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バイオダイナミック農法 - Wikipedia コンテンツにスキップ

バイオダイナミック農法のうほう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

バイオダイナミック農法のうほう(バイオダイナミックほうほう、どく:Biologisch-dynamische Landwirtschaft、ビオダイナミックビオディナミバイオロジカルダイナミック農業のうぎょうBD農法のうほう生命せいめい力動りきどう農法のうほうシュタイナー農法のうほうとも)とは、人智じんちがくルドルフ・シュタイナーによって提唱ていしょうされた有機ゆうき農法のうほう自然しぜん農法のうほう一種いっしゅで、循環じゅんかんがた農業のうぎょうである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

ドイツやスイスで普及ふきゅうしており、人智じんちがく運動うんどう一角いっかくになっている。通常つうじょう有機ゆうき農業のうぎょうことなり、生産せいさんぶつ有機ゆうきてきであることだけでなく、生産せいさんシステムそのものが生命せいめいたい(organic)であることが意識いしきされる[1]。「理想りそうてき農場のうじょうはそれ自身じしん完成かんせいした個体こたいである」というシュタイナーの思想しそうもとづき、外部がいぶから肥料ひりょうほどこすことをしとせず[2]理想りそうてきには農場のうじょう生態せいたいけいとして閉鎖へいさけいであることを目指めざす。これは、当時とうじ成立せいりつしつつあった生態せいたいがく社会しゃかいがくゆう機体きたいろんとの関係かんけい指摘してきされている。神智しんち主義しゅぎ有機ゆうき栽培さいばい実践じっせん有機ゆうき栽培さいばいかみ智学ちがくてき基礎きそけをもとめられたルドルフ・シュタイナーが、くなる前年ぜんねんの1924ねんドイツのコーバーヴィッツおこなった8かいおよ講演こうえん通称つうしょう「コーバーヴィッツ農業のうぎょう講座こうざ」にもとづいており、かみ智学ちがくまたは人智じんちがく根拠こんきょにするとされる。元来がんらいドイツで伝統でんとうてきおこなわれていた農法のうほう神智しんちがくてきさい解釈かいしゃくしてつくられたと理解りかいされているが、そのさいに、伝統でんとうてきには効率こうりつ有効ゆうこうせい根拠こんきょ理解りかいされてきた事柄ことがらが、シュタイナーの農業のうぎょうへの幻想げんそうにより希釈きしゃくされたり、場合ばあいによってはそれは機械きかい否定ひていとしてあらわれているという。

シュタイナー自身じしんがバイオダイナミック農法のうほう実践じっせんしていた証拠しょうこはない。農業のうぎょう経済けいざい学者がくしゃ藤原ふじわらたつは、バイオダイナミック農法のうほう名付なづおや一人ひとりエルンスト・シュテーゲマンが1922ねんから化学かがく肥料ひりょうもちいない農法のうほうためしていることから、シュタイナーが農法のうほう発明はつめいしたとうより、シュテーゲマンらがおこなっていた農法のうほうたいして理論りろん構築こうちくしたのではないかと考察こうさつしている[3]

バイオダイナミック農法のうほうは、鉱物こうぶつせい肥料ひりょう使用しよう中心ちゅうしんとしたそれまでの農法のうほう否定ひていし、土壌どじょう植物しょくぶつ動物どうぶつ相互そうご作用さようだけでなく、宇宙うちゅうちから土壌どじょうみ、様々さまざま天体てんたい作用さよう農作物のうさくもつ生育せいいくかすことを目指めざ[4]太陰暦たいいんれき占星術せんせいじゅつもとづいた「農業のうぎょうれき」にしたがってたねまきや収穫しゅうかく調合ちょうごうざいの攪拌などをおこない、またうしかく水晶すいしょうなどの特殊とくしゅ物質ぶっしつ利用りようする。ホメオパシー療法りょうほうのような物質ぶっしつを、満月まんげつなどさだめられた時刻じこく土壌どじょうくわえることで、土壌どじょう改良かいりょう目指めざす。そのため限界げんかいがあり、微量びりょう元素げんそすくない土壌どじょう、またはpHがたかいなどの理由りゆう植物しょくぶつ利用りよう可能かのう微量びりょう元素げんそとぼしい土壌どじょうにはてきさない[5]

