(Translated by https://www.hiragana.jp/)
ロマ語 - Wikipedia コンテンツにスキップ

ロマ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロマ
romani ćhib
はなされるくに ヨーロッパ諸国しょこくハンガリーなど東欧とうおうおおい)
地域ちいき ヨーロッパなど
話者わしゃすう 480まんにん
話者わしゃすう順位じゅんい 100以下いか
言語げんご系統けいとう
表記ひょうき体系たいけい ラテン文字もじ
公的こうてき地位ちい
公用こうよう なし(ヨーロッパのいくつかの国家こっか地方ちほう行政ぎょうせい区画くかく少数しょうすう言語げんご指定していされている)
言語げんごコード
ISO 639-2 rom
ISO 639-3 romマクロランゲージ
個別こべつコード:
rmn — バルカン・ロマ
rml — バルト・ロマ
rmc — カルパティア・ロマ
rmf — カロ・フィンランド・ロマ
rmo — シンティ・ロマ
rmw — ウェールズ・ロマ
rmy — ヴラックス・ロマ
消滅しょうめつ危険きけん評価ひょうか
Definitely endangered (Moseley 2010)
テンプレートを表示ひょうじ

ロマ(ロマご、ロマニー、ジプシー)はインド・ヨーロッパ語族ごぞくインド言語げんごで、インドからきたアフリカ、ヨーロッパへ移住いじゅうした少数しょうすう民族みんぞくロマ(ジプシー)が使用しようする。

ロマは国家こっかをもたないため標準ひょうじゅんはない。方言ほうげん非常ひじょう多様たようで、20ぐん60種類しゅるい以上いじょう分類ぶんるいされる。もともと固有こゆう文字もじはなく、現在げんざいではラテン文字もじ筆記ひっきされることがおおい。

サンスクリット起源きげんであるといわれ、現在げんざいきたインドで使つかわれているグジャラートヒンディーカシミールなどのしょ言語げんごとも、語彙ごい文法ぶんぽうなどのてん関連かんれんせいがあることが指摘してきされている[1]

また、なんひゃくねんという年月としつきをかけて広大こうだい地域ちいき移動いどうしたことにより、かれらの通過つうかおよび滞在たいざいしょ言語げんごとの相互そうごてき影響えいきょうがみられる。ロマがインドからヨーロッパへ移動いどうするあいだ関与かんよした言語げんごにはペルシアアルメニアアラビアトルコが、ヨーロッパ侵入しんにゅう影響えいきょうあたえた言語げんごにはギリシアロシアルーマニアハンガリーさらドイツフランス語ふらんすご英語えいごがある[2]

近年きんねんではロマの流浪るろう範囲はんいせまくなり、ひとつのくにからそとることがまれになったため、ますます接触せっしょく言語げんご影響えいきょうりょくしてきている。このことはロマ方言ほうげん話者わしゃ減少げんしょう加速かそくさせ、言語げんご消滅しょうめつ危惧きぐされている[2]

歴史れきし[編集へんしゅう]

ごく初期しょきのロマ実態じったいかんするたしかな歴史れきしてき文献ぶんけんはない。また、ロマの先祖せんぞや、インド大陸たいりくからの移住いじゅう動機どうきについてのどんな歴史れきしてき証拠しょうこもない。ただ、インド・アーリアにおけるせい区分くぶんは、7~10世紀せいきごろにかけて3つ(男性だんせいがた女性じょせいがた中性ちゅうせいがた)から2つ(男性だんせいがた女性じょせいがた)へと変化へんかしていることから、ロマはこのころにサンスクリットなどの影響えいきょうけたとかんがえられ、ロマの祖先そせんがインド大陸たいりくからたのは10世紀せいきごろと推測すいそくされる。 みなみアジアからの出発しゅっぱつのちせま範囲はんいクルドアルメニア比較的ひかくてき長期ちょうき滞在たいざいしていたトルコのアナトリア地方ちほう言語げんごや、ギリシャ影響えいきょうみとめられている。

13世紀せいき前半ぜんはんはじまるモンゴルじん欧州おうしゅう侵入しんにゅう西方せいほう移住いじゅうがねとなった。ロマじんはその欧州おうしゅうひろ範囲はんい離散りさんし、点在てんざいしているロマのグループは地方ちほう共同きょうどうたい分化ぶんか発生はっせいし、それはおおくのことなった方言ほうげんかれた現代げんだいのロマおおいに影響えいきょうした。

