笛 ふえ の演奏 えんそう をエローメノス の羊 ひつじ 飼 か いダフニスに教 おし えるパーンの彫像 ちょうぞう 。
パーン (古代 こだい ギリシャ語 ご : Πάν , Pān )は、ギリシア神話 しんわ に登場 とうじょう する神 かみ の一 いち 柱 はしら である。アイギパーン (古代 こだい ギリシャ語 ご : Α あるふぁ ἰγίπαν , Aigipān , 「山羊 やぎ のパーン」の意 い )とも呼 よ ばれ、ローマ神話 しんわ におけるファウヌス (Faunus )と同一 どういつ 視 し される。土星 どせい の第 だい 18衛星 えいせい パン の由来 ゆらい である。
日本語 にほんご では長 ちょう 母音 ぼいん を省略 しょうりゃく して英語 えいご 風 ふう にパン とも表記 ひょうき される。また意訳 いやく して牧神 ぼくしん (ぼくしん)[ 1] 、牧羊神 ぼくようじん (ぼくようしん、ぼくようじん)[ 2] 、半 はん 獣 しし 神 しん (はんじゅうしん)[ 3] とも呼 よ ばれる。
パーンは羊 ひつじ 飼 か いと羊 ひつじ の群 む れを監視 かんし する神 かみ で、サテュロス と同 おな じく四足 しそく 獣 じゅう のような臀部 でんぶ と脚 あし 部 ぶ 、山羊 やぎ のような角 かく をもつ(→獣人 じゅうじん )。何者 なにもの がパーンの親 おや かは諸説 しょせつ がある。父親 ちちおや はゼウス ともヘルメース ともいわれ、母親 ははおや はニュムペー であるといわれている。
実際 じっさい には古形 こけい 「パオーン、Π ぱい α あるふぁ ω おめが ν にゅー 、Paon」(「牧夫 ぼくふ 」の意 い 、現代 げんだい 英語 えいご のpastureと同 おな じ接頭 せっとう 辞 じ )から名付 なづ けられたものだが、ギリシア語 ご の「パン」(「全 すべ ての」の意 い )としばしば誤 あやま って同一 どういつ 視 し された結果 けっか 、パーン神 しん は性格 せいかく と名前 なまえ が誘惑 ゆうわく 的 てき なものと思 おも われるようになった。
さまざまな点 てん でオルペウス教 きょう の創世 そうせい 神話 しんわ に登場 とうじょう する原初 げんしょ の両性 りょうせい 存在 そんざい の神 かみ 、プロートゴノス(Πρωτογονος 、最初 さいしょ に生 う まれた者 もの )あるいはパネース(Φανης 、顕現 けんげん する者 もの )と同 おな じものとも考 かんが えられた。この神 かみ は原初 げんしょ に卵 たまご より生 う まれた両性 りょうせい の神 かみ で、原初 げんしょ 神 しん エロース の別名 べつめい で、みずからの娘 むすめ ニュクス (夜 よる )とのあいだに初原 はつばら の神 かみ 々、すなわち大地 だいち (ガイア )と天 てん (ウーラノス )を生 う み出 だ した存在 そんざい である(Protogonus /Phanes )。また「全 すべ て」という意味 いみ からアレクサンドリアの神話 しんわ 学者 がくしゃ 、そしてストア派 は の哲学 てつがく 者 しゃ たちによって「宇宙 うちゅう 全 すべ ての神 かみ 」であると解釈 かいしゃく されるようにもなった。
パーンがテューポーン に襲 おそ われた際 さい に上半身 じょうはんしん が山羊 やぎ 、下半身 かはんしん が魚 さかな の姿 すがた になって逃 に げたエピソードは有名 ゆうめい であるが、この姿 すがた は低 ひく きは海底 かいてい から高 こう きは山 やま の頂上 ちょうじょう まで(山羊 やぎ は高山 たかやま 動物 どうぶつ であるため)世界 せかい のあらゆるところに到達 とうたつ できるとされ、「全 すべ て」を意味 いみ する接頭 せっとう 語 ご Pan(汎 ひろし )の語源 ごげん となったともいわれている。
恐 おそ らく、言語 げんご 上 じょう の誤解 ごかい はホメーロス風 ふう 諸 しょ 神 かみ 賛歌 さんか のなかの『パーン賛歌 さんか 』(第 だい 19編 へん )から始 はじ まったのだろう。『賛歌 さんか 』によれば、パーンはドリュオプス の娘 むすめ 、あるいはニュムペーとヘルメースの間 あいだ に生 う まれたが、山羊 やぎ の脚 あし 、頭 あたま に二 に 本 ほん の角 かく を生 は やすという奇妙 きみょう な姿 すがた をしていたため、母親 ははおや は幼 おさな いパーンを置 お き去 ざ りにして逃 に げた。ヘルメースはパーンを野兎 やと の皮 かわ でくるんで神 かみ 々のもとへ運 はこ ぶと神 かみ 々はみな喜 よろこ んだ。しかし、なかでも特 とく に喜 よろこ んだのはディオニューソス だった。そして「全 すべ ての神 かみ 々を喜 よろこ ばす」として、そこから名前 なまえ を得 え たのだという。
