ホーラー

季き節ぶしの正ただしい移うつり変かわりを司つかさどる3柱はしらのホーライと人間にんげん社会しゃかいの秩序ちつじょを司つかさどる3柱はしらのホーライ (エドワード・ポインター/画が、1896)

ホーラー（Ὥρろーαあるふぁ, Hōrā）とは、ギリシア神話しんわに登場とうじょうする時間じかんの女神めがみで、季き節ぶしと秩序ちつじょを司つかさどる。

なお、ホーラーは単数たんすう形がたで、複数ふくすう形がたではホーライ（Ὧρろーαあるふぁιいおた, Hōrai）という。いずれも時間じかんの意味いみ。また、季き節ぶし女神めがみとも意訳いやくされる。

概説がいせつ

ゼウスとテミスの三さん人にんの娘むすめで、運命うんめいの三さん女神めがみモイライの姉妹しまいとされる。古ふるくは気象きしょう的てき性格せいかくを持もつ女神めがみたちで、雨あめを降ふらせることで花はなを開花かいかさせ、果実かじつを実みのらせたので、春はると夏なつの季き節ぶしを象徴しょうちょうした。やがてホーラーたちは季き節ぶしの規則正きそくただしい巡めぐりと自然しぜんの秩序ちつじょを司つかさどる女神めがみと見みなされるようになったが、季き節ぶしそのものと混同こんどうされた。ホメーロスにおいては天界てんかいと地上ちじょうを結むすぶ雲くもの門もんの番人ばんにんであり、ヘーラーの戦車せんしゃから馬うまを外はずしたりと、神かみ々がオリュンポスから戦車せんしゃに乗のって外出がいしゅつする際さい、天界てんかいの門もんの雲くもを掻かき分わける。アプロディーテーがキュプロス島とうに上陸じょうりくするとホーラーたちが彼女かのじょを着飾きかざらせ、オリュンポス山さんに連つれて行いった。ゼウスが人間にんげんを破滅はめつさせるため、パンドーラーを地上ちじょうへ送おくった時とき、ホーラーたちは彼女かのじょの頭あたまを花はな飾かざりのついた冠かんむりで縁ふちどりした。神かみ々の宴会えんかいでホーラーたちはカリスたちの仲間なかまになって踊おどる。ホーラーたちは生うまれたばかりのヘルメースの保護ほご者しゃであり、ディオニューソスがゼウスの太股ふとももから生うまれた時とき、彼かれを引ひきうけた。また、ヘーラーを養育よういくしたのは彼女かのじょたちであった。ヘーラーあるいはアプロディーテーの侍女じじょであり、ディオニューソス、ペルセポネー、デーメーテール、アポローンなどにも従したがう。それゆえ彼女かのじょ達たちは、花はなあるいは植物しょくぶつを手てにした優雅ゆうがな三さん人にんの美うつくしい乙女おとめの姿すがたで表あらわされる。

ホーラーたちはアテーナイ、アルゴリス、オリュムピア、そして特とくにコリントスで敬うやまわれた。

名前なまえ一覧いちらん

3姉妹しまいの名前なまえについては諸説しょせつある。

ヘーシオドスの『神かみ統みつる記き』やアポロドーロスによれば、エウノミアー、ディケー、エイレーネーという。

#	ホーライ	希まれ	羅ら	紹介しょうかい
1	エウノミアー	Εいぷしろんὐνομία	Eunomia	秩序ちつじょの女神めがみとされる。
2	ディケー	Δίκη	Dice	正義せいぎの女神めがみとされる。 人類じんるいを見守みまもり、人類じんるいが不正ふせいを働はたらいた時ときにはこれをゼウスに訴うったえるという。 後世こうせいの神話しんわの女神めがみアストライアーやローマ神話しんわのユースティティアと同一どういつ視しされる。
3	エイレーネー	Εいぷしろんἰρήνη	Irene	平和へいわを司つかさどり、ローマ神話しんわのパークスと同一どういつ視しされる。

古代こだいのギリシア人じんは一いち年ねんを春分しゅんぶんから秋分しゅうぶんに至いたる半年はんとしと残余ざんよの秋冬あきふゆの半年はんとしに分わかち、アテーナイで二ふたつの季き節ぶしのホーライ（タローとカルポー）を置おいたが、後のちには春はる夏秋なつあきの三さん季き節ぶしに分わかち、アッティカではタロー（芽生めばえ）、アウクソー（生長せいちょう）、カルポー（結実けつじつ）という三さん柱はしらのホーライになっている。主おもに自然しぜんと季き節ぶしを司つかさどり、植物しょくぶつの芽生めばえ、生長せいちょう、結実けつじつの3階段かいだんを象徴しょうちょうする。春はる夏秋なつあきの三さん季き節ぶしと結むすびついている。