今日きょう、ロマは42の欧州おうしゅう諸国しょこくしょう集団しゅうだんによってはなされている。イギリスのマンチェスター大学だいがくは、おおくが消滅しょうめつ危機ききにあるロマ方言ほうげん転写てんしゃプロジェクトにんでいる。

ロマ現状げんじょう[編集へんしゅう]

広範囲こうはんい流浪るろうしていたころから、ロマはうらない・行商ぎょうしょうなどを生業せいぎょうとするじょうで、様々さまざまくに言葉ことばはなせる必要ひつようがあり、ロマだけで生活せいかつするもの稀有けうだった。しかし、昨今さっこんでは定住ていじゅうするロマがえたことにくわえ、テレビ・ラジオの普及ふきゅうのため、ロマ話者わしゃ減少げんしょう高齢こうれいと、ロマ接触せっしょく言語げんごとの混合こんごうすすんでいる[3]

そのいちれいとして、イギリスのジプシーにはなされているアングロ・ロマニー英語えいごばんがあげられる。これは英語えいご影響えいきょういちじるしく、以下いかのようにはなされる[4]

  • You're jessing to the buriker to fetch moro.
    (You are going to the shop to fetch bread.)
  • Mandi can year the bavel in the ruckers.
    (I can hear the wind in the trees.)

アングロ・ロマニーでは名詞めいし代名詞だいめいしせいかく消失しょうしつし、複数ふくすう所有しょゆうあらわ英語えいごの-sがもちいられており[5]、もはや語彙ごい程度ていどでしかロマ原型げんけいめていない。

ロマ標準ひょうじゅん運動うんどう[編集へんしゅう]

現在げんざい、ロマ標準ひょうじゅんけてルーマニアセルビア、アメリカおよびスウェーデンのグループがうごいている。

セルビアではロマ標準ひょうじゅんがたもちいられている。同国どうこくヴォイヴォディナ自治じちしゅうではロマしゅう公認こうにん少数しょうすう言語げんごのひとつとされており、ロマもちいるラジオきょく報道ほうどう機関きかん存在そんざいしている。 確認かくにんされているかぎもっとおおくのロマ人口じんこうかかえているルーマニアにおいては、国内こくないはなされているあきら方言ほうげん包括ほうかつてきあつかうための統一とういつされた教育きょういくシステムとして後述こうじゅつゲオルゲ・サラウ英語えいごばんによる標準ひょうじゅんロマ採用さいようされ、高等こうとう教育きょういくのみならず初等しょとう教育きょういくにおいてもロマ教育きょういくやロマもちいたかく教科きょうか教育きょういくおこなわれている[6]。 また、スペインやイギリスなどにおいては、すでにロマはなさなくなっていたロマ集団しゅうだんがロマ復活ふっかつおこなおうとするなか標準ひょうじゅん運動うんどうすすめられている。これらの場合ばあいにおいては特定とくてい方言ほうげん復活ふっかつというかたちではなく様々さまざま方言ほうげんもとにした標準ひょうじゅん構築こうちく指向しこうされている。スペインの政治せいじフアン・デ・ディオス・ラミレス・エレディア英語えいごばんはスペインけいロマの伝統でんとう地域ちいきのロマたちとのあいだ相互そうごコミュニケーションの双方そうほう念頭ねんとうき、標準ひょうじゅんロマニ現在げんざいはなされているカロー英語えいごばん単語たんごんだロマノ・カローの普及ふきゅう推進すいしんしている[7]

このように様々さまざまな「国際こくさいてきな」標準ひょうじゅん運動うんどうおこなわれているものの、現状げんじょうとしては標準ひょうじゅん使用しようよりむしろそれぞれの方言ほうげん固有こゆう表記ひょうき方法ほうほう語彙ごいもちいた文章ぶんしょうほう一般いっぱんてきおこなわれている。 国際こくさいてき標準ひょうじゅん制定せいていされれば他国たこく執筆しっぴつされたロマ文章ぶんしょう読解どっかい容易よういになるものの、ロマのかくコミュニティあいだ足並あしなみのバラつき、そしてロマにとって中央ちゅうおう政権せいけんべる存在そんざいがないことなどによって実現じつげんにはいたっていない。ただし、言語げんごてき多元たげんせいというてんについては欧州おうしゅう評議ひょうぎかいロマ代表だいひょうである欧州おうしゅうロマ・トラヴェラーズ・フォーラムがホームページじょう方針ほうしんのひとつとして記載きさいしているほかミレナ・ヒュプシュマンノヴァー英語えいごばんディーター・W・ハルヴァクスヤーロン・マトラス英語えいごばんといった主要しゅようなロマせんもん言語げんご学者がくしゃからも支持しじされている。オンラインロマ辞典じてんのRomLexでは一貫いっかんせいのある統一とういつされた表記ひょうきほうもちいられつつもかく方言ほうげん特有とくゆう表現ひょうげんれるというかたち多元たげんせいみとめている。

