礼拝

礼拝れいはい（れいはい、らいはい、英語えいご: Worship、アラビア語ご: عبادة‎、ヒンディー語ご: उपासना）は、宗教しゅうきょうにおいて神かみや仏ふつなどを拝おがむこと。仏教ぶっきょうにおいてのみ「らいはい」、それ以外いがいは「れいはい」と読よむ。

キリスト教きりすときょうの礼拝れいはい

概要がいよう・対照たいしょう表ひょう

キリスト教きりすときょうにおける礼拝れいはいとは、神かみに対たいする奉仕ほうし行為こうい、および儀礼ぎれい一般いっぱんのような間接かんせつ的てき行為こういを指さす。狭義きょうぎには教会きょうかいにおける儀礼ぎれい一般いっぱんを指さす。教派きょうはによって若干じゃっかんの語義ごぎの差さがある。

日本にっぽんではキリスト教きりすときょうの公おおやけ祈祷きとう（礼拝れいはい）全般ぜんぱんを「ミサ」と呼よぶ事例じれいが散見さんけんされるが、「ミサ」とはカトリック教会きょうかいの典礼てんれい儀式ぎしきを指さす語彙ごいであり、キリスト教きょうの礼拝れいはい一般いっぱんをまとめて「ミサ」と呼よぶのは誤あやまりである。

祈祷きとう・儀礼ぎれい用語ようごの教派きょうは別べつ対応たいおう表ひょう
教派きょうは	プロテスタント	聖せい公会こうかい	カトリック教会きょうかい	正教会せいきょうかい
祈祷きとう・儀礼ぎれいの総称そうしょう	礼拝れいはい	礼拝れいはい	典礼てんれい	奉たてまつ神かみ礼あや
羅ら: サクラメント 希まれ: ミスティリオン	礼典れいてん	聖せい奠	秘蹟ひせき	機密きみつ
主おもの晩餐ばんさんに由来ゆらいする祈祷きとう・儀礼ぎれい	聖餐せいさん式しき 主おもの晩餐ばんさん	聖餐せいさん式しき	ミサ	聖体せいたい礼儀れいぎ

上うえの表ひょうにおける用語ようごは教派きょうはごとに大小だいしょうの概念がいねんの違ちがいを含ふくんでおり、対応たいおうする語句ごく同士どうしが一対一いちたいいち対応たいおうして一致いっちしているわけではない。

• 正教会せいきょうかいにおいては奉たてまつ神かみ礼あやのことを指さすが、カトリック教会きょうかいと異ことなり公おおやけ祈祷きとうのみならず個人こじん的てきな祈祷きとう（私わたし祈祷きとう）も正教会せいきょうかいの奉たてまつ神かみ礼あやには含ふくまれる。
• カトリック教会きょうかいにおいては普通ふつう、典礼てんれいのことを指さすが、個人こじん的てきな祈祷きとう・行為こういを指さす場合ばあいは典礼てんれいと区別くべつされる。
• プロテスタント教会きょうかいでは、公おおやけ同どう礼拝れいはい、家庭かてい礼拝れいはい、個人こじん礼拝れいはい（ディヴォーション）が礼拝れいはいと呼よばれるが、多おおくは主おも日びの公おおやけ同どう礼拝れいはい を指さして言いわれる。

原語げんごの語義ごぎ

神かみのみに認みとめられる最高さいこうの礼拝れいはい行為こういを英語えいごまたはラテン語らてんごでlatriaと言いう。latriaはギリシャ語ごの"λατρεία"（ラトリア）に由来ゆらいし、「雇やとわれた労働ろうどう者しゃの状態じょうたい」や「奉仕ほうし」を語源ごげんとする。かつて、尊敬そんけいを意味いみするギリシャ語ご"προσκύνησις"（プロスキニシス）との区別くべつは明確めいかくではなかったが、第だい2ニカイア公こう会議かいぎ以降いこうは"λατρεία"（ラトリア）を唯一ゆいいつの神性しんせいに対たいする崇拝すうはい（礼拝れいはい）、"προσκύνησις"（プロスキニシス）を聖人せいじんや聖ひじり像ぞうなどの聖せいなる被ひ造物ぞうぶつに対たいする崇敬すうけい（すうけい）、として区別くべつするようになった。

初期しょきキリスト教きりすときょうの典礼てんれいと皇帝こうてい礼拝れいはい

初代しょだい教会きょうかいにおいてヘレニストの代表だいひょうであったステファノ。彼かれはファリサイ派はによって石いし打うちの刑けいにされるが、ジャン・ダニエルーはこの殉教じゅんきょうの裏側うらがわにキリスト教きりすときょう内部ないぶのヘレニストとヘブライストの立場たちばの違ちがいを見みている。図ずはイタリアバロックのボローニャ派はジャコモ・カヴェドーネ (Giacomo Cavedone) の作品さくひん

