キャドワラ

キャドワラ Cædwalla
ウェセックス王おう
在位ざいい	685年ねん - 688年ねん
出生しゅっしょう	659年ねん
死去しきょ	689年ねん4月がつ20日はつか ローマ
家名かめい	ウェセックス家か
父親ちちおや	コエンベルフト

キャドワラ（Caedwalla, 古こ英語えいご：CÆDVVALLA CENBRYHTING VVESTSEAXNA CYNING, 羅ら: CÆDVVALLA REX SAXONVM OCCIDENTALIVM, 659年ねん - 689年ねん4月がつ20日はつか）は七なな王国おうこく時代じだいの西にしサクソン人じんの領土りょうどを治おさめた人物じんぶつで、後世こうせいウェセックス王国おうこくの王おうとして列れっせられている（在位ざいい：685年ねん - 688年ねん退位たいい）。彼かれ自身じしんも西にしサクソン人じんの出自しゅつじであるとされるが、その名なはブリトン起源きげんの「カドワロン (Cadwallon)」から来きている。古こ英語えいごで書かかれた彼かれの名なは未いまだ日本語にほんごでの発音はつおんは一定いっていしておらず、資料しりょうによってはカドワラ、ケドワラとも記載きさいされる事ことがある。

生涯しょうがい

彼かれが幼少ようしょうの頃ころにウェセックスはサセックスに攻撃こうげきを仕掛しかけ、サセックス王おうエゼルワルホを亡なき者ものにしたものの、配下はいかのエアルドルマンを懐柔かいじゅうできなかったために政権せいけんを保たもつ事ことができず追放ついほうの身みとなった。685年ねんないし686年ねんに彼かれはウェセックス王位おういに即位そくい、ウェセックスに関かんする最初さいしょ期きの記録きろくによればキャドワラの治世ちせいまでウェセックスの統治とうちは副ふく王おうによるものとされているためにキャドワラはこの時代じだいの敵対てきたい勢力せいりょくを圧倒あっとうした可能かのう性せいが示唆しさされている。

キャドワラの即位そくい後ご、ウェセックスはサセックスに進撃しんげき、大おおいに領土りょうどを広ひろげワイト島とうに侵攻しんこう、現地げんちを支配しはいする勢力せいりょくを一掃いっそうし勢力せいりょく下かに納おさめた。またサリー州しゅうとケント王国おうこくの支配しはい力りょくを強つよめ、686年ねんには弟おとうとのムルをケント王おうとして擁立ようりつ、翌年よくねんムルが反乱はんらんで殺ころされるとキャドワラはケントへ出征しゅっせい、その後ごケント王国おうこくを直接ちょくせつ統治とうちしたものと思おもわれる。

キャドワラはワイト島とう出征しゅっせい時じに負傷ふしょうし、これがきっかけとなって688年ねんに退位たいいする。その後ごキリスト教きりすときょうの洗礼せんれいを受うけるためにローマへ赴おもむき翌年よくねん689年ねん4月がつに到着とうちゃく、復活ふっかつ祭さい前まえの土曜日どようびに同地どうちで洗礼せんれいを施ほどこされ、10日とおか後ごの4月がつ20日はつかに没ぼっした。王位おういはイネに引ひき継つがれた。

