(Translated by https://www.hiragana.jp/)
ポルトランドセメント - Wikipedia コンテンツにスキップ

ポルトランドセメント

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

ポルトランドセメント(Portland cement)は、モルタルコンクリート原料げんりょうとして使用しようされるセメント種類しゅるいひとつ。もっと一般いっぱんてきなセメントである。

発明はつめい

[編集へんしゅう]

「ポルトランドセメント」という名称めいしょうのセメントを発明はつめいしたのは、イギリス・リーズ煉瓦れんが職人しょくにんジョセフ・アスプディンであるとされている。1824ねん10月21にちづけ特許とっきょだい5022ごうに「ポルトランドセメント」という名称めいしょうはじめてられる。「Portland」をしたのは、硬化こうかしたのち風合ふうあいが ポートランドとうれるポートランドせきているからであった。

日本にっぽんでは、官営かんえい深川ふかがわセメント製造せいぞうしょにおいて1875ねん明治めいじ8ねん)に当時とうじこうしょう技術ぎじゅつかんだった宇都宮うつのみや三郎さぶろう国産こくさんポルトランドセメントの製造せいぞう成功せいこうしている[1]

組成そせい

[編集へんしゅう]

ポルトランドセメントを構成こうせいするおも物質ぶっしつは、ケイ酸けいさんさんカルシウム略称りゃくしょうはエーライトで組成そせいは3CaO・SiO2)、ケイ酸けいさんカルシウム略称りゃくしょうはビーライトで組成そせいは2CaO・SiO2)、カルシウムアルミネート略称りゃくしょうはアルミネートで組成そせいは3CaO・Al2O3)、カルシウムアルミノフェライト略称りゃくしょうはフェライトで組成そせいは4CaO・Al2O3・Fe2O3)、硫酸りゅうさんカルシウム一般いっぱん名称めいしょう石膏せっこう組成そせいはCaSO4・2H2O)である。このうちエーライト・ビーライト・アルミネート・フェライトは「クリンカー」としょうするなかあいだ製品せいひんとして製造せいぞうされる。このクリンカーの主要しゅよう化学かがく成分せいぶんは、酸化さんかカルシウム (CaO)、二酸化にさんかケイ素けいそ (SiO2)、酸化さんかアルミニウム (Al2O3)、酸化さんかてつ(III) (Fe2O3) である。

ポルトランドセメントは天然てんねん原料げんりょう燃料ねんりょう使用しようするので、実際じっさいには上記じょうき化合かごうぶつ純粋じゅんすいなものではなく、少量しょうりょう成分せいぶんかた溶している。そこで、クリンカーちゅう化合かごうぶつは「クリンカー鉱物こうぶつ」とばれている。中間なかま製品せいひんのクリンカーに適量てきりょう石膏せっこう混合こんごう粉砕ふんさいして商品しょうひんとしてのセメントが製造せいぞうされる。

エーライトとビーライトはいずれもケイ酸けいさんしおであるから、両者りょうしゃをまとめて「シリケートしょう」としょうする。また、アルミネートとフェライトはクリンカーちゅうでシリケートしょう間隙かんげき存在そんざいするため、まとめて「間隙かんげきしょう」としょうする。

それぞれのクリンカー鉱物こうぶつは、みず反応はんのう速度そくどつよさの発現はつげんせいみずねつなどの性質せいしつことなる。このような性質せいしつことなるクリンカー鉱物こうぶつ組成そせい変化へんかさせ、さらに、石膏せっこう添加てんかりょう、セメントの粉末ふんまつ表面積ひょうめんせき)などを変化へんかさせることによって、物性ぶっせいことなる種々しゅじゅのポルトランドセメントを製造せいぞうすることができる。

