ベガーズ・オペラ

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『ベガーズ・オペラ』または『乞食こじきオペラ』（The Beggar's Opera）は、1728年ねんにジョン・ゲイが書かいた3幕まくのバラッド・オペラである。オーガスタン演劇えんげき（Augustan drama。オーガスタン時代じだいも参照さんしょう）の中なかで重大じゅうだい転機てんきとなった作品さくひんの1つで、かつて隆盛りゅうせいを極きわめた風刺ふうし的てきなバラッド・オペラのうち現在げんざいまで人気にんきの続つづく唯一ゆいいつの作品さくひんである。

最初さいしょの上演じょうえんは、当時とうじ最長さいちょうと言いわれた62夜やも続つづいた^[1]。この作品さくひんによりゲイは大変たいへんな成功せいこうを収おさめ、続編ぞくへん『ポリー』も書かいている。劇げきは以降いこうも上演じょうえんされ続つづけた。1920年ねんにはロンドン、ハマースミス（Hammersmith）のLyric Hammersmithで1463回かいという驚異きょうい的てきな上演じょうえん記録きろくを残のこした。当時とうじの音楽おんがく劇げきで最長さいちょうの上演じょうえん回数かいすうだった^[2]。1928年ねんには、ベルトルト・ブレヒト（音楽おんがくクルト・ヴァイル）がこの作品さくひんをモチーフに『三文さんもんオペラ』を書かいた。

成なり立たち[編集へんしゅう]

このオペラのアイディアはジョナサン・スウィフトだと言いわれている。スウィフトは1716年ねん8月がつ30日にちにアレキサンダー・ポープに次つぎのような書簡しょかんを送おくっている。「盗人ぬすっとたちや売春ばいしゅん婦ふたちがいるニューゲート（にある監獄かんごくのこと。ニューゲート監獄かんごく参照さんしょう）のパストラルなんてどうだろうか?」。二人ふたりの友人ゆうじんであったゲイはパストラル・オペラより風刺ふうし劇げきがいいと決きめた。1728年ねんのオリジナルは、ゲイは全曲ぜんきょく伴奏ばんそうなしで歌うたわせるつもりで、頭あたまの中なかでショッキングでザラザラした雰囲気ふんいきを思おもっていた^[3]。しかし、開幕かいまくまで1週間しゅうかんくらいの時ときに劇場げきじょう監督かんとくのジョン・リッチは、劇場げきじょうと関係かんけいのあった作曲さっきょく家かヨハン・クリストフ・ペープシュに（3幕まくのルーシーの『I'm Like A Skiff on the Ocean Toss'd』によるフーガを含ふくむ、オペラの中なかの歌うたの2つに基もとづいた）ちゃんとしたフランス風ふう序曲じょきょくを書かかせ、さらに69曲きょくを編曲へんきょくさせると主張しゅちょうした。作曲さっきょく者しゃが誰だれかという証拠しょうこは、Dover Booksが出版しゅっぱんした1729年ねんのオリジナル・スコアにペープシュが編曲へんきょく者しゃと書かかれてあるだけで、他たにはまったくない^[4]。

この作品さくひんは、上流じょうりゅう階級かいきゅうのイタリア風ふうオペラへの関心かんしんを風刺ふうしする狙ねらいがあり、著名ちょめいなホイッグ党とうの政治せいじ指導しどう者しゃロバート・ウォルポールと大だい多数たすうの政治せいじ家か、それに有名ゆうめいな犯罪はんざい人じんジョナサン・ワイルドとジャック・シェパードをまとめて風刺ふうししている。

ゲイは、浮うかれ騒さわぐ辛辣しんらつで不遜ふそんなテキストに曲きょくをあてるのに、69曲きょくの有名ゆうめいなフィドルの曲きょく、バラッド・エア、オペラの旋律せんりつを使つかった。高名こうみょうな作曲さっきょく家かペープシュは1728年ねん1月がつ29日にちのLincoln's Inn Fieldsでの初日しょにちまでの短みじかい期間きかんに、序曲じょきょくを作曲さっきょくし、全曲ぜんきょく編曲へんきょくした。しかしペープシュのスコアで残のこっているものは楽器がっき編成へんせいの序曲じょきょくとUnfigured bass付つきの歌うたの旋律せんりつだけである。さまざまな復元ふくげんが試こころみられ、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの作曲さっきょく家かJonathan Dobinによる1990年ねんの復元ふくげんでは多おおくの現代げんだい作品さくひんが使つかわれた^[5]。