パーンには、少 すく なくとも原 はら インド・ヨーロッパ語族 ごぞく 時代 じだい においてはもう一 ひと つの名前 なまえ があり、ローマ神話 しんわ でのファウヌス(下記 かき )であると考 かんが えられる。あるいは印 しるし 欧 おう 比較 ひかく 神話 しんわ 学 がく 的 てき な観点 かんてん からはインドの牧羊神 ぼくようじん プーシャン (Pūṣán)と語源 ごげん が共通 きょうつう しているという説 せつ もある。どちらにしても、パーンの血統 けっとう をめぐる説 せつ がいくつもあることから、太古 たいこ の神話 しんわ 的 てき 時代 じだい に遡 さかのぼ る神 かみ であるに違 ちが いない。パーンがアルテミス に猟犬 りょうけん を与 あた え、アポローン に予言 よげん の秘密 ひみつ を教 おし えたというのが本当 ほんとう なら、他 た の自然 しぜん の精霊 せいれい と同 おな じく、パーンはオリュンポス十 じゅう 二 に 神 かみ よりも古 ふる いものにみえる。パーンはもともとアルカディア の神 かみ であって、パーンの主 おも な崇拝 すうはい 者 しゃ もアルカディア人 じん だった。アルカディアはギリシア人 じん の居住 きょじゅう 地 ち であったが、この地 ち のギリシア人 じん はポリス を形成 けいせい せず、より古 ふる い時代 じだい の村落 そんらく 共同 きょうどう 体 たい 的 てき な牧民 ぼくみん の生活 せいかつ を送 おく っていたので、オリュンポスの神域 しんいき がパーンのパトロンになった時 とき 、ポリス生活 せいかつ を送 おく る先進地 せんしんち 帯 たい のギリシア人 じん は彼 かれ らのことを蔑視 べっし していた。アルカディアの猟師 りょうし たちは狩 か りに失敗 しっぱい した時 とき 、パーンの像 ぞう を鞭打 むちう ったものである(テオクリトス vii. 107)。
パーンは人気 にんき のない所 ところ で、突然 とつぜん 、混乱 こんらん と恐怖 きょうふ をもたらすことがあった(「パニック (Panic)」)(panikon deima )。
復興 ふっこう ペイガニズム (Neopaganism)においてパーンは「角 かく を持 も つ神 かみ 」の典型 てんけい として、神 かみ の元 もと 型 かた の一 ひと つだった(→ケルヌンノス )。
パーンのトレードマークである笛 ふえ に関 かか わる有名 ゆうめい な伝説 でんせつ がある。シューリンクス(Συριγξ 、Syrinx)はアルテミス の侍女 じじょ で[ 4] 、アルカディアの野 の に住 す む美 うつく しいニュムペー だった。サテュロス他 た の森 もり に住 す むものに愛 あい されていたが、彼女 かのじょ は彼 かれ らを皆 みな 軽蔑 けいべつ していた。ある日 ひ 、狩 か りから彼女 かのじょ が帰 かえ ってくるとパーンに会 あ った。アルテミスを崇敬 すうけい し処女 しょじょ のままでいたいと思 おも っていた[ 4] 彼女 かのじょ はパーンのお世辞 せじ を聞 き かずに逃 に げ出 だ したが、パーンはラドン川 かわ の土手 どて まで追 お いかけて行 い って彼女 かのじょ を捕 とら えた。水中 すいちゅう のニュムペーに助 たす けを求 もと める余裕 よゆう しかなく、パーンが手 て を触 ふ れた時 とき 、彼女 かのじょ は川辺 かわべ の葦 あし になった。風 かぜ が葦 あし を通 とお り抜 ぬ け、悲 かな しげな旋律 せんりつ を鳴 な らした。パーンはニュムペーを讃 たた え葦 あし をいくたりか切 き り取 と ると楽器 がっき を作 つく り「パーンの笛 ふえ 」(パーンパイプ 、パーンフルート、つまり古代 こだい ギリシア語 ご でシューリンクス、Syrinx )と呼 よ んだ。
