(Translated by https://www.hiragana.jp/)
ノーベル症 - Wikipedia コンテンツにスキップ

ノーベルしょう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

ノーベルしょう(ノーベルしょう:Nobel diseaseまたはNobelitis)とは、ノーベルしょう受賞じゅしょうしゃ一部いちぶおも後年こうねん奇妙きみょうであったり科学かがくてき不合理ふごうりせついだくこと[1][2][3] 。ノーベルしょう受賞じゅしょうしゃ自分じぶん専門せんもん分野ぶんや以外いがい話題わだいについてかたちからあたえられたとかんじる傾向けいこうからくる、と主張しゅちょうされている[4][5][6]。その一方いっぽうで、ノーベルしょう受賞じゅしょうしゃたして一般人いっぱんじんよりもこの傾向けいこうおちいりやすいのかどうかは不明ふめいである[7]。 2001ねんノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう共同きょうどう受賞じゅしょうしゃ一人ひとりであるポール・ナースは、自身じしんよりのち受賞じゅしょうしゃたいし(あなたは)「自分じぶんがほぼすべてについての専門せんもんであるとしんじ、だい議論ぎろんこっているほぼすべての問題もんだい一家言いっかげんべる用意よういがあるとしんじ、ノーベルしょうによってあたえられる権威けんいかげかくれている」と警告けいこくした[8]

含意がんい

[編集へんしゅう]

ノーベルしょう受賞じゅしょうした科学かがくしゃが、科学かがくしゃよりも批判ひはんてき思考しこう間違まちがいをおかしやすい傾向けいこうにあるのかどうかは、統計とうけいてき不明ふめいである。その一方いっぽうで、いち分野ぶんや権威けんいであるからとって、べつ分野ぶんやでも権威けんいであることにはならないという構成こうせいてき証明しょうめい英語えいごばんつので、この現象げんしょう興味深きょうみぶかい。そして、ノーベルしょうることが、科学かがくてき才能さいのうがあることや一般いっぱん知能ちのうたかいことの証明しょうめいわりになるかぎり、このような指標しひょうは、非合理ひごうりてきではない[7][9]

ノーベルしょうは、一部いちぶ受賞じゅしょうしゃは、自分じぶん普遍ふへんてきただしいとてはやされると、それぞれの懐疑かいぎ主義しゅぎよりもそれぞれの確証かくしょうバイアスほう強化きょうかされる、というせつ論証ろんしょうにもなる[10]。1976ねんのノーベル経済けいざいがくしょう受賞じゅしょうしゃであるミルトン・フリードマンは、ノーベルしょうの「解毒げどくやく」のために経済けいざいがくかんがえから以下いかのようにべている[11]

わたし自身じしん風邪かぜなおかたから、ジョン・F・ケネディ直筆じきひつサインりの手紙てがみがいくらするのかまで、ありとあらゆる物事ものごとについて意見いけんもとめられました。うまでもありませんが、(ノーベルしょう受賞じゅしょうによって)衆目しゅうもくあつめることは、へつらいなのです。 しかし同時どうじに、堕落だらくへの誘惑ゆうわくでもあります。ノーベルしょうったことによって、どういうわけか受賞じゅしょうしゃ能力のうりょくえて膨張ぼうちょうしていく世間せけん関心かんしんと、膨張ぼうちょうするエゴ、この両方りょうほうたいする解毒げどくやく切望せつぼうされています。わたし研究けんきゅう分野ぶんやには、これにたいするひとつの明確めいかくな「解毒げどくやく」があります。もっとたくさんのしょうつくって、競争きょうそうさせるのです。しかしこれほどまでに成功せいこうしたしょうにとってかわるのは簡単かんたんではありません。したがって、わたしたちの膨張ぼうちょうするエゴが今後こんごながきにわたって安全あんぜんか、うたがわしいものです[11]

症例しょうれいとして報告ほうこくされた受賞じゅしょうしゃ

[編集へんしゅう]

シャルル・ロベール・リシェ

[編集へんしゅう]

シャルル・ロベール・リシェは1913ねんのノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうしゃアナフィラキシー研究けんきゅうによる。かれちょう感覚かんかくてき知覚ちかくちょうつね現象げんしょう、ダウジング、亡霊ぼうれいしんじていた[7]

ライナス・ポーリング

[編集へんしゅう]