資料しりょう

ウェセックスに関かんする大だい部分ぶぶんの資料しりょうとして『イングランド教会きょうかい史し』が挙あげられる。この書しょはノーサンブリアの学僧がくそうベーダ・ヴェネラビリス（以下いか「ベーダ」と略りゃくす）によって731年ねんに執筆しっぴつされた。キャドワラに関かんする情報じょうほうはウィンチェスターの司教しきょうダニエルによって膨大ぼうだいな情報じょうほうがもたらされた。ベーダは西にしサクソンのキリスト教化きょうかに多大ただいな関心かんしんを寄よせており、その教会きょうかいの歴史れきしを綴つづる過程かていでキャドワラに彼かれの執筆しっぴつを通つうじてかなり光ひかりが当あたる事こととなった 。同どう時代じだいの文献ぶんけん「ウィルフリド伝でん」もまたキャドワラを言及げんきゅうしている。また別べつの有力ゆうりょくな資料しりょうとしてアングロサクソン年代ねんだい記きも挙あげられる。これは9世紀せいき後半こうはんにウェセックスのアルフレッド大王だいおうによるものと思おもわれる個々ここの年代ねんだいを編纂へんさんした文献ぶんけんで、年代ねんだい記きとともに歴代れきだいの西にしサクソン王おうを列記れっきした「西にしサクソン王族おうぞく系譜けいふ目録もくろく」が記載きさいされている。また一部いちぶには信憑しんぴょう性せいが疑うたがわしいものも含ふくまれているものの、彼かれによる勅書ちょくしょのうち6つが現存げんそんしている。この勅書ちょくしょでは王おうが支持しじ者しゃに下賜かししたり、教会きょうかいに寄進きしんした土地とちの記録きろくが記しるされており、イングランドにおける最初さいしょ期きの文献ぶんけんとして現代げんだいに伝つたわっている。

7世紀せいき末まつのイングランド勢力せいりょく分布ぶんぷ図ず

西暦せいれき680年代ねんだいの西にしサクソン領りょう（キャドワラ即位そくい時じの時代じだい背景はいけい）

9世紀せいき末すえ、西にしサクソンはイングランド南西なんせい部ぶを占領せんりょうした。この地ちはどこにあるか現在げんざいでは特定とくていできていないが、これにより西にしサクソン領土りょうどの西にしはブリトン人じんの住すむドゥムノニア（現在げんざいで言いえばデヴォン州しゅうとコーンウォール州しゅう）となり、北きたにはウルフヘレが統治とうちするマーシア王国おうこくと国境こっきょうを接せっする事こととなった。674年ねん王位おういはウルフヘレから軍事ぐんじ行動こうどうに消極しょうきょく的てきな兄弟きょうだいエゼルレドに代かわり、北部ほくぶは以前いぜんより脅おびやかされる事ことは少すくなくなった。にもかかわらず西にしサクソンはウルフヘレが起おこした戦乱せんらんの傷跡きずあとからいまだ立たち直なおってはいなかった。この時代じだいの西にしサクソンは南東なんとう部ぶに南みなみサクソン（後ごのサセックス王国おうこく）が隣接りんせつしており、東ひがしにはロンドンを抑おさえていた東ひがしサクソンと隣接りんせつしていた。 。

アングロサクソン年代ねんだい記きは全すべての地域ちいきを記述きじゅつしているわけではないが、明あきらかに当時とうじの西にしサクソンの紛争ふんそう地域ちいきはサマセット州しゅう北部ほくぶ、グロスターシャー州しゅう南部なんぶ、ウィルトシャー州しゅう北部ほくぶで、ブリトン人じん、マーシア勢力せいりょくと対立たいりつしていた。西部せいぶ南部なんぶでの西にしサクソンの伸張しんちょうを示しめす証拠しょうことして642年ねんから673年ねんに王位おういに就ついたチェンワルホ、チェントウィネ（676-685)が挙あげられよう。チェンワルホはサクソン人じんとして初はじめてドーセット州しゅうのシャーボーン修道院しゅうどういんの庇護ひご者しゃとなり、チェントウィネはサクソン人じんで初はじめてサマセット州しゅうのグラストンベリーの庇護ひご者しゃとなった。従したがってこの地ちは既すでに西にしサクソン領りょうとなっていた事ことを示しめしている。西にしサクソンの庇護ひごを受うけた聖せいボニファティウスはこの時代じだいに教育きょういくを受うけていた事ことからデヴォン州しゅうのエクセターは680年ねんには西にしサクソンの勢力せいりょく下かに入はいったものと思おもわれる。