シュタイナーの農法のうほうでは効率こうりつはほとんど重視じゅうしされず、経済けいざい効率こうりつ超越ちょうえつしており(このてん経営けいえいりたせるがわにとっておおきな欠陥けっかんとなっている)、「手作業てさぎょう」の優越ゆうえつせい娯楽ごらく問題もんだいとして判断はんだんがなされ、ちょう自然しぜんてき作用さようだけでなく、農民のうみん具体ぐたいてきな「手触てざわり」が重視じゅうしされている。シュタイナーは「動物どうぶつ人間にんげんよりかしこい」と断言だんげんし、現在げんざい動物どうぶつとの共生きょうせい重視じゅうしされる。農地のうちという空間くうかんゆう機体きたいにおいて人間にんげんひとつの構成こうせい要素ようそぎないものとかんがえ、作物さくもつ以外いがい植物しょくぶつ有効ゆうこうせいみとめ、家畜かちく以外いがい動物どうぶつ有効ゆうこうせいみとめ、農地のうちさい構成こうせいしようとした。それは、農地のうち空間くうかん人間にんげんたいする制限せいげん前提ぜんていとするものであった。シュタイナーの農法のうほうには、既存きそん自然しぜん人間にんげん関係かんけい農業のうぎょうにおける「人間にんげん中心ちゅうしん主義しゅぎ」を変革へんかくする可能かのうせいがあり、同時どうじ閉鎖へいさせい排他はいたせいかかえていた。[6]

ナチス時代じだい生産せいさんりょうひくさからバイオダイナミック農法のうほう公的こうてきには禁止きんしされたが、ハインリヒ・ヒムラーリヒャルト・ヴァルター・ダレなどナチスの支持しじしゃによって実質じっしつてき研究けんきゅう実践じっせんつづけられ、それは強制きょうせい収容しゅうようしょにもおよんだ[3][7]

バイオダイナミック農法のうほうは、欧米おうべい提携ていけい運動うんどう一種いっしゅで、特定とくてい範囲はんい地域ちいきなか農業のうぎょう生産せいさんしゃ消費しょうひしゃかいつく長期間ちょうきかんにわたって食料しょくりょうひん供給きょうきゅう購入こうにゅう直接ちょくせつおこなう「コミュニティー・サポーテッド・アグリカルチャー英語えいごばん」(CSA、地域ちいきささえる農業のうぎょう)として、スイスやドイツでおこなわれ、近年きんねんアメリカやイギリスにもひろまった[8]実践じっせんには非常ひじょうおおきな労力ろうりょく必要ひつようであるが、困難こんなんさの度合どあいは、ドイツの伝統でんとう由来ゆらいするこの農法のうほうが、実践じっせんされる気候きこう風土ふうどてきしているかどうかによってもおおきくことなる[9]日本にっぽん農法のうほう実践じっせんはほとんどないが、ちょう自然しぜんてき世界せかいかん魔術まじゅつてき側面そくめん肯定こうていてきにとらえられたり、ロハス商品しょうひん認識にんしきされ、一部いちぶ商品しょうひん流行りゅうこうしている[10]一方いっぽう、ドイツの最大手さいおおて週刊しゅうかんデア・シュピーゲル」が2006ねんに「シュタイナーの突飛とっぴおもいつきのひとつ」と紹介しょうかいし「疑似ぎじ科学かがく信仰しんこうシステム」とんでいるなど、魔術まじゅつてき思考しこうもとづく疑似ぎじ科学かがくであるという批判ひはんもある[10][11]。この農法のうほう通常つうじょう有機ゆうき農法のうほうくらべてより有効ゆうこうであることは証明しょうめいされていないが、生産せいさんぶつ一部いちぶ品質ひんしつについて一定いってい評価ひょうかている[9]

名称めいしょう[編集へんしゅう]

シュタイナーの死後しご、かれの理論りろんづけた農法のうほうは、西洋せいよう近代きんだい農法のうほう区別くべつするために「バイオダイナミック農法のうほう」(どく:Biologisch-dynamische Landwirtschaft)とばれるようになった。ナチス時代じだい活躍かつやくした指導しどうしゃのひとりエアハルト・バルチェによる施肥せひ生物せいぶつがくてき調整ちょうせいという側面そくめん注目ちゅうもくした「生物せいぶつ学的がくてき」という形容詞けいようしと、エルンスト・シュテーゲマンによるエーテルてきりょくとアストラルてきりょく関係かんけいせいをあらわす「ダイナミックな」という形容詞けいようしかんされることがあったが、両人りょうにん妥協だきょうしあうかたちで「バイオダイナミック」という形容詞けいようし使つかわれるようなった。[12]

世界せかいかん[編集へんしゅう]