各々おのおののクリンカー鉱物こうぶつは、以下いか性質せいしつゆうする。

エーライト(C3S)
中等ちゅうとうみず速度そくどゆうし、初期しょき長期ちょうきつよ発現はつげんせいすぐれる。みず和物あえもの中等ちゅうとう化学かがくてき抵抗ていこうせい乾燥かんそう収縮しゅうしゅくゆうする。
ビーライト(C2S)
みず速度そくどおそく、初期しょきつよさの発現はつげんせいおとるが、長期ちょうきにわたりみず継続けいぞくするため終局しゅうきょくつよさには寄与きよする。みずねつちいさく、化学かがくてき抵抗ていこうせいおよび乾燥かんそう収縮しゅうしゅく性状せいじょうにもすぐれる。
アルミネート(C3A)
みず速度そくど非常ひじょうはやく、初期しょきつよさに寄与きよするが、長期ちょうきつよさへの寄与きよちいさい。みずねつおおきく、化学かがくてき抵抗ていこうせいおよび乾燥かんそう収縮しゅうしゅく性状せいじょうにもおとり、ビーライトとは対照たいしょうてき性質せいしつつ。
フェライト(C4AF)
みず速度そくどつよさ、みずねつ化学かがくてき抵抗ていこうせい乾燥かんそう収縮しゅうしゅく性状せいじょうのいずれにおいても中等ちゅうとうであり、の3つのクリンカー鉱物こうぶつくらべると特段とくだん特徴とくちょうがない。しかし、この鉱物こうぶつ生成せいせいするように設計せっけいすることにより後述こうじゅつのクリンカーの焼成しょうせいにおいて、エーライトの生成せいせい温度おんどげることが可能かのうとなっており、セメントの経済けいざいせい寄与きよする役割やくわりたしている。

クリンカー鉱物こうぶつ名称めいしょうかんしては、このようなエピソードがつたえられている。アルフレッド・テルネボーム (Alfred Elis Törnebohm) は1897ねんストックホルム開催かいさいされた国際こくさい材料ざいりょう試験しけん会議かいぎにてクリンカーの光学こうがく顕微鏡けんびきょう観察かんさつ結果けっか報告ほうこくし、クリンカーがアリット(エーライト)、ベリット(ビーライト)およびこれらを間隙かんげきからることをはじめて報告ほうこくしたとされている。間隙かんげきについては組織そしき微細びさい詳細しょうさいがわからなかったため、セリット(シーライト)とされた。これらは、アルファベット"A"、"B"、"C"と鉱物こうぶつめいであることをあらわ接尾せつび"-lite"をわせただけの単純たんじゅんなルールで命名めいめいされた。

ある化学かがく組成そせいゆうするクリンカーちゅう存在そんざいするクリンカー鉱物こうぶつ理論りろん組成そせい(ポテンシャル)は、1920年代ねんだいにロバート・ボーグ (Robert Herman Bogue) により考案こうあんされたBogueしきによってもとめることができる。Bogueしきではあたえられたクリンカーの化学かがく組成そせいにおける化学かがくりょうろん組成そせいのクリンカー鉱物こうぶつおよび無水むすい石膏せっこう生成せいせい反応はんのう平衡へいこう状態じょうたい仮定かていする。無水むすい石膏せっこう生成せいせい仮定かていするのは、クリンカー焼成しょうせいさいもちいる燃料ねんりょうおも石炭せきたん)に由来ゆらいするさん酸化さんか硫黄いおう (SO3) が少量しょうりょう存在そんざいするためである。