出自しゅつじ

ベーダによれば、キャドワラは「ゲウィセの王族おうぞくの中なかで愛あいすべき若者わかものであった」と言いい、彼かれが没ぼっした689年ねんの時点じてんで齢よわい30であったと伝つたえている。ここから彼かれの生年せいねんは659年ねんと推測すいそくできる。この「ゲウィセ」という固有名詞こゆうめいしを彼かれは西にしサクソンを指さしており、西にしサクソンの系譜けいふでは伝説でんせつと思おもわれる始祖しそゲウィスから由来ゆらいしている 。アングロサクソン年代ねんだい記きではキャドワラはコエンベルートの息子むすことされており、チェウリンを通つうじてゲウィセの人々ひとびとをイングランドへと導みちびいたチェルディッチの子孫しそんとされる。しかしながら後年こうねんそれぞれの王おうをチェルディッチの子孫しそんとしようと画策かくさくしたために王族おうぞく系譜けいふ目録もくろくの中なかで問題もんだいや矛盾むじゅんが生しょうじている。従したがってキャドワラの系譜けいふをそのまま鵜呑うのみにする事ことはできない。彼かれの名前なまえはブリトン人じんの「カドワロン(Cadwallon)」をアングロサクソン化かした名前なまえである事ことから、ブリトン系けいの出自しゅつじである事ことも示唆しさされている。

サセックスでの動乱どうらん

キャドワラの名なが最初さいしょに登場とうじょうするのは『聖せいウィルフリド伝でん』においてであり、ここでは彼かれはチルターンとアンドレッドの森もりで亡命ぼうめいの身みとなっている貴人きじんとして描えがかれている。このように7世紀せいきの七なな王国おうこく時代じだいでは王族おうぞくが王位おういにのぼる前まえに亡命ぼうめい生活せいかつを送おくる事ことはさして珍めずらしい事ことではなかった。別べつの例れいとしてはノーサンブリア王国おうこくのオスワルドの亡命ぼうめい生活せいかつが挙あげられる。アングロサクソン年代ねんだい記きでは685年ねんの項目こうもくにキャドワラが「王位おういを目論もくろみ始はじめた」と書かかれている 。亡命ぼうめいの身みでありながら彼かれは軍ぐんを召集しょうしゅうする事ことに成功せいこうしサセックス王おうのエゼルワルホを殺害さつがい、しかしすぐに彼かれは王おうのエアルドルマンであったベルスムとアンドフンにより追放ついほうされてしまう。その後ご彼かれらエアルドルマンたちはサセックスを王おうたちとして統治とうちしたものと考かんがえられている。

この当時とうじ、ワイト島とうとメオン渓谷けいこく、現在げんざいのハンプシャー州しゅう東部とうぶにあるこの地域ちいきはマーシア王おうウルフヘレの圧力あつりょくのもとサセックス王おうエゼルワルホの手てに渡わたっていた。年代ねんだい記きの記述きじゅつでは661年ねん、しかしベーダはこの動乱どうらんを680年代ねんだいに行おこなわれた聖せいウィルフリドの南みなみサクソン人じんへの伝道でんどう時期じきよりも「遠とおい過去かこでない時期じき」と記しるし、年代ねんだい記きの記述きじゅつよりも後ごである事ことを示唆しさしている。仮かりにこの動乱どうらんが680年ねんの初頭しょとうに行おこなわれたのであれば、エゼルワルホ殺害さつがいの張本人ちょうほんにんキャドワラの動機どうきがマーシア王国おうこくの圧力あつりょくに対たいする反応はんのうによるものである事ことが説明せつめいできる。

