サルでも描けるまんが教室

『サルでも描えがけるまんが教室きょうしつ』（サルでもかけるまんがきょうしつ）は、相原あいはらコージ、竹たけ熊ぐま健太郎けんたろうによる漫画まんが。愛称あいしょう「サルまん」。

「漫画まんがの入門にゅうもん書しょ」という形式けいしきをとってはいるが、ギャグやパロディ、実験じっけん的てき要素ようそなどが多おおく取とり入いれられ、特とくに当時とうじの漫画まんが事情じじょうを的確てきかくに分析ぶんせきした・時じには身体しんたいを張はった痛烈つうれつなギャグは、読者どくしゃ・漫画まんが関係かんけい者しゃたちから多おおくの反響はんきょうを得えた。

概要がいよう

1989年ねん「ビッグコミックスピリッツ」に連載れんさい。

作者さくしゃを模もした二人ふたりの青年せいねん漫画まんが家か・相原あいはら弘治こうじ（19歳さい）と竹たけ熊ぐま健太郎けんたろう（22歳さい）が、“漫画まんがで日本にっぽんを支配しはいする”という野望やぼうを達成たっせいするために、ヒットする漫画まんがの研究けんきゅうや執筆しっぴつに取とり組くみ、ついには大だいヒット作さく『とんち番長ばんちょう』を描えがき、野望やぼうを実現じつげん（そして崩壊ほうかい）するまでの軌跡きせきを、物語ものがたり形式けいしきで描えがいたもの。タイトル案あんには『仁義じんぎなきマンガ教室きょうしつ』『男おとこ汁じる』などがあったが、略称りゃくしょうの語呂ごろが悪わるいため現在げんざいの名前なまえとなった。

連載れんさい当時とうじは全ぜん3巻かん・ソフトカバーのB5版はん単行本たんこうぼんにまとめられた（1巻かん初版しょはんのみおまけとしてポイント表ひょうつきのシステム手帳てちょう用よう定規じょうぎがついている）。その後ごも根強ねづよい人気にんきに支ささえられ、何なん回かいか増補ぞうほ改定かいていされた新装しんそう版ばんが出版しゅっぱんされている。21世紀せいき愛蔵あいぞう版ばんには、新あらたに「萌もえ」をテーマとした章あきらも追加ついかされている。

• 1997年ねん　新装しんそう版ばん「サルまん」（上下じょうげ二に分冊ぶんさつ）
• 2006年ねん　「サルまん　サルでも描えがけるまんが教室きょうしつ　21世紀せいき愛蔵あいぞう版ばん」（上下じょうげ二に分冊ぶんさつ）

2007年ねん、竹たけ熊ぐまのブログにて同年どうねん秋あきより続編ぞくへん『サルまん2.0』を連載れんさいするため準備じゅんび中ちゅうである事ことが公表こうひょうされた。そして、月刊げっかんIKKI12月号ごうより連載れんさいが始はじまっている。

登場とうじょう人物じんぶつ

相原あいはら弘治こうじ

竹たけ熊ぐまと共ともに漫画まんがでの日本にっぽん征服せいふくを目指めざす青年せいねん。主おもに絵えを担当たんとう。絵えは上手うまいが、世間せけんの事ことをあまり知しらず、竹たけ熊ぐまから多おおくの奥義おうぎを伝授でんじゅされる。相原あいはらコージの本名ほんみょうと同姓どうせい同名どうめい。

竹たけ熊ぐま健太郎けんたろう

相原あいはらに漫画まんがの奥義おうぎを伝授でんじゅし、二人ふたりで日本にっぽん征服せいふくを目指めざす青年せいねん。主おもに話はなしを担当たんとうし、自分じぶんでも絵えを描えがく。相当そうとうの分析ぶんせき力りょくを持もつが、どこか抜ぬけてるため『吉きち四よん六ろくチ○コ事件じけん』を引ひき起おこすなど失敗しっぱいも多おおい。

佐藤さとう

二人ふたりの担当たんとう編集へんしゅう者しゃ。巨体きょたいに筋肉質きんにくしつの体からだで辮髪べんぱつというヘアスタイルの、二人ふたりが予想よそうしたどの編集へんしゅう者しゃのタイプにも当あてはまらない人物じんぶつ。ふくしま政美まさみの『聖せいマッスル』に登場とうじょうするキャラクターがモデル。

白井しらい編集へんしゅう長ちょう

週刊しゅうかん少年しょうねんスピリッツの編集へんしゅう長ちょうながら、日本にっぽんの全ぜん出版しゅっぱん社しゃ支配しはいを目論もくろむ男おとこ。毎回まいかい『とんち番長ばんちょう』にダメ出しゅっしし、出来できなければ「打うち切きり」との脅おどしを二に人にんにかける。ヤクザ風ふうの風貌ふうぼうで、「オメコ好すきけ？」が口癖くちぐせ。モデルは当時とうじのビッグコミックスピリッツ編集へんしゅう長ちょうで、現在げんざい小学しょうがく館かんの取締役とりしまりやく・白井しらい勝也かつや。

