アカルナイの人々ひとびと

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アカルナイの人々ひとびと』(まれ: Ἀχαρνεῖς, Ἀχαρνῆς, Akharneĩs, Akharnẽs、アカルネイス, アカルネース、: Acharnenses)は、アリストパネスによる古代こだいギリシア喜劇きげき作品さくひんである。アリストパネスの喜劇きげき作品さくひんとして(またギリシア喜劇きげき全体ぜんたいとしても)、現存げんそんするもっとふる作品さくひんである。

内容ないようは、ペロポネソス戦争せんそう継続けいぞくするなかで、1人ひとりおとこ自分じぶんいえだけで単独たんどく和平わへいむすんでしまう、というものである。題名だいめいげきちゅうでコロス(合唱がっしょうたいやくになっている「アカルナイ人々ひとびと[注釈ちゅうしゃく 1]」にちなむ。

アリストパネスはこの作品さくひんを、紀元前きげんぜん425ねんレーナイアさい出品しゅっぴんし、1とう当選とうせんしたという。このときの2とうクラティノスの『暴風ぼうふうなか人々ひとびと(ケイマッゾメノイ)』、3とうエウポリスの『新月しんげつ(ヌーメーニアイ)』であったとのことである[1]

背景はいけい[編集へんしゅう]

アリストパネスは平和へいわ主義しゅぎものであったことでもられ、とく平和へいわ主題しゅだいとした3さくほんさく、『平和へいわ』、『おんな平和へいわ』)を「平和へいわもの」とんでいる(もっとも、ほんさく実現じつげんしているのはギリシア全体ぜんたい平和へいわではなく、主人公しゅじんこう個人こじんてき平和へいわであるてんことなる[2])。ほんさくはこのなか最初さいしょのものであり、ペロポネソス戦争せんそうはじまって6ねん経過けいかしたところであった。それだけに、真正面ましょうめんから国策こくさく批判ひはんしたかたちのこの作品さくひんにはおおきな意欲いよくかんじられる。しかし、スパルタほどの軍事ぐんじ国家こっかではないにせよ、古代こだいギリシアにおいては戦役せんえき市民しみん義務ぎむであり、戦争せんそうによる領土りょうど拡大かくだいたりまえであった時代じだいのことであり、たとえ作中さくちゅう単独たんどく講和こうわにせよ、たかだか30ねん約束やくそくするのみである。当時とうじとしては、それでも大変たいへん長期ちょうきかんじられたのであろう。

題名だいめいは、作中さくちゅうコロスがアカルナイ地方ちほう炭焼すみや老人ろうじん集団しゅうだんやく登場とうじょうすることによる。これは、この地方ちほう戦役せんえき初頭しょとうにおいてスパルタによるおおきな被害ひがいけたため、その地域ちいき人々ひとびとつよくスパルタにたいする反発はんぱつっていたためとされる。主人公しゅじんこうかれらを説得せっとくする演説えんぜつをぶつのがであったらしい。

この作品さくひん作者さくしゃ本名ほんみょうではなく、カリストラトスという他人たにん名義めいぎ発表はっぴょうされている。ほんさく以前いぜん作品さくひんもそうで、つぎとしの『騎士きし』から本名ほんみょう発表はっぴょうしている。これは作者さくしゃ未成年みせいねんであったためとのせつがあるが、はっきりしない。

主人公しゅじんこう食材しょくざい調理ちょうりずみの食品しょくひんっているてんなどを理由りゆうに、かれアゴラ居住きょじゅうするカペーロスという小売こうりじん誇張こちょうしたものだとするせつがある。戦争せんそうつかれたしょう農民のうみん私設しせつ市場いちば小売こうりじんとして活躍かつやくするてんにも喜劇きげきせいがあるという解釈かいしゃくである[3]

内容ないよう[編集へんしゅう]

