまな信しんぴょう性せいが問とわれている。例たとえば2009年ねん11月25日にちにサウジアラビアで発生はっせいした大雨おおあめによる大だい洪水こうずいでは100人にん以上いじょうが死亡しぼうしたが、現地げんちのメディアではこれを「洪水こうずいで100人にん以上いじょうが溺死できしした」といった内容ないようで配信はいしんされた。しかし100人にん中ちゅう100人にんが全員ぜんいん溺死できししたなどと簡単かんたんには断定だんていする事ことはできない。中なかには濁流だくりゅうに流ながされてきた石いしや岩いわなどで頭部とうぶを直撃ちょくげきし、脳のう挫傷ざしょうで死亡しぼうする場合ばあいもある。いわゆる水みずに沈しずんだ遺体いたいの全すべてが、必かならずしも溺死できししたとは限かぎらないのである。その為ため、死因しいんについての決定けっていや公表こうひょうをする場合ばあいは、慎重しんちょうになる必要ひつようがある。

事件じけん性せいのある水死すいし

事件じけん性せいが認みとめられる水死すいし体たいは解剖かいぼうなどの調査ちょうさが行おこなわれる。例たとえば、2004年ねん（平成へいせい16年ねん）11月に奈良ならで起おきた小学しょうがく一いち年生ねんせい殺害さつがい事件じけんでは、被害ひがい女児じょじの死因しいんは溺死できしであったが、気道きどうや胃いや肺はいなどに残留ざんりゅうした液体えきたいや付着ふちゃく物ぶつが調しらべられた。プランクトンや藻類そうるいなどの混在こんざいや、塩分えんぶん濃度のうどなどの水質すいしつから、水死すいしした場所ばしょが特定とくていできる。

一方いっぽう、組織そしきの含水などにより、遺体いたいの損傷そんしょうが生前せいぜんに犯人はんにんに付つけられたのか、あるいは流ながされているときについたものなのか、識別しきべつが難むずかしくなるという特徴とくちょうがある。

自殺じさつ

入水じゅすいによる自殺じさつ。遺体いたいは一旦いったん水底みなそこに沈しずむが、死後しご体内たいないで発生はっせいする腐敗ふはいガスのせいで、水上すいじょうに浮上ふじょうすることがあり、自分じぶんの遺体いたいがパンパンに膨ふくれ上あがって浮上ふじょうし、野次馬やじうまの視線しせんに晒さらされる可能かのう性せいがある。腐敗ふはいガスによる浮力ふりょくは、水深すいしんの浅あさい場所ばしょでは20 - 30キログラム重しげるにも及およぶ。また遺体いたいがどこに流ながれ着つくか分わからず、途中とちゅうで魚さかなに食たべられてしまうため、発見はっけん時じに他殺たさつ遺体いたいなのか自殺じさつ遺体いたいなのかの判別はんべつも難むずかしい。

裁判さいばん

水死すいしに関かかわる裁判さいばんは多おおく起おきている。特とくに、学校がっこうのプールを管理かんりする教師きょうしや行政ぎょうせいや、部活ぶかつをやっていて溺おぼれた場合ばあいなどの子供こどもを管理かんりする監督かんとく者しゃに対たいする過失かしつが問とわれる裁判さいばんが起おきており、中なかには水死すいしした子供こどもの親おやに対たいして過失かしつ相殺そうさいが認みとめられる事例じれいも多おおく見みられる。

学校がっこうプールにおける事故じこを参照さんしょう

事故じこ・裁判さいばん事例じれい

1987年ねん4月がつ15日にち、神奈川かながわ県けん伊勢原いせはら市し県立けんりつ伊勢原いせはら養護ようご学校がっこう高等こうとう部ぶの男子だんし生徒せいと（当時とうじ2年ねん）が水泳すいえいの授業じゅぎょうで14個この浮力ふりょく補助ほじょ器具きぐをつけて遊泳ゆうえい中ちゅう、水みずを怖こわがり暴あばれたため個人こじん指導しどうの担任たんにん教師きょうしが生徒せいとの頭あたまを水中すいちゅうに沈しずめたところ大量たいりょうの水みずを吸すい込こみ死亡しぼう。両親りょうしんが7150万まん円えんの損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめて提訴ていそ、最高裁さいこうさいにて逸失いっしつ利益りえきの算定さんていが争点そうてんとなる。1994年ねん11月29日にち、宍戸ししど達徳たつのり裁判さいばん長ちょうは賠償ばいしょう総額そうがくを4840万まん円えんとした。