実際じっさい商業しょうぎょうクリンカーは完全かんぜん平衡へいこう状態じょうたいたっしておらず、少量しょうりょう(1%以下いか)の反応はんのう遊離ゆうり酸化さんかカルシウム(フリーライム、f.CaO)を含有がんゆうしている。また、原料げんりょう由来ゆらいする少量しょうりょう成分せいぶんはクリンカー鉱物こうぶつかた溶し、あるいは上記じょうきとはことなる鉱物こうぶつ生成せいせいする。たとえば、SO3通常つうじょう含有がんゆうりょう(1%以下いか)であれば無水むすい石膏せっこうではなくアルカリ硫酸りゅうさんしお生成せいせいする。そのため、実際じっさいのクリンカー鉱物こうぶつ組成そせいはBogueしきによりもとまるものとはことなるとかんがえられている。しかし、クリンカーの化学かがく組成そせい代入だいにゅうするだけで簡便かんべん鉱物こうぶつ組成そせいもとめられる利点りてん定量ていりょう方法ほうほうにはがたい。そこで、各国かっこく国家こっか規格きかくとうでは品質ひんしつ担保たんぽするためにBogueしきによりられる特定とくていのクリンカー鉱物こうぶつりょう上限じょうげんまたは下限かげん規定きていしている場合ばあいがある。

クリンカーに石膏せっこう添加てんかしてポルトランドセメントとするのは、アルミネートとみずとの反応はんのう抑制よくせいするためである。石膏せっこう添加てんかしないクリンカー粉末ふんまつでは、アルミネート単独たんどくでのみずによりきゅうゆいまたはまどかゆいしょうじる。ポルトランドセメントが発明はつめいされた当時とうじはセメントに石膏せっこう添加てんかしていなかったため、製造せいぞうにセメントを意図いとてき風化ふうかさせてこの反応はんのう抑制よくせいしていた。セメントに石膏せっこう添加てんかすると、せっすいによりアルミネート粒子りゅうし表面ひょうめんみず和物あえもの一種いっしゅであるエトリンガイト生成せいせいし、アルミネート単独たんどくでのみず反応はんのう阻害そがいされる。このようにして、フレッシュなコンクリートはプラスティック状態じょうたい可塑かそせい)をたもつことができる。

製造せいぞう工程こうてい

[編集へんしゅう]

現在げんざい日本にっぽん国内こくないのセメント工場こうじょうは、すべて乾式かんしきサスペンションプレヒーターづけロータリーキルン回転かいてんかま方式ほうしきでポルトランドセメントを製造せいぞうしている。この方式ほうしき現在げんざい世界せかいもっとねつ効率こうりつ生産せいさんせいすぐれたものである。歴史れきしてき製造せいぞう方式ほうしきとしては、たてかま方式ほうしき湿式しっしきロータリーキルン方式ほうしきなどがある。世界せかいてきればこれらのすでにあまり効率こうりつてきでない製造せいぞう方式ほうしきもなお健在けんざいであるが、以下いかでは日本にっぽん国内こくない製造せいぞう方式ほうしきしぼって工程こうてい記述きじゅつする。

ポルトランドセメントの製造せいぞう工程こうてい原料げんりょう工程こうてい焼成しょうせい工程こうてい仕上しあげ工程こうていみっつにおおきく区分くぶんされる。

原料げんりょう工程こうてい

[編集へんしゅう]

クリンカーしゅ原料げんりょうは、石灰石せっかいせき粘土ねんど珪石けいせきてつ原料げんりょうである。これらを乾燥かんそうし、焼成しょうせい目的もくてき化学かがく成分せいぶんのクリンカーがられるよう混合こんごう粉砕ふんさいするのが原料げんりょう工程こうていである。

通常つうじょう乾燥かんそう必要ひつようなのは粘土ねんど限定げんていされ、原料げんりょうはドライヤーを通過つうかしない。ドライヤーの後段こうだん粘土ねんど以外いがい原料げんりょう所定しょてい割合わりあい合流ごうりゅうし、原料げんりょうミルにはいる。原料げんりょうミル(ボールミル)で混合こんごう粉砕ふんさいされた原料げんりょうブレンディングサイロはいる。ブレンディングサイロは複数ふくすうあり、ことなるときあいだたい調合ちょうごうした原料げんりょうかり貯蔵ちょぞうする。最後さいごに、これらのことなるときあいだたい調合ちょうごうした原料げんりょうどうしを再度さいど混合こんごうして化学かがく組成そせい最終さいしゅうてき調合ちょうごうおこない、ストレージサイロ貯蔵ちょぞうする。

