クルップ

社やしろ章あきら

アルフレート・クルップ

フリードリヒ・アルフレート・クルップ

クルップ（Krupp）は、ドイツの工業こうぎょう地帯ちたいであるエッセンを地盤じばんとする、ドイツの製鉄せいてつ業ぎょう、兵器へいき製造せいぞう企業きぎょうとして長ながい歴史れきしを持もつ、重工業じゅうこうぎょう企業きぎょうである。

1999年ねんにティッセン社しゃと合併がっぺいし、巨大きょだい工業こうぎょうコングロマリットのティッセンクルップとなった。

端緒たんしょ

クルップの歴史れきしは、鋼鉄こうてつとともに始はじまった。昔むかしから、強靭きょうじんな鉄てつである鋼鉄こうてつは、鍛冶屋かじやが金きむ床ゆかに鉄材てつざいを載のせて鎚づちで叩たたいて鍛造たんぞうするしかなかったため、サイズや形かたちが限かぎられていた。鋳型いがたに熔鉄を流ながして作つくる鋳鉄ちゅうてつは、大おおきなものを作つくれ造型ぞうけいの自由じゆう度どは高たかかったが、もろく壊こわれやすかった。このため、鋳型いがたで鋼鉄こうてつを作つくる鋳鋼ちゅうこうの技術ぎじゅつが研究けんきゅうされ、18世紀せいきの末すえにイギリスのシェフィールドで鋳鋼ちゅうこうの技術ぎじゅつが確立かくりつされて、世界せかいの需要じゅようを独占どくせんした。

プロイセンの炭坑たんこう町まちだったエッセンに住すむ発明はつめい家かのフリードリヒ・クルップ（1787年ねん-1826年ねん）は、イギリスが独占どくせんする鋳鋼ちゅうこうの製造せいぞう技術ぎじゅつを解明かいめいすることを志こころざした。彼かれはライン川がわの河畔かはんに小ちいさな木造もくぞうの水車みずぐるま小屋こやを建たて、水力すいりょくを動力どうりょくとする研究けんきゅう室しつを構かまえた。この水車みずぐるま小屋こやが、のちの巨大きょだい企業きぎょう・クルップの源流げんりゅうである。

彼かれはその工房こうぼうにこもり、鋳鋼ちゅうこうの製造せいぞう法ほうの解明かいめいを試こころみた。だが技術ぎじゅつ的てきな難関なんかんを乗のり越こえることができず、借金しゃっきんを重かさね、晩年ばんねんには気力きりょくをなくして寝ねたきりになった。彼かれが39歳さいで貧困ひんこんのうちに窮死きゅうししたその日ひ、作業さぎょう小屋こやとわずかな従業じゅうぎょう員いんは、14歳さいだった長男ちょうなんのアルフレート・クルップ（Alfred Krupp、1812年ねん-1887年ねん）に引ひき継つがれた。

アルフレートは数すう年ねんのあいだ工房こうぼうにこもって研究けんきゅうを重かさねたのち、ついに鋳鋼ちゅうこうの製造せいぞうに成功せいこうする。彼かれは細々こまごまと工具こうぐや食卓しょくたくナイフ、スプーンの製造せいぞうを始はじめた。鋳型いがたに模様もようをつけることで、柄えに花はななどの模様もようのあるスプーンを最初さいしょに作つくり出だしたのはクルップだった。のちには貨幣かへいの鋳造ちゅうぞう機はたや蒸気じょうき機関きかん車しゃの車輪しゃりんの製造せいぞうを開始かいしし、苦労くろうしながらもクルップの事業じぎょうは軌道きどうに乗のりはじめた。

鉄道てつどう事業じぎょう

1834年ねん、ドイツ関税かんぜい同盟どうめいが成立せいりつし、加盟かめい国こく間あいだでの関税かんぜいや通行つうこう料りょうは廃止はいしされた。すぐにアルフレートは商用しょうよう旅行りょこうに出でかけ、大量たいりょうの鉄道てつどう車輪しゃりんの注文ちゅうもん取とり付つけに成功せいこうした。この年としからクルップの工場こうじょうは渇水かっすいのたび停止ていしする水力すいりょくに頼たよることをやめ、エッセンで最初さいしょとされる蒸気じょうき機関きかんを工場こうじょうに据すえつけて動力どうりょくに用もちいるようになった。

ドイツに最初さいしょに鉄道てつどうが敷しかれたのは、後発こうはつ国こくの割わりには早はやい1835年ねんである。鉄道てつどうは当時とうじまさに金かねのなる木きであり、鉄鋼てっこうは鉄道てつどうには欠かかせなかったためこのニュースにアルフレートは「新あたらしい未来みらいが私わたしたちの前まえに開あけている。今いまや私わたしたちは、鋼鉄こうてつの時代じだいに生いきているのだ」と、飛とび上あがって喜よろこんだ。また、鉄道てつどうは沿線えんせんの間あいだの交易こうえきを発達はったつさせ、国民こくみん経済けいざいの形成けいせいに大おおきく貢献こうけんした。クルップは有力ゆうりょくな鉄鋼てっこう製品せいひん製造せいぞう業者ぎょうしゃに成長せいちょうしてゆく。クルップ社しゃの紋章もんしょうの三みっつの輪わは社業しゃぎょうの基礎きそとなった鉄道てつどう車輪しゃりんを表あらわすものである。

