ヘンリー・ベッセマー

サー・ヘンリー・ベッセマー
Henry Bessemer
生誕せいたん	ヘンリー・ベッセマー 1813年ねん1月がつ19日にち イギリス、ハートフォードシャー州しゅう、チャールトン
死没しぼつ	1898年ねん3月15日にち（85歳さい） イギリス、ロンドン、デンマーク・ヒル
職業しょくぎょう	技術ぎじゅつ者しゃ、発明はつめい家か
著名ちょめいな実績じっせき	鋼はがねの精錬せいれん法ほうの発明はつめい

サー・ヘンリー・ベッセマー（英えい: Sir Henry Bessemer, 1813年ねん1月がつ19日にち - 1898年ねん3月15日にち）は、イングランドの技術ぎじゅつ者しゃで発明はつめい家か。鋼はがねの精錬せいれん法ほうを発明はつめいしたことで知しられている。

生おい立たち

父ちちアンソニーはロンドン生うまれだが、21歳さいのときにパリに移住いじゅうした。彼かれは発明はつめい家かでもあり、パリ造幣ぞうへい所しょに雇やとわれて、大おおきな型かたから貨幣かへいを製造せいぞうするための鉄製てつせいのうち抜ぬき型がたを作つくる機械きかいを製作せいさくしている。また光学こうがく顕微鏡けんびきょうの改良かいりょうを行おこなった功績こうせきによって、26歳さいの若わかさでフランス科学かがくアカデミーの会員かいいんに選えらばれた。フランス革命かくめいが起おき、パリを離はなれざるを得えなくなり、イギリスに戻もどった。イギリスでも金かねのチェーンを作つくる方法ほうほうを発明はつめいして多少たしょうの成功せいこうを収おさめ、そうして貯ためた金かねでハートフォードシャーのチャールトンという村むらの土地とちを購入こうにゅうし、そこに移うつり住すんだ。

ヘンリー・ベッセマーはチャールトンの家いえで1813年ねん1月がつ19日にちに生うまれた。父ちちはロンドンの印刷所いんさつしょに金属きんぞく製せいの活字かつじを納入のうにゅうする金属きんぞく加工かこう工場こうじょうを営いとなんでおり、ヘンリーは学校がっこうを卒業そつぎょうするとその工場こうじょうで冶金やきんについて学まなびながら働はたらいていた。

初期しょきの発明はつめい

最初さいしょの発明はつめいは、真鍮しんちゅうを非常ひじょうに微細びさいな粉末ふんまつにする6台だいの蒸気じょうき機関きかんを使つかった機械きかいで、そうして作つくった真鍮しんちゅうの粉末ふんまつは塗料とりょうに混まぜて金色きんいろを作つくるのに使つかわれた。この機械きかいで金色きんいろの塗料とりょうの原料げんりょうを製造せいぞうし、それなりに利益りえきを得えた。自伝じでんによると、金色きんいろの塗料とりょうは当時とうじニュルンベルク製せいのものしかなく、彼かれはそれを入手にゅうしゅして研究けんきゅうした。彼かれはそれを複製ふくせいして改良かいりょうし、単純たんじゅんな製造せいぞう工程こうていで作つくれるようにした。一種いっしゅのリバースエンジニアリングの実例じつれいである。各かく従業じゅうぎょう員いんには自分じぶんの受うけ持もち部分ぶぶんしか知しらせず、そうすることによって製法せいほうの秘密ひみつを保持ほじした。製法せいほうの秘密ひみつを知しっているのはごく少しょう人数にんずうであり、そのような秘密ひみつ保持ほじは特許とっきょの代替だいたい策さくとして古ふるくから使つかわれてきた手法しゅほうである。ドイツ製せいの真鍮しんちゅうの粉末ふんまつが5ポンド10シリングだったところ、ベッセマーは2.5シリングで同おなじ量りょうを販売はんばいし、約やく40分ぶんの1に価格かかく低下ていかさせた。塗料とりょうを売うって得えた利益りえきにより、他たの発明はつめいを追究ついきゅうする余裕よゆうができた。