主要しゅよう原料げんりょうはクリンカーの主要しゅよう成分せいぶんこう濃度のうど含有がんゆうしているのにたいし、クリンカーの主要しゅよう成分せいぶん濃度のうど主要しゅよう原料げんりょうのそれよりもひくい。つまり、セメント工業こうぎょう原料げんりょう適度てきどこんごうし「純度じゅんどげる」プロセスである。このてんは、石油せきゆ化学かがく工業こうぎょう金属きんぞくせい工業こうぎょうなどおおくの化学かがく工業こうぎょうが「純度じゅんどげる」プロセスであるのとは対照たいしょうてきである。

原料げんりょう化学かがく成分せいぶん管理かんりには、「モジュラス」とばれる通常つうじょうみっつで1くみ指標しひょう使用しようする。製造せいぞうしようとするセメントの品種ひんしゅ物性ぶっせい)および生産せいさんせい考慮こうりょして目標もくひょうモジュラスを設定せっていし、これを維持いじするよう原料げんりょう化学かがく成分せいぶん管理かんりする。モジュラスはセメントメーカーによっては「(化学かがく係数けいすう」、「しょりつ」などともばれる。モジュラスが3つで1くみとなって運用うんようされているのは、主要しゅよう原料げんりょうが4つであるからである。モジュラスの3つの条件じょうけんと「焼成しょうせい質量しつりょう合計ごうけいで1トンとなる」ことを条件じょうけんとすれば、四元よつもと連立れんりつ方程式ほうていしきかいとして原料げんりょうげん単位たんい決定けっていできる。日本にっぽんのセメント工場こうじょうではみずかたりつ (Hydraulic Module、HM=CaO/(SiO2+Al2O3+Fe2O3)、単位たんいはmass%(以下いかおなじ))、ケイ酸けいさんりつ (Silica Module、SM=SiO2/(Al2O3+Fe2O3)) およびてつりつ (Iron Module、IM=Al2O3/Fe2O3) がおももちいられている。

みずかたりつHMはモジュラスのなかもっと重視じゅうしされる指標しひょうである。HMがおおきいほどクリンカーちゅう酸化さんかカルシウムりょうおよびエーライトりょうおおくなる。そのため強度きょうど発現はつげんせいたかまるが、一方いっぽう焼成しょうせい反応はんのうせい低下ていかする。クリンカーの焼成しょうせい反応はんのうせい低下ていかすると燃料ねんりょうげん単位たんい増大ぞうだいし、製造せいぞうコストの増大ぞうだいにつながる。また、クリンカーちゅうにはフリーライムが反応はんのうのまま残存ざんそんするようになる。現在げんざい日本にっぽん国内こくない普通ふつうセメントのクリンカーのHMは2.0 - 2.2である。

ケイ酸けいさんりつSMがおおきいと焼成しょうせい円滑えんかつすすめるために必要ひつようなクリンカーとおるえき焼成しょうせい工程こうていこう詳述しょうじゅつする)のりょうすくなくなり、焼成しょうせい温度おんどたかくなりがちである。その結果けっか焼成しょうせい設備せつび損傷そんしょうやすくなる。しかし、クリンカーちゅう二酸化にさんかケイ素けいそりょうしビーライトにむクリンカーとなるので、てい発熱はつねつせい長期ちょうきざいよわいでのつよさにすぐれたセメントが製造せいぞうできる。一方いっぽう、SMがちいさすぎるととおるえきりょうおおくなるので、キルン内壁ないへきのコーティングりょう増加ぞうかによる原料げんりょう閉塞へいそく(コーティングトラブル)の懸念けねんがある。現在げんざい国内こくない普通ふつうセメントクリンカーのSMは2.4 - 2.8である。