青空あおぞらのぼる

佐藤さとうが担当たんとうしていた大御所おおごしょ漫画まんが家か。時代じだいとズレてしまったため連載れんさいを打うち切きられ落おちぶれてしまう。たまに佐藤さとうのもとに作品さくひんを持もち込こんで困こまらせている。

『サルまん』におけるパロディ

『サルまん』には、数すう多おおくのパロディが取とり入いれられている。

• 独特どくとくの濃こい絵柄えがらや野望やぼうに燃もえるところは、雁かり屋や哲あきら・由起ゆき賢二けんじ著ちょ『野望やぼうの王国おうこく』のパロディ。最初さいしょのうちは、通常つうじょうの絵柄えがらでは単調たんちょうになるため画風がふうを数すう回かいごとに少女しょうじょ漫画まんが風ふうなどに順次じゅんじ変かえていくつもりだったが、最初さいしょにこの画風がふうを選択せんたくして話はなしを進すすめたところ、異様いようにハマってしまったため、ついに最後さいごまでこの画風がふうで通とおしたという。
• 初期しょきの数すう回かいは漫画まんが表現ひょうげんの技術ぎじゅつ論ろんとなっており、「駒こまの枠わく線せんの引ひき方かた」や「ストーリーの組くみ立たて方かた」などを紹介しょうかいする普通ふつうの漫画まんが技法ぎほう書しょのスタイルに沿そったものであるが、そこに極端きょくたんなネタを放ほうり込こんだり（枠わく線せんの引びき方かたの回かいでは、例れいの一ひとつとして「陰毛いんもうによる枠わく線せん」が登場とうじょうする等ひとし）、当時とうじヒットしていた様々さまざまな漫画まんが作品さくひんを取とり込こむなど、実験じっけん的てきな要素ようそもある。
  • 各かく出版しゅっぱん社しゃの傾向けいこう…『桃太郎ももたろう』を元もとネタにした各かく出版しゅっぱん社しゃの典型てんけい的てきな漫画まんが作品さくひん（少年しょうねんジャンプなら「桃太郎ももたろう＋『北斗ほくとの拳こぶし』」など）
  • サラリーマン漫画まんが…『課か長島ながしま耕作こうさく』+『釣つりバカ日誌にっし』
  • エロコメ…遊ゆう人じん『ANGEL』
  • 薀蓄漫画まんが…『包丁ほうちょう人じん味あじ平たいら』などビッグ錠じょう作品さくひん
  • 政治せいじ風刺ふうし漫画まんが…横山よこやま泰三たいぞう作品さくひん（彼かれの作品さくひんに対たいするあからさまな嫌味いやみ・非難ひなんであるとも言いわれる）　etc
• 漫画まんが内ないに登場とうじょうする辮髪べんぱつの編集へんしゅう者しゃ佐藤さとうは、ふくしま政美まさみの『聖せいマッスル』に登場とうじょうする巨人きょじん王おうがモデル。
• 同おなじく、漫画まんが内ないに登場とうじょうする大御所おおごしょ漫画まんが家か青空あおぞらのぼるが描えがく漫画まんがの画風がふうは、前谷まえたに惟おもんみ光こうのパロディ。

まんがのパターン分析ぶんせき

パロディという形かたちでまんがにありがちなパターンをとりあげている。サルまんによって有名ゆうめいになった概念がいねんも存在そんざいする。→物語ものがたりの類型るいけいも参照さんしょうのこと。

• メガネくん

少年しょうねんまんがにおいて主役しゅやく級きゅうのキャラの後のちについてまわるあまり目立めだたないキャラ。ヒーローが読者どくしゃの願望がんぼうの象徴しょうちょうならばメガネくんは「読者どくしゃそのもの」であり、読者どくしゃはメガネくんを通つうじて作品さくひんの世界せかいと一体化いったいかする。

• 強つよいやつのインフレ

少年しょうねんまんが（バトルまんが）においては最初さいしょの敵てきより二に番目ばんめの奴やつが、二に番目ばんめより三さん番目ばんめの奴やつが強つよくなる。しかし連載れんさいが長ながく続つづけば続つづくほど、作者さくしゃがもて余あますほどに強つよい奴やつを出だすことにもなってしまう。俗ぞくに『ドラゴンボール現象げんしょう』としても知しられる。

