フォノトグラフ

フォノトグラフ（1891年ねんの写真しゃしん）

フォノトグラフ (phonautograph) とは、音声おんせいを波形はけい図ずに変換へんかんして記録きろくする装置そうちである。1857年ねんに発明はつめいされた。

歴史れきし

1857年ねんにフランス人じん技師ぎしのエドワール＝レオン・スコット・ド・マルタンヴィルによって作成さくせいされたもので、ススを塗布とふした紙かみの上うえに樽たる状じょうの箱はこを設置せっちし、この箱はこの底そこが音おとによって振幅しんぷくしたものを針はりに伝つたえ、この針はりで紙かみを引掻ひっかいて音声おんせいを記録きろくすることができる。のちに改良かいりょうされ、回転かいてんするドラム状じょうになった紙かみの上うえに振幅しんぷくを残のこすようにした、地震じしん計けいのような装置そうちとなった。音おとの振動しんどうを曲線きょくせんの形かたちで記録きろくすることで、研究けんきゅうするためのものだった。

さらにその後ご、ガラス板ばんの煤すすの上うえに記録きろくを残のこすようになった。この改良かいりょうは、写真しゃしんフィルムのように一瞬いっしゅんで撮影さつえいできるものはない写真しゃしん乾板かんぱんを使用しようしていた時代じだいに、音おとの振幅しんぷくを写真しゃしんの形かたちで複製ふくせいをとることにも向むいていたのである。これらは音おとを波形はけい図ずとして記録きろくすることに便利べんりがよく、当時とうじの学術がくじゅつ雑誌ざっしへの発表はっぴょうに用もちいられた。

再生さいせい

フォノトグラフによって作つくられた記録きろくは機械きかい的てきに読よみ取とらせることはできず、専もっぱら音おとの振幅しんぷく具合ぐあいを波形はけいの強弱きょうじゃくによって表あらわすのみで、実際じっさい的てきな意味いみで記録きろくされた音声おんせいを再生さいせいさせることを含ふくむ録音ろくおんではなかった。基本きほん構造こうぞうはトーマス・エジソンの発明はつめいした蓄音器ちくおんき（1877年ねん）のそれに近ちかいものではあるが、音おとの力ちからで溝みぞに振幅しんぷくを彫ほり込こむことを前提ぜんていするエジソンの蓄音機ちくおんきとは違ちがい、煤すすの上うえに図形ずけいを記録きろくすることだけができたのである。 しかし2008年ねん3月がつにフランス科学かがくアカデミーが発表はっぴょうしたところでは、この煤すすの上うえに残のこされていた図形ずけいを画像がぞうとしてコンピュータで解析かいせきした結果けっかとして、1860年ねん4月がつ9日にちに記録きろくされたフランス民謡みんよう『月つきの光ひかりに』の再生さいせいに成功せいこうした。なお、1860年ねん当時とうじの技術ぎじゅつ用語ようごに関かんする誤解ごかいから、当初とうしょは本来ほんらいの録音ろくおん速度そくどの倍速ばいそくで再生さいせいしたため、記録きろくは女声じょせいもしくは子供こどもの声こえと考かんがえられていた。しかし翌よく2009年ねんに正ただしい再生さいせい速度そくどが判明はんめいし、実際じっさいにはゆっくり歌うたう男声だんせいであることと、声こえの主あるじがまず間違まちがいなく発明はつめい者しゃのド・マルタンヴィル本人ほんにんであることが判わかった。また、同おなじく当人とうにんによる1857年ねんの音声おんせい記録きろくも発見はっけんされたが、記録きろく速度そくどが不安定ふあんていであり適切てきせつに再生さいせいできなかった。これらが2009年ねん現在げんざい知しられている人類じんるい最古さいこの録音ろくおんである。

イヤー・フォノトグラフ

A Sketch of Ear Phonautograph by Alexander Graham Bell.

電話機でんわきの実用じつよう化かで知しられるアレキサンダー・グラハム・ベルは、耳みみ科学かがくの研究けんきゅう者しゃクレアランス・J・ブレイクとともに耳みみの機能きのうと音おとの性質せいしつを探さぐる上じょうで、1874年ねんにフォノトグラフを参考さんこうにした、イヤー・フォノトグラフと呼よばれる装置そうちを製作せいさくした。彼かれらは人間にんげんの死体したいの耳みみから中耳ちゅうじを取とり出だし、耳みみ小骨こぼねの先さきに取とり付つけられた記録きろく針はりの動うごきをガラス板ばんの煤すすの上うえに記録きろくして研究けんきゅうした。イヤー・フォノトグラフは元々もともとベルがろう教育きょういくで空気くうき振動しんどうとしての音おとを視覚しかく的てきに認識にんしきできるようにする試こころみの一環いっかんで制作せいさくされたが、のちに耳みみの機能きのうを物理ぶつり的てきに模倣もほうするこの装置そうちが空気くうき振動しんどうをダイヤフラム（振動しんどう板ばん）を介かいして電気でんき信号しんごうに変換へんかんする電話でんわの発明はつめいにつながった。

2016年ねんにカナダ国立こくりつ科学かがく博物館はくぶつかん でイヤー・フォノトグラフを復元ふくげんする研究けんきゅうプロジェクトが実施じっしされた。この復元ふくげんの過程かていで、装置そうちは既存きそんの顕微鏡けんびきょうを改造かいぞうする形かたちで作つくられたことが明あきらかになった。また、ベルとブレイクが人間にんげんの耳みみを入手にゅうしゅできたのはブレイクが医学いがくの分野ぶんやと繋つながりが強つよかったからだが、当時とうじの研究けんきゅう環境かんきょうで正当せいとうな同意どういのもとに使用しようされたのかという倫理りんり的てきな疑問ぎもんは現在げんざいに至いたるまで不明ふめいなままである。それもあってこの復元ふくげん実験じっけんでは、中耳ちゅうじの大だい部分ぶぶんは3Dプリンターで制作せいさくし、鼓膜こまくはシリコンを用もちい、耳みみ小骨こぼねはツゲの木きを掘ほることで再現さいげんしたが、ベルらの報告ほうこくほど繊細せんさいな筆跡ひっせきの記録きろくはできなかったと報告ほうこくされている。

関連かんれん項目こうもく

• 録音ろくおん - レコード

外部がいぶリンク

• ファーストサウンズ（再生さいせい音声おんせいのMP3ファイルを公開こうかい中ちゅう）