舞台ぶたい議会ぎかいでただ一人ひとりちくたびれる主人公しゅじんこうディカイオポリス[注釈ちゅうしゃく 2]姿すがたはじまる。かれ和平わへい交渉こうしょうへの議論ぎろんがここでおこなわれることを期待きたいしている。しかし、アンフィオスというかみはしくれが和平わへい交渉こうしょうってるがすぐ排除はいじょされ、戦費せんぴ調達ちょうたつなどのあやしいはなしばかりなのにあきれ、かれはアンフィオスをさがして、自分じぶん一家いっかとスパルタの単独たんどく講和こうわ仲介ちゅうかいかれ依頼いらいする。

アンフィオスは講和こうわあんかかえてもどるが、それをけてアカルナイの炭焼すみや老人ろうじんたちがしかける。かれいそいで30ねん講和こうわむすび、群衆ぐんしゅうむかえる。

コロスは「にくてきむすんだ」としてかれ糾弾きゅうだんする。はなしこうともせぬ群衆ぐんしゅうかい、かれすみかごちだし、「おまえたちの一族いちぞく人質ひとじちにした」と宣言せんげんみなもやっとはなしくつもりになる。そこでかれは、説得せっとくするならこの姿すがた、というので、エウリピデスをたずね、かれ悲劇ひげきテレフォスのぼろ衣装いしょうり、その姿すがたみなまえち、戦争せんそうのきっかけがるにりないいさかいであったこと、自分じぶんたちもかれらを迫害はくがいしたこと、国民こくみん全部ぜんぶ戦争せんそうのぞんでいるわけではないことなどを説明せつめいする。

これにコロスの半分はんぶん説得せっとくされ、たがいにいいになる。そこへ主戦しゅせんろん名高なだかラマコス登場とうじょうする。かれはげしく主人公しゅじんこうめ、自分じぶん正当せいとうせいべるが、主人公しゅじんこう反論はんろんする。

場面ばめんわると、ディカイオポリスのいえかれだけが和平わへいむすんでいるので、ギリシャの各地かくちとの交易こうえき可能かのうになっており、各地かくちからものまれる。メガラじんむすめを「ぶた」だといってりにくる。ボイオーディアのおとこ産物さんぶつをあれこれってきて、因縁いんねんをつけにきたアテネの告訴こくそ常習じょうしゅうしゃかえる。また、ラマコスが取引とりひきもとめるのはかえし、百姓ひゃくしょう懇願こんがん無視むしするが、花嫁はなよめねがいは「おんなせんにはかかわっていないから」とおすそけをする。

そこへ、かれいえかいにあるラマコスたくやくて、出征しゅっせい命令めいれいたことをつたえる。直後ちょくごに、ディカイオポリスのいえには宴会えんかいさそいがくる。ラマコスが文句もんくいながら準備じゅんびをすると、ディカイオポリスはそれにてつけながらこちらも準備じゅんびをする。たとえば

ラ「武士ぶし胸当むねあてをってい」
デ「わしにも胸当むねあてとして一升瓶いっしょうびんってい」
ラ「これでかためててきあらそうのだ」
デ「これであたためて仲間なかまあらそうのだ」

という具合ぐあい。それぞれ出発しゅっぱつするが、すぐにラマコスていにはラマコスが負傷ふしょうして帰還きかんするとの連絡れんらくつづいて本人ほんにんごといながらかつがれて帰宅きたくする。そこへ、ぱらったディカイオポリスがおんなたちかこまれて帰宅きたく、ラマコスにやかしをいながら宴会えんかい風景ふうけいにてわる。

日本語にほんごやく[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 全集ぜんしゅう1』 岩波いわなみ p.323
  2. ^ a b 全集ぜんしゅう1』 岩波いわなみ p.327
  3. ^ カール・ポランニー 『人間にんげん経済けいざい2 交易こうえき貨幣かへいおよび市場いちば出現しゅつげん』 玉野井たまのい芳郎よしお中野なかのただしわけ岩波書店いわなみしょてん岩波いわなみモダンクラシックス〉、2005ねん

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ アテナイのアカルナイは、スパルタおうアルキダモス2せいによる挑発ちょうはつ行為こういらされたなので、その人々ひとびともっともスパルタに怨念おんねん好戦こうせんてきだった。
  2. ^ ただしいポリスをもの」あるいは「ただしいポリスをのぞもの」の[2]