ゲオルゲ・サラウによる標準ひょうじゅんロマ[編集へんしゅう]

ゲオルゲ・サラウによるあるじとしてひがしヨーロッパのロマ方言ほうげんもとづいた標準ひょうじゅんロマは、アナトリア半島はんとうにおいて形成けいせいされたころふるいロマをモデルとして語彙ごい文法ぶんぽう要素ようそ選択せんたくした[6]純化じゅんかされたやや規範きはんてきなものとなっている。 発音はつおんかく方言ほうげん基層きそう言語げんご由来ゆらいのものにもっとちか[訳語やくご疑問ぎもんてん]かく方言ほうげん様々さまざま方言ほうげん変種へんしゅのあるような場合ばあいは、もっと古形こけいちか変種へんしゅ採用さいようされている。れいとして、byav(異形いぎょうとして abyav、abyau など)、akana(異形いぎょうとして akanak など)、shunav(異形いぎょうとして ashunav、ashunau など)といったものがげられる。 また、すでもちいられている語彙ごいをもとにした新語しんご創出そうしゅつにもまれている。このような新語しんごれいとしては xuryavno飛行機ひこうき)、vortorin計算尺けいさんじゃく)、palpaledikhipnasko遡及そきゅうてきに)、pashnavi形容詞けいようし)がげられる。ルーマニア由来ゆらいvremea天気てんき時間じかん)、primariya市庁舎しちょうしゃ)、frishka(クリーム)、sfintoせいなる)などといった借用しゃくようについてもえず改定かいていおこなわれている。完全かんぜん造語ぞうごヒンディーから bijli電気でんき電球でんきゅう)、misalれい)、chitro絵画かいが、デザイン)、lekhipen筆記ひっき)などが、また英語えいごから printisarelprezidento などが創出そうしゅつされている。

文字もじ[編集へんしゅう]

歴史れきしてきにはロマ文字もじたない言語げんごである[8]近年きんねんかれた学問がくもんてき大衆たいしゅうてきロマ文学ぶんがく圧倒的あっとうてきだい多数たすうは、ラテン語らてんごもとにした文字もじもちいている[9]

ロマのアルファベットを統一とういつしようというこころみは過去かこにあったが、あるひとつの方言ほうげん選択せんたくする方法ほうほうにしろ、複数ふくすう方言ほうげん融合ゆうごうさせる方法ほうほうにしろ、ロマ標準ひょうじゅんさだめることはできなかったため、アルファベットの統一とういつかなわなかった。 現在げんざいでは、それぞれの方言ほうげん固有こゆう表記ひょうき方法ほうほうみとめるのが主流しゅりゅうかんがかたとなっている[10] 。ネイティヴ話者わしゃ個々ここ筆記ひっきするさいには、ルーマニアではルーマニアハンガリーではハンガリーといった具合ぐあいに、周辺しゅうへん主要しゅよう言語げんご記述きじゅつ方法ほうほう基礎きそとするのがもっと一般いっぱんてきである。その場合ばあい、それぞれのくに文字もじにロマ発音はつおん反映はんえいする特殊とくしゅなアルファベットを追加ついかし、ロマ発音はつおんちか表記ひょうきされる。

表記ひょうきいちれいしめすと、「ロマ」という意味いみのフレーズである [romaɲi tʃʰib] は、かく方言ほうげん以下いかのようにかれる。

  • románi szib
  • románi čib
  • romani tschib
  • románi tschiwi
  • romani tšiw
  • romeni tšiv
  • romanitschub
  • rromani čhib
  • romani chib
  • rhomani chib
  • romaji šjib

一方いっぽうで、ネイティヴ話者わしゃのネットじょうEいーメールのやりりでは、英語えいごチェコ由来ゆらい正書法せいしょほうもちいられる傾向けいこうも、現在げんざい確認かくにんされている[9]

Pan-Vlax system[編集へんしゅう]

