(Translated by https://www.hiragana.jp/)
アギラー＝スピネッリ試験 - Wikipedia コンテンツにスキップ

アギラー＝スピネッリ試験しけん

リンクを編集へんしゅう
出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』

アギラー＝スピネッリ試験しけん（アギラースピネッリしけん、Aguilar–Spinelli test）とは、秘密ひみつ情報じょうほう提供ていきょう者しゃ（"confidential informant"）または匿名とくめいの密告みっこく（"anonymous tip"）によりもたらされる情報じょうほうに基もとづいて捜索そうさく令状れいじょう（"search warrant"）が発はつ付ふされる場合ばあいに合衆国がっしゅうこく最高裁判所さいこうさいばんしょがその令状れいじょうの有効ゆうこう性せい[注釈ちゅうしゃく 1]審査しんさのために定さだめた過去かこの司法しほう指針ししん（"judicial guideline"）である。最高裁さいこうさいは1983年ねんに起おきたイリノイ州しゅう対たいゲーツ事件じけん（英語えいご版ばん）（Illinois v. Gates 462 U.S.（英語えいご版ばん） 213 (1983)）において、「個々ここの具体ぐたい的てき情況じょうきょうを総合そうごう的てきに」（totality of circumstances）斟酌しんしゃくし情報じょうほうの信頼しんらい性せいを審査しんさする判決はんけつを支持しじした為ため、この指針ししんを破棄はきした。ただし、アラスカ州しゅう、マサチューセッツ州しゅう、ニューヨーク州しゅう、テネシー州しゅう、バーモント州しゅう、及およびワシントン州しゅうでは各州かくしゅう固有こゆうの州しゅう憲法けんぽう（英語えいご版ばん）に基もとづいて、引ひき続つづきアギラー＝スピネッリ試験しけんを保持ほじしている。

これは二に段階だんかいの衡量基準きじゅん（"two-pronged test", 「二又ふたまたテスト」）である[1]。警察官けいさつかんなどの法ほう執行しっこう職員しょくいんが捜索そうさく令状れいじょうを請求せいきゅうし、かつ、治安ちあん判事はんじ（英語えいご版ばん）（"magistrate"）[注釈ちゅうしゃく 2]が令状れいじょうに署名しょめいする場合ばあい、

  1. 当該とうがい情報じょうほう提供ていきょう者しゃが「信頼しんらいできる及および[注釈ちゅうしゃく 3]信用しんようできる」（reliable and credible）との主張しゅちょうを支持しじするに足たる理由りゆうを治安ちあん判事はんじに通知つうちしなければならない。並ならびに、
  2. 当該とうがい情報じょうほうを提供ていきょうする人物じんぶつが依拠いきょするいくつかの「根本こんぽん的てき情況じょうきょう」（underlying circumstances）[注釈ちゅうしゃく 4]について治安ちあん判事はんじに通知つうちしなければならない。

情報じょうほうの提供ていきょうを受うけた治安ちあん判事はんじは、犯罪はんざいが発生はっせいした、または発生はっせいが予期よきされる相当そうとうな理由りゆう（英語えいご版ばん）（probable cause）をこの検査けんさに合格ごうかくした情報じょうほうを根拠こんきょに単独たんどくで審査しんさすることが可能かのうとなる。

背景はいけい[編集へんしゅう]

捜索そうさく令状れいじょうの発はつ付づけは次つぎに示しめす合衆国がっしゅうこく憲法けんぽうに対たいする修正しゅうせい第だい4条じょうに基もとづく。これは捜索そうさくの要件ようけんに合理ごうり性せい（「相当そうとうな理由りゆう」）及および特定とくてい性せいを置おいている。

不合理ふごうりな捜索そうさくおよび押収おうしゅうに対たいし、身体しんたい、家屋かおく、書類しょるいおよび所有しょゆう物ぶつの安全あんぜんを保障ほしょうされるという人民じんみんの権利けんりは、これを侵おかしてはならない。令状れいじょうは、宣誓せんせいまたは確約かくやくによって裏付うらづけられた相当そうとうな理由りゆうに基もとづいてのみ発行はっこうされ、かつ捜索そうさくすべき場所ばしょ、および逮捕たいほすべき人ひと、または押収おうしゅうすべき物件ぶっけんを特定とくていして示しめしたものでなければならない。