別べつの視点してんでこの時代じだいの政治せいじ的てき軍事ぐんじ的てき状況じょうきょうを見みてみると、660年代ねんだいにドルチェスター司教しきょう座ざが西にしサクソンから分離ぶんりしている事ことが挙あげられる。新あたらしい司教しきょう座ざはウィンチェスターに設もうけられ、これは南みなみサクソンとの境界きょうかいに極きわめて近ちかかった。ベーダが説明せつめいするには当時とうじの王おうチェンワルホはドルチェスター司教しきょうが説とくフランク様さま式しきの説法せっぽうに辟易へきえきしていたからとしているが、実質じっしつはこの分離ぶんりはむしろマーシア王国おうこくの侵略しんりゃくが原因げんいんで西にしサクソンが他たの地域ちいきでの侵攻しんこうを余儀よぎなくされたためと考かんがえられている。キャドワラの軍事ぐんじ行動こうどうもそのように北部ほくぶよりも西部せいぶ、南部なんぶ、東部とうぶへとなっている 。キャドワラの軍事ぐんじ行動こうどうの成功せいこうは、従来じゅうらいの「ゲウィセ」から「西にしサクソン」へと名称めいしょうで同どう時代じだいの資料しりょうに綴つづられる理由りゆうになったものと考かんがえられている。この時代じだいから西にしサクソンは他たのアングロサクソン人じんを支配しはい下かに置おく事ことになる。

登とう位いと治世ちせい

685年ねんないし686年ねんにキャドワラは先代せんだいチェントウィネが退位たいいした後のちを受うけて王おうになった。ベーダはキャドワラの治世ちせいは2年ねんで、688年ねんには治世ちせいが終おわると書かいているが、彼かれの治世ちせいが3年ねん足たらずであるならば、685年ねんには既すでに王位おういに就ついていた可能かのう性せいがある。西にしサクソン王族おうぞく系譜けいふ目録もくろくでは彼かれの統治とうちは3年ねんとし、異ことなる見方みかたでは2年ねんともしている。

ベーダによると、キャドワラの治世ちせいの前まえにはウェセックスは副ふく王おうのもとで統治とうちがされていたが、キャドワラが征服せいふく、これを退しりぞけ王おうとなったと言いう。ベーダは明言めいげんしていないが、この記述きじゅつは現在げんざいではキャドワラ本人ほんにんが副ふく王おうの統治とうち時代じだいを終息しゅうそくさせたと取とられている。ベーダは、チェンワルホが没ぼっした後のちの10年間ねんかんは西にしサクソンが副ふく王おうたちによって支配しはいされた時代じだいとしている。現時点げんじてんではチェンワルホは673年ねん頃ころに没ぼっしたと考かんがえられており、キャドワラの年表ねんぴょうと若干じゃっかん食くい違ちがっている。一説いっせつとしてキャドワラの先代せんだいであるチェントウィネは共同きょうどう統治とうち者しゃから始はじまったが、キャドワラが単独たんどく統治とうち者しゃになった時ときに彼かれも独立どくりつした王おうとなったという意見いけんがある。別べつの説せつではその副ふく王おうたちはチェントウィネとキャドワラと争あらそった別べつの西にしサクソン王族おうぞくの系譜けいふを指さしているのではとも言いう。「副ふく王おう」という表現ひょうげんはベーダに西にしサクソンの情報じょうほうを伝つたえたウィンチェスター司教しきょうダニエルの贔屓目ひいきめの表現ひょうげん方法ほうほうとする説せつもある。また全すべての副ふく王おうが排除はいじょされたとは限かぎらない。双方そうほうとも一部いちぶの歴史れきし家かには疑うたがわれているが、サマセット州しゅうとウィルトシャー州しゅうの西部せいぶを支配しはいした王おうベアルドレドは2つの土地とちの下賜かしを、一方いっぽうは681年ねん、もう一方いっぽうは688年ねんに受うけている。さらに状況じょうきょうを困惑こんわくさせるのは、別べつの土地とちの寄進きしんでウェセックス王おうとされるイネの父親ちちおやがイネの王位おうい継承けいしょう後ごもその土地とちを支配しはいしていたという明瞭めいりょうな下賜かしの記録きろくがある。

