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トルバドゥール

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

トルバドゥールTroubadour)、トゥルバドゥールは、中世ちゅうせいオック抒情詩じょじょうし詩人しじん作曲さっきょく歌手かしゅのこと。リムーザンギュイエンヌGuyenne)、プロヴァンス、さらに、カタルーニャアラゴン王国おうこくガリシアイタリア活躍かつやくした。女性じょせいのトルバドゥールはトロバイリッツTrobairitz)とばれる。

トルバドゥールのおおくは、騎士きしどうと、高貴こうき女性じょせいへのあこがれやこいという宮廷きゅうていあいをテーマにしたものであった。とくに、人妻ひとづまとなった貴婦人きふじんおも真実しんじつあいうた有名ゆうめいである。西にしヨーロッパの文学ぶんがくは12世紀せいき分水嶺ぶんすいれいがあり、それまでは「ローランのうた」にみられるような、粗野そやたけほね戦闘せんとうてきゲルマンじん一途いちず騎士きしたましい発露はつろ武勲ぶくんであり、そこにあいみやびの精神せいしん女性じょせいたいするあいはなかったが、12世紀せいきみなみフランスのプロヴァンスで、突然とつぜんトルバドゥールのあい抒情詩じょじょうしうたわれるようになった[1]突如とつじょとしてあらわれたそれは、ペトラルカふうソネットちかい、完成かんせいされた優雅ゆうがさや繊細せんさいみやびの世界せかいであり、西にしヨーロッパにおける「ロマンティシズム成立せいりつ」をみることができる[1]。トルバドゥールは、12世紀せいき後半こうはんになるときたフランスのトルヴェール(trouvères)と、ドイツがわミンネザングうたミンネゼンガーとして発展はってんした[2]

騎士きし階級かいきゅう没落ぼつらくとともに、これらの中世ちゅうせいじょ情歌じょうか衰退すいたいしたが、その感性かんせいは、ペトラルカダンテの「ドルチェ・スティル・ヌオーヴォ」の詩人しじんたちにがれていった[2]

語源ごげん研究けんきゅう[編集へんしゅう]

「troubadour」というかたりとそのどう語族ごぞくかたりtrov(i)èro, イタリアtrovatoreスペインtrovadorカタルーニャガリシアtrobador)の起源きげんについては意見いけんかれている。

ラテン語らてんご起源きげんせつ[編集へんしゅう]

英語えいごの「troubadour」は、オックの「trobador」がフランス語ふらんすご経由けいゆはいってきたものであるが、オックの「trobador」は、「転回てんかい方法ほうほう」を意味いみするギリシャの「τρόπος (tropos)」に由来ゆらいするぞくラテン語らてんごの(仮説かせつ)「*tropāre」(トロープス)から派生はせいした動詞どうしtrobar」の名詞めいし相当そうとう語句ごくである主格しゅかくtrobaire」のはすかくである、というせつがある[3]ラテン語らてんごのルーツとしてはほかにも「turbare」(ひっくりかえる、くつがえす)がかんがえられる。「trobar」は現代げんだいフランス語ふらんすごの「trouver」(いだす)と語源ごげんおなじである。フランス語ふらんすごの「trouver」ははすかくの「trouveor」あるいは「trouveur」のわりに、主格しゅかくの「Trouvèreトルヴェール)」になり、フランス語ふらんすごはオックはすかくみ、そこから英語えいごはいりこんだ[3]。「trobar」のオック一般いっぱんてき意味いみは、「発明はつめいする」または「てる」で、それが普通ふつう翻訳ほんやくされた。こうしてトルバドゥールは作品さくひんつくり、一方いっぽうでjoglar (ジョングルールミンストレル)はそうしたうた演奏えんそうするのみだった。このせつは、アカデミー・フランセーズラルースだい百科ひゃっか事典じてん、プティ・ロベール(フランス語ふらんすご辞典じてんPetit Robert)によって支持しじされている[いつ?]

