『チャッピー』(原題: CHAPPiE)は、2015年に公開されたアメリカ合衆国のSF・アクション映画。監督と脚本はニール・ブロムカンプ、主人公である意志を持つロボット・チャッピーの声とモーションキャプチャはシャールト・コプリーが務める。なお、このふたりのコラボレーションは本作で3度目となる。
アメリカでは2015年3月6日、日本では同年5月23日に公開[3]。
近未来。ヨハネスブルグの高い犯罪発生率を減らすため、南アフリカ政府は、大手兵器メーカーTetravaal(テトラバール)社から、高性能の人工知能を半分取り入れた最先端の攻撃ロボットを購入した。
同社のヨハネスブルグ工場では、ロボットの設計者、ディオン·ウィルソンが、オーストラリアのエンジニア、ヴィンセント·ムーアからの激しい妬みに悩まされていた。ムーアは自分の開発した、人間の脳波コントロールで動く攻撃ロボット「ムース」の売り込みに失敗。プレゼンの機会を設けられても、そのあまりの攻撃力の高さから警察組織から導入を拒まれており、開発予算を減らされてディオンを逆恨みしていたのである。
そんな中ディオンは、感情を持ったり、意見を表す事の出来る、人間の知性を模倣した新たな人工知能ソフトウェアを開発した。しかし、彼の上司、ミシェル・ブラッドリーは、そのロボットを試作することを許可しなかった。
諦めきれないディオンは、ロケット砲の攻撃でバッテリーを損傷し廃棄予定だったロボットと、ロボットのソフトウェアをアップデートするために必要なUSBドングル「ガードキー」を、秘かに家へ持ち帰ろうとする。だが、帰宅途中、強盗を成功させるため「ロボットの電源を切るリモコン」を欲しがっているギャンググループのニンジャ、ヨーランディ、アメリカに誘拐されてしまう。
「リモコン」など存在しないとディオンに聞かされた3人は彼を始末しようとするが、彼の車に壊れたロボットを発見し、そのロボットを味方として作り直すように彼を脅迫する。
その場を切り抜けるために、ディオンは壊れたロボットに人工知能ソフトウェアをインストールする。
ギャングの3人は、7日以内に借金を返済するために、強盗をしようとしていた。ロボットの知能はまだ何も情報を持っておらず、ボディは攻撃ロボット、しかし中身は純真無垢でまるで赤ん坊のようである。ヨーランディに「チャッピー」と名付けられたロボットを教育するために、ディオンはいったん職場に戻り、3人のもとへと再び戻ってくる。
その折、アップデートのためのガードキーが持ち去られたことに気付いたムーアは、ディオンの後をつけ、チャッピーの存在を知る。
一方、ヨーランディは「ママ」として、ニンジャは「パパ」としてチャッピーの教育に成功するが、彼とアメリカの2人は、借金返済の期限が迫っているため、急いでチャッピーを「最強兵器」にしようと試み、ニンジャはチャッピーにヨハネスブルグの状況を学ばせるために、スラムに彼を放置するという暴挙に出る。
チャッピーはスラムのギャングから攻撃を受けながらも、なんとかヨーランディたちの元に帰ろうとするが、そこにムーアが警備兵と共に現れ、チャッピーの片腕を切断した挙句、彼に搭載されていたままになっていたガードキーを強奪する。
ニンジャらはなんとかムーアらの手から逃れて戻ってきたチャッピーに驚愕しながらも、ディオンが用意していた余剰パーツを組み付けて切断された片腕の修理を行う。
チャッピーの学習速度は驚異的であり、言葉からニンジャらの教える武器の扱いまで学習を進めていく。
ディオンの命令で殺人を行ってはいけないという枷があったチャッピーであったが、アメリカはそれを逆手に取り「脅すだけなら問題ない」「ナイフで刺すのは眠らせるだけで死にはしない」とチャッピーを騙して戦闘能力を持たせることに成功。チャッピーはわずかな時間で、資金稼ぎの車泥棒の手伝いまで行えるようになっていた。
一方、ガードキーを強奪していたムーアはある陰謀をすすめていた。ガードキーを利用して会社のネットワークにアクセスし、警察組織に配備されているディオンのロボットらをすべてコンピューターウイルスで破壊して治安を悪化させ、それを自分のムースを用いて沈静化させることでディオンを失脚させ、更に自身のムースの売り込みを図ろうとしていた。
ムーアの放ったウイルスによってディオンのロボットはすべて機能停止し、狙い通りヨハネスブルグの町は暴徒であふれてしまう。
チャッピーもウイルスの被害にあうが、ディオンによって復旧。しかし、予想をはるかに超えて学習を進めるチャッピーは、バッテリーの損傷で自分の「命」が残り少ないことを自覚する。