2006年ねん、中国ちゅうごく昆こん明あきら（標高ひょうこう1900m）にて潜水せんすいトレーニング中ちゅうに日本体育大学にほんたいいくだいがく水泳すいえい部ぶ男子だんし部員ぶいん（当時とうじ20歳さい）が死亡しぼう。後ご、遺族いぞくが同どう大学だいがくと水泳すいえい部ぶコーチを相手取あいてどって民事みんじの損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう訴訟そしょう。

2011年ねん7月がつ、学校がっこう法人ほうじん西山にしやま学園大和がくえんだいわ幼稚園ようちえん（神奈川かながわ県けん大和やまと市し）に登とう園えんする園児えんじ（当時とうじ3歳さい）が屋内おくないプール活動かつどう後ご、水みずに浮ういた状態じょうたいで見みつかり、事故じこ発生はっせい当日とうじつに搬送はんそう先さき病院びょういんで死亡しぼう。2015年ねん、横浜よこはま地裁ちさい（近藤こんどう宏子ひろこ裁判さいばん長ちょう）にて園長えんちょうに無罪むざい判決はんけつ、監督かんとく役やくの女性じょせい教諭きょうゆに罰金ばっきん50万まん円えんの判決はんけつ。

2012年ねん7月がつ30日にち、京都きょうと市立しりつ養やしなえ徳とく小学校しょうがっこう主催しゅさいの水泳すいえい指導しどう教室きょうしつにて女子じょし児童じどう（当時とうじ1年生ねんせい）がプールで浮ういた状態じょうたいで見みつかる。病院びょういん搬送はんそうされICUで治療ちりょうを行おこなうも翌よく夕ゆう死亡しぼう。後ご、第三者だいさんしゃ調査ちょうさ委員いいん会かい設置せっち。2014年ねん、京都きょうと地裁ちさいにおいて市しに対たいして2700万まん円えんの支払しはらいを命めいじる判決はんけつ。

2014年ねん7月がつ、京都きょうと市し上京かみぎょう区くの民営みんえい認可にんか保育園ほいくえん「せいしん幼児ようじ園えん」にてプールで水遊みずあそびをしていた4歳児さいじが死亡しぼう。後ご、市しが調査ちょうさ報告ほうこく書しょを作成さくせい。

2014年ねん7月がつ、名古屋なごや市立しりつ昭和しょうわ橋きょう中学校ちゅうがっこう2年ねんの男子だんし生徒せいとが保健ほけん体育たいいくを受うけ持もつ男性だんせい教諭きょうゆの指導しどうの下した、水泳すいえい授業じゅぎょう自由じゆう練習れんしゅうでプールに飛とび込こんだ際さいにプール底そこに激突げきとつし首くびを骨折こっせつ。首くびから下したが不ふ髄ずいの状態じょうたい。

判例はんれい

• 東京とうきょう高だか判ばん平成へいせい6年ねん11月29日にち（判例はんれい時報じほう1516号ごう78頁ぺーじ）。
• 平成へいせい26(わ)81 業務ぎょうむ上じょう過失かしつ致死傷ちししょう （認定にんてい罪名ざいめい：業務ぎょうむ上じょう過失かしつ致死ちし）平成へいせい28年ねん5月がつ30日にち 松山まつやま地方裁判所ちほうさいばんしょ。

生物せいぶつによる水死すいし体たいの損壊そんかい

水中すいちゅうに沈没ちんぼつあるいは漂流ひょうりゅうしている間あいだ、しばしば魚類ぎょるいやカニなどの摂食せっしょくを受うけ、遺体いたいの分解ぶんかいが早はやまることがある。