王おうになるやキャドワラはすぐに南みなみサクソンへ再ふたたび進軍しんぐん、この時とき彼かれを追放ついほうしたベルスムを殺害さつがい、「この地ちは服従ふくじゅうという最悪さいあくの事態じたいとなった」と伝つたわる。キャドワラはまたワイト島とうへも侵攻しんこう、この地ちはいまだ独立どくりつした異郷いきょうの王国おうこくであったが、キャドワラはこの地ちに住すむものを皆殺みなごろしにし、自みずからの民みんをこの地ちに移住いじゅうさせたと言いう。この地ちの王おうアルワルドは後継こうけい者しゃとして二人ふたりの幼おさない兄弟きょうだいを指名しめいして死しんだが、島しまを離はなれていたが、ストーンハムで発見はっけんされキャドワラの命いのちで殺ころされたと言いう。キャドワラは、しかしながら司祭しさいに説得せっとくされ処刑しょけいの前まえに二に人にんに洗礼せんれいを施ほどこしキリスト教徒きりすときょうととして死しぬ事ことを許ゆるしたと言いう。またベーダによれば、キャドワラはこの時とき傷きずを負おったと言いい、司祭しさいが洗礼せんれいを施ほどこす許可きょかを乞こいに訪おとずれた時ときに傷きずは癒いえかけていた頃ころだったと言いう。

688年ねんの勅書ちょくしょには、キャドワラは教会きょうかいのためにファーナムの土地とちを下賜かしした。すなわちキャドワラがサリー州しゅうを支配しはい下かに置おいていた事ことになる。彼かれはまたケントにも686年ねんに侵攻しんこう、ロチェスター北東ほくとう部ぶ、メッドウェイ川がわとテムス川がわの間あいだにあるフーという場所ばしょに修道院しゅうどういんを建立こんりゅうしたとも言いう。彼かれはケント王おうエアドリッチに代かわる王おうとして弟おとうとのムルを擁立ようりつする。しかしケント人じんの反乱はんらんの際さいに弟おとうとムルは配下はいかの者もの12人ふたりと「焼やかれた」とアングロサクソン年代ねんだい記きは伝つたえている。キャドワラはケントへの戦役せんえきを復活ふっかつさせる事ことで反応はんのう、この地ちを荒廃こうはいさせ混乱こんらんさせた。彼かれはこの侵攻しんこうでケント王国おうこくを直接ちょくせつ統治とうちした可能かのう性せいもある。

洗礼せんれい

王位おういに就ついた時ときもキャドワラはキリスト教きりすときょうには帰依きえしておらず、彼かれの治世ちせいの間あいだもまたそうであった。しかし彼かれが異教徒いきょうとであったという記述きじゅつは必かならずしもとても適切てきせつな表現ひょうげんとは言いいがたい。彼かれが信条しんじょうとしてキリスト教きりすときょうであったが、キリスト教徒きりすときょうとになる通過つうか点てんである洗礼せんれいを許ゆるされる時ときまで遅おくらせていたとも考かんがえられる。彼かれが教会きょうかいを尊重そんちょうしていたのは明あきらかであり、勅みことのり令れいではキリスト教きりすときょうの建物たてものの寄進きしんを何なん回かいも行おこなっている事ことがはっきりと見みて取とれる。キャドワラが南みなみサクソンに侵攻しんこうした時とき、ウィルフリドはエゼルワルホの王宮おうきゅうに出仕しゅっししていた。そしてエゼルワルホの死後しごにウィルフリドはキャドワラに接触せっしょくしている。「ウィルフリド伝でん」ではキャドワラは彼かれを精神せいしん的てきな父親ちちおやとして見みていたとしている。ベーダは、キャドワラはワイト島とうの征服せいふくが完了かんりょうした暁あかつきには4分ぶんの1を教会きょうかいに寄進きしんする事こと、その寄進きしんはウィルフリドに下賜かしされる事ことを誓約せいやくしたと伝つたえている。ベーダはまたキャドワラはワイト島とうの支配しはい者しゃであったアルワルドの相続そうぞく者しゃが処刑しょけいされる前まえに洗礼せんれいを施ほどこす事ことを許ゆるしたと伝つたえている。彼かれの施ほどこした勅書ちょくしょのうち2つはウィルフリドへの寄進きしんのものであり、またサセックスの教会きょうかい体制たいせいの設立せつりつに努つとめるウィルフリドと東ひがしサクソンの司教しきょうエオルチェンワルドのために彼かれが何なん度ども協力きょうりょくした証拠しょうこがある。しかし、ウィルフリドがキャドワラの世俗せぞく的てき、軍事ぐんじ的てきな影響えいきょう力りょくを及およぼしたという証拠しょうこはない。