てつりつIMがおおきいと酸化さんかアルミニウムりょうえてアルミネートりょう増加ぞうかするため、初期しょきざいよわいでのつよさの発現はつげんせいたかまるが、化学かがく抵抗ていこうせいひくいセメントとなる。現在げんざい国内こくない普通ふつうセメントクリンカーのIMは1.9 - 2.1である。

石灰せっかい飽和ほうわ (Lime Saturation Degree または Lime Saturation Factor、LSD=100CaO/(2.80SiO2+1.18Al2O3+0.65Fe2O3)) はHMのわりにもちいることがある。二酸化にさんかケイ素けいそ酸化さんかアルミニウム・酸化さんかてつ結合けつごうできる最大さいだい酸化さんかカルシウムりょうを1.0とする指標しひょうである。日本にっぽん国内こくない普通ふつうセメントクリンカーでの標準ひょうじゅんてきは0.92 - 0.96である。LSDが1.0をえる場合ばあい焼成しょうせい温度おんどたかくしても焼成しょうせい時間じかんながくしてもフリーライムがのこる。また、品位ひんいひく石灰石せっかいせき使用しようするセメント工場こうじょうでは、酸化さんかマグネシウムりょう考慮こうりょして石灰せっかい飽和ほうわ管理かんりすることがある。

活動かつどう係数けいすう (Activity Index、AI=SiO2/Al2O3) はSMと同様どうよう指標しひょうである。現在げんざい日本にっぽん国内こくない普通ふつうセメントクリンカーでの標準ひょうじゅんてきは3.8 - 4.2である。

LSD以外いがい指標しひょうは、R.H.Bogueによる鉱物こうぶつ組成そせいのポテンシャル計算けいさん考案こうあんされる以前いぜんからセメントの製造せいぞうもちいられており、現在げんざいいたっている。

焼成しょうせい工程こうてい

[編集へんしゅう]

焼成しょうせい工程こうていでは調合ちょうごう原料げんりょう焼成しょうせいしクリンカーを製造せいぞうする。石灰石せっかいせきケイ石けいせき粘土ねんどおよびてつ原料げんりょう混合こんごうぶつ化学かがく反応はんのうこし、みず硬性こうせいゆうするクリンカー鉱物こうぶつ変化へんかする。焼成しょうせい工程こうていではねつ効率こうりつたかめつつ焼成しょうせい反応はんのう完結かんけつさせる(クリンカーちゅうのフリーライムりょうすくなくする)ことに注意ちゅういはらわれる。

原料げんりょう加熱かねつ方式ほうしきには、サスペンションプレヒーター (SP) 方式ほうしきまたはニューサスペンションプレヒーター (NSP) 方式ほうしきばれる2種類しゅるいがある。前者ぜんしゃでは4だんないし5だんのサイクロンを上下じょうげ連結れんけつし、ロータリーキルンのバーナーから供給きょうきゅうされる燃焼ねんしょうはいガスにより原料げんりょう予熱よねつする。後者こうしゃではキルンのメインバーナーだけでなくSPさい下段げだんにもかやきがあり、ここで原料げんりょう加熱かねつ積極せっきょくてきおこな石灰石せっかいせきだつ炭酸たんさん促進そくしんする。現在げんざい、NSP方式ほうしきねつ効率こうりつ生産せいさんせいもっとすぐれた加熱かねつ方式ほうしきである。燃料ねんりょうには微粉びふんずみ使用しようするのが一般いっぱんてきである。