#	ホーライ	希まれ	羅ら	紹介しょうかい
1	タロー	Θαλλώ	Thallo	春はるの女神めがみとされる。開花かいか・芽生めばえを象徴しょうちょうする。
2	アウクソー	Αあるふぁὐξώ	Auxo	夏なつの女神めがみとされる。生長せいちょうを象徴しょうちょうする。
3	カルポー	Καρπώ	Carpo	秋あきの女神めがみとされる。結実けつじつ・収穫しゅうかくを象徴しょうちょうする。

ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『ギリシャ神話しんわ集しゅう』(Fabulae 183)に登場とうじょうする大地だいちの豊饒ほうじょうを象徴しょうちょうする3柱はしらのホーライ。

#	ホーライ	希まれ	羅ら	紹介しょうかい
1	エウポリアー	Ευπορία	Euporia	潤沢じゅんたく・豊饒ほうじょうの女神めがみとされる。
2	オルトシアー	Ορθωσία	Orthosia	繁栄はんえいの女神めがみとされる。
3	ペルーサー	Φέρουσα	Pherusa	本質ほんしつ・実みのり多おおき者ものを象徴しょうちょうする女神めがみとされる。

古代こだいギリシアの詩人しじんノンノスの『ディオニューソス譚たん』では太陽たいよう神しんヘーリオスの娘むすめで、春夏秋冬しゅんかしゅうとうの四季しきを司つかさどる4人にん姉妹しまいとされる。一説いっせつにヘーリオスと月つきの女神めがみセレーネーの娘むすめであり、ヘーラーに仕つかえる4人にんの侍女じじょとされる。

#	ホーライ	希まれ	羅ら	紹介しょうかい
1	エイアー	Εいぷしろんιいおたαあるふぁρろー	Eiar	春はるの女神めがみとされる。象徴しょうちょう物ぶつは花はな。
2	テーロース	Θερος	Theros	夏なつの女神めがみとされる。象徴しょうちょう物ぶつは穀物こくもつ。
3	プティノポローン	Φθινοφωρον	Phthinophoron	秋あきの女神めがみとされる。象徴しょうちょう物ぶつは葡萄ぶどう・蔦つた。
4	ケイモーン	Χかいεいぷしろんιいおたμみゅーωおめがνにゅー	Cheimon	冬ふゆの女神めがみとされる。象徴しょうちょう物ぶつは雪ゆき・オリーヴ。

『アポローンと12柱はしらのホーライ』(ゲオルク・フリードリヒ・ケルスティング/画が、1822)

ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『ギリシャ神話しんわ集しゅう』(Fabulae 183)より再ふたたび12柱はしらのホーライを挙あげる。1年ねんの月数げっすうあるいは1日にちの時間じかん帯たいを象徴しょうちょうしている。また1日にちの時間じかんの巡めぐりを司つかさどり、太陽たいよう神しんの馬車ばしゃを仕立したててその日光にっこうが世界せかいを照てらしに行いくのを助たすけている。

#	ホーライ	希まれ	羅ら	紹介しょうかい
1	アウゲー	Αυγή	Auge	暁あかつきの女神めがみとされる。
2	アナトレー	Ανατολή	Anatole	日ひの出での女神めがみとされる。
3	ムーシケー	Μουσική	Mousike	芸術げいじゅつの女神めがみとされる。
4	ギュムナスティケー	Γυμναστίκή	Gymnastike	体育たいいくの女神めがみとされる。
5	ニュンペー	Νυμφή	Nymphe	水浴すいよくの女神めがみとされる。
6	メセンブリアー	Μεσημβρία	Mesembria	真昼まひるの女神めがみとされる。
7	スポンデー	Σπονδή	Sponde	献けんじ酒しゅの女神めがみとされる。
8	エレテー	Ελήτή	Elete	祈いのりの女神めがみとされる。
9	アクテー	Ακτή	Akte	餐宴の女神めがみとされる。
10	ヘスペリス	Έσπερίς	Hesperis	黄昏たそがれの女神めがみとされる。
11	デュシス	Δύσις	Dysis	日没にちぼつの女神めがみとされる。
12	アルクトス	Άρκτος	Arktos	夜空よぞらの女神めがみとされる。

参考さんこう文献ぶんけん

• アポロドーロス『ギリシア神話しんわ』高津たかつ春繁はるしげ訳わけ、岩波いわなみ文庫ぶんこ（1953年ねん）
• ヘシオドス『神かみ統みつる記き』廣川ひろかわ洋一よういち訳わけ、岩波いわなみ文庫ぶんこ（1984年ねん）
• ヒュギーヌス『ギリシャ神話しんわ集しゅう』松田まつだ治おさむ・青山あおやま照男てるお訳やく、講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ（2005年ねん）
• 高津たかつ春繁はるしげ『ギリシア・ローマ神話しんわ辞典じてん』岩波書店いわなみしょてん（1960年ねん）
• フェリックス・ギラン『ギリシア神話しんわ』中島なかじま健けん訳やく、青土おうづち社しゃ（1982年ねん）

関連かんれん項目こうもく

• モイラ
• ノルン（北欧ほくおう神話しんわ）