軍事ぐんじ産業さんぎょうへの参入さんにゅう

フランスでは1830年ねんには7月がつ革命かくめい、1848年ねんに2月がつ革命かくめいがおこり、そのたびにヨーロッパでは革命かくめいの嵐あらしが吹ふき荒あれたが、アルフレート・クルップは商売しょうばいのことしか考かんがえていなかった。そして、彼かれの発想はっそうは戦争せんそうで繁盛はんじょうするなら大おおいに結構けっこう、というクルップ家かの伝統でんとうへとつながってゆくのである。

次第しだいにアルフレートは武器ぶきの生産せいさんに目めをつけてゆく。1843年ねんには鋼鉄こうてつ製せいの銃じゅう、1847年ねんには大砲たいほうをプロイセンの陸軍りくぐん当局とうきょくに送おくって売込うりこみをかけるが、にべもなかった。それならばとアルフレートはプロイセン国王こくおうフリードリヒ・ヴィルヘルム4世せいに大砲たいほうを献上けんじょうする。この大砲たいほうは王宮おうきゅうの大理石だいりせきの広間ひろまに置おかれ、大おおいにPRとなった。1851年ねん、ロンドンの第だい1回かい万国博覧会ばんこくはくらんかいに6ポンドの大砲たいほうを出品しゅっぴんした。あえて万博ばんぱくに戦争せんそうの道具どうぐを出品しゅっぴんしたアルフレートは、見事みごと金賞きんしょうを勝かち取とった。

ヴィルヘルム1世せいは、アルフレートが先王せんおうに大砲たいほうを献上けんじょうしたことからクルップへ300門もんもの大砲たいほうを発注はっちゅうした。また、かの鉄血てっけつ演説えんぜつを行おこなったオットー・フォン・ビスマルクが宰相さいしょうとなり、アルフレートの元もとを訪おとずれた。2人ふたりは意気投合いきとうごうし、ドイツの近代きんだい化かを強力きょうりょくに推おし進すすめた。

新しん製鋼せいこう法ほうを導入どうにゅうし、事業じぎょうを順調じゅんちょうに伸のばすアルフレートは、プロイセンだけではなく軍備ぐんび強化きょうかに励はげむ各国かっこくから手広てびろく受注じゅちゅうしていた。その一方いっぽうで、プロイセンが国内こくないの鉄鋼てっこう業者ぎょうしゃから競争きょうそう入札にゅうさつで大砲たいほうの発注はっちゅう元もとを決きめようとしたときは「一門いちもんでもクルップ以外いがいの鉄鋼てっこう業者ぎょうしゃが注文ちゅうもんを取とったら、直ただちに全ぜん世界せかいに対たいして、彼かれらの欲ほっする大砲たいほうを売うり渡わたすであろう」と脅迫きょうはくめいた内容ないようの手紙てがみを出だしている。

そんなアルフレートに対たいして、いつしか人々ひとびとは皮肉ひにくをこめて「大砲たいほう王おう」と呼よぶようになった。もっとも、本人ほんにんはその称号しょうごうをいたく気きに入いっていたようである。クルップは兵器へいきだけでなく、鉄道てつどう用品ようひんの製造せいぞうに力ちからを注そそいだ。特とくにクルップの作つくる継つぎ目めなしの車輪しゃりんは、丈夫じょうぶでしかも摩擦まさつが少すくないということから年々ねんねん受注じゅちゅうが増ふえた。こうして建設けんせつされた鉄道てつどう、そして大砲たいほうが普ひろし仏ふつ戦争せんそうをプロイセン王国おうこくの勝利しょうりに導みちびいたのである。1867年ねん、アルフレートはナポレオン3世せいが主催しゅさいするパリ万国博覧会ばんこくはくらんかいには化ばけ物もののような大おおきさの巨きょ砲ほうを出品しゅっぴんした。

当時とうじオランダに留学りゅうがく中ちゅうの榎本えのもと武揚ぶようや赤松あかまつ則そく良りょうらはアルフレート・クルップを訪おとずれ社長しゃちょうと会見かいけんしている。同時どうじに当時とうじ建造けんぞう中ちゅうの軍艦ぐんかん開陽かいよう丸まるに搭載とうさいする大砲たいほうを注文ちゅうもんし、最終さいしゅう的てきに18門もんが搭載とうさいされた。日本にっぽんでもクルップの火砲かほうを元もとに多数たすうの火砲かほうが製造せいぞうされ、日にち露ろ戦争せんそうの時ときには多数たすうのクルップ式しき火砲かほうを装備そうびしていた。日本語にほんご名めいとして「克かつ式しき」と呼よばれた。中国ちゅうごくにもクルップの火砲かほうは供与きょうよされ、ギネスブックにも載のる胡えびす里山さとやま砲台ほうだいは日にち中ちゅう戦争せんそうの際さいに日本にっぽんの軍艦ぐんかんを砲撃ほうげきしたと伝つたえられている。築地つきじと横浜よこはまの外国がいこく人じん居留きょりゅう地ちにあったドイツ系けい貿易ぼうえき商館しょうかんのアーレンス商会しょうかいが代理だいり店てんとなった。

