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バイオリンはどうして出来できたか

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
わらたばに座りバイオリンを弾く少年の絵画
ヴァシュタグ・ジェルジュ英語えいごばんさく、「ジプシー少年しょうねんのバイオリンき(Hegedűs Cigány Fiú)」

「ヴァイオリンの創造そうぞう」(ドイツ: Die Erschaffung der Geige)は、トランシルヴァニア地方ちほう・ハンガリー南部なんぶ地方ちほうロマ(ジプシー)のおとぎばなし「バイオリンはどうして出来できたか」邦題ほうだい訳文やくぶん出版しゅっぱんされている[1]

ポーランドるいばなし魔法まほうはこがある。

稿本こうほん[編集へんしゅう]

ドイツわけばんは、民俗みんぞく学者がくしゃハインリヒ・フォン・ヴィスロッキドイツばんにより『さすらいのチゴイナーについて:トランシルヴァニア・チゴイナーの生活せいかつ風景ふうけい Vom wandernden Zigeunervolke. Bilder aus dem Leben der Siebenbürger Zigeuner』(1890ねん)に発表はっぴょうされた[2]

ヴィスロッキはトランシルヴァニアのジプシーより採取さいしゅしたとするが、おなばなしはハンガリー南部なんぶ放浪ほうろうジプシー(kortorar[3])にもられているとべている[4]

のちにハンガリー南部なんぶのジプシーロマ)の原文げんぶんが、ドイツやくしてアントン・ヘルマン(ヘルマン・アンタルハンガリーばん)の1894ねん論文ろんぶん掲載けいさいされている[5]

あらすじ[編集へんしゅう]

まずしい夫婦ふうふ子供こどもができず、つまもり出会であった老女ろうじょ不平ふへいをもらす。老婆ろうば知恵ちえさづけ、「いえかえってカボチャ(ドイツ: Kürbis; ロマ:dudum)をり、ミルクをそそいでめ。そうすればおとこさずかり、そのうんとみめぐまれるだろう」と教示きょうしする。立派りっぱおとこまれるが、母親ははおや産後さんごまもなく病没びょうぼつする[2][5]

20さいになった青年せいねんは、立身りっしんのため世界せかいたびし、裕福ゆうふくおうおさめる大都市だいとしにたどりつく。おうには自慢じまん王女おうじょがいたが、世界せかいだれしたためしのないなにかを披露ひろうできる人物じんぶつにこれをとつがせようとめていた[2][5]

これまでおおくの挑戦ちょうせんしゃ失敗しっぱいし、処刑しょけいされてきた。青年せいねんは、王女おうじょをもらいたいのですがなにをすればよいかおしえてくださいと不躾ぶしつけき、おういのち地下ちかろうほうまれる。するとマトゥヤ(Matuyá; ロマ原文げんぶんMatuja)という妖精ようせい女王じょおうあらわれ、手助てだすけをする。青年せいねんはこぼうあたえた妖精ようせいは、さらに自分じぶんかみなんほんいてわたし、はこぼうにそれぞれつるのようにれ、と指示しじした。こうしてできた楽器がっきゆみをつがえて演奏えんそうすると、音楽おんがくにあわせて、聴衆ちょうしゅう喜怒哀楽きどあいらくこった(妖精ようせいがそのつどわらいやなげきを楽器がっきんでいたので、そのしわざである)。らくざいおうみとめられ、青年せいねん王女おうじょつまにもらいうけた。「こうしてこのにヴァイオリンは出来できたとさ Kade avelas schetra andre lime」と物語ものがたりめくくる[2][5][ちゅう 1]

解説かいせつ[編集へんしゅう]

起源きげん[編集へんしゅう]

民話みんわから発祥はっしょうする魔法まほうたんおとぎばなし定番ていばんである老婆ろうばぜんなる妖精ようせい登場とうじょうし、いずれとも魔法使まほうつかいである。妖精ようせいマトゥヤは、インドつたわる魔法まほう物語ものがたり由来ゆらいする(ロマの物語ものがたりにはおおい)が、トランシルヴァニア、ハンガリーポーランドロシアセルビアのロマ神話しんわではウルシトリ英語えいごばん女王じょおうとされる。ウルシトリは山肌やまはだ御殿ごてんにすむ妖精ようせいたちで、うた舞踏ぶとうこのみ、音楽おんがく象徴しょうちょうである[7]