ライナス・ポーリングは1954ねんのノーベル化学かがくしょう受賞じゅしょうしゃ化学かがく結合けつごう研究けんきゅうによる。受賞じゅしょうの10ねんまえかれブライトびょう診断しんだんされ、ビタミンのサプリメントを摂取せっしゅすることを治療ちりょう一部いちぶにとりいれ、それにより体調たいちょう劇的げきてき回復かいふくした、と主張しゅちょうした。かれ後年こうねん多量たりょうのビタミンCを摂取せっしゅすることで、風邪かぜをひきづらくなり、ひいてもかるむとしんじこむようになり、推奨すいしょうされる1にち摂取せっしゅりょうの120ばいのビタミンCを毎日まいにち摂取せっしゅつづけた。さらにかれは、ビタミンCの大量たいりょう摂取せっしゅ統合とうごう失調しっちょうしょう治療ちりょう効果こうかがあり、がん患者かんじゃ寿命じゅみょうをのばす、とも主張しゅちょうした。以上いじょう主張しゅちょうには科学かがくてき根拠こんきょはない[1][2][9]

ウィリアム・ショックレー

[編集へんしゅう]

ウィリアム・ショックレーは1956ねんのノーベル物理ぶつりがくしょう受賞じゅしょうしゃトランジスタ発明はつめいによる。人種じんしゅ差別さべつ優生ゆうせいがく推進すいしんした[4][9]

ジェームズ・ワトソン

[編集へんしゅう]

ジェームズ・ワトソンは1962ねんのノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうしゃフランシス・クリックモーリス・ウィルキンスともに、「核酸かくさん分子ぶんし構造こうぞうおよび生体せいたいにおける情報じょうほう伝達でんたつたいするその意義いぎ発見はっけん」による。すくなくとも2000ねんからワトソンは、黒人こくじん白人はくじんよりも生得しょうとくてき知性ちせいひくく、また熱帯ねったい地域ちいき日光にっこうび、メラニンのレベルがたかいほど、はだくろひと性欲せいよくたかまる、と公式こうしき主張しゅちょうつづけている[9][12][13]

ニコ・ティンバーゲン

[編集へんしゅう]

ニコ・ティンバーゲンは1973ねんのノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうしゃ個体こたいてきおよび社会しゃかいてき行動こうどう様式ようしき組織そしき誘発ゆうはつかんする研究けんきゅうによる。受賞じゅしょうスピーチのなかかれは、自閉症じへいしょう原因げんいんとしておおくのひとしんじていない[14] "冷蔵庫れいぞうこマザー"仮説かせつした。これにより、"受賞じゅしょうしゃがほぼらない分野ぶんやのことについてバカげたことをうまでのほとんどかすことのできない最短さいたん記録きろく"がてられた[2]。1985ねん、ティンバーゲンはつま共著きょうちょ[15]ほんした。自閉症じへいしょうたいし"en:holding therapy"をすすめる内容ないようで、この治療ちりょうほう実証じっしょうてき支持しじされておらず、肉体にくたい危険きけんおよ[1][9]

ブライアン・ジョゼフソン

[編集へんしゅう]

ブライアン・ジョゼフソンは1973ねんのノーベル物理ぶつりがくしょう受賞じゅしょうしゃジョセフソン効果こうか予測よそくによる。ジョセフソンはすうおおくの、科学かがくてき支持しじられていなかったりうたがわれていたりする信条しんじょう推進すいしんしていた。そのなかには、みずはそのなかかされた化学かがく物質ぶっしつ記憶きおくできるとするホメオパシー概念がいねんや、超越ちょうえつ瞑想めいそう無意識むいしきのトラウマを意識いしきてき認識にんしきさせるのに役立やくだつという見解けんかいや、人間にんげんはテレパシーでコミュニケーションできる可能かのうせい、などがふくまれる[9]

キャリー・マリス

[編集へんしゅう]

キャリー・マリスは1993ねんノーベル化学かがくしょう受賞じゅしょうしゃポリメラーゼ連鎖れんさ反応はんのう(PCR)の開発かいはつによる。かれは、エイズHIVによってこされる、というれられているうえに科学かがくてき検証けんしょうされてもいる見解けんかい同意どういしなかった[4][9][16]

リュック・モンタニエ

[編集へんしゅう]

リュック・モンタニエは2008ねんのノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうしゃ。HIVの発見はっけんによる。2009ねんかれ自身じしん設立せつりつした査読さどくのないジャーナルにて、かれ病原びょうげんたい(バクテリアやウイルス)のDNAふく溶液ようえきてい周波しゅうは電波でんぱすことができ、 周囲しゅうい水分すいぶんをナノ構造こうぞうならえることができる、と主張しゅちょうした。かれは、さき溶液ようえきをもともとのDNAが事実じじつじょうえるまでかなり希釈きしゃくしても、そのような性質せいしつのこり、みず接触せっしょくしていた物質ぶっしつ記憶きおく保持ほじできると主張しゅちょうした。かれはさらに、DNA配列はいれつ情報じょうほうがこれらの電波でんぱって、べつ蒸留じょうりゅうすい試験管しけんかんに「テレポート」できる可能かのうせいがある、とも主張しゅちょうした[2][17][18]かれはまた、ワクチンが自閉症じへいしょうこし、抗生こうせい物質ぶっしつ自閉症じへいしょうくという、科学かがくてき信用しんようされていない見解けんかい支持しじしている[9]