言語げんご学者がくしゃあいだでは、パン・ヴラックスほう(Pan-Vlax system)という表記ひょうき方法ほうほう支持しじされている[11] 。これはイアン・ハンコックによって提唱ていしょうされたもので、以下いかのように表記ひょうきする。

Pan-Vlax systemにおけるロマ文字もじ
書記しょきもと 音素おんそ かたりれい
表記ひょうきれい 語義ごぎ英語えいご 和訳わやく
A a /a/ akana now 現在げんざい
B b /b/ barvalo rich 裕福ゆうふく
C c /ts/ cìrdel he pulls かれ
Č č /tʃ/ čačo true 真実しんじつ
Čh čh /tʃʰ/ čhavo boy おとこ
D d /d/ dorjav river かわ
Dž dž /dʒ/ džukel dog いぬ
E e /e/ ertimos forgiveness ゆるすこと
F f /f/ foros town まち
G g /ɡ/ gadže non-Rom ロマではないひと
H h /h/ harmasari stallion 種馬たねうま
I i /i/ ičarel he crushes かれみつぶす
J j /j/ jag fire
K k /k/ kaj where どこで
Kh kh /kʰ/ khamesko sunny 太陽たいよう
L l /l/ lašo good
M m /m/ manuš man ひと
N n /n/ nav name 名前なまえ
O o /o/ oxto eight
P p /p/ pekel he bakes かれ
Ph ph /pʰ/ phabaj apple リンゴ
R r /r/ rakli girl おんな
S s /s/ sunakaj gold きむ
Š š /ʃ/ šukar sweet/good/nice あまい、
T t /t/ taxtaj cup カップ
Th th /tʰ/ them land りく
U u /u/ lip くちびる
V v /ʋ/ voro cousin いとこ
X x /x/ xarano wise かしこ
Z z /z/ zèleno green みどり
Ž ž /ʒ/ žoja Thursday 木曜日もくようび

世界せかい共通きょうつうロマアルファベット[編集へんしゅう]

これとはべつに、1990ねんだい4かい世界せかいロマ会議かいぎ英語えいごばんにて制定せいていされた世界せかい共通きょうつうロマアルファベットも存在そんざいする[12]。こちらはフランスの言語げんご学者がくしゃマルセル・クーティアードフランス語ふらんすごばんによって考案こうあんされたもので、基本きほん上記じょうきのパン・ヴラックスほうちかいものの、子音しいんえるダイアクリティカルマークとしてハーチェクではなくアキュート・アクセント採用さいようしているてんかく変化へんか形態けいたい音韻おんいんろんてき表記ひょうきするための専用せんよう文字もじ整備せいびしているてん、およびかく方言ほうげんにおける口蓋こうがい度合どあいのちがいによってしょうじる発音はつおんをある程度ていどんだものとなっているてん特徴とくちょうとなっている。

この世界せかい共通きょうつうロマアルファベットはいち定数ていすう刊行かんこうぶつにおいて使用しようがなされているものの、いまひろれられているとはえない状況じょうきょうにある。要因よういんひとつとして、ヨーロッパのどの言語げんごのキーボード配列はいれつでも標準ひょうじゅんてきには配置はいちされていないような文字もじ多数たすうふくまれておりコンピューターでの入力にゅうりょく容易よういではないからではないか、という指摘してき存在そんざいする[13]

音韻おんいんろん[編集へんしゅう]

ロマ音声おんせいシステムはヨーロッパの言語げんごあいだではそれほどめずらしくない。 もっと特徴とくちょうてきなのは有声音ゆうせいおん無声音むせいおんゆう閉鎖へいさおんの3つの対比たいひがみられるてんで、 p t k čb d g dž、ph th kh čhげられる[14] 。また、ř 発音はつおん方言ほうげんでは、口蓋垂こうがいすいおん [ʀ]ちょうくきふるえおん [r:]、そりしたおん [ɽ] または [ɻ]発音はつおんされる[14]