合衆国がっしゅうこくの過去かこの歴史れきしにおいては、警察けいさつが証拠しょうこの違法いほうな捜索そうさく及および押収おうしゅうを行おこなった場合ばあいでも、ひとたび得えられた証拠しょうこはその違法いほう性せいを問とわれることなく刑事けいじ裁判さいばんにおいて被告人ひこくにんに不利ふりな証拠しょうことして頻繁ひんぱんに使用しようされた。

事態じたいが変かわったのはウィークス対たい合衆国がっしゅうこく事件じけん（英語えいご版ばん）（Weeks v. United States, 232 U.S. 383 (1914)）からである[2]。この裁判さいばんにおいて最高裁さいこうさいは全員ぜんいん一致いっちの判決はんけつを下くだし、これに基もとづき排除はいじょ法則ほうそく（exclusionary rule）を規定きていした。この法則ほうそくは、ほとんどの情況じょうきょう下かにおいて、違法いほうな捜索そうさく及および押収おうしゅうを手段しゅだんとして得えた証拠しょうこは刑事けいじ裁判さいばんにおいて証拠しょうことして認みとめられない（英語えいご版ばん）ことを示しめしたものである。ただしこの判決はんけつは当該とうがい法則ほうそくの有効ゆうこう性せいを連邦れんぽう政府せいふレベルでのみ認みとめたものである。各かく州しゅうに対たいしてはマップ対たいオハイオ州しゅう事件じけん（英語えいご版ばん）（Mapp v. Ohio, 367 U.S. 643 (1961)）[3]の判決はんけつを契機けいきとして排除はいじょ法則ほうそくが義務付ぎむづけられた。

その後ご、多数たすうの刑事けいじ裁判さいばんにおいて、捜索そうさく令状れいじょうが無効むこう[注釈ちゅうしゃく 5]であり、及および、かような令状れいじょうによる捜索そうさくは違法いほうであるがゆえ、かかる捜索そうさくを通つうじて得えた証拠しょうこは審理しんり（"trial"）において認みとめられないことを被告人ひこくにんが証明しょうめいしようと試こころみた。しかしながら、捜索そうさく令状れいじょうの適法てきほう性せいを定義ていぎする確固かっこたる指針ししんはこの時点じてんで存在そんざいせず、このため裁判官さいばんかん（"judge"）が令状れいじょうの有効ゆうこう性せいを認みとめる判断はんだんを下くだすことには困難こんなんを要ようした。

合衆国がっしゅうこくにおいて法ほう執行しっこう職員しょくいんが捜索そうさく令状れいじょうを取得しゅとくするには、犯罪はんざいが発生はっせいしたと信しんずるに足たる「相当そうとうな理由りゆう」を合衆国がっしゅうこく裁判官さいばんかんまたは合衆国がっしゅうこく治安ちあん判事はんじの面前めんぜんで宣誓せんせい[注釈ちゅうしゃく 6]または確約かくやく[注釈ちゅうしゃく 7]しなければならない。法ほう執行しっこう職員しょくいんは治安ちあん判事はんじに証拠しょうこを提出ていしゅつし、更さらに証拠しょうこ内容ないようを明確めいかく化かするため宣誓せんせい供述きょうじゅつ書しょ（英語えいご版ばん）（affidavit, アフィデイヴィット）の提出ていしゅつが要求ようきゅうされる。宣誓せんせい供述きょうじゅつ書しょはこの「相当そうとうな理由りゆう」の存在そんざいを認定にんていするための「実質じっしつ的てき根拠こんきょ」（"substantial basis"）を治安ちあん判事はんじにもたらすものでなければならない。い換いかえれば、単たんに主張しゅちょうを述のべるのではなく、法ほう執行しっこう職員しょくいんは証拠しょうこを説明せつめいしなければならない。そして当該とうがい職員しょくいんが犯罪はんざい発生はっせいの「相当そうとうな理由りゆう」を保持ほじしていると認定にんていするに足たる十分じゅうぶんな情報じょうほうを治安ちあん判事はんじに提出ていしゅつしなければならない。たとえば、当該とうがい職員しょくいんは伝聞でんぶんなど他者たしゃの主張しゅちょうそのものを単たんに追認ついにんするだけであってはならない。[4][注釈ちゅうしゃく 8]