• 少女しょうじょまんがにおける出会であい演出えんしゅつ

食しょくパンを咥くわえて「ちこくちこく」と叫さけびながらあわてて家いえを飛とび出だすヒロインが、通学つうがく路ろで少年しょうねんとぶつかって恥はじをかく。その少年しょうねんは実じつは、ヒロインのクラスにその日ひやってきた転校生てんこうせいであった。このパターンは『新しん世紀せいきエヴァンゲリオン』テレビ版ばん最終さいしゅう回かいの一部いちぶで、オマージュとして使用しようされている。

• 庶民しょみんの良識りょうしき

風刺ふうしまんがにおいては、庶民しょみんの良識りょうしきに基もとづいて政治せいじや社会しゃかい情勢じょうせいを風刺ふうしする。その庶民しょみんの良識りょうしきとは、

1. 権力けんりょくは悪わるい
2. 昔むかしはよかった　

の2種類しゅるいのみである。

• イヤボーンの法則ほうそく

エスパーまんがにおける法則ほうそく。ヒロインがピンチに陥おちいり「イヤァッ！」と叫さけぶと眠ねむっていた「能力のうりょく」が覚醒かくせいし敵てきの頭あたまが「ボーン」と破裂はれつする。読者どくしゃに超ちょう能力のうりょくの威力いりょくを見みせ、話はなしを先さきに進すすめるためのわかりやすいパターン。この表現ひょうげんは、映画えいが『スキャナーズ』からの派生はせいと思おもわれる。

とんち番長ばんちょう

作中さくちゅうで、架空かくうの少年しょうねん漫画まんが雑誌ざっし「少年しょうねんスピリッツ」に連載れんさいされた漫画まんが作品さくひんで、一種いっしゅの劇げき中ちゅう劇げき。少年しょうねんスピリッツ・発行はっこう部数ぶすう1000万まん部ぶ突破とっぱの原動力げんどうりょくとなった作品さくひんで、アニメ化かもなされた。アニメ化かの際さいは元もととは似にても似につかぬ絵柄えがらに変更へんこうされ、また原作げんさく者しゃとしては特とくに主人公しゅじんこう役やくの声優せいゆうの選定せんていに、かなり不満ふまんがあった様子ようす（野沢のざわ雅子まさこを希望きぼうしていた模様もよう）。

注意ちゅうい : 以降いこうに、作品さくひんの結末けつまつなど核心かくしん部分ぶぶんが記述きじゅつされています（笑）

主人公しゅじんこうのとんち番長ばんちょうとお供ともの一休いっきゅう、彦一ひこいち、吉きち四よん六ろくが数々かずかずの番長ばんちょうととんちで対決たいけつする。物語ものがたりが進すすむにつれてとんち番長ばんちょうの過去かこがあきらかになり、やがてとんちを悪用あくようする秘密ひみつ結社けっしゃ・黒くろとんち教団きょうだんとの対決たいけつへと発展はってんする。

黒くろとんち教団きょうだんとの対決たいけつは連載れんさい301回かい目めでとんち番長ばんちょうの死しとともに完結かんけつ、同時どうじに連載れんさい終了しゅうりょうする予定よていだったが、人気にんき作さくの終了しゅうりょうを阻止そしするため編集へんしゅう側がわが原稿げんこうの「完かん」の文字もじを改竄かいざん、強引ごういんに連載れんさい続行ぞっこうされた（『男おとこ一いち匹ひきガキ大将がきだいしょう』で実際じっさいにあった事例じれいのパロディ）。

連載れんさい続行ぞっこう後ごはとんち番長ばんちょうの頓智とんちとゲルとんち教団きょうだんとの対決たいけつになる。しかし時代じだいとずれてしまったのか人気にんきが急落きゅうらくし、ラブコメ編へん、ギャグ編へん、バレエ編へん、料理りょうり編へん、サッカー編へんなどと内容ないようを変かえて迷走めいそうしていく。

サッカー編へん中盤ちゅうばんはオカルト（電波でんぱ系けい）じみた内容ないようとなり、この後のち打うち切きりとなった。

登場とうじょう人物じんぶつ

• とんち番長ばんちょう　声こえ：高橋たかはし和枝かずえ（←もちろん架空かくう設定せっていである）

主人公しゅじんこう。幼少ようしょうの頃ころに黒くろとんち教団きょうだんにさらわれ、黒くろとんち(要ようするに詐欺さぎなど)のスペシャリストとして人間にんげん世界せかいに送おくり込こまれるが、道みちでであったとんち道人どうじんに負まかされたことにより白しろとんちに目覚めざめ、黒くろとんち教団きょうだんへの対決たいけつを挑いどむようになる。とんちに負まけると、黒くろとんち教団きょうだんによりその一員いちいんの証あかしとして頭あたまの中なかに埋うめ込こまれた爆ばく弾だんが爆発ばくはつしてしまう。