以下いかひょうはロマおもおとしめす。音素おんそ挿入そうにゅう語句ごくはそれぞれの方言ほうげんによってことなる。

ひがしヨーロッパ、東南とうなんヨーロッパのロマ方言ほうげん一般いっぱん口蓋こうがいおんした子音しいん[14]ちゅうした母音ぼいんəɨ方言ほうげんもある[14]ちょう母音ぼいんはしばしば西にしヨーロッパのロマ方言ほうげんられる[14]接触せっしょく言語げんごからの借用しゃくようには、よく母語ぼごにないほか音素おんそふくまれている[14]。 ロマなかでも保守ほしゅてき方言ほうげんは、一部いちぶ接辞せつじ例外れいがいもみられるが、語末ごまつつよぜいたもっている(たとえば、名詞めいし対格たいかくともなったよびかく語尾ごびかく語尾ごびや、とお時制じせい例外れいがいとなる)[14]中央ちゅうおうヨーロッパおよ西にしヨーロッパの方言ほうげんには、つよぜいかたりのより前方ぜんぽううつったものがおお[14]

語末ごまつにおいては、ゆうごえ子音しいん無声むせいし、おんおんする。 しかし以下いかひょうのように、表記ひょうきじょう有声音ゆうせいおんおんがそのままたもたれる。

表記ひょうき 発音はつおん 意味いみ
gad [gat] シャツ(単数たんすう)
gada [gada] シャツ(複数ふくすう)
ačh! [at͡ʃ] まれ!(よびかく)
ačhel [at͡ʃʰel] (三人称さんにんしょう単数たんすうたいして)まれ!

ロマ近代きんだいインド比較ひかくして、古風こふう音韻おんいん特徴とくちょうがみられる。たとえば、サンスクリットmṛtaんだ」は、ヒンディーmua というが、ロマでは mulo となり、かたりちゅうの r を保持ほじしている。また、サンスクリットtri-「3」はヒンディーtin というのにたいして、ロマtrin であり、語頭ごとうの tr- がたもたれている[15]。ほとんどのインドぐんでは s/ś/ș区別くべつがなくなりひとつに統合とうごうされているが、アルメニア方言ほうげんのぞいたロマでは s/š の2しゅのこっている[16]

文法ぶんぽうろん[編集へんしゅう]

男性だんせい名詞めいし女性じょせい名詞めいし単数たんすう複数ふくすう区別くべつがある。また、語順ごじゅんはVOS。

形態けいたいろんてき特徴とくちょう [編集へんしゅう]

ゆう生物せいぶつ無生物むせいぶつ対格たいかく変化へんかことなる[17][信頼しんらいせいよう検証けんしょう]たとえば、rakló少年しょうねん」の対格たいかくraklés変化へんかするが、manřó「パン」の対格たいかく主格しゅかくわらない。

rakló「少年しょうねん」のかく変化へんか[18]
かく 単数たんすう 複数ふくすう
主格しゅかく rakl-o rakl-e
対格たいかく rakl-es rakl-en
与格よかく rakl-es-ke rakl-en-ge
だつかく rakl-es-tar rakl-en-dar
かく rakl-es-te rakl-en-de
かく rakl-es(s)a rakl-en-ca
ぞくかく rakl-es-ko(ro) rakl-en-go(ro)
よびかく rakl-éja! rakl-ále(n)!

単数たんすうかく語尾ごび複数ふくすうかく語尾ごびおなじであることは、形態けいたいほう膠着こうちゃくせいしめしており、ハンガリーやベンガル、パンジャブにも同様どうようにみられる。

語形ごけい変化へんかのパラダイムで特徴とくちょうてきなのは、原形げんけいとなる語形ごけい変化へんか主格しゅかく対格たいかくふたつからなり、それ以外いがいはすかく対格たいかくがたをベースにしてさらにそのうえ語尾ごび付加ふかしたかたちになることである[19][信頼しんらいせいよう検証けんしょう]無生物むせいぶつ場合ばあい主格しゅかく対格たいかく同形どうけいになるが、対格たいかく以外いがいはすかくでは生物せいぶつ対格たいかく使つかわれている形態素けいたいそたとえばこのれい付加ふかされている -es がきゅうあらわれる。パラダイムがじゅう構造こうぞうをしていることになる。単数たんすうがたではつぎのようになる。

男性だんせい名詞めいしかく変化へんか[20]

生物せいぶつ人間にんげん 無生物むせいぶついえ
主格しゅかく rom kher
対格たいかく rom-es kher
よびかく rom-a -
与格よかく rom-es-ke kher-es-ke
だつかく rom-es-tar kher-es-tar
かく rom-es-ar kher-es-ar
しょかく rom-es-te kher-es-te
ぞくかく rom-es-koro kher-es-koro


女性じょせい名詞めいしかく変化へんか[21][信頼しんらいせいよう検証けんしょう]