ディオンになぜ壊れたボディを与えたのかと詰問するチャッピー。仕方のないことであったというディオンに対してチャッピーは激怒し、彼を拒絶する。
ニンジャはチャッピーに「強盗に成功したら新しいボディを買ってやる」と嘯くが、それを真に受けたチャッピーは入手した電子部品で、意識をコピーするソフトウェアを独自に開発してしまう。
それはムースに使われている脳波コントロール装置を利用して、人間の意識をコピーすることまでできる代物であり、チャッピーはテストでヨーランディの意識のコピーに成功し、更に自分の意識のコピーも行って意気揚々となる。
一方、ウイルスの対応に追われるディオンらだがムーアの犯行を察知した直後、ニンジャらがチャッピーと共に強盗を行っているニュースが流れたことで、ブラッドリーはムースの出動を許可し、ムーアにチャッピーの破壊を指示。
ディオンはチャッピーを救うべく、攻撃用の重火器を持ってチャッピーの元に赴くが、ちょうどギャングらがチャッピーの能力欲しさに彼を強奪するべく武装して現れ、更にムーアが駆るムースが襲来。三巴の戦いに発展する。
ムースによってアメリカは凄惨な死を迎え、更にギャングらはムースの高火力に次々と殺害されていく。チャッピーはディオンから与えられた重火器で応戦し、ムースにダメージを与え、更に爆薬をムースに取り付けるが、起爆スイッチを押す寸前で銃撃で阻止されてしまう。
ニンジャは襲ってきたギャングのボスを打倒して、ヨーランディらと逃げようとするが、ディオンが銃撃で致命傷を負ってしまう。
空を飛行して襲ってくるムースに対してニンジャはヨーランディらを救うべく、自らおとりになるが我慢できずに応戦したヨーランディはムースの銃撃で死亡する。
チャッピーは取り落とした起爆スイッチを再び手にしてムースを爆破、完全に破壊し、ディオンを救うべく意識のコピーを行うためにムースの操作場に赴く。
そこで待ち構えていたムーアはディオンを殺害しようとするが、それによってムーアがこの惨状の主犯であるということに気づいたチャッピーは激怒し、ブラッドリーや他の社員の目の前でムーアを徹底的に叩きのめす。半死半生状態まで追い込まれたムーアを「なぜ人間同士で傷つけ合うのだ」と罵るチャッピーであったが、最後は「許す」とムーアを見逃す。
そしてチャッピーはディオンの意識と自分の意識を、他のロボットに移植することに成功させるのであった。
一連の事件を経てヨハネスブルグ警察は、Tetravaal社のロボットの使用を取りやめて人間の警官の増員を行うことを決め、さらに姿を消したチャッピーを追う。
チャッピーとロボットとなったディオンは、死闘から生き残ったニンジャから、チャッピーが以前テストでコピーを取っていたヨーランディの意識が入ったUSBを受け取り、ヨーランディを復活させようとする。
そしてチャッピーがTetravaal社の製造ラインにハッキングを仕掛け、ヨーランディのためのロボット素体を組み立て、そのロボットが起動したシーンで物語は幕を閉じる。
※括弧内は日本語吹替
本作は2004年にブロムカンプが製作した短編映画『Tetra Vaal 』を長編映画化したものである[5]。
主要撮影は2013年10月下旬に南アフリカ共和国のヨハネスブルグで始まり、2014年2月に終了した[6][7]。なお、2014年4月に、カナダのブリティッシュコロンビア州で追加撮影が行われた[8]。
ダイ・アントワードのニンジャとヨーランディは出演の他、音楽とアートワークにも携わっている。
監督のブロムカンプは、「チャッピーには面白い経緯があるんだ。2004年頃に架空のロボット会社のCMを作ったんだけど、チャッピーのデザインはそこから盗んだものなんだ。そのロボットのデザインは『アップルシード』の“シロウ・マサムネ(士郎正宗)”から影響を受けているよ。その頃、日本のアニメや漫画が大好きだったんだ。」とインタビューで答えている[9]。
チャッピーの映像は、シャールト・コプリーがトラッキング[要曖昧さ回避]マーカーを付けたグレーのスーツを着て演じた[10]。その演技を下地に、デジタル技術によりチャッピーの動きを上書きするという手法で作られた[10]。
2015年2月6日、本作を配給するソニー・ピクチャーズは、IMAXの形式で上映できるようにデジタル処理を施して、本作をIMAXでも公開できるようにすると発表した[11]。