ストレージサイロに貯蔵ちょぞうされた原料げんりょうはプレヒーター上段じょうだんより投入とうにゅうされ、プレヒーター下段げだん上流じょうりゅうがわ)からの熱風ねっぷうにより予熱よねつされる。かくステージでねつ交換こうかんしてプレヒーター下段げだん到達とうたつすると1000℃前後ぜんこう煆焼され、石灰石せっかいせきだつ炭酸たんさん進行しんこうする。つぎにロータリーキルンのさい高温こうおん焼成しょうせいたい)で1450℃以上いじょう温度おんど焼成しょうせいされ、ここで原料げんりょうどうしの最終さいしゅうてき化学かがく反応はんのう(クリンカー鉱物こうぶつ生成せいせい反応はんのう)が進行しんこうする。このとき、焼成しょうせいぶつ一部いちぶとおるえきとなりみやつこつぶすす結果けっか塊状かいじょうのクリンカーとなる。クリンカーはバーナー通過つうかするとクリンカークーラーち、ただちに冷却れいきゃくされる。

クリンカーのとおるえきはクリンカー鉱物こうぶつとくにエーライト)の生成せいせい反応はんのう促進そくしんし、塊状かいじょうぶつ形成けいせいするために有用ゆうようである。焼成しょうせいとおるえき割合わりあいえきしょうLP(とおるえきりょう、percentage Liquid Phase)で表現ひょうげんされる。適切てきせつえきしょうは15 - 25%とされている。

焼成しょうせいのクリンカーを急冷きゅうれいするのは、ビーライトの常温じょうおん安定あんていしょうへの転移てんいふせぐためである。ビーライトにはいくつかのかたちがある。高温こうおん安定あんていαあるふぁがたαあるふぁ'かたβべーたがたみず硬性こうせいゆうするが、γがんまがたみず硬性こうせいたない。また、高温こうおんがたからγがんまがた転移てんいするさいには「ダスティング」とばれるクリンカーのこな現象げんしょうしょうじ、クリンカーのハンドリングが困難こんなんとなる。

クリンカー焼成しょうせい反応はんのう完結かんけつさせるために理論りろんてき必要ひつようなエネルギーは、はら燃料ねんりょうおよびクリンカー鉱物こうぶつ組成そせいによりことなるが、標準ひょうじゅんてきには400 - 420Mcal/t-cli.とわれている。実際じっさい国内こくないセメント工場こうじょうにおける熱量ねつりょうげん単位たんいは750Mcal/t-cli.前後ぜんごとなるので、燃焼ねんしょう系統けいとうはいねつ原料げんりょう工程こうていでの乾燥かんそうもちいるなど、エネルギー効率こうりつ向上こうじょうはかられている。

仕上しあげ工程こうてい

[編集へんしゅう]

仕上しあげ工程こうていではセメントのさん酸化さんか硫黄いおうりょう表面積ひょうめんせき目標もくひょうどおりとなるようにクリンカーを石膏せっこうとともに粉砕ふんさいし、粉末ふんまつじょうのセメントを製造せいぞうする。石膏せっこうかんしては、しょ外国がいこくでは天然てんねん石膏せっこう使用しようする場合ばあいおおいが、日本にっぽんでは良質りょうしつ天然てんねん石膏せっこうめぐまれないためそいさん石膏せっこうとく排煙はいえん脱硫だつりゅう石膏せっこう使用しようされている。石膏せっこう種類しゅるい二水にすいしお基本きほんである。

粉砕ふんさいもちいる設備せつび粉砕ふんさい(ボールミル・仕上しあげミル)とぶんきゅう(セパレーター)である。クリンカーと石膏せっこう粉砕ふんさいすけざいとともに仕上しあげミルにはいって粉砕ふんさいされ、いでセパレーターに導入どうにゅうされる。セパレーターのなかでは回転かいてんつばさ回転かいてんしている。空気くうきりゅうったあら粒子りゅうしはこの回転かいてんつばさによりたたとされるが、微細びさい粒子りゅうしはここを通過つうかすることができる。回転かいてんつばさ回転かいてんすう制御せいぎょすることにより、所定しょていつぶ粉砕ふんさいぶつぶんきゅうできる。このようにして回収かいしゅうされた微粉びふん最終さいしゅう製品せいひんのセメントである。こなふたた仕上しあげミル前段ぜんだんもどされる。