シュタイナーは、える自然しぜん背後はいごにはちょう自然しぜん霊的れいてき世界せかい存在そんざいし、地球ちきゅう由来ゆらいする霊的れいてきなフォース(ちから)と宇宙うちゅう由来ゆらいする霊的れいてきなフォースがあり、生物せいぶつはこれをたがいに放出ほうしゅつ吸収きゅうしゅうしあっているとかんがえた。人類じんるい霊的れいてき成長せいちょう完璧かんぺき直観ちょっかんりょく獲得かくとくは、霊的れいてきなフォース(ちから)にんだ食料しょくりょうによってたすけられるとし、化学かがく肥料ひりょう使用しよう食料しょくりょうひん霊的れいてき品質ひんしつちるとかんがえ、人間にんげん霊的れいてき発展はってんのためにフォースを食料しょくりょうにいかにみちびくかをおしえた。[13]

背景はいけい[編集へんしゅう]

シュタイナーが提唱ていしょうした当時とうじは、ハーバー・ボッシュほうによる窒素ちっそガスと水素すいそガスからのアンモニア合成ごうせいはじまった時期じきで、これは火薬かやく材料ざいりょうもちいられたが、だいいち世界せかい大戦たいせん終了しゅうりょうすると、無機むき窒素肥料ちっそひりょう工場こうじょう合成ごうせいされるようになり、ひろ利用りようされた。合成ごうせい化学かがく農薬のうやく普及ふきゅう化学かがく肥料ひりょうよりすこおそい。農学のうがくしゃ西尾にしお道徳みちのりは、シュタイナーは無機むき肥料ひりょう化学かがく農薬のうやくによる作物さくもつもの霊的れいてきしつ低下ていか憂慮ゆうりょしたが、農薬のうやく普及ふきゅう時期じきもあり、農薬のうやくよりも無機むき化学かがく肥料ひりょう影響えいきょうつよ懸念けねんしていたようであるとべている。[13]

農法のうほうとしての特徴とくちょう[編集へんしゅう]

有機ゆうき栽培さいばい一種いっしゅであり、農薬のうやく化学かがく肥料ひりょう使つかわない。天体てんたいうごきとの調和ちょうわ動物どうぶつとの共生きょうせい独自どくじ調合ちょうごうざい使用しよう特徴とくちょうとする[1]

農業のうぎょうれき[編集へんしゅう]

つきやその天体てんたいうごきが植物しょくぶつあたえる作用さよう重視じゅうしした農業のうぎょうれきもちいた栽培さいばいおこなう。ただし、重視じゅうししているのは重力じゅうりょく放射線ほうしゃせんなどの実際じっさい力学りきがくてき作用さようではなく、占星術せんせいじゅつなどでつちかわれた知識ちしきもとにした秘教ひきょうてき科学かがくてきなものである。太陰暦たいいんれきだけでなく、黄道こうどう十二宮じゅうにきゅう惑星わくせい位置いち関連かんれんさせて決定けっていされる。

調合ちょうごうざい[編集へんしゅう]

シュタイナーは、499ばんからなるホメオパシー延長えんちょうとして、500ばんから508ばんの9種類しゅるい調合ちょうごうざい(プレパラート)を考案こうあんした[14]。なお材料ざいりょうはその地方ちほうでとれたものを使つかう。早稲田大学わせだだいがく教授きょうじゅ子安こやす美知子みちこは、調合ちょうごうざい利用りようは、あくまで「ちから」の伝播でんぱであって、「物質ぶっしつ」の投入とうにゅうではなく、これは人智じんちがくのすべての分野ぶんや共通きょうつうする決定的けっていてきてんであるとべている[15]

バイオダイナミック農法のうほう調合ちょうごうざい
番号ばんごう 調合ちょうごうざい 使つかかた 目的もくてき
500 雌牛めうしくそ 雌牛めうしかくくそつめなかふゆにつくり、雨水あまみず希釈きしゃく散布さんぷ 強化きょうか
501 水晶すいしょう長石ちょうせき石英せきえい)のこな くだいてめすうしかくめて6ヶ月かげつ土中どちゅう希釈きしゃく散布さんぷ ひかりあつめる
502 セイヨウノコギリソウはな アカシカ膀胱ぼうこうにつめていちふゆかし、なつにまく 硫黄いおう供給きょうきゅう
503 カモミールはな あきうし小腸しょうちょうにつめて、はるにまく 石灰せっかいぶん供給きょうきゅう窒素ちっそりょう調整ちょうせい
504 イラクサ腐葉土ふようど 乾燥かんそうさせておいて、使つかときせんじる。いつでも利用りようしてよい。 窒素ちっそ鉄分てつぶん供給きょうきゅう
505 オーク樹皮じゅひ 樹皮じゅひこまかくくだき、うしうま頭蓋骨ずがいこつにつめていちふゆかせたもの
506 タンポポはな うし腹膜ふくまくにつめていちふゆしたもの 珪酸けいさん供給きょうきゅう
507 セイヨウカノコソウはな しぼったしる発酵はっこうさせたもの  リンの供給きょうきゅう
508 スギナ 陰干かげぼしして乾燥かんそうさせ、煮出にだして使つか サビびょうなど病害びょうがいふせ