生物せいぶついもうとまたはあね 無生物むせいぶつ「ワイン」
主格しゅかく phen mol
対格たいかく phen-ja mol
よびかく phen-e -
与格よかく phen-ja-ke mol-ja-ke
だつかく phen-ja-tar mol-ja-tar
かく phen-ja-ar mol-ja-ar
しょかく phen-ja-te mol-ja-te
ぞくかく phen-ja-koro mol-ja-koro


よびかくかく変化へんかパラダイムとして保持ほじしているてん注目ちゅうもくあたいする。

統辞とうじろんてき特徴とくちょう[編集へんしゅう]

不定ふていほう消失しょうしつがあげられる。I want to eat. のような表現ひょうげんI want that I eat. のように表現ひょうげんされる。これはバルカン語法ごほうばれる。バルカン語法ごほう現代げんだいギリシア起源きげんとされ、アルバニアブルガリアルーマニアにも普及ふきゅうしている[22]

ことわざ[編集へんしゅう]

ヨーロッパのかく言語げんごにみられる普遍ふへんてき内容ないようのものがおおふくまれるが、なかにはロマの流浪るろう生活せいかつ気質きしつおもてわれた独特どくとくなことわざもある。以下いかれいげる[23]

  • Barval'ipé lovénca, čoror'ipé g'il'énca. 「ゆたかなものはおかねらし、まずしいものうたらす。」
  • E b'ída god'í b'iyanéla. 「不幸ふこう知性ちせいます。」
  • I tarni romni har i rosa. I puri romni har i džamba. 「わかおんなはバラのようだ。年老としおいたおんなはヒキガエルのようだ。」
  • Pen či glan o gadžende, te pene o čačepen rakre romanes. 「白人はくじんまえではなにわず、真実しんじつをいうときはロマいなさい。」
  • Paši mōl pennēna čačepen. 「ワインをむとひと真実しんじつかたる。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 木内きうちしんけい 1980, p. 97.
  2. ^ a b 木内きうちしんけい 1980, p. 98
  3. ^ 木内きうちしんけい 1980, p. 100.
  4. ^ 木内きうちしんけい 1980, p. 101.
  5. ^ 風間かざま喜代きよさん 1992, p. 1070.
  6. ^ a b すみゆうかい 2018, p. 11.
  7. ^ Unión Romaní imparte el primer curso de romanò-kalò” (スペイン). Unión del Pueblo Romaní (2006ねん12月29にち). 2020ねん9がつ25にち閲覧えつらん
  8. ^ Matras (2006, Definitions)
  9. ^ a b Matras, Yaron (2002). Romani: A Linguistic Introduction, Cambridge: Cambridge University Press. ISBN 0-521-02330-0.
  10. ^ Matras, Yaron. “The Future of Romani: Toward a Policy of Linguistic Pluralism” (英語えいご). ERRC英語えいごばん. 2016ねん12月28にち閲覧えつらん
  11. ^ Hancock, Ian (1995). A Handbook of Vlax Romani, Columbus: Slavica Publishers. ISBN 0-89357-258-6.
  12. ^ すみゆうかい 2018, p. 13.
  13. ^ Lee, Ronald (2005). Learn Romani: Das-dúma Rromanes, Hatfield: University of Hertfordshire Press. ISBN 1-902806-44-1.
  14. ^ a b c d e f g h i j Matras (2006, The sound system)
  15. ^ 下宮したみや忠雄ただお 2011, p. 93.
  16. ^ 風間かざま喜代きよさん 1992, p. 1069.
  17. ^ 88.生物せいぶつ無生物むせいぶつのあいだ”. アルザスのこちらがわ. 2022ねん9がつ10日とおか閲覧えつらん
  18. ^ 下宮したみや忠雄ただお 2011, p. 94.
  19. ^ 65.主格しゅかく対格たいかく特別とくべつあつか”. アルザスのこちらがわ. 2022ねん9がつ10日とおか閲覧えつらん
  20. ^ 88.生物せいぶつ無生物むせいぶつのあいだ”. アルザスのこちらがわ. 2022ねん9がつ10日とおか閲覧えつらん[信頼しんらいせいよう検証けんしょう]
  21. ^ 88.生物せいぶつ無生物むせいぶつのあいだ”. アルザスのこちらがわ. 2022ねん9がつ10日とおか閲覧えつらん
  22. ^ 下宮したみや忠雄ただお 2011, p. 95.
  23. ^ 下宮したみや忠雄ただお 2011, pp. 101–104.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]