1848年ねん、窓まどガラス用ようの板いた状じょうのガラスを帯状おびじょうに製造せいぞうする製法せいほうの特許とっきょを取得しゅとくしたが、商業しょうぎょう的てきにはあまり成功せいこうしなかった（自伝じでん8章しょう参照さんしょう）。しかし、その発明はつめいの過程かていで炉ろの設計せっけいを経験けいけんすることになり、後ごの鋼はがねの製法せいほうの発明はつめいに大おおいに役立やくだった。

ベッセマー転てん炉ろによる鋼はがねの精錬せいれん法ほう

ベッセマー転てん炉ろ

ベッセマーは1850年ねんから1855年ねんにかけて安価あんかな鋼はがねの製造せいぞうという問題もんだいをてがけ、その製法せいほうの特許とっきょを取得しゅとくした。1856年ねん8月がつ24日にち、ベッセマーはチェルトナムの英国えいこく科学かがく協会きょうかいの会合かいごうで "The Manufacture of Iron Without Fuel"（燃料ねんりょうのいらない鋼はがねの製造せいぞう法ほう）と題だいして発表はっぴょうを行おこなった。その全文ぜんぶんは「タイムズ」紙しにも掲載けいさいされた。ベッセマー製鋼せいこう法ほうは、融解ゆうかいした銑鉄せんてつに空気くうきを吹ふきつけ、その中なかの酸素さんその作用さようで不純物ふじゅんぶつを焼やき払はらうことで鋼はがねを製造せいぞうする。

多おおくの産業さんぎょうは鋼はがね不足ふそくのために制限せいげんされており、鋳鉄ちゅうてつと錬鉄れんてつのみを使つかっていた。例たとえば鉄道てつどうの鉄橋てっきょうや線路せんろがあり、多おおくの技術ぎじゅつ者しゃや設計せっけい者しゃが鋳鉄ちゅうてつのあてにならない性質せいしつに悩なやまされてきた。鋳鉄ちゅうてつ製せいの桁けたが突然とつぜん壊こわれて発生はっせいした事故じこは多おおく、例たとえば1847年ねん5月がつのディー橋きょう事故じこを筆頭ひっとうに、1860年ねんのブル橋きょう事故じこ、1861年ねんのウートン橋きょう崩壊ほうかいなどがある。1879年ねんにもテイ橋きょう崩壊ほうかいという悲劇ひげきが繰くり返かえされ、全すべての鋳鉄ちゅうてつ製鉄せいてつ橋きょうが鋼鉄こうてつ製せいに置おき換かわるまで類似るいじの事故じこは続つづいた。なお、錬鉄れんてつ製せいの構造こうぞうは鋳鉄ちゅうてつよりも信頼しんらい性せいが高たかく、事故じこもほとんどなかった。

この製鋼せいこう法ほうは商業しょうぎょう的てきには既すでに使つかわれていないが、鋳鉄ちゅうてつを広ひろく置換ちかんできる量りょうの鋼はがねを安価あんかに製造せいぞうできるようにしたという点てんで、産業さんぎょうの発展はってんに極きわめて重要じゅうような意味いみを持もっていた。ベッセマーは銃じゅうの製造せいぞうを改善かいぜんする試こころみの中なかで、製鋼せいこう業ぎょうの問題もんだいにひきつけられたのだった。

実用じつよう化か

ベッセマーは製鋼せいこう法ほうの特許とっきょを5つの製鉄せいてつ業者ぎょうしゃにライセンス提供ていきょうしたが、それら企業きぎょうはよい品質ひんしつの鋼はがねを製造せいぞうするのに当初とうしょから多大ただいな苦労くろうを強しいられた。スウェーデン人じんの製鉄せいてつ業者ぎょうしゃ Göransson はスウェーデン製せいの純度じゅんどの高たかい炭すみ銑鉄せんてつを使つかうことで最初さいしょによい品質ひんしつの鋼はがねの製造せいぞうに成功せいこうしたが、それまでに何なん度ども失敗しっぱいを繰くり返かえしていた。その成功せいこうの報告ほうこくを受うけて、ベッセマーはカンバーランドの赤あか鉄鉱てっこうから作つくった純度じゅんどの高たかい銑鉄せんてつを試ためしてみたが、それでも成功せいこうは限定げんてい的てきだった。ロバート・フォレスター・マシェットはディーンの森もりの一角いっかくに工場こうじょうを作つくり、そこで数すう千せん回かいの実験じっけんを行おこない、炭素たんそとマンガンを正確せいかくな配合はいごうで加くわえたスピーゲルを作つくることで最終さいしゅう的てきな鋼はがねの品質ひんしつが向上こうじょうし、可か鍛きたえ性せいもよくなることを発見はっけんした。