うしかくは、そのなかめた材料ざいりょうにフォースをり、濃縮のうしゅくする特別とくべつちからがあるとされる[13]。たくさんの胃袋いぶくろうし強力きょうりょく消化しょうかりょくつが、そのエネルギーはかく阻害そがいされ体外たいがいけることができず、かくにエネルギーが集中しゅうちゅうしており、またかくには宇宙うちゅうのエネルギーを漏斗ろうとのようにあつめる効果こうかがあるのだという[15]ふゆ地中ちちゅうでは精神せいしん世界せかいとつながりあう生命せいめい活動かつどう活発かっぱつおこなわれるため、かくくそめてふゆ地中ちちゅうめておくと、ふゆあいだ高次こうじ生命せいめいかくとおして牛糞ぎゅうふんそそがれる[15]ふゆ活発かっぱつだった地中ちちゅう生命せいめいがいなくなると鉱物こうぶつ結晶けっしょうりょくつよくなるため、水晶すいしょうこなくだいてかくはる地中ちちゅうめると、なつちゅう鉱物こうぶつかいちから水晶すいしょうそそがれ、しっとりと純化じゅんかしたものになるという[15]腐植ふしょく調合ちょうごうざい地球ちきゅうのフォースの含量をたかめ、水晶すいしょう(シリカ)の調合ちょうごうざいは、ひかりねつとつながった宇宙うちゅうのフォースの含量をたかめるとされる[13]

調合ちょうごうざいを攪拌したものをはたけにまくが、このみずには調合ちょうごうざいもと物質ぶっしつなにのこっておらず、調合ちょうごうざいたくわえられたしょちからみずつたえられ、はたけ野菜やさい作用さようするとされる。調合ちょうごうざいの攪拌作業さぎょうは、独自どくじこよみ(カレンダー)によって宇宙うちゅう呼応こおうするえらんでおこなわれるが、攪拌作業さぎょう水中すいちゅう太陽系たいようけいしょうじさせ、しばらくうごかしてからこれをこわす、という作業さぎょうであり、これにより調合ちょうごうざいたくわえられたフォースがみずつたえられるのだという。このみずによって、土壌どじょうちからつよまり、宇宙うちゅうしょ天体てんたい大地だいち呼応こおう関係かんけい活発かっぱつになるとかんがえられている。[15]

団体だんたい品質ひんしつ認証にんしょう基準きじゅん[編集へんしゅう]

バイオダイナミック農法のうほう実践じっせんする生産せいさんしゃ団体だんたいデメター[16](1924ねん設立せつりつ)は、1946ねん品質ひんしつ認証にんしょうのための自主じしゅ基準きじゅんつくった。おそらくこれが、はじめてつくられた有機ゆうき農産物のうさんぶつ基準きじゅんであるといわれている。デメターは基準きじゅん策定さくていすることで、加盟かめいする農民のうみん栽培さいばい指針ししんしめし、外部がいぶたいしては信用しんようちるような事態じたいふせぎ、品質ひんしつ保証ほしょうすることで権益けんえきまもった。バイオダイナミック農法のうほうは、生産せいさん団体だんたいみずか農法のうほう研究けんきゅう生産せいさんぶつ品質ひんしつ保守ほしゅ販売はんばいのあっせん(デメターはしょう取引とりひきそのものはおこなわなかった)までをおこなうというかたちひろまっていったとかんがえられている。[8]バイオダイナミック農法のうほうのグループは、デメター以外いがいにも存在そんざいする。

1997ねんに19のグループがデメター・インターナショナル(Demeter International)を結成けっせいし、2015ねん時点じてんでこの組織そしき登録とうろくされている農場のうじょうすうは4950、農地のうち面積めんせきやく16まんhaで、ヨーロッパ、アメリカ、ブラジル、エジプト、ニュージーランド、インド、チリなどにおおい。日本にっぽんには生産せいさんしゃ加工かこう業者ぎょうしゃはないが、3つの販売はんばい業者ぎょうしゃ登録とうろくされている。[17]各国かっこくから18の認証にんしょう団体だんたい参加さんか世界せかいてきネットワークがつくられており、世界せかいやく40かこくから認証にんしょうされた3500をえる商品しょうひん流通りゅうつうしている[1]