るいばなし[編集へんしゅう]

よく内容ないようはなしがポーランドの作家さっかイェジィ・フィツォフスキによる再話さいわ魔法まほうはこ Zaczarowana skrzynka」である(『太陽たいようえだ所収しょしゅう、1961ねん)。このポーランドばんでは、マトゥヤ(Matuja)というブナ精霊せいれいが、おなじくくりぬいたカボチャにミルクをそそいでめとすすめ、無事ぶじおとこ誕生たんじょうし、「幸運こううん」を意味いみする「バフタロー(Bachtalo)」と名付なづけられる[8][9]

これは楽器がっき発祥はっしょうつたえる由来ゆらいたんは、地域ちいき文化ぶんかにもみられ、れいにハンガリーの「ヴァイオリン」のおとぎばなしモンゴルの「モリンホール」の由来ゆらいたんげられるが、いずれもトランシルヴァニアのヴァイオリン起源きげんとの共通きょうつうせいとぼしい。ギリシア神話しんわでは、パーンわれたシューリンクス英語えいごばんあし、ついで楽器がっき葦笛あしぶえパンフルート)となった変身へんしんたん有名ゆうめいである[10]

どう題名だいめい説話せつわ[編集へんしゅう]

トランシルヴァニアおとぎばなしには、もうひとつどう題名だいめいの「ヴァイオリンの創造そうぞう」があるが(これもヴィスロッキが刊行かんこう、のちにグルームが英訳えいやく[11][12]、これはハッピーエンドき、はなしすじ脈絡みゃくらくがもつれるため、知名度ちめいどひく[よう出典しゅってん]。あらすじでは、わかおんな裕福ゆうふく狩人かりゅうど恋慕れんぼするがいてもらえずに悪魔あくま接触せっしょくする。家族かぞく犠牲ぎせい悪魔あくまのヴァイオリンを入手にゅうしゅ狩人かりゅうど誘惑ゆうわくする。彼女かのじょ父親ちちおや楽器がっきはことなり、4にんおとこ兄弟きょうだいつる母親ははおやゆみとなる。結末けつまつには、わかおんな悪魔あくま崇拝すうはいすることをこばられる。森林しんりんりにされたヴァイオリンは、やがてジプシーの旅人たびびとひろわれる[11][13]。こちらはグリム童話どうわ KHM28 「うたほね」のるいばなしとされており[12]ハンガリーのロマ(ジプシー)の説話せつわが、これと酷似こくじしたものとして(英訳えいやくで)発表はっぴょうされている [14]

出版しゅっぱん[編集へんしゅう]

ロマじんのなかでも有名ゆうめい屈指くっしなおとぎばなしで、いくつものおとぎばなししゅう所収しょしゅうされている[15][16][17]朗読ろうどくラジオドラマ、おとぎ芝居しばいされ、教材きょうざいにも使つかわれる[18][19][20][21]

解釈かいしゃくがく応用おうよう[編集へんしゅう]

音楽おんがく療法りょうほう民話みんわ音楽おんがく関連かんれん研究けんきゅうでもあるローゼマリー・テュプカードイツばん英語えいごばんは、この物語ものがたりについての現代げんだい聴衆ちょうしゅう反応はんのうをデータにとり、解釈かいしゃくがくもちいて解析かいせきこころみている。手法しゅほうとしては研究けんきゅう対象たいしょうしゃから物語ものがたり全体ぜんたいについての感想かんそうくわえ、かくテーマ(貧困ひんこん子宝こだからめぐまれない夫婦ふうふ裕福ゆうふくおうとそのうつくしい王女おうじょ前人未到ぜんじんみとう事績じせき達成たっせい)についての意見いけん収集しゅうしゅうしている[22]

