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社会契約 - Wikipedia

社会しゃかい契約けいやく(しゃかいけいやく、えい: social contractふつ: contrat social)は、政治せいじがく法学ほうがくで、ある国家こっかとその市民しみん関係かんけいについての契約けいやく用語ようご

解説かいせつ

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社会しゃかい/国家こっかかんする市民しみん/民衆みんしゅう(や王家おうけ)の「黙契もっけい」や「立法りっぽう誓約せいやく」としての社会しゃかい契約けいやく思想しそうてき萌芽ほうがは、プラトンの『クリトン』や『国家こっかだい2かんや『法律ほうりつだい3かんなどにすでに表現ひょうげんされ、歴史れきしてきにはマグナ・カルタアーブロース宣言せんげんなどに、権力けんりょく基礎きそが「人民じんみん同意どういもとづく」という契約けいやくろんてきかんがかたとしては、16世紀せいきのスペイン、フランス、イタリアのジェスイットやカルバン神学しんがくしゃ法学ほうがくしゃ政治せいじ学者がくしゃ主張しゅちょう発見はっけんすることができる[1]

近代きんだい近世きんせい)における社会しゃかい契約けいやくせつは、自然しぜん状態じょうたい自然しぜんけん自然しぜんほう概念がいねんともろんじられ、(人間にんげん自然しぜん状態じょうたいいものかわるいものかについては、論者ろんしゃによってちがいがあるものの、いずれにしても)自然しぜんけん自然しぜんほう擁護ようごすることを目的もくてきとして社会しゃかい契約けいやくむすぶべきであるという構図こうずであり、これは、17世紀せいきトマス・ホッブズリヴァイアサン』やジョン・ロック統治とうちろん』、18世紀せいきジャン=ジャック・ルソー社会しゃかい契約けいやくろん』、そして20世紀せいきジョン・ロールズロバート・ノージックいたるまで、社会しゃかい契約けいやくせつとなえる哲学てつがくしゃ伝統でんとうてき継承けいしょうされている[2]

ジョン・ロールズは、社会しゃかい契約けいやくせつを、自然しぜんほう自然しぜんけんという古典こてんてき概念がいねん回避かいひして、一般いっぱん抽象ちゅうしょうし、国家こっか成立せいりつするまえ仮定かていてき社会しゃかいについて、つぎのような思考しこう実験じっけんおこなう。ロールズは、その社会しゃかいは、合意ごうい成立せいりつする国家こっかかんする情報じょうほうについては、その構成こうせいいん全員ぜんいんすべ公正こうせいに「無知むちのヴェール」におおわれた「原初げんしょ状態じょうたい」にあるとしたうえで、その状態じょうたいしたでは、自由じゆう平等びょうどう道徳どうとくてきひとは、利己りこてき相互そうご無関心むかんしん性向せいこう人々ひとびとであっても、合理ごうりてき判断はんだんとして、人々ひとびと公正こうせい最悪さいあく状態じょうたいおちいることを最大限さいだいげん回避かいひする条件じょうけん合意ごういするはずであるとして構成こうせいいん合意ごういによる国家こっか成立せいりつみちびし、かつ、その条件じょうけん実現じつげんしている理想りそうてき社会しゃかいを「秩序ちつじょある社会しゃかい」としたうえで、その条件じょうけん可能かのうならしめる原理げんり公正こうせいとして正義せいぎ原理げんりとして、格差かくさ原理げんりマキシミン原理げんりという正義せいぎかんするいつつの価値かち原理げんりみちびした。

アメリカ独立どくりつ戦争せんそうフランス革命かくめいつうじててられた〈社会しゃかい契約けいやく〉の概念がいねんもっと初期しょき明確めいかく批判ひはんくわえたのがバークである。バークは革命かくめい政府せいふやその同調どうちょうしゃとなえる〈社会しゃかい契約けいやく〉の契約けいやく欺瞞ぎまんせい糾弾きゅうだんし、社会しゃかいにおいてつたえられ・保持ほじされてきた〈本源ほんげんてき契約けいやく〉とは、憲法けんぽう制定せいてい会議かいぎ人民じんみん公会こうかい集合しゅうごうした人々ひとびと自由じゆう意志いし理性りせいなどにより容易ようい締結ていけつでき、変更へんこうできるようなものではないとした。