ベッセマーは業者ぎょうしゃに改良かいりょうしたシステムを採用さいようさせようとしたが拒絶きょぜつされたため、自みずから製鉄せいてつ業ぎょうに乗のりだす決心けっしんをした。友人ゆうじんの援助えんじょでシェフィールドに土地とちを購入こうにゅうして製鋼せいこう所しょを建設けんせつし、鋼はがねの製造せいぞうを開始かいしした。当初とうしょの生産せいさん量りょうはわずかだったが徐々じょじょに生産せいさんを拡大かくだいしていき、他たの業者ぎょうしゃが気きづいたころには Henry Bessemer & Co. は1トン当あたり20ドルの安値やすねで鋼はがねを販売はんばいできるようになっていた。すぐにライセンスの申込もうしこみが殺到さっとうし、ベッセマーは100万まんポンド以上いじょうを手てにすることになった。

特許とっきょ紛争ふんそう

ベッセマー転てん炉ろ（Kelham Island Museum、シェフィールド、2002年ねん）

もちろん、そのような重要じゅうような特許とっきょがほうっておかれるはずもなく、その特許とっきょに対たいする無効むこう性せいの訴うったえが様々さまざまな形かたちで起おきた。しかしベッセマーはそれらを訴訟そしょうに持もち込こむことなく処理しょりし、ある特許とっきょを買かい取とらざるを得えないということも生しょうじたが、その特許とっきょは1859年ねんに消滅しょうめつし、心配しんぱいがなくなった。ただ1つ、ロバート・フォレスター・マシェットの件けんだけが残のこった。

マシェットの製法せいほうは根本こんぽん的てきというわけではなく、ベッセマーも1865年ねんに自身じしんの製法せいほうだけで鋼はがねのサンプルを製造せいぞうしてそれを証明しょうめいした。しかし、ベッセマーの製鋼せいこう法ほうを使つかうとき常つねにマシェットの製法せいほうも採用さいようしているのが実状じつじょうであり、そこにマシェットの製法せいほうの価値かちが示しめされていた。マシェットの特許とっきょが成立せいりつしていたかどうかは不明ふめいだが、1866年ねん、マシェットの16歳さいの娘むすめが1人ひとりでロンドンまで旅たびをし、ヘンリー・ベッセマーのオフィスで彼かれに会あい、ベッセマーの成功せいこうは彼女かのじょの父ちちの業績ぎょうせきあってこそだと主張しゅちょうした。ベッセマーはマシェットに毎年まいとし300ポンドを支払しはらうことにした。実際じっさいこれを25年間ねんかん続つづけたので、総額そうがくはかなりの金額きんがくになった。これをマシェットに訴訟そしょうを起おこさせないための行為こういと見みることもできる。

1866年ねん、ベッセマーはアメリカの鉄道てつどう技師ぎし Zerah Colburn に匿名とくめいで資金しきんを提供ていきょうし、技術ぎじゅつ系けいの週刊しゅうかん紙し Engineering をロンドンで発行はっこうさせた。Colburn の恩人おんじんの名なが明あきらかになるのは何なん年ねんもたってからである。Engineering の発刊はっかんに先駆さきがけて、Colburn は The Engineer の誌上しじょうでベッセマーの製鋼せいこう業ぎょうに支持しじを表明ひょうめいしていた。

他たの発明はつめい

ベッセマーは1838年ねんから1883年ねんにかけて、129以上いじょうの特許とっきょを取得しゅとくしている発明はつめい家かである。それらは主おもに、鉄てつ、鋼はがね、ガラス、砂糖さとう、大砲たいほうなどの兵器へいきという5種類しゅるいの分野ぶんやに集中しゅうちゅうしている。