キリスト教きりすときょうはユダヤ教きょうとは明あきらかに異ことなった礼拝れいはい観かんを持もっていた。イエスは旧約きゅうやく的てきな神殿しんでん礼拝れいはいを拒否きょひしてはおらず、祝日しゅくじつには自みずから神殿しんでんに赴おもむいたが、一方いっぽうでより内面ないめんを重視じゅうしした新あたらしい礼拝れいはい観かんを示しめした。

あなたがたが、この山やまでもエルサレムでもない所ところで、父ちちを礼拝れいはいする時ときが来くる。あなたがたは知しらないものを礼拝れいはいしているが、わたしたちは知しっているものを礼拝れいはいしている。救すくいはユダヤ人じんから来くるからだ。しかし、まことの礼拝れいはいをする者ものたちが、霊れいと真理しんりをもって父ちちを礼拝れいはいする時ときが来くる。今いまがその時ときである。なぜなら、父ちちはこのように礼拝れいはいする者ものを求もとめておられるからだ。神かみは霊れいである。だから、神かみを礼拝れいはいする者ものは、霊れいと真理しんりをもって礼拝れいはいしなければならない。

—イエス、新しん共同きょうどう訳やく、「ヨハネによる福音ふくいん書しょ」4.21-24。

使徒しと時代じだいのキリスト教徒きりすときょうとであるステファノの次つぎの言動げんどうには、このイエスの内面ないめん的てきな礼拝れいはい観かんがよく表あらわれている。

神かみのために家いえを建たてたのはソロモンでした。けれども、いと高たかき方かたは人ひとの手てで造つくったようなものにはお住すみになりません。これは、預言よげん者しゃも言いっているとおりです。主あるじは言いわれる。「天てんはわたしの王座おうざ、地ちはわたしの足あし台だい。お前まえたちは、わたしにどんな家いえを建たててくれると言いうのか。わたしの憩いこう場所ばしょはどこにあるのか。これらはすべて、わたしの手てが造つくったものではないか。」

—新しん共同きょうどう訳やく、「使徒しと行ぎょう伝でん」7.47-50。

彼かれはエルサレムの神殿しんでんに直結ちょっけつしたユダヤ教きょう祭祀さいしを否定ひていし、イエスの述のべた新あたらしい礼拝れいはいを強つよく主張しゅちょうしたために、殉教じゅんきょうした。

初期しょきのキリスト教会きょうかいが外形がいけい的てきな表現ひょうげんを重視じゅうししなかったわけではない。集会しゅうかい堂どうとしての教会きょうかいは典礼てんれいの中心ちゅうしんとなったし、洗礼せんれいはキリスト教きりすときょう共同きょうどう体たいとしての「教会きょうかい」への加入かにゅうを視覚しかく的てきに表現ひょうげんした。しかし2世紀せいき後半こうはんから3世紀せいきにかけてのキリスト教きりすときょう著述ちょじゅつ家かミヌキウス・フェリクスは「私わたしたちには、神殿しんでんも祭壇さいだんもない」ということを異教徒いきょうとに対たいして誇ほこった。教会きょうかいは集会しゅうかいする場所ばしょであり、祭儀さいぎは建物たてものとしての教会堂きょうかいどうに帰きするのではなく、信徒しんと共同きょうどう体たいとしての教会きょうかいそれ自体じたいに帰きするのである。初期しょきキリスト教きりすときょうではイエスこそが「祭司さいし」であり「大だい祭司さいし」で、そのキリストに繋つながれているという意味いみで、教会きょうかいが「祭司さいし」なのであった。

このような内面ないめん性せいの強つよいキリスト教きりすときょうの性格せいかくはロろーマ帝国まていこくで行おこなわれたいわゆる「皇帝こうてい礼拝れいはい」と相容あいいれざるもので、帝国ていこくは公共こうきょう祭祀さいしである「皇帝こうてい礼拝れいはい」を受うけ入いれないキリスト教徒きりすときょうとを、公共こうきょうの宗教しゅうきょうからの逸脱いつだつ者しゃ、国家こっか離反りはん者しゃとして迫害はくがいしたという説せつが歴史れきし学者がくしゃの間あいだで長ながく論ろんじられてきた。とくに自みずからを「主おもにして神かみ」と称しょうしたドミティアヌスがこのような皇帝こうてい礼拝れいはいの要求ようきゅう者しゃとされ、彼かれの治下ちかに激はげしいユダヤ教徒きょうとやキリスト教徒きりすときょうとの迫害はくがいが起おこったと考かんがえられた。しかし、この迫害はくがいの史料しりょうは2世紀せいき以降いこうの伝承でんしょうに基もとづくもので、迫害はくがいは無なかったとする見方みかたもある。