ゲイはオペラの基準きじゅんである3幕まくとし（当時とうじの歌うたのない劇げきは5幕まくが標準ひょうじゅんだった）、45場じょうという早はやい展開てんかいと69曲きょくの短みじかい歌うたに驚おどろきがあるように、台詞せりふと筋すじをきびきびしたものにした。

この作品さくひんは、ロンドンで大人気だいにんきを博はくし、これまでイギリスで隆盛りゅうせいを極きわめていたイタリアオペラの衰退すいたいと、それに伴ともなうゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルのオラトリオへの創作そうさく活動かつどうの転換てんかんの原因げんいんとなった。

『ベガーズ・オペラ』は以後いごのイギリスのすべての喜劇きげき、とりわけ19世紀せいきのイギリスのコミック・オペラ（Comic opera）、現代げんだいのミュージカルに強つよい影響えいきょうを与あたえた。

編曲へんきょく[編集へんしゅう]

オリジナルがないことは多おおくのプロデューサー、編曲へんきょく家かに自由じゆうを与あたえた。異ことなる編曲へんきょくの歴史れきしは、わかっているだけでも18世紀せいきのトマス・アーンまで遡さかのぼり、現在げんざいまで続つづいていて、スタイルもバロック音楽おんがくからロマン派は音楽おんがくまで幅広はばひろい。フレデリック・オースティン（Frederic Austin）（1920年ねん）、ベンジャミン・ブリテン（1948年ねん）、マルコム・サージェント（1955年ねん）、リチャード・ボニング（1981年ねん）、Jonathan Dobin（1990年ねん）、他たの指揮しき者しゃたちは、曲きょくにそれぞれのカラーを染しみこませ、特徴とくちょう付づけをした。

ストーリー[編集へんしゅう]

善人ぜんにんは一人ひとりも登場とうじょうせず、登場とうじょう人物じんぶつは大だい悪党あくとうから小しょう悪党あくとうまで悪党あくとうばかりであり、痛烈つうれつな社会しゃかい風刺ふうしとなっている。舞台ぶたいは18世紀せいき初頭しょとうの英国えいこくロンドン。追おい剥はぎマクヒースは手配てはい中ちゅうの極悪ごくあく人じんだが、故買こばい家業かぎょうで稼かせぐピーチャムの一人娘ひとりむすめポリーと恋仲こいなかになり、極秘ごくひに結婚けっこんしてしまう。怒おこったピーチャムは何なにとか二に人にんの仲なかを裂さこうとし、昵懇じっこんの監獄かんごくの看守かんしゅ長ちょうと共謀きょうぼうし、マクヒースを酒場さかばに誘さそって捕とらえる。監獄かんごくに捕とらえられたマクヒースの元もとに愛人あいじんとポリーが訪おとずれ、逃にがす。だが、賭かけ事ごと好すきの彼かれが、やはりピーチャムと結託けったくしているトレイプス夫人ふじんの賭博とばく場じょうに立たち回まわったことから再ふたたび逮捕たいほされ、今度こんどは刑場けいじょう送おくりとなる。しかし、オペラはハッピーエンドで終おわらなければならないとの決きまり事ごとから、前後ぜんごの脈絡みゃくらくなく、マクヒースは恩赦おんしゃを受うけ、絞首刑こうしゅけいにされたのになぜか生いき返かえってハッピーエンドとなる。

続編ぞくへん[編集へんしゅう]

1729年ねんに書かかれた『ベガーズ・オペラ』の続編ぞくへん『ポリー（Polly）』は、西にしインド諸島しょとうが舞台ぶたいとなっている。流刑りゅうけいの判決はんけつを下くだされたマクヒースは脱出だっしゅつし、海賊かいぞくになる。一方いっぽう、（前作ぜんさくにも登場とうじょうした）トレイプス夫人ふじんは白人はくじん奴隷どれい売買ばいばい業ぎょうをはじめ、ポリーをだまして、金持かねもちの入植にゅうしょく者しゃダカット氏しに売うる。ポリーは少年しょうねんに変装へんそうして脱出だっしゅつし、数々かずかずの冒険ぼうけんの後のち、カリブの首長しゅちょうの息子むすこと結婚けっこんする。