自伝じでんにはその発明はつめいが全すべて記しるされていて、一部いちぶは非常ひじょうに詳細しょうさいに説明せつめいされている。その自伝じでんはまた、彼かれの長ながい波乱はらんの人生じんせいについて様々さまざまな面白おもしろい事柄ことがらを描えがいており、非常ひじょうに読よみやすい。

ベッセマーの発明はつめいの中なかには、切手きってに浮うき出だし加工かこうを施ほどこす可動かどう式しきの打うち抜ぬき型がたや、サトウキビからより効率こうりつ的てきに砂糖さとうを搾しぼり出だすためのスクリュー押おし出だし機きなどもある。

1868年ねん、ひどい船酔ふなよいに悩なやまされ、SS Bessemer（または "Bessemer Saloon"）と呼よばれる機構きこうを発明はつめいした。これは、蒸気じょうき船せんの客室きゃくしつを水平すいへいを保たもつジンバルの上うえに設置せっちするようにし、海うみが荒あれても乗客じょうきゃくが船酔ふなよいにならないというものだった。舵手だしゅが水準すいじゅん器きを見みて液えき圧あつで制御せいぎょする機構きこうであり、ベッセマーはロンドンのデンマーク・ヒルにある自宅じたくの庭にわに試作しさく品ひんを作つくり、体験たいけんできるようにした。しかし、試作しさく船せんのテスト航海こうかいのとき埠頭ふとうの一部いちぶを壊こわしてしまい、船ふねはスクラップとなり、投資とうし者しゃの信用しんようを失うしない、結局けっきょく遠洋えんよう航路こうろのテストは1度ども行おこなわれなかった。

1857年ねんに取得しゅとくした特許とっきょでは、逆ぎゃく回転かいてんローラーを使つかった金属きんぞく鋳造ちゅうぞう法ほうを発明はつめいしている。これは今日きょうの連続れんぞく鋳造ちゅうぞうの先駆さきがけともいうべきものである。

ベッセマーの肖像しょうぞう画が

ベッセマーは1898年ねん3月がつ、ロンドンのデンマーク・ヒルで死去しきょした。ベッセマーの墓はかのあるウェスト・ノーウッド墓地ぼちには同どう時代じだいの有名人ゆうめいじんとして Sir Henry Tate、Sir Henry Doulton、ポール・ジュリアス・ロイターらも埋葬まいそうされている。

家族かぞく

彼かれは1834年ねん、21歳さいで結婚けっこんし、少すくなくとも2人ふたりの息子むすこをもうけた。息子むすこのうち同おなじヘンリーという名前なまえの息子むすこは、ベッセマーの自伝じでんの最さい終章しゅうしょうを本人ほんにんの死後しごに執筆しっぴつした。ベッセマーの子孫しそんはイングランドにも住すみ続つづけているが、多おおくはオーストラリアに住すんでいる。

栄誉えいよと遺産いさん

ヘンリー・ベッセマーは1879年ねん6月がつ26日にち、ナイトに叙じょせられ、同年どうねん王立おうりつ協会きょうかいのフェローにも選えらばれている。1872年ねんアルバート・メダル受賞じゅしょう。

シェフィールドの Kelham Island Industrial Heritage Museum には、初期しょきのベッセマー転てん炉ろが展示てんじされている。生誕せいたん地ちチャールトンの近ちかくのヒッチンや、シェフィールド近郊きんこうのロザラムにはベッセマーの名なを冠かんした通とおりがある。

関連かんれん項目こうもく

• ディー橋きょう事故じこ
• 鋼はがね - 転てん炉ろ
• クルップ

脚注きゃくちゅう・出典しゅってん

•  この記事きじにはアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく内うちで著作ちょさく権けんが消滅しょうめつした次つぎの百科ひゃっか事典じてん本文ほんぶんを含ふくむ: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Bessemer, Sir Henry". Encyclopædia Britannica (英語えいご). Vol. 3 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 823.

外部がいぶリンク

• ベッセマーの自伝じでん
• Robert Mushet