1903年ねんにフリードリヒ・クルップ社しゃ（ドイツ語ご: Friedrich Krupp AG）を設立せつりつ。

クルップ社しゃは1900年ねんに約やく45000人にんの労働ろうどう者しゃを抱かかえ、社宅しゃたくを提供ていきょうするなどの福利ふくり厚生こうせいも行おこなっていた。

2つの世界せかい大戦たいせん

第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん中ちゅうのクルップ兵器へいき工場こうじょう

ティーガーI（タイガーI）重じゅう戦車せんしゃ。ヘンシェル社しゃの設計せっけいだが、砲塔ほうとうはクルップ社しゃによる

第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん

ドイツ陸軍りくぐん向むけに、1914年ねん、420mm砲ほうを、また1917年ねん〜1918年ねんにはパリ砲ほうを製作せいさくしている。戦後せんご、ボフォース社しゃと共ともに8.8 cm FlaK 18/36/37を開発かいはつした。

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん

ドイツ国防こくぼう軍ぐん向むけに、戦車せんしゃ・砲ほう・軍用ぐんようトラックなどの兵器へいきを製造せいぞうした。連合れんごう軍ぐんの占領せんりょうを避さけるため、ドイツ国内こくないで工場こうじょうを移転いてんしながら終戦しゅうせんまで製造せいぞうを続つづけた。主要しゅような戦車せんしゃとしては、I号ごう戦車せんしゃ、IV号ごう戦車せんしゃがクルップ社しゃの設計せっけいで、戦時せんじ中ちゅうはクルップ・グルソン工場こうじょうがIV号ごう戦車せんしゃの主しゅ生産せいさん工場こうじょうだった。ただし、III号ごう突撃とつげき砲ほうの主しゅ工場こうじょうだったアルケット社しゃが爆ばく撃げきにより大だい損害そんがいを被こうむったのに伴ともない、1943年ねん末すえからはIV号ごう戦車せんしゃの生産せいさんはニーベルンゲンヴェルケに引ひき継つぎ、クルップ社しゃはIII号ごう突撃とつげき砲ほうの代替だいたい車輌しゃりょうであるIV号ごう突撃とつげき砲ほうの生産せいさんを担当たんとうした。更さらに世界せかい最大さいだいの列車れっしゃ砲ほうである80cm列車れっしゃ砲ほうの開発かいはつ・製造せいぞうも行おこなっている。

1936年ねんからの中ちゅう独どく合作がっさくにおける三さん年ねん計画けいかくでは、シーメンスなどともに中国ちゅうごく（中華民国ちゅうかみんこく）に兵器へいき工場こうじょうを建設けんせつし、中国ちゅうごく国民党こくみんとうへ兵器へいきを販売はんばいしていた。

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ご

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ご、グスタフ・クルップ前ぜん会長かいちょうはニュルンベルク裁判さいばんの被告人ひこくにんとして起訴きそされたが、高齢こうれいのグスタフは公判こうはんに耐たえ切きれないものとして起訴きそを取とり下さげられた。その後ご、ニュルンベルク継続けいぞく裁判さいばんの一ひとつであるクルップ裁判さいばんにおいてグスタフの息子むすこアルフリート・クルップ会長かいちょうをはじめとするクルップ社しゃ幹部かんぶが裁さばかれた。

上智大学じょうちだいがく内うちにはクルップ社しゃからの寄付きふで建たてたクルップ・ホールがある。

文献ぶんけん

• ウィリアム・マンチェスター『クルップの歴史れきし 1587〜1968』上じょう・下した（鈴木すずき主税ちから訳わけ フジ出版しゅっぱん社しゃ 1982年ねん）　
• N・ムーレン『クルップ五ご代だい記き』（江藤えとう淳あつし訳わけ 新潮社しんちょうしゃ 1961年ねん）
• 諸田もろた実みのる『クルップ ドイツ兵器へいき王国おうこくの栄光えいこうと崩壊ほうかい』（東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ 1970年ねん）
• Peter Chamberlain、Hilary Doyle『ENCYCLOPEDIA OF GERMAN TANKS OF WORLD WAR TWO - 月刊げっかんモデルグラフィックス別冊べっさつ・ジャーマンタンクス』（大だい日本にっぽん絵画かいが 1986年ねん）
• 帝国ていこく書院しょいん編集へんしゅう部ぶ『明解めいかい世界せかい史し図説ずせつ エスカリエ 十じゅう一いち訂てい版ばん』（帝国ていこく書院しょいん、2019年ねん、158ページ）

関連かんれん項目こうもく

• クルップ鋼こう