ギリシャラテン語らてんご→オックフランス語ふらんすご英語えいごという仮説かせつは、Peter Dronke や Reto Bezzola といった、トルバドゥールの起源きげんをラテンの古典こてん形式けいしきあるいは中世ちゅうせいラテン語らてんご典礼てんれいいだす人々ひとびと支持しじされている。

アラビア起源きげんせつ[編集へんしゅう]

アラビア起源きげんせつは、ラテン語らてんご起源きげんせつほどふるいものではない。このせつ支持しじしているのは、マリア・ロサ・メノカルなど、トルバドゥールの起源きげんアラビアアル=アンダルス音楽おんがくなかにあるという意見いけんっている研究けんきゅうたちである。彼女かのじょ/かれらによると、アラビアの「tarrab」(うたうこと)が「trobar」の語源ごげんであるという。歴史れきし学者がくしゃ伊東いとう俊太郎しゅんたろうは、アラビアの「タリバ」という動詞どうしだいがたからきているのではないかと想定そうていしている[4]

このせつ支持しじする何人なんにんかは、文化ぶんかてき背景はいけいからみて、両方りょうほう語源ごげんともただしく、あいをテーマとするスーフィズム宗教しゅうきょうてき音楽おんがく形式けいしきみなみフランスのアル=アンダルスから最初さいしょ外国がいこくつたわったとき、「trobar」とアラビアの3子音しいん語根ごこんTRB」のあいだにある音韻おんいんろんてき一致いっち意識いしきてきかつ詩的してき利用りようがあったのではないかとかんがえている。さらに、「見付みつける」「音楽おんがく」「あい」「情熱じょうねつ」といった概念がいねん(トルバドゥールというかたりつよ関連かんれんする意味いみ領域りょういき)は、スーフィズムの音楽おんがく議論ぎろん重要じゅうよう役割やくわりをつとめ、トルバドゥールというかたりは、一部いちぶがその反映はんえいかもれないアラビア単一たんいつ語根ごこん(WJD)とむすびついている。

トルバドゥールの抒情詩じょじょうし感性かんせいは、それ以前いぜんたけほね西にしヨーロッパに存在そんざいしないあたらしいものであり、伊東いとう俊太郎しゅんたろうは、トルバドゥールの発祥はっしょうみなみフランスが示唆しさするように、イスラーム・スペインに起源きげんち、それがカタルーニャて、ラングドック、プロヴァンスにつたえられたものとかんがえられるとしている[2]傍証ぼうしょうとして13世紀せいき前半ぜんはん出来上できあがったあいうた物語ものがたり(Chantefable)『オーカッサンとニコレット英語えいごばん』をしめし、南仏なんふつ王子おうじオーカッサンという王子おうじはアル=カーシムというアラビア名前なまえをヨーロッパふうになまらせたもので、ニコレットはスペインの東海岸ひがしかいがんカルタ―ヘナ出身しゅっしんアラビア王女おうじょであり、トルバドゥールがスペインからプロヴァンスに北上ほくじょうしたルートをあたかもしめすようである、とべている[2]。ブリタニカ国際こくさいだい百科ひゃっか事典じてん しょう項目こうもく事典じてん では、ほんさくは「アラブまたはビザンチン起源きげん」とされている[5]

イスラーム文明ぶんめい影響えいきょう[編集へんしゅう]

伊東いとう俊太郎しゅんたろうは、当時とうじのイスラーム世界せかいでは女性じょせい地位ちいたかく、女性じょせいささげられるあいふかかったとえ、イスラーム世界せかい数多かずおおまれた女性じょせいへのあいうたにみられる「みやびの繊細せんさい感性かんせい」がスペインではぐくまれ、西にしヨーロッパにがれたと推測すいそくしている[4]。イスラーム世界せかいだい詩人しじんイブン・クズマーン英語えいごばんつくったジャーザルたいという詩形しけいが、トルバドゥールのあいかた影響えいきょうあたえたとわれる[4]

イスラーム世界せかいあいうたはウードをかなでてうたわれ、トルバドゥールはあいうたをリュートをかなでてうたったが、リュートという言葉ことばはウードからきているとわれる[4]

伊東いとう俊太郎しゅんたろうは、「女性じょせいへのたか評価ひょうか女性じょせいへの『はるかなるあい』」というテーマからも、『アラビアン・ナイト』の世界せかいとトルバドゥールの世界せかいにはふか関連かんれんがあるとべ、その表現ひょうげん類似るいじせい指摘してきしている[4]。ヨーロッパは12世紀せいき中心ちゅうしんにイスラーム世界せかい接触せっしょくし、その先進せんしん文化ぶんか吸収きゅうしゅうしてみずからの文化ぶんか発展はってんさせており、伊東いとう俊太郎しゅんたろうは「西欧せいおう世界せかいは12世紀せいきあたらしい時代じだいむかえ(12世紀せいきルネサンス)、そこにトルバドゥールの抒情詩じょじょうし形成けいせいされ、あたらしいヨーロッパ文学ぶんがく世界せかい誕生たんじょうしたとってよいであろう。」とべている[6]