一方いっぽうマルクスは、近代きんだい以降いこう社会しゃかい契約けいやくろん共通きょうつうする「自由じゆうしょ個人こじんあいだ契約けいやくむす社会しゃかい形成けいせいしている」という前提ぜんていそのものに批判ひはんける。歴史れきしてきには「われわれが歴史れきしとおくさかのぼればさかのぼるほど、ますます個人こじんは、したがってまた生産せいさんをおこなう個人こじんも、独立どくりつしていないものとして、あるよりおおきな全体ぜんたいぞくするものとして、あらわれる。すなわち、最初さいしょはまだまったく自然しぜんてき仕方しかた家族かぞくのなかに、また種族しゅぞくにまで拡大かくだいされた家族かぞくのなかにあらわれ、のちには、しょ種族しゅぞく対立たいりつ融合ゆうごうからしょうずる種々しゅじゅ形態けいたい共同きょうどうたいのなかにあらわれる」のであって、個人こじん社会しゃかい先立さきだって存在そんざいするものではないと指摘してきする[3]個人こじん歴史れきしじょう登場とうじょうするのは中世ちゅうせい社会しゃかい崩壊ほうかいともな現象げんしょうであり、エーリッヒ・フロムは「封建ほうけん社会しゃかいという中世ちゅうせいてき社会しゃかい崩壊ほうかいは、社会しゃかいのすべての階級かいきゅうにたいして、ひとつの重要じゅうよう意味いみっていた。すなわち個人こじんはひとりとりのこされ、孤独こどくおちいった。かれは自由じゆうになった。しかしこの自由じゆうじゅう意味いみをもっていた。人間にんげん以前いぜん享受きょうじゅしていた安定あんていせいうたが余地よちのない帰属きぞくかんとをうばわれ、経済けいざいてきにも精神せいしんてきにも個人こじん安定あんていもとめる要求ようきゅうをみたしてくれた外界がいかいから、はなたれたのである。かれは孤独こどくとなり、不安ふあんおそわれた。しかしかれはまた自由じゆうとなり、独立どくりつして行動こうどうかんがえることができ、自己じこ主人しゅじんとなることができた。また自分じぶん生活せいかつひとからめいじられるようにではなく、自分じぶんがなしうるようにとりはからうようになった」[4]とその経緯けいい描写びょうしゃしている。

このようにマルクスは近代きんだい以降いこう社会しゃかい契約けいやくろん前提ぜんていとなる理論りろんを「いちはち世紀せいき個人こじん——いちめんでは封建ほうけんてき社会しゃかい形態けいたい解体かいたい産物さんぶつ他面ためんではいちろく世紀せいき以来いらいあたらしく発展はってんした生産せいさんしょちから産物さんぶつ——が、すでに過去かこ存在そんざいになっている理想りそうとして」、つまり「ひとつの歴史れきしてき結果けっかとしてではなく、歴史れきし出発しゅっぱつてんとして」おり、「錯覚さっかく」であると批判ひはんしている[5]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょニッポニカ「社会しゃかい契約けいやくせつ田中たなかひろし[1]
  2. ^ あずまひろし、『一般いっぱん意志いし2.0』、講談社こうだんしゃ、2011ねん、36ぺーじ参照さんしょう
  3. ^ 「(経済けいざいがく批判ひはんへの)序文じょぶん」(マルクス・エンゲルス全集ぜんしゅう13-616[MEGA]表記ひょうき
  4. ^ 自由じゆうからの逃走とうそう』106–107ぺーじ
  5. ^ 「(経済けいざいがく批判ひはんへの)序文じょぶん」(マルクス・エンゲルス全集ぜんしゅう13-615[MEGA]表記ひょうき

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 塩野谷しおのや祐一ゆういちロールズの社会しゃかい契約けいやくろん構造こうぞう」『人文じんぶん科学かがく研究けんきゅうだい21ごう一橋大学ひとつばしだいがく、1981ねん、125-218ぺーじdoi:10.15057/9915ISSN 04410009NAID 110007623393 
  • ジャン=ジャック・ルソー ちょ桑原くわばら武夫たけお わけ社会しゃかい契約けいやくろん岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、1954ねん1がつISBN 9784003362334 
  • ジョン・ロック ちょ鵜飼うかい信成のぶなり やく市民しみん政府せいふろん岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、1968ねん 
  • ホセ・ヨンパルト古代こだい中世ちゅうせい社会しゃかい契約けいやくろん:スアレスの思想しそう中心ちゅうしんにして (社会しゃかい契約けいやくろん)」『ほう哲学てつがく年報ねんぽうだい1983ごう有斐閣ゆうひかく、1983ねん、1-18ぺーじISSN 0387-2890NAID 40003497275 
  • ホッブズ ちょ水田すいでんよう やく『リヴァイアサン 1』岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、1992ねん2がつISBN 4003400410 
  • ホッブズ ちょ水田すいでんよう やく『リヴァイアサン 2』岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、1992ねん8がつISBN 4003400429 
  • ホッブズ ちょ水田すいでんよう やく『リヴァイアサン 3』岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、1982ねん5がつISBN 4003400437 
  • ホッブズ ちょ水田すいでんよう やく『リヴァイアサン 4』岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、1985ねん6がつISBN 4003400445 
  • マルクス『(経済けいざいがく批判ひはんへの)序文じょぶん大月書店おおつきしょてん〈マルクス・エンゲルス全集ぜんしゅう〉。 
  • E.フロム ちょ日高ひだか六郎ろくろう やく自由じゆうからの逃走とうそう東京とうきょうそうもとしゃ、2007ねん11月20にちISBN 9784488006518 

文献ぶんけん情報じょうほう

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  • 関谷せきやのぼる近代きんだい社会しゃかい契約けいやくせつ原理げんり-ホッブス、ロック、ルソーぞう統一とういつてきさい構成こうせい東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱんかい、2003ねんISBN 9784130362139 
  • ディヴィッド・バウチャー、ポール・ケリーへん ちょ飯島いいじまのぼるぞう佐藤さとうただしこころざしほか やく社会しゃかい契約けいやくろん系譜けいふ-ホッブズからロールズまで』ナカニシヤ出版しゅっぱん、1997ねんISBN 9784888483483 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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