関連かんれん項目こうもく

[編集へんしゅう]

出典しゅってん

[編集へんしゅう]
  1. ^ a b c High dose vitamin C and cancer: Has Linus Pauling been vindicated?”. Science Based Medicine. sciencebasedmedicine.org (18 August 2008). 13 May 2020閲覧えつらん
  2. ^ a b c d Luc Montagnier and the Nobel Disease”. Science Based Medicine. sciencebasedmedicine.org (4 June 2012). 13 May 2020閲覧えつらん
  3. ^ Robson, David (2019-08-06) (英語えいご). The Intelligence Trap: Why Smart People Make Dumb Mistakes. W. W. Norton & Company. ISBN 978-0-393-65143-0. https://books.google.com/books?id=yQd1DwAAQBAJ 
  4. ^ a b c The Nobel disease”. Sciblogs. Science Media Center. 19 May 2020閲覧えつらん
  5. ^ Paul Krugman Now Has Nobel Disease”. American Council on Science and Health. American Council on Science and Health (18 December 2016). 19 May 2020閲覧えつらん
  6. ^ Weigmann, Katrin (April 2018). “The genesis of a conspiracy theory: Why do people believe in scientific conspiracy theories and how do they spread?” (英語えいご). EMBO Reports 19 (4). doi:10.15252/embr.201845935. ISSN 1469-221X. PMC 5891410. PMID 29491005. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5891410/. 
  7. ^ a b c Sternberg, Robert J.; Halpern, Diane F. (2020-01-16) (英語えいご). Critical Thinking in Psychology. Cambridge University Press. ISBN 978-1-108-75530-6. https://books.google.com/books?id=jG_IDwAAQBAJ 
  8. ^ Nurse, Paul (2013ねん10がつ11にち). “Attention, Nobel Prize winners! Advice from someone who's already won” (英語えいご). The Independent. 2021ねん9がつ19にち閲覧えつらん
  9. ^ a b c d e f g h Basterfield, Candice; Lilienfeld, Scott; Bowes, Shauna; Costello, Thomas (2020). “The Nobel disease: When intelligence fails to protect against irrationality”. Skeptical Inquirer 44 (3): 32–37. https://skepticalinquirer.org/2020/05/the-nobel-disease-when-intelligence-fails-to-protect-against-irrationality/. 
  10. ^ Diamandis, Eleftherios P. (1 January 2013). “Nobelitis: a common disease among Nobel laureates?”. Clinical Chemistry and Laboratory Medicine (Walter de Gruyter GmbH) 51 (8): 1573–1574. doi:10.1515/cclm-2013-0273. ISSN 1437-4331. PMID 23729580. 
  11. ^ a b Friedman, Milton; Friedman, Rose (1998). Two lucky people : memoirs (Paperback edition 1999 ed.). Chicago: The University of Chicago Press. p. 454. ISBN 0-226-26415-7 
  12. ^ “Fury at DNA pioneer's theory: Africans are less intelligent than” (英語えいご). The Independent. (18 September 2011). https://www.independent.co.uk/news/science/fury-dna-pioneer-s-theory-africans-are-less-intelligent-westerners-394898.html 
  13. ^ James Watson Had a Chance to Salvage His Reputation on Race. He Made Things Worse.”. The New York Times (1 January 2019). 2022ねん5がつ19にち閲覧えつらん
  14. ^ Folstein, S.; Rutter, M. (1977). “Genetic influences and infantile autism”. Nature 265 (5596): 726–728. Bibcode1977Natur.265..726F. doi:10.1038/265726a0. PMID 558516. 
  15. ^ Tinbergen, N.; Tinbergen, E.A. (1985). Autistic children: New hope for a cure. London: George Allen and Unwin. ISBN 978-0041570106 
  16. ^ Mullis, Kary (1998). Dancing Naked in the Mind Field. New York: Vintage Books. ISBN 978-0679442554 
  17. ^ Montagnier, L; Aissa, J; Giudice, E Del; Lavallee, C; Tedeschi, A; Vitiello, G (8 July 2011). “DNA waves and water”. Journal of Physics: Conference Series 306 (1): 012007. arXiv:1012.5166. Bibcode2011JPhCS.306a2007M. doi:10.1088/1742-6596/306/1/012007. 
  18. ^ The Montagnier "Homeopathy" Study”. Science Based Medicine (20 October 2009). 13 May 2020閲覧えつらん