迫害はくがいと皇帝こうてい礼拝れいはいは因果いんがづけて考かんがえられ、間接かんせつ的てきには古代こだい教会きょうかいが日曜日にちようびを「主おもの日ひ」として制定せいていしたことも、皇帝こうてい礼拝れいはいに対抗たいこうするキリスト教徒きりすときょうとの信仰しんこう告白こくはくであったという見方みかたもある。また「ヨハネの黙示録もくしろく」の「第だい二にの獣ししは、獣ししの像ぞうに息いきを吹ふき込こむことを許ゆるされて、獣ししの像ぞうがものを言いうことさえできるようにし、獣ししの像ぞうを拝おがもうとしない者ものがあれば、皆殺みなごろしにさせた。」という記述きじゅつもある。しかし、保坂ほさか高たかし殿どのによれば「皇帝こうてい礼拝れいはい」という名なでの祭儀さいぎは多様たようであり、内容ないようにおいては極きわめて政治せいじ的てきな意味いみを持もつものから宗教しゅうきょう性せいの高たかいものまで、範囲はんいにおいても都市とし国家こっか規模きぼから属ぞく州しゅう単位たんいのもの、担にない手ても一様いちようでなく、それらを統一とういつ的てきに「皇帝こうてい礼拝れいはい」という一語いちごで把握はあくすることには飛躍ひやくが伴ともなうことが示しめされている。黙示録もくしろくの記述きじゅつについても正確せいかくな史実しじつを反映はんえいしたものではなく、ドミティアヌス統治とうち期きに皇帝こうてい礼拝れいはい拒否きょひが法廷ほうていでの処刑しょけいにつながったという見方みかたは困難こんなんとする。

イスラム教いすらむきょうの礼拝れいはい

詳細しょうさいは「サラート」を参照さんしょう

礼拝れいはい（サラーもしくはサラート）とは、カアバの方角ほうがくへ向むかってお祈いのりすることで、イスラム教いすらむきょうの五ご行ぎょうのひとつである。

礼拝れいはいの方法ほうほうには一定いっていの決きまりがある。普段ふだんは家庭かていなどで個人こじんで行おこなってもいいが、イスラムの祝日しゅくじつである金曜日きんようびには、5回かいのうち、1回かいのお昼ひるの礼拝れいはいは、モスクに集あつまってみんなで行おこなうことが奨励しょうれいされる。

イスラム教いすらむきょうでは1日にち5回かいの礼拝れいはいを行おこなう。各かく礼拝れいはいの大体だいたいの時間じかん帯たいは、1回かい目めは夜明よあけ、2回かい目めは夜明よあけ以降いこう、3回かい目めは影かげが自分じぶんの身長しんちょうと同おなじになるまで（お昼ひる）、4回かい目めは日没にちぼつから日ひがなくなるまで、最後さいごは夜よるとなっている。礼拝れいはいが始はじまる時間じかんはムアッジンと呼よばれる人ひとによって告つげられるが、これをアザーンという。昔むかしはモスクの尖塔せんとう（ミナレット）に上のぼりその上うえからアザーンが行おこなわれたが、現在げんざいはスピーカーが取とり付つけられている。

参考さんこう文献ぶんけん

• ジャン・ダニエルー 『初代しょだい教会きょうかい』1、上智大学じょうちだいがく中世ちゅうせい思想しそう研究所けんきゅうじょ訳やく、平凡社へいぼんしゃ〈平凡社へいぼんしゃライブラリー, 163 . キリスト教きょう史し〉、1996年ねん。
• J・A・ユングマン 『古代こだいキリスト教きりすときょう典礼てんれい史し』 石井いしい祥さち裕ひろし訳やく、平凡社へいぼんしゃ、1997年ねん。ISBN 978-4766413977。
• 保坂ほさか高たかし殿どの 『ローマ帝政ていせい初期しょきのユダヤ・キリスト教きりすときょう迫害はくがい』 教きょう文ぶん館かん、2003年ねん。ISBN 978-4764272255。

関連かんれん項目こうもく

• 教派きょうは別べつのキリスト教きりすときょう用語ようご一覧いちらん
• 祈いのり

外部がいぶリンク

• かたち-イコン：日本にっぽん正教会せいきょうかい