デメターは1992ねんにバイオダイナミック農業のうぎょう基準きじゅんさだめており、農業のうぎょう生産せいさん加工かこう、ラベル表示ひょうじ養蜂ようほうの4つの基準きじゅんがある。農産物のうさんぶつ認定にんていには以下いか条件じょうけんまも必要ひつようがある。(これ以外いがいにもこまかい条件じょうけんがある)

  1. 有機ゆうき農業のうぎょう認証にんしょうける:EUの「有機ゆうき農業のうぎょう規則きそく」および「有機ゆうき農業のうぎょう実施じっし規則きそく」、アメリカの「1990ねん有機ゆうき食品しょくひん生産せいさんほう」および「全米ぜんべい有機ゆうきプログラム」(National Organic Program)、オーストラリアの「国定こくてい有機ゆうき農業のうぎょうおよびバイオダイナミック生産せいさんぶつ規則きそく」のいずれかの認証にんしょう必要ひつようとされる。
  2. 占星術せんせいじゅつによる作業さぎょう日程にってい調整ちょうせい調合ちょうごうざい使用しようする:シュタイナーの思想しそうもとづき、黄道こうどう十二宮じゅうにきゅうめぐつき周期しゅうきから播種はしゅなどの時期じき選定せんていする占星術せんせいじゅつや、地球ちきゅうフォース(ちから)や宇宙うちゅうフォースといったフォースをあつめる調合ちょうごうざい使用しよう必須ひっすである。
  3. EUの有機ゆうき農業のうぎょう基準きじゅんよりもきびしい家畜かちく飼養しよう密度みつどや、肥料ひりょうとしての家畜かちくふん尿にょう使用しようりょう上限じょうげんまもる:作物さくもつ輪作りんさくにわたって平均へいきんして家畜かちくふん尿にょうによって供給きょうきゅうして窒素ちっそ最大さいだいりょうは、農場のうじょうみずか生産せいさんした飼料しりょうによって維持いじする動物どうぶつによって生産せいさんされるりょうえてはならず、農場のうじょうぜん面積めんせきたり、最大さいだい1.4家畜かちくふん尿にょう単位たんい/haをえることができないと規定きていしている。ただし、例外れいがい条件じょうけんがある。
  4. 生物せいぶつ多様たようせい保護ほごする:農場のうじょう生物せいぶつ多様たようせい維持いじ誓約せいやく提出ていしゅつし、農場のうじょう直接ちょくせつ隣接りんせつない生物せいぶつ多様たようせい保護ほごぜん農場のうじょう面積めんせきの10%にたっしていない場合ばあいには、その達成たっせいプランをチェック機関きかん提出ていしゅつし、承認しょうにんける。[17]

産物さんぶつ[編集へんしゅう]

種子しゅし供給きょうきゅう[編集へんしゅう]

種苗しゅびょう市場いちばは、現在げんざいでは少数しょうすう国籍こくせき企業きぎょうがほとんど独占どくせんし、あつかわれるのは短期間たんきかん育成いくせいされた広域こういき適応てきおうせいのあるあたらしい改良かいりょう品種ひんしゅのハイブリッド種子しゅし[18]である。かく作物さくもつ少数しょうすう品種ひんしゅ栽培さいばいだい部分ぶぶん画一かくいつすすんでおり、農家のうか自分じぶんきたい種子しゅし入手にゅうしゅすることが困難こんなん状況じょうきょうすらある。有機ゆうき農業のうぎょうではハイブリッド種子しゅしあつかわず、放任ほうにん受粉じゅふんによって自家じか採種さいしゅされたOP品種ひんしゅもちいる。ドイツでは伝統でんとう品種ひんしゅ育種いくしゅ種子しゅし生産せいさん流通りゅうつうにおいてバイオダイナミック農法のうほうおおきな役割やくわりになっており、ヨーロッパで注目ちゅうもくあつめている。種子しゅし会社かいしゃ研究所けんきゅうじょ種子しゅし生産せいさんおこな農家のうかグループがある。[1]

ワイン[編集へんしゅう]

シュタイナーはアルコールを忌避きひしていたので、本来ほんらいバイオダイナミック農法のうほうワイン無関係むかんけいであるが、有機ゆうき栽培さいばい変種へんしゅとしてバイオダイナミック農法のうほう使つかわれる調剤ちょうざい農業のうぎょうれき応用おうようしたぶどう栽培さいばいおこなわれている。またバイオダイナミック農法のうほう実践じっせんしているとされているワイン農家のうかのいくつかは、必要ひつようおうじてボルドぼるどえきなどの農薬のうやく使つかうことや農業のうぎょうれきかんしても柔軟じゅうなん対応たいおうしていることを明言めいげんしている。