なお、日本版ではPG12区分で放映するために本国版に比べてシーンのカットが行われる[12]。
配給元のソニー・ピクチャーズは「監督の賛同を得た上で」編集を行ったと説明している[12]が、ニール・ブロムカンプはそれに対し「何も知らない、ワールドワイド版の1つだけだ」「何も聞いていない…、確認してみる」と述べている[13][14]。
同年7月24日、ソニー・ピクチャーズは9月18日にリリースされるブルーレイ版とDVD版がUS劇場公開版と同様の「アンレイテッド・バージョン」であると発表[15]。日本公開版での編集はソニー・ピクチャーズが委託された編集権に基づいての独自判断であり、「監督の直接の賛同を得ていませんでした」と公式ツイッターで謝罪した[16]。
初回生産限定のプレミアムエディションには、ブロムカンプ自身が影響を受けた監督・作品であることを公言している押井守、荒牧伸志[注 1]、伊藤暢達の3人が描く“チャッピー”のポストカード「Japan meets CHAPPIE ポストカード3枚セット」を封入。
2015年3月6日、本作は全米3201館で公開され、公開初週末に1330万ドルを稼ぎ出し、週末興行収入ランキング初登場1位となった[17]。この数字はブロムカンプが以前に監督した作品のオープニング記録、つまり、『第9地区』(2009年公開)の3735万ドル[18]、『エリジウム』(2013年公開)の2980万ドル[19]を下回るものであった。
2015年5月23日に、全国267スクリーンで公開され、オープニング2日間で動員5万8574人、興収8354万9400円を記録し、週末興行収入ランキング初登場8位となった[20]。
ハンス・ジマーがスコアを手掛けた。ジマーのキャリア史上初となる全編エレクトロ・サウンドとなっており、自ら「ザ・チャッピー・エレクトリック・シンフォニア(The Chappie ElektrikSynthphonia)」と呼んでいる[21]。なお、ギャング役で出演したダイ・アントワードが歌う主題歌は含まれていない。
- 収録曲
チャッピー Soundtrack# | タイトル | 作詞・作曲 | 時間 |
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1. | 「危険な都市」(It's a dangerous city) | ハンス・ジマー(以下すべて) | |
2. | 「スカウト部隊出動」(The only way out of this) | | |
3. | 「画期的な人工知能」(Use your mind) | | |
4. | 「チャッピーの誕生」(A machine that thinks and feels) | | |
5. | 「ファームウェア更新」(Firmware update) | | |
6. | 「過酷な現実」(Welcome to the real world) | | |
7. | 「黒い羊」(The black sheep) | | |
8. | 「無敵のギャングスタ・ロボット・ナンバー1」(Indestructible Robot Ganster # 1) | | |
9. | 「データ解読」(Breaking the code) | | |
10. | 「ヨハネスブルグで一番のワル」(Rudest bad boy in Joburg) | | |
11. | 「チャッピーの怒り」(You lied to me) | | |
12. | 「暴動発生」(Mayhem downtown) | | |
13. | 「本当に大切なもの」(The outside is temporary) | | |
14. | 「ディオンとの約束」(Never break a promise) | | |
15. | 「“心”は生き続ける」(We own this sky) | | |
16. | 「超クールなギャングスタ」(Illest gangsta on the block) | | |
合計時間: | |
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- 出典:オールミュージック[22]、邦題はAmazon[21]
- ^ 「ニール監督が以前撮っていたショートフィルムにアップルシードのブリアレオスっぽいポリスロボが出ていて、『士郎正宗さんの作品がスキなんだろうな〜』とは思ってたけど、これほどスキだったのか!すばらしい!」とあわせてコメントしている。