テュプカーによれば、これは「貧困ひんこん富裕ふゆう」など、対極たいきょくする世界せかいえが物語ものがたりである。裕福ゆうふくおうは、王女おうじょ物品ぶっぴんのように所有しょゆう支配しはいし、その心情しんじょうむことはせず、のままに褒賞ほうしょうとして利用りようする。ここでは物欲ぶつよく成功せいこう挫折ざせつ英断えいだんなどがテーマとなっており、物語ものがたりちゅうでは競技きょうぎ場面ばめんがそのさいたるれいである。そしてなか無理むりなものはしょせん無理むりなのであって、老婆ろうば妖精ようせいなど魔法まほう助力じょりょくがなくばおいそれと達成たっせいはできない[22]

そうした競争きょうそう社会しゃかい隔絶かくぜつした世界せかいが、すなわちヴァイオリンの世界せかいであるが、ここではたんなる楽器がっきというより、音楽おんがく黎明れいめいそのものを意味いみしている。こころうごかされ、たがいのしん琴線きんせんれ、視覚しかくにも聴覚ちょうかくにもうったえる刺激しげきが「にもはじめてのもの」として披露ひろうされたことを、この物語ものがたりは、象徴しょうちょうしている[22]

このおとぎばなしは、性欲せいよくのない世界せかいにおける男女だんじょ共存きょうぞん表象ひょうしょうしている。精神せいしん分析ぶんせきがく観点かんてんからすれば、「生殖せいしょくせい英語えいごばん」(または「世代せだい発生はっせいせいドイツ: Generativität)や、トライアンギュレーション英語えいごばん領域りょういきである。感情かんじょううったえる音楽家おんがくかちからとは、おう権力けんりょく根本こんぽんてきことなっている[22]

まずしい青年せいねんも、王女おうじょも、不完全ふかんぜん家庭かていという境遇きょうぐうにあることが指摘してきされる。青年せいねん両親りょうしんのうちおっとのほうは「父親ちちおや」として紹介しょうかいされることはなく、王女おうじょ母親ははおやはまったく登場とうじょうしない[23]