バイオダイナミック農法のうほう認証にんしょう非常ひじょう厳格げんかくであるため、バイオダイナミック農法のうほうのブドウを使つか醸造じょうぞうおおくは、生産せいさんねんによってブドウをどのように栽培さいばいするかを自由じゆう選択せんたくしたいというおもいから、認証にんしょう申請しんせいおこなわず、バイオダイナミック農法のうほう利用りようしていることをラベルに表示ひょうじしていない。コラムニストのデイヴィッド・コッボルドは、この農法のうほう採用さいようしている生産せいさんしゃなか経済けいざいてき成功せいこうしているのはごく少数しょうすうであるとべている。[9]

化粧けしょうひん[編集へんしゅう]

日本にっぽんられるバイオダイナミック農法のうほう商品しょうひんに、スイスに本社ほんしゃのある医薬品いやくひん企業きぎょうで、日本にっぽんではコスメティック・ブランドとして認知にんちされているヴェレダしゃ商品しょうひんがある。バイオダイナミック農法のうほう栽培さいばいされた植物しょくぶつ原料げんりょうとしてつくられる。ファッションVOGUE」はヴェレダとうのバイオダイナミック農法のうほう栽培さいばいされた植物しょくぶつ使つかった製品せいひんを「シュタイナーコスメ」と名付なづけ、シュタイナーが提唱ていしょうしたロハス思想しそう信頼しんらいできるオーガニックコスメのいしずえとなっていると紹介しょうかいしている。[10](「ロハス」は現代げんだいのマーケティング概念がいねんで、シュタイナーの時代じだいには存在そんざいしない。)

批判ひはん論争ろんそう[編集へんしゅう]

畑中はたなか微生物びせいぶつ多様たようせいかずについて、農薬のうやく使つかわないぶんたしかに農薬のうやく使つかっているはたけくらべておおいが、有機ゆうき栽培さいばいくらべて、調剤ちょうざい太陰暦たいいんれきもちいたバイオダイナミック農法のうほうとくすぐれている証拠しょうこまったくない。ドメーヌ当主とうしゅであるロランス・ファレルは、「有機ゆうき農法のうほうとの対比たいひでバイオダイナミック農法のうほう特別とくべつ貢献こうけん評価ひょうかすることはむずかしい」とべている[9]

シュタイナーは霊的れいてき向上こうじょうのための食料しょくりょう生産せいさん注目ちゅうもくしたが、環境かんきょうじょう懸念けねん自然しぜん保全ほぜん生産せいさんぶつ生化学せいかがくてき品質ひんしつ低下ていか眼中がんちゅうになく、土壌どじょう環境かんきょう問題もんだいについてはとく指示しじはなかった。[13]

シュタイナーのちょう自然しぜんてき世界せかいかんは、自然しぜん科学かがくとは合致がっちしない。また、調合ちょうごうざいについて「カリウムとカルシウムが窒素ちっそ変換へんかんされる」と説明せつめいしているが、これはただしい理解りかいではなく、シュタイナーの自然しぜん科学かがくについての理解りかいにはあやまりもおおいと指摘してきされている。[13]

バイオダイナミック農法のうほうでは、ホメオパシー療法りょうほうのような物質ぶっしつ独自どくじこよみしたがって土壌どじょうくわえることで、土壌どじょう改良かいりょう目指めざす。しかし、この方法ほうほうには限界げんかいがあり、熱帯ねったい地域ちいきアレノソルあたらしい砂丘さきゅう海岸かいがんすななど未熟みじゅくすなしつ土壌どじょう)のような、微量びりょう元素げんそすくない土壌どじょう、pHがたかいなどの理由りゆう植物しょくぶつ利用りよう可能かのう微量びりょう元素げんそとぼしい土壌どじょう場合ばあい植物しょくぶつ成長せいちょうにこれらの元素げんそ不足ふそくするため、植物しょくぶつから栄養えいよう摂取せっしゅしている人間にんげんふく動物どうぶつ元素げんそ不足ふそくする。[5]

バイオダイナミック農法のうほう実践じっせんしゃには、シュタイナーの思想しそうやシュタイナー自身じしん信奉しんぽうしているひともいれば、かならずしもその思想しそうれていないひと思想しそうには頓着とんじゃくしないひともいる。シュタイナーのおしえを厳密げんみつ実践じっせんしているひとも、一部いちぶれているだけのひともいる[9]