1948年ねんに起おきたジョンソン対たい合衆国がっしゅうこく事件じけん（英語えいご版ばん）（Johnson v. United States, 333 U.S. 10 (1948)）においては最高裁さいこうさいは次つぎのように述のべている。

職務しょくむに熱心ねっしん過すぎる捜査そうさ員いんがそのことをしばしば理解りかいしていないが、修正しゅうせい第だい4条じょうの指摘してきするところは「通常つうじょう人じん（英語えいご版ばん）」（reasonable men）[注釈ちゅうしゃく 9]が証拠しょうこから導みちびき出だす通常つうじょうの推測すいそく[注釈ちゅうしゃく 10]に基もとづいて法ほうを執行しっこうするのを認みとめない、というものではない。同どう条じょうが与あたえる庇護ひごというのは、中立ちゅうりつ及および公平こうへいな[注釈ちゅうしゃく 11]治安ちあん判事はんじによってそのような推測すいそくが導みちびき出だされるよう要求ようきゅうしているのであって、犯罪はんざい捜査そうさに始終しじゅう躍起やっきになる捜査そうさ員いんが判断はんだんを下くだすものではないというところに意義いぎがある[5]。

二又ふたまたテストの発達はったつ[編集へんしゅう]

アギラー対たいテキサス州しゅう事件じけん（英語えいご版ばん）（Aguilar v. Texas, 378 U.S. 108 (1964)）において法廷ほうていは次つぎのように述のべている。

情報じょうほうを提供ていきょうする人物じんぶつが根拠こんきょとするいくつかの「根本こんぽん的てき情況じょうきょう」、並ならびに、通常つうじょう身分みぶんが明あかされない情報じょうほう提供ていきょう者しゃの信頼しんらい性せいまたは当該とうがい情報じょうほう提供ていきょう者しゃの持もつ情報じょうほうの信用しんよう性せいに、結論けつろんを下くだした宣誓せんせい供述きょうじゅつ人じん（affiant）[注釈ちゅうしゃく 12]が根拠こんきょとするいくつかの「根本こんぽん的てき情況じょうきょう」を治安ちあん判事はんじに通知つうちしなければならない[6]。

「スピネッリ対たい合衆国がっしゅうこく事件じけん」（Spinelli v. United States, 393 U.S. 410 (1969)）において最高裁さいこうさいは更さらに踏ふみ込こんだ判断はんだんを下くだしており、犯罪はんざいが発生はっせいしたとの結論けつろんを下くだす情報じょうほう提供ていきょう者しゃがその根拠こんきょとする「根本こんぽん的てき情況じょうきょう」を治安ちあん判事はんじに通知つうちすることが「相当そうとうな理由りゆう」の要件ようけんとなった[1]。

二又ふたまたテストの破棄はき[編集へんしゅう]

令状れいじょう審査しんさにおける「相当そうとうな理由りゆう」を評価ひょうかするための客観きゃっかん的てき基準きじゅんであったアギラー＝スピネッリ試験しけんは反面はんめん、審査しんさ者しゃの主観しゅかん的てき判断はんだんが作用さようし「相当そうとうな理由りゆう」の根拠こんきょに一貫いっかん性せいが見みられない可能かのう性せいがあった[7]。「イリノイ州しゅう対たいゲーツ事件じけん」において最高裁さいこうさいは「個々ここの具体ぐたい的てき情況じょうきょうを総合そうごう的てきに」に斟酌しんしゃくする方針ほうしんに転換てんかんし当該とうがいテストを明白めいはくに破棄はきした。同どう法廷ほうていの裁判官さいばんかんウィリアム・レンキストは書面しょめんにて次つぎの意見いけん（英語えいご版ばん）を述のべている。

情報じょうほう提供ていきょう者しゃの密告みっこくが令状れいじょう発はつ付づけの「相当そうとうな理由りゆう」の根拠こんきょであるか否ひかを認定にんていするためアギラー及およびスピネッリの両りょう公判こうはんで規定きていされたこの厳格げんかくな「二又ふたまたテスト」はこれにて破棄はきされ、そして「相当そうとうな理由りゆう」の認定にんていの手段しゅだんとして従来じゅうらいから知しられている「個々ここの具体ぐたい的てき情況じょうきょうを総合そうごう的てきに」判断はんだんするアプローチがこれに取とって代かわることとなる[8]。