ヴァイオリンは、わらいとなみだ喜楽きらく悲哀ひあいあいという二元にげんせい表現ひょうげんできる、感情かんじょうてき楽器がっきとされている。しかし、おとぎばなしちがって、現実げんじつには長年ながねん練習れんしゅうずには、そうした感情かんじょう聴衆ちょうしゅうつたえるにはいたらないものである[23]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ ヘルマンの解釈かいしゃくによれば、この schetraかたり「ヴァイオリン」の意味いみとしてハンガリー南部なんぶ地方ちほうのロマが使用しようするかたりであり、トランシルヴァニア地方ちほうのロマはヴァイオリンを hegedive、 ハンガリー全般ぜんぱんのロマは lávutaぶ、としている[6]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  1. ^ せき敬吾けいご へん茂田井もたい ()「バイオリンはどうして出来できたか」『世界せかい民話みんわ全集ぜんしゅう 4(ちゅうおうへん)』、河出かわで書房しょぼう、324–328ぺーじ、1954ねん 
  2. ^ a b c d Wlislocki, Heinrich von (1890a), “Die Erschaffung der Geige”, Vom wandernden Zigeunervolke. Bilder aus dem Leben der Siebenbürger Zigeuner. Geschichtliches, Ethnologisches, Sprache und Poesie, Hamburg: Richter, pp. 221–223, https://books.google.com/books?id=ZoQiXJgXGJ0C&pg=PA221 ; Wlislocki, Heinrich von (1890b), “11. Die Erschaffung der Geige”, Volksdichtungen der siebenbürgischen und südungarischen Zigeuner, Wien: Carl Graeser, pp. 194–195, https://books.google.com/books?id=20PYAAAAMAAJ&pg=PA194 
  3. ^ Wedeck, Harry E. (2015), Wade Baskin, “Two Classifications”, Dictionary of Gypsy Life and Lore (New York: Philosophical Library), ISBN 9781504022743, https://books.google.com/books?id=OTdwCgAAQBAJ&pg=PT668&dq=%22kortorar%22 
  4. ^ Wlislocki (1890a), p. 221.
  5. ^ a b c d Herrmann, Anton (1894), “Die Geige in der Voksdichtung der Zigeuner Ungarns”, Österreichisch-ungarische Revue 16: 52–53 (38–54), https://books.google.com/books?id=ey8OAQAAMAAJ&pg=PA52 
  6. ^ Herrmann (1894), p. 38.
  7. ^ Berger, Hermann (1984), “Mythologie der Zigeuner”, Götter und Mythen des indischen Subkontinents (Stuttgart: Hans Wilhelm Haussig): pp. 773-824 オンラインばん p. 44)2016ねん3がつ1にち閲覧えつらん
  8. ^ イェジィ・フィツォフスキ (再話さいわ内田うちだ莉莎わけ)、堀内ほりうち誠一せいいち)「魔法まほうはこ」『太陽たいようえだ ジプシーのむかしばなし』、福音ふくいんかん文庫ぶんこ、275–292ぺーじ、2002ねんISBN 978-4-8340-1883-7 
  9. ^ Borski, Lucia M. (tr.) (1977), “The Magic Box”, Cricket 5: 1, 1625, https://books.google.com/books?id=1XxYAAAAYAAJ 
  10. ^ Tüpker, Rosemarie (2011), Musik im Märchen, Wiesbaden: Reichert Verlag, pp. 65, 69–, 73–, ISBN 978-3-8950-0839-9 
  11. ^ a b Wlislocki (1890a) "Die Erschaffung der Geige [I]", pp. 217–221; Wlislocki, Heinrich von (1886), “4. Die Erschaffung der Geige”, Vom wandernden Zigeunervolke. Bilder aus dem Leben der Siebenbürger Zigeuner. Geschichtliches, Ethnologisches, Sprache und Poesie, Berlin: Nicolaische verlags-buchhandlung R. Stricker, pp. 5–6, https://books.google.com/books?id=9nvhAAAAMAAJ&pg=PA5 
  12. ^ a b Bolte, Johannes; Polívka, Jiří (2012) [1918]. “182. Die Geschenke des kleinen Volkes”. Anmerkungen zu den Kinder- und Hausmärchen der Brüder Grimm. 1. BoD – Books on Demand. pp. 272 (261–275). https://books.google.com/books?id=Cm_0p7lUr7UC&pg=PA272  e-text at de.wikisource
  13. ^ Groome, Francis Hindes (ed. trans.) (1899), “IV., No. 37 The Creation of the Violin”, Gypsy Folk Tales, London: Hurst and Blackett, pp. 131–, https://books.google.com/books?id=ZTFCAAAAIAAJ&pg=PA131 
  14. ^ Kornel, Vladislav (April 1890), “Gypsy Anecdotes From Hungary: I-The Fiddle”, Journal of the Gypsy Lore Society 2 (2): 65–66, https://books.google.com/books?id=AmRIAAAAYAAJ&pg=PA65 . Archived at the HathiTrust Digital Library
  15. ^ Diedrichs Zigeunermärchen (原題げんだい:Märchen der Weltliteratur), Diederichs, (1991) [1962], ISBN 3-424-00331-X 
  16. ^ Petzoldt, Leander, ed. (1994), Musikmärchen, Frankfurt am Main: Fischer Taschenbuch, pp. 124–, ISBN 3-596-12463-8 
  17. ^ Zaunert, Paul, ed. (1995), Die Zauberflöte. Märchen der europäischen Völker, Düsseldorf: Eugen Diederichs 
  18. ^ Various (2013), “Hörspiel WDR: Das wundersame Kästchen”, 40 Märchen um die Welt (Random House), ISBN 978-3-8983-0562-4 
  19. ^ Zeitschrift Märchenforum Nr. 57 – Vom Lachen und Weinen im Märchen, Lützelflüh, Czech: Mutabor-Verlag, (2013) 
  20. ^ ミュンスターのTheater in der Meerwiese公開こうかいげき 2016ねん3がつ1にち閲覧えつらん
  21. ^ Seidel, Marianne. “Textarbeit zum Romamärchen Die Erschaffung der Geige”. 2016ねん3がつ1にち閲覧えつらん
  22. ^ a b c d Tüpker, Rosemarie. Liste der Einzelmotive und Märchentext. 2016ねん3がつ1にち閲覧えつらん.
  23. ^ a b Tüpker, Rosemarie (2011), Musik im Märchen, Wiesbaden: Reichert Verlag, pp. 51, 53–57