デイヴィッド・コッボルドは、バイオダイナミック農法のうほうつくられたワインについてかたさいに、ホメオパシーを応用おうようしてられたとおもわれる“めぐみ”と、たがやすといった実際じっさい増大ぞうだいしたのかかる作業さぎょうによる“めぐみ”をはなすことはほとんど不可能ふかのうであり、ブドウ栽培さいばいという複雑ふくざつなプロセスにおいて結果けっか厳密げんみつ価値かちりょうとして見極みきわめることは非常ひじょう困難こんなんであると指摘してきしている。この農法のうほうの“活性かっせい”という部分ぶぶんは、科学かがくというよりひめといったほうがいものであるが、有効ゆうこうせい根拠こんきょはともかく、成果せいか生産せいさんされたワインにあらわれており、バイオダイナミック農法のうほう有機ゆうき農法のうほう以上いじょうのものでないとしても、ブドウ栽培さいばいについてかんがえるいきっかけにはなるとべている。[9]

アルバート・ハワードによる批判ひはん[編集へんしゅう]

シュタイナーのバイオダイナミック農法のうほう双璧そうへきをなす初期しょき有機ゆうき農業のうぎょう源流げんりゅうアルバート・ハワード英語えいごばん(1873 – 1947ねん)は、インドで農業のうぎょう研究けんきゅうたずさわるうちに化学かがく肥料ひりょう中心ちゅうしん西洋せいよう近代きんだい農学のうがく疑問ぎもんち、現地げんち農業のうぎょう研究けんきゅうし、インド、中国ちゅうごく日本にっぽん伝統でんとうてき農法のうほうをヒントに「インドール方式ほうしき」という農法のうほうつくげた。かれ西洋せいよう近代きんだい農法のうほう批判ひはんしたが、同時どうじにシュタイナーのバイオダイナミック農法のうほう批判ひはんしている。シュタイナーは、人糞じんぷん尿にょう肥料ひりょうとしての利用りようを「肥料ひりょうとしてごくわずかな効果こうかしかない」「人糞じんぷん尿にょうそだった植物しょくぶつには、人糞じんぷん尿にょう段階だんかいのままでとどまっているものがふくまれる」という漠然ばくぜんとした説明せつめいで、「できるかぎもちいないほうがい」としており、シュタイナーの門弟もんていたちは「人間にんげん排泄はいせつぶつほどこせよう有害ゆうがいである」としていた。ハワードはこのてん批判ひはんし、「ルドルフ・シュタイナーの門弟もんていたちが、自然しぜんしょ法則ほうそく本当ほんとう解明かいめいし、かれ理論りろん価値かち実証じっしょうする実例じつれい提示ていじできたとはかんがえられない」とべた。[3]

また、バイオダイナミック農業のうぎょう肥料ひりょう配合はいごう方法ほうほうてき要素ようそつよく、農法のうほう伝承でんしょう人智じんち学徒がくと以外いがいかならずしもひらかれているとはいえないが、ハワードはこのてん批判ひはんしている。ハワードは著書ちょしょで、バイオダイナミック農業のうぎょう明示めいじはしないが、あきらかにわかるかたちつぎのようにべている。インドールしきにはなん秘密ひみつもなく、秘法ひほうてき知識ちしきもとづいたり健康けんこう幸福こうふく促進そくしんされると主張しゅちょうする「くそ魔法まほう混合こんごう」とでもいうべき農法のうほうのような主張しゅちょう一切いっさいしない、インドールしきたん自然しぜんなかおこなわれていることの模倣もほうである、とべている。[3]

シュタイナー自身じしんは、講演こうえんかいにおける「どのような人間にんげん作業さぎょうをするのかということは、意味いみつのでしょうか。それともだれでも作業さぎょうをしていいのでしょうか。作業さぎょうをするのは、人智じんちがくてきなものに関心かんしんのあるひとでなくてはならないのでしょうか」という聴衆ちょうしゅうからのいに、つぎのようにこたえている。

瞑想めいそうてき生活せいかついとなむことでしん準備じゅんびができているひとが、そういう仕事しごと見事みごとしうるのです。瞑想めいそうしているひとは、イマジネーションをふく窒素ちっそたいして、ほかのひとまったことなったかかわりかたをします。…わたしはこうした事柄ことがらについて公衆こうしゅう面前めんぜん自由じゆうかたるのはすすまないのです。 — ルドルフ・シュタイナー、藤原ふじわらたつ『ナチス・ドイツの有機ゆうき農業のうぎょう自然しぜんとの共生きょうせい」がんだ「民族みんぞく絶滅ぜつめつ」』

藤原ふじわらたつは、ここでシュタイナーは精神せいしん修行しゅぎょうおこなった人智じんち学徒がくとかぎるとしているわけではないが、みずからの農法のうほうつたえる相手あいてきびしく制限せいげんすることをのぞんでいたことは間違まちがいないとべている。シュタイナーが一方いっぽうてきおしえるという関係かんけいらぎないものであり、「さづけるがわ」-「さづけられるがわ」という権威けんいてき構図こうず固定こていしており、聴衆ちょうしゅういシュタイナーがこたえるというかたちしかなかった。ハワードは、インドールしきはバイオダイナミック農法のうほうちがい、明快めいかいひらかれた農法のうほうであると自負じふしていた。[3]