水死すいし体たいを損壊そんかいする生物せいぶつ

文献ぶんけん	場所ばしょ	生物せいぶつ種しゅ	備考びこう
Raimondi & Rossi (1888)	ヨーロッパ （淡水たんすい）	Gammarus pulex（ヨコエビ）	全身ぜんしんに多数たすうの食しょく痕こん
Holzer (1939)	オーストラリア （淡水たんすい）	トビケラの幼虫ようちゅう	表皮ひょうひ全体ぜんたいを蚕食さんしょく
松倉まつくら (1959)	日本にっぽん （海うみ）	ヒメフナムシ（等とう脚あし目め）
小関おぜき・山内やまうち (1964)	新潟にいがた県けん （海うみ）	トンガリキタヨコエビ（ヨコエビ），ニセスナホリムシ（等とう脚あし目め），イソコツブムシ（等とう脚あし目め）	約やく2日間にちかんで表皮ひょうひを侵蝕しんしょく
	新潟にいがた県けん （海うみ）	タダノツノアゲソコエビ（ヨコエビ）	約やく2日間にちかんで顔面がんめん・頸部に多数たすうの食しょく痕こん
	新潟にいがた県けん （淡水たんすい）	キタヨコエビ科かの一種いっしゅ（ヨコエビ）	3 - 5日間にちかんで顔面がんめん・頸部に多数たすうの食しょく痕こん
永田ながたほか (1967)	福岡ふくおか県けん （海うみ）	ナイカイツノフトソコエビ（ヨコエビ），ウミホタル	14 - 15時じ間あいだで顔面がんめん・頸部が白骨はっこつ化か
平澤ひらさわほか (1999)	三重みえ県けん （海うみ）	ニセスナホリムシ（等とう脚あし目め）	約やく24時じ間あいだで頭部とうぶと手ての一部いちぶが白骨はっこつ化か
柏木かしわぎほか (2010)	日本にっぽん（海うみ）	ニセスナホリムシ（等とう脚あし目め）	38 - 42時じ間あいだで顔面がんめん表皮ひょうひを蚕食さんしょく

また、遺体いたいの着衣ちゃくい内側うちがわにメジナやサンマが潜もぐりこんだり、産卵さんらんしていたという事例じれいも知しられるが、隠かくれおよび産卵さんらん場所ばしょとして利用りようされていたものと考かんがえられている。その他た、損壊そんかいに関与かんよしないものの、遺体いたいに付着ふちゃくする生物せいぶつは多岐たきに及およぶ（小関おぜき・山内やまうち, 1964）。

土左衛門どざえもん

水みずに浮ういた水死すいし体たいのことを「土左衛門どざえもん（どざえもん）」と呼よぶのは江戸えど時代じだいからの伝統でんとうである。

名前なまえの由来ゆらいは、山東さんとう京伝きょうでんの『近世きんせい奇跡きせき考こう』巻まき1に「案あん（あんず）るに江戸えどの方言ほうげんに 溺死できしの者ものを土左衞門どざえもんと云うん（いふ）は成瀨川なるせがわ肥大ひだいの者ものゆゑに水死すいしして渾身こんしん㿺（こんしんふくれ）ふとりたるを土左衞門どざえもんの如ごとしと戲おどけ（たはむれ）いひしがつひに方言ほうげんとなりしと云うん」とある。水死すいし体たいはいったん水底みなそこに沈しずみ腐敗ふはいが始はじまるとガスを発生はっせいし、組織そしきが水みずを吸すってぶよぶよになり、体からだが膨ふくれ上あがって真まっ白しろに見みえることがある。この様ようが、享とおる保ほ年間ねんかんに色白いろじろで典型てんけい的てきなあんこ型がた体形たいけい（締しまりのない肥満ひまん体たい）で有名ゆうめいだった大相撲おおずもう力士りきし、成瀬川なるせがわ土左衛門どざえもんにそっくりだったことからこの名ながついたという 。

力士りきしの四股しこ名めいには伝統でんとう名めいとして繰くり返かえし襲名しゅうめいされるものが多おおいが、「土左衛門どざえもん」はこの成瀬川なるせがわの後のちは一いち度ども襲名しゅうめいされることがなかった。

昔むかしから海運かいうん業ぎょう、海洋かいよう土木どぼく、水産すいさん業ぎょう、造船ぞうせん業ぎょう等とう海うみにまつわる業界ぎょうかいでは、土左衛門どざえもんを発見はっけんし陸りくに上あげて供養くようすることは縁起えんぎが良よいこととされている。

脚注きゃくちゅう

関連かんれん項目こうもく

• 窒息ちっそく
• 溺おぼれ水すい
• 心肺しんぱい蘇生そせい法ほう (CPR)
• 海難かいなん事故じこ
• 水難すいなん事故じこ
• 事故死じこし
• 着衣ちゃくい水泳すいえい
• セイリッシュ海うみにおける人間にんげんの足あしの発見はっけん