エーコー (Η いーた χ かい ω おめが 、Ekho)は歌 うた と踊 おど りの上手 じょうず なニュムペーであり、全 すべ ての男 おとこ の愛情 あいじょう を軽蔑 けいべつ していた。好色 こうしょく な神 かみ であるパーンはこれに腹 はら をたて、信者 しんじゃ に彼女 かのじょ を殺 ころ させた。エーコーはバラバラにされ、世界中 せかいじゅう に散 ち らばった。大地 だいち の女神 めがみ ガイア がエーコーの肉片 にくへん を受 う け取 と り、今 いま もエーコーの声 こえ は他 た の者 もの が話 はな した最後 さいご の数 すう 語 ご を繰 く り返 かえ している。エーコーとはギリシア語 ご で、木霊 こだま を意味 いみ する。別 べつ の伝承 でんしょう では、はじめエーコーとパーンの間 あいだ にはイアムベー (’Ι いおた α あるふぁ μ みゅー β べーた η いーた 、Iambe)という娘 むすめ がいた。
パーンはピテュス(Πιτυς 、Pitys)というニュムペーにも惚 ほ れた。ピテュスは彼 かれ から逃 に げようと松 まつ の木 き になった。
山羊 やぎ は性的 せいてき な多産 たさん のシンボルであったが、パーンも性 せい 豪 ごう として有名 ゆうめい であり、しばしばファルス を屹立 きつりつ させた姿 すがた で描 えが かれる。ギリシア人 じん はパーンがその魅力 みりょく により、処女 しょじょ やダフニス のような羊 ひつじ 飼 か いを誘惑 ゆうわく するものと信 しん じていた。シューリンクスとピテュスでしくじりはしたが、その後 ご 、ディオニューソスの女性 じょせい 崇拝 すうはい 者 しゃ であるマイナデス をたらし込 こ むことには成功 せいこう し、乱痴気騒 らんちきさわ ぎの中 なか で一人 ひとり 残 のこ らずものにした。これを達成 たっせい するため、パーンは時 とき に分身 ぶんしん してパーン一族 いちぞく (Panes)となった(サテュロス を参照 さんしょう )。
ある時 とき 、パーンは竪琴 たてごと の神 かみ アポローンと音楽 おんがく の技 わざ を競 きそ うことになった。トモーロス (トモーロス山 やま の神 かみ 。オムパレー の夫 おっと )が審査 しんさ 員 いん となった。パーンは笛 ふえ を吹 ふ き、田舎 いなか じみた旋律 せんりつ はパーン自身 じしん とたまたま居合 いあ わせた追従 ついしょう 者 しゃ ミダース を大変 たいへん 満足 まんぞく させた。次 つ いでアポローンが弦 つる を奏 かな でると、トモーロスは一聴 いっちょう 、アポローンに軍配 ぐんばい を上 あ げたのである。ミダース以外 いがい の誰 だれ もが同意 どうい した。しかしながらミダースは異議 いぎ を申 もう し立 た て不 ふ 公正 こうせい じゃないかと糾 ただ した。これに怒 おこ ったアポローンはこのような下劣 げれつ な耳 みみ にわずらわされないよう、彼 かれ の耳 みみ をロバ のそれに変 か えてしまった(→マルシュアース )。
キリスト教 きりすときょう 文学 ぶんがく や絵画 かいが に描 えが かれるインキュバス (男性 だんせい 型 がた 夢魔 むま )の悪魔 あくま 風 ふう イメージ、サタン の角 かく と割 わ れた蹄のイメージは、大変 たいへん に性的 せいてき であるパーンのイメージから取 と ったものであると考 かんが えられている。
ギリシアの歴史 れきし 家 か プルータルコス が『神託 しんたく の堕落 だらく ("The Obsolescence of Oracles" (『モラリア』5:17))』に書 か いたことを信 しん じるならば、パーンはギリシアの神 かみ 々の中 なか で唯一 ゆいいつ 死 し んだ。ティベリウス の御代 みよ にパーンの死 し というニュースがタムス(Thamus)の元 もと に届 とど いた。彼 かれ はパクソイ諸島 しょとう 経由 けいゆ でイタリアに向 む かう船 ふね の船員 せんいん だったのだが、海上 かいじょう で神託 しんたく を聞 き いた。「タムス、そこにおるか? Palodesに着 つ いたなら、忘 わす れず『パーンの大神 おおがみ は死 し したり』と宣告 せんこく するのじゃ」と。その知 し らせは岸辺 きしべ に不満 ふまん と悲嘆 ひたん をもたらした。
ロバート・グレイヴズ は、『ギリシア神話 しんわ 』(The Greek Myths)の中 なか でタムスは明 あき らかに「Thamus Pan-megas Tethnece」(全 すべ てにして偉大 いだい なるタンムーズ は死 し したり)を聞 き き誤 あやま ったのであると示唆 しさ している。実際 じっさい 、プルータルコスの後 のち 一 いち 世紀 せいき たった頃 ころ 、地理 ちり 家 か のパウサニアース がギリシアを旅 たび した時 とき 、パーンを祀 まつ る祠 ほこら や洞 ほら 、聖 せい なる山 やま を尚 なお もしばしば見 み た。