ポルトランドセメントには各種かくしゅ混合こんごうざい混入こんにゅうした「混合こんごうセメント」という種類しゅるいがあるが、これらの混合こんごうざい仕上しあげ工程こうていでクリンカーおよび石膏せっこうとともに混合こんごう粉砕ふんさいまたは分離ぶんり粉砕ふんさいされてセメントに混合こんごうされる。

セメントの製造せいぞうかぎらず、粉砕ふんさいという単位たんい操作そうさはエネルギー効率こうりつきわめてひくい。投入とうにゅうされるエネルギーのうち、実際じっさい粉砕ふんさいあたらしい表面ひょうめん生成せいせい)に寄与きよする割合わりあい有効ゆうこう粉砕ふんさい仕事しごと)はわずかに1%以下いかともわれる。セメントの粉砕ふんさい効率こうりつよくおこなうことは、セメント製造せいぞう原価げんか低減ていげんのために重要じゅうようである。そのため、現在げんざいでは粉砕ふんさいすけざいとしてジエチレングリコールなどをもちいて効率こうりつ向上こうじょうはかられている。

また、粉砕ふんさいのために投入とうにゅうされたエネルギーの大半たいはんねつ変換へんかんされる。そのため、製造せいぞう直後ちょくごのセメントをそのままセメントサイロに貯蔵ちょぞうすると、サイロない二水にすい石膏せっこう脱水だっすいしセメントがかたゆいするおそれがある。そこで、製造せいぞう直後ちょくごのセメントはセメントクーラーでねつ交換こうかんしてからセメントサイロに貯蔵ちょぞうする。

種類しゅるい

[編集へんしゅう]

ポルトランドセメントにも、品質ひんしつ性質せいしつによって様々さまざま種類しゅるい規定きていされている。これらの性質せいしつは、エーライト・ビーライト・アルミネートおよびフェライトの構成こうせいおよび粉末ふんまつによって調整ちょうせいされる。

JISでは 白色はくしょくポルトランドセメントをのぞき JIS R 5210 で規定きていされる。

普通ふつうポルトランドセメント
もっと汎用はんようせいたか一般いっぱんてきな「普通ふつうのセメント」である。一般いっぱんてき工事こうじ構造こうぞうぶつ使用しようされる。
はやつよポルトランドセメント
エーライトの含有がんゆうりつ普通ふつうポルトランドセメントよりもたかめ、みず接触せっしょくする面積めんせきすためセメント粒子りゅうしこまかくくだいたセメントである。硬化こうかはや短期間たんきかんつよ強度きょうどとなるのが特徴とくちょうである。硬化こうか強度きょうど発現はつげんいそ工事こうじ構造こうぞうぶつ使用しようされるほか、みずねつによる発熱はつねつおおきいため冬季とうき寒冷かんれいでの工事こうじにも使用しようされる。
ちょうはやきょうポルトランドセメント
はやきょうポルトランドセメントよりもさらに短期間たんきかんつよ強度きょうど発現はつげんするセメントである。緊急きんきゅう補修ほしゅう工事こうじなどに使用しようされる。
中庸ちゅうようねつポルトランドセメント
エーライトとアルミネートしょう含有がんゆうりつ低減ていげんし、ビーライトの含有がんゆうりつたかめたセメントである。みずねつひくいため、コンクリートの断熱だんねつ温度おんど上昇じょうしょうちいさく温度おんどによるコンクリートのひびれを抑制よくせいする。また、ビーライトがおおいため長期ちょうき強度きょうどすぐれる、アルミネートしょうすくないため収縮しゅうしゅくちいさく化学かがく抵抗ていこうせいおおきい、という特徴とくちょうもある。
体積たいせきおおきい構造こうぞうぶつ使用しようされるコンクリート(マスコンクリート)がおも用途ようとである。ダムだい規模きぼ橋脚きょうきゃく工事こうじもちいられる。