ウィルフリドのキャドワラへの協力きょうりょくは違ちがう形かたちでよい影響えいきょうを与あたえる事こととなったとも考かんがえられている。「ウィルフリド伝でん」ではカンタベリー大司教だいしきょうテオドレはウィルフリドが自分じぶんの大司教だいしきょう座ざの後のちを継ついでくれるようにと強調きょうちょうして述のべられており、この記述きじゅつが本当ほんとうであるならば、ウィルフリドがキャドワラが南方なんぽうへの宗主そうしゅ権けんを及およぼすのに影響えいきょうを与あたえていた事ことを反映はんえいしていると考かんがえられる。

退位たいい、洗礼せんれい、そして死し

688年ねん、キャドワラは退位たいいし、ローマへと巡礼じゅんれいの旅たびに出立しゅったつした。恐おそらくはワイト島とう攻略こうりゃくの際さいに追おった傷きずがもとで死しを悟さとったからであろうと思おもわれている。彼かれは洗礼せんれいを受うけた事ことはおらず、ベーダが言いうには、「祝福しゅくふくされたキリストの使徒しとの神殿しんでんにて洗礼せんれいの清しんめを受うけるという特権とっけんを」望のぞんだという。途上とじょう彼かれはフランスのカレー近郊きんこうのサメー(Samer)に立たち寄より、この地ちの教会きょうかいの設立せつりつに必要ひつような金銭きんせんを与あたえた事こと、現在げんざいでは北きたイタリア、ランゴバルド人じんの王おうクニペルトの王宮おうきゅうに立たち寄よった事ことが分わかっている 。ローマでは教皇きょうこうセルギウス1世せいのもとで（ベーダによれば）復活ふっかつ祭さい前まえの土曜日どようび洗礼せんれいを施ほどこされ、洗礼せんれい名めいとしてペテロの名なを授さずかり、すぐに「いまだ洗礼せんれいの白衣はくいをまとった姿すがたで」没ぼっしたと伝つたわっている。遺体いたいは聖せいペテロ教会きょうかいにて埋葬まいそうされたと言いう。ベーダの『イングランド教会きょうかい史し』と『アングロサクソン年代ねんだい記き』ともに彼かれの命日めいにちは4月がつ20日はつかと伝つたえているが、後者こうしゃのみキャドワラは洗礼せんれいの7日にち後ごに没ぼっしたと伝つたえている。この年としの復活ふっかつ祭さい前まえの土曜日どようびは4月がつ10日とおかになるので、若干じゃっかんずれがある。彼かれの墓碑ぼひには「サクソン人じんの王おう」と書かかれていたと言いう"。

キャドワラが688年ねんに出立しゅったつしている事ことからイングランド南部なんぶは社会しゃかい的てきに不安定ふあんていとなったと思おもわれる。キャドワラの後継こうけい者しゃイネは726年ねんに退位たいい、西にしサクソン王族おうぞく系譜けいふ目録もくろくではイネの統治とうちは37年ねんとの事ことより、彼かれの登とう位いは688年ねんではなく689年ねんとなる。この事ことはキャドワラの退位たいいからイネの登とう位いまでの間あいだに不安定ふあんていな時期じきがあった事ことが示唆しさされている。688年ねん、ケント王国おうこくの王位おういは再ふたたび変かわり、明あきらかにマーシア王国おうこくの庇護ひご下かにあるオスウィネが王位おういに登のぼる。そしてケント王国おうこくはキャドワラ退位たいい後ごは東ひがしサクソンの影響えいきょうを受うけるようになった。

脚注きゃくちゅう

爵位しゃくい・家督かとく
先代せんだい チェントウィネ	ウェセックス王おう 在位ざいい 685/686–688	次代じだい イネ