死 し が宣言 せんげん されたにもかかわらず、パーンは今日 きょう も復興 ふっこう ペイガニズム やウイッカ の間 あいだ で男性 だんせい の強 つよ さと性的 せいてき 能力 のうりょく の源泉 げんせん として崇拝 すうはい されている。
パーンはケネス・グレアム の児童 じどう 文学 ぶんがく 作品 さくひん 『たのしい川 かわ べ 』(The Wind in the Willows)とトム・ロビンズ の小説 しょうせつ 『香水 こうすい ジルバ』(Jitterbug Perfume)にも登場 とうじょう している。
ブドウ を手 て にサンバ のようなダンスを踊 おど るファウヌス (左 ひだり からファウヌス、バッカス 、サテュロス )- 2世紀 せいき 。
ローマ神話 しんわ でパーンに対応 たいおう するのはファウヌス(Faunus)である。ファウヌスはニュムペーのマリーカ(Marīca)(時 とき にファウヌスの母 はは ともいわれる)との間 あいだ にボナ・デア(Bona Dea. 本名 ほんみょう は女神 めがみ ファウナFaunaまたはファウラFaulaであるという。ファウヌスの女性 じょせい 側面 そくめん )及 およ びラティーヌス(Latīnus)をもうけた父親 ちちおや として知 し られている。
ユスティノス はファウヌスをルペルクス (Lupercus「狼 おおかみ を遠 とお ざけるもの」)即 すなわ ち家畜 かちく の護衛 ごえい 者 しゃ と同定 どうてい しているが、この説 せつ は古典 こてん 的 てき 典拠 てんきょ を欠 か く。
神話 しんわ においては、ファウヌスはエウアンドロス がアルカディアから来 き たとき、ラティウム 地方 ちほう (Latium) の王 おう で、ピークス王 おう (Pīcus) とカネーンス (Canēns) の子 こ だった。死後 しご にファートゥウス (Fātuus) 神 かみ として崇拝 すうはい された。儀式 ぎしき は神聖 しんせい な森 もり の中 なか で行 おこな われ、現在 げんざい のティヴォリ (Tivoli)、エトルリア時代 じだい 以来 いらい ティブール (Tibur)、Tiburtine Sibylの座 ざ として知 し られていた地 ち のはずれにその森 もり はあった。ファウヌス自身 じしん を象徴 しょうちょう する彼 かれ の持 も ち物 もの は狼 おおかみ の毛皮 けがわ 、花 はな や草 くさ で作 つく った冠 かんむり 、ゴブレットである。
彼 かれ の祭 まつ りはルペルカーリア祭 さい (Lupercālia) と呼 よ ばれ、神殿 しんでん が建立 こんりゅう された日 ひ を記念 きねん して2月 がつ 15日 にち に行 おこな われた。司祭 しさい ルペルクスたち (Luperci) は山羊 やぎ の皮 かわ を着 き 、見物人 けんぶつにん を山羊 やぎ 皮 がわ のベルトで打 う った。ファウヌスを讃 たた えるもう一 ひと つの祭 まつ りがあり、ファウナリア (Faunalia) という。12月5日 にち に行 おこな われた。
Erotic art in Pompeii and Herculaneum も参照 さんしょう のこと。
^ "牧神 ぼくしん " . 精選 せいせん 版 ばん 日本 にっぽん 国語 こくご 大 だい 辞典 じてん / デジタル大辞泉 だいじせん . コトバンク より2023年 ねん 8月 がつ 12日 にち 閲覧 えつらん 。
^ "牧羊神 ぼくようじん " . 精選 せいせん 版 ばん 日本 にっぽん 国語 こくご 大 だい 辞典 じてん / デジタル大辞泉 だいじせん . コトバンク より2023年 ねん 8月 がつ 12日 にち 閲覧 えつらん 。
^ "半 はん 獣 しし 神 しん " . 精選 せいせん 版 ばん 日本 にっぽん 国語 こくご 大 だい 辞典 じてん / デジタル大辞泉 だいじせん . コトバンク より2023年 ねん 8月 がつ 12日 にち 閲覧 えつらん 。
^ a b 木村 きむら 点 てん 『早 はや わかりギリシア神話 しんわ 』 日本 にっぽん 実業 じつぎょう 出版 しゅっぱん 社 しゃ
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