ただし注意ちゅういすべきことがある。「ゲーツ事件じけんの判決はんけつ」は「スピネッリ事件じけんの判決はんけつで示唆しさされた二又ふたまたテスト」を破棄はきしたのだが、「スピネッリ事件じけんの判決はんけつ」自体じたいを特とくに覆くつがえしたのではない。更さらに重要じゅうようなことに、この判決はんけつは「アギラー事件じけんの判決はんけつ」を一切いっさい覆くつがえしていない。

州法しゅうほうに未いまだ残のこる二又ふたまたテスト[編集へんしゅう]

合衆国がっしゅうこく各州かくしゅうは合衆国がっしゅうこく憲法けんぽうの要請ようせいを差さし置おいて、独自どくじの法ほう制度せいどのもと、より広ひろい権利けんりを認みとめている。アラスカ州しゅう[SL 1]、マサチューセッツ州しゅう[SL 2]、ニューヨーク州しゅう[SL 3]、及およびテネシー州しゅう[SL 4]の少すくなくとも4州しゅうはゲーツ事件じけんの根拠こんきょ（rationale）を拒絶きょぜつしており、独自どくじの法的ほうてき根拠こんきょのもと「アギラー＝スピネッリ二に又またテスト」が保持ほじされている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ validity
  2. ^ 微罪びざい判事はんじ、下級かきゅう判事はんじ。
  3. ^ 当該とうがい情報じょうほう提供ていきょう者しゃの情報じょうほうが
  4. ^ その情報じょうほうをどうやって知しり得えたかの根拠こんきょ
  5. ^ invalid
  6. ^ swearまたはoath
  7. ^ affirm
  8. ^ ただの伝聞でんぶんだからといって証拠しょうこ排除はいじょされるのではなく、「実質じっしつ的てき根拠こんきょ」を備そなえておれば、宣誓せんせい供述きょうじゅつ書しょがたとえ伝聞でんぶんに基もとづいていても不十分ふじゅうぶんであるとはいえない。（河野こうの、p. 85）
  9. ^ 期待きたいされる標準ひょうじゅん的てきな（英語えいご版ばん）注意ちゅうい義務ぎむ（ordinary duty of care）を負おうとみなされる人物じんぶつ。普通ふつう人じん。
  10. ^ inferences
  11. ^ 「通常つうじょう人じん」としてのしかるべき資格しかくを持もつといえる、
  12. ^ 宣誓せんせい供述きょうじゅつ書しょを作成さくせいする人物じんぶつ。宣誓せんせい供述きょうじゅつ者しゃ。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b Spinelli v. United States (393 U.S. 410)
  2. ^ Weeks v. United States (232 U.S. 383)
  3. ^ Mapp v. Ohio (367 U.S. 643)
  4. ^ Illinois v. Gates (462 U.S. 213, 238)
  5. ^ Johnson v. United States (333 U.S. 10)
  6. ^ Aguilar v. Texas (378 U.S. 108)
  7. ^ 河野こうの、p. 116
  8. ^ Illinois v. Gates (462 U.S. 213, 214)

州しゅう判例はんれい法ほう[編集へんしゅう]

  1. ^ State v. Jones, 706 P.2d 317 (Alaska 1985)
  2. ^ Commonwealth v. Banville, 457 Mass. 530, 538, 931 N.E.2d 457, 464 (2010), citing Commonwealth v. Upton, 394 Mass. 363, 373, 476 N.E.2d 548 (1985).
  3. ^ People v. Bigelow, 66 N.Y.2d 417, 424–426, 497 N.Y.S.2d 630, 633–635 (1985); People v. Griminger, 71 N.Y.2d 635, 524 N.E.2d 409 (1988); People v. DiFalco, 80 N.Y.2d 693, 610 N.E.2d 352, 594 N.Y.S.2d 679 (1993); People v. Parris, 83 N.Y.2d 342, 632 N.E.2d 870, 610 N.Y.S.2d 464 (1994).
  4. ^ State v. Jacumin, 778 S.W.2d 430 (Tenn. 1989).

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

論文ろんぶん
スタブアイコン

この項目こうもくは、法ほう分野ぶんやに関連かんれんした書かきかけの項目こうもくです。この項目こうもくを加筆かひつ・訂正ていせいなどしてくださる協力きょうりょく者しゃを求もとめています（P:法学ほうがく/PJ:法学ほうがく）。

「https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=アギラー＝スピネッリ試験しけん&oldid=97805495」から取得しゅとく