• 一休いっきゅう

とんち番長ばんちょうの家来けらい。黒くろとんちに対たいしてあまりにもストレートな答こたえを出だすため、その結果けっか、普通ふつうなら間違まちがいなく死しぬ様ようなひどい目めに合あう事ことが多おおい。しかし基本きほん的てきに不死身ふじみで、五体ごたいばらばらになっても生いきている。

• 彦一ひこいち

とんち番長ばんちょうの家来けらい。全まったく頭あたまがやわらかくなく、非ひ現実げんじつ的てきな答こたえばかり出だす（「象ぞうを飲のみ込こめ」というとんちに対たいし、「ステーキにして食たべればいい」など）。鹿児島かごしま弁べんを使つかう。

• 吉きち四よん六ろく(きっちょむ)

とんち番長ばんちょうの家来けらい。状況じょうきょう整理せいりが得意とくいで、初期しょきは毎回まいかい警察けいさつに頼たよろうとする優等生ゆうとうせいキャラだったが、実じつは女性じょせいであり、男おとこでないととんち番長ばんちょうの家来けらいにしてもらえないと思おもって性せいを偽いつわっていた。なお、女性じょせいである事ことは連載れんさいが進すすんでからの設定せってい変更へんこうであり、また設定せってい変更へんこう以前いぜんのある一いちコマに吉きち四よん六ろくの陰茎いんけいが描えがかれていたため、その後ごの対応たいおうの拙つたなさ(「水みずをかけると女性じょせい化かする」のアイデアが出だされ、らんま1/2だとして却下きゃっかされる等とう)に高橋たかはし留美子るみこらが意見いけんを寄よせたりと、劇げき中ちゅう・現実げんじつともに大だい論争ろんそうを巻まき起おこす事ことになった。

• とんち道人どうじん

黒くろとんち教団きょうだんが最もっとも恐おそれる老人ろうじん。白しろとんち族ぞくの生いき残のこり。まだ黒くろとんちに染そまっていたとんち番長ばんちょうに勝負しょうぶを挑いどむが、彼かれを殺ころさせまいと先さきに彼かれの答こたえを予想よそうし、とんち番長ばんちょうを助たすけた。以降いこうとんち番長ばんちょうは正義せいぎのためにとんちを使つかうことを誓ちかう。

• 意味いみなし番長ばんちょう

黒くろとんち教団きょうだんの主催しゅさい者しゃでとんち番長ばんちょうの父ちち。どんなとんちに対たいしても理由りゆうも言いわずにその通とおりに答こたえてしまう為ためこの名前なまえがついた。しかしとんち番長ばんちょうの「俺おれを飲のみ込こめ」というとんちに答こたえた所ところ、とんちに負まけたとんち番長ばんちょうが彼かれの体内たいないで爆発ばくはつしたため、とんち番長ばんちょうと共ともに爆ばく死しした。

• とんち番長ばんちょう（２代目だいめ）

第だい二に部ぶ以降いこうの主人公しゅじんこう。初代しょだいのとんち番長ばんちょうと吉きち四よん六ろくの間あいだに生うまれた子供こども。・・・であったはずだが、第だい二に部ぶ以降いこうの人気にんき急降下きゅうこうかに伴ともなう強引ごういんな打うち切きりによって、正体しょうたいが巨大きょだい宇宙うちゅう人じんという事ことにされてしまい、正体しょうたいが発覚はっかくした彼かれは故郷こきょうへと去さって行いく。一応いちおう、バレエ編へんの時ときに正体しょうたいについての伏線ふくせんは張はってあった。

備考びこう

• このマンガ内ないで、作者さくしゃが意図いと的てきに流行はやらせようとしたポーズ・「ちんぴょろすぽーん」があるが、『Mr.Clice』（作さく・秋本あきもと治おさむ）ではパロディとしてポーズもそのままで登場とうじょうしている。またレピッシュも、ライブでやったことがあると作中さくちゅうに記述きじゅつがある。
• さらに秋本あきもと治おさむ作さく『こちら葛飾かつしか区く亀有かめあり公園前こうえんまえ派出所はしゅつじょ』の中なかでは、サルまんで提案ていあんされたサブリミナルトーンが許諾きょだくを得えて使用しようされた。

関連かんれん文献ぶんけん

• 竹たけ熊ぐま健太郎けんたろう『マンガ原稿げんこう料りょうはなぜ安やすいのか?』（2004年ねん、イーストプレス、ISBN 487257-420-6）

  連載れんさいまでの経緯けいいを綴つづった「『サルマン』はこうして生うまれた」とボツにした第だい1回かいのネームを掲載けいさい。