代表だいひょうてきなトルバドゥール[編集へんしゅう]

作品さくひんのジャンル[編集へんしゅう]

  • アルバ - 夜明よあけがわかれなければならない恋人こいびとたちのうた
  • カンソ - 恋愛れんあいうた
  • コブラ - スタンザ。
  • Comiat - 恋人こいびと関係かんけいうた
  • canso de crozada - 十字軍じゅうじぐんについてのうた通常つうじょう元気げんきづける。
  • ダンサ(Dansa)またはBalada - リフレインをふくきしたおどりのうた
  • デスコルト - 不調和ふちょうわうた
  • Ensenhamen - なが教訓きょうくん通常つうじょうスタンザをけない。
  • Enuig - 義憤ぎふん侮蔑ぶべつてき感情かんじょう表現ひょうげんした
  • Escondig - 恋人こいびと陳謝ちんしゃ
  • エスタンピー - おどりのうた
  • Gab - 自慢じまんするうた挑戦ちょうせんとして表明ひょうめいされることがおおい。現代げんだいのスポーツのシュプレヒコールにたものがおおい。
  • Maldit - 淑女しゅくじょのふるまいと性格せいかくについて説明せつめいするうた
  • パルティマン - 2人ふたり以上いじょう詩人しじん交換こうかんされる
  • パストゥレル - 騎士きしじょひつじいに求愛きゅうあいするうた
  • Planh - なげきのうた。とくに重要じゅうよう人物じんぶつさいして。
  • Plazer - よろこびをあらわうた
  • Salut d'amor(あい挨拶あいさつ) - いつもの恋人こいびとではないべつひとへの恋文こいぶみ
  • セスティーナ - 高度こうど構造こうぞう韻文いんぶん
  • シルヴェンテス - 政治せいじてきうたあるいは風刺ふうし
  • ソネット - イタリアののジャンル。13世紀せいきにオック韻文いんぶんにも導入どうにゅうされた。
  • テンソ - 2人ふたり詩人しじんによるそう
  • Torneyamen - 3にん以上いじょうそう審判しんぱんがつくことがおおい(トーナメントのように)。
  • Viadeyra - 旅人たびびと愚痴ぐち

形式けいしき[編集へんしゅう]

音楽おんがく学者がくしゃのフリードリヒ・ゲンリッヒはトルバドゥールとトルヴェールの世俗せぞく抒情じょじょう形式けいしき

  • れんいのりがた」(かくおな旋律せんりつうたわれるもの)
  • 「セクエンツィアがた」(宗教しゅうきょうきょくセクエンツィア同様どうよう形式けいしきつもの)
  • 讃歌さんかがた」(アンブロジウス聖歌せいか一種いっしゅアンブロジウス讃歌さんかAmbrosian hymns形式けいしきもとにしたもの)
  • 「ロンデルがた」(のちにフランスのさんだい定型ていけいとなったもの。「バラード」「ヴィルレー」「ロンドー」)

の4つに分類ぶんるいしているが、トルバドゥールの時代じだいはこのうち、「讃歌さんかがた」や、より単純たんじゅんゆう節形式せつけいしきもちいられた。[7]

この「讃歌さんかがた」には、つぎ形式けいしきがある[7]

  • シャンソンがた
    • ab ab cd
    • ab ab cde
おおきくけるとAABとなり、ミンネザング形式けいしきであるバール形式けいしきおなじである。
  • ロンド・シャンソンがた
    • ab ab cdb

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b 伊東いとう 2002, pp. 145–146.
  2. ^ a b c d 伊東いとう 2002, p. 145.
  3. ^ a b Chaytor, Part 1.
  4. ^ a b c d e 伊東いとう 2002, p. 146.
  5. ^ "オーカッサンとニコレット". ブリタニカ国際こくさいだい百科ひゃっか事典じてん しょう項目こうもく事典じてん. コトバンクより2024ねん4がつ3にち閲覧えつらん
  6. ^ 伊東いとう 2002, pp. 146–147.
  7. ^ a b ウルリヒ・ミヒェルスへん図解ずかい音楽おんがく事典じてん日本語にほんごばん監修かんしゅうすみくら一朗いちろう白水しろみずしゃ)p193

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 伊東いとう俊太郎しゅんたろう「ヨーロッパとはなにか」『別冊べっさつたまきだい5かん藤原ふじわら書店しょてん、2002ねん、140-147ぺーじ 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]