ナチス支配しはいでのバイオダイナミック農法のうほう[編集へんしゅう]

ナチス時代じだい生産せいさんりょうひくさからバイオダイナミック農法のうほう公的こうてきには禁止きんしされたが、ハインリヒ・ヒムラーリヒャルト・ヴァルター・ダレなどナチスの支持しじしゃによって実質じっしつてき研究けんきゅう実践じっせんつづけられ、実践じっせんしゃがわからもナチスへのあゆりがはかられ、バイオダイナミック農法のうほうてき性格せいかくからの脱却だっきゃくがもたらされた[7]東方とうほう占領せんりょうでは入植にゅうしょくドイツじんによっておこなわれ、ヒムラーは強制きょうせい収容しゅうようしょ囚人しゅうじん強制きょうせい労働ろうどうによるバイオダイナミック農法のうほう菜園さいえん経営けいえいした[3]藤原ふじわらたつは、ナチス支配しはいのドイツでバイオダイナミック農法のうほうがナチスのうほん思想しそうと「混淆こんこう」し、「変容へんよう」をげていく過程かてい検証けんしょうし、「人間にんげん中心ちゅうしん主義しゅぎ」が「民族みんぞくとの共生きょうせい」をこば凶器きょうきすという「自然しぜんとの共生きょうせい」がはらむ暴力ぼうりょくせい具体ぐたいてきろんじた[3]ルドルフ・ヘスはナチスがシュタイナーの人智じんちがく禁止きんししたのちもBD農法のうほう全国ぜんこく連盟れんめい活動かつどうまもろうとし、ダレは戦後せんご、バイオダイナミック施肥せひほう闘士とうしとなった[3]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d 藤原ふじわら 2007.
  2. ^ 小川おがわ 2004.
  3. ^ a b c d e f g h 藤原ふじわら 2005.
  4. ^ 近藤こんどう 2001.
  5. ^ a b 北里大学きたさとだいがく学長がくちょう通信つうしん 情報じょうほう農業のうぎょう環境かんきょう医療いりょう 67ごう最終さいしゅうごう 北里大学きたさとだいがく学長がくちょうしつ 2012ねん06がつ01にち
  6. ^ 藤原ふじわら 2005. pp. 45-46.
  7. ^ a b 伊藤いとう淳史あつし (2006ねん10がつ). “<書評しょひょう>藤原ふじわらたつ『ナチス・ドイツの有機ゆうき農業のうぎょう”. ひとたまきフォーラム 19. 2015ねん11月25にち閲覧えつらん
  8. ^ a b 桝潟 1994.
  9. ^ a b c d e f デイヴィッド・コッボルド (2009ねん3がつ). “UNCORK バイオダイナミックは本物ほんものくろ魔術まじゅつ”. WANDS online. 2009ねん9がつ11にち閲覧えつらん
  10. ^ a b c 井上いのうえ 2007.
  11. ^ Smith, D. (2006). “On Fertile Ground? Objections to Biodynamics”. The World of Fine Wine (12): 108–113. http://www.sigihiss.com/files/eno/bioarticle%20fine.pdf. 
  12. ^ 藤原ふじわら 2005, p. 46.
  13. ^ a b c d e f No.263 有機ゆうき農業のうぎょう当初とうしょ生命せいめい哲学てつがく自然しぜんかんうえつくられた 西尾にしお道徳みちのり環境かんきょう保全ほぜんがた農業のうぎょうレポート 2014ねん11月25にち
  14. ^ シュタイナーによるバイオダイナミック農法のうほう 有限ゆうげん会社かいしゃマカイバリジャパン
  15. ^ a b c d e 子安こやす 1997.
  16. ^ デメターは、ギリシャ神話しんわ農業のうぎょう結婚けっこん社会しゃかい秩序ちつじょ女神めがみである。
  17. ^ a b No.289 バイオダイナミック農法のうほう生産せいさん基準きじゅん 西尾にしお道徳みちのり環境かんきょう保全ほぜんがた農業のうぎょうレポート 2015ねん11月24にち
  18. ^ ことなる性質せいしつたねをかけわせた雑種ざっしゅの1だい種子しゅしで、2だい以降いこうメンデルの法則ほうそくとおり、すぐれた品質ひんしつ安定あんていてきがれない。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

外部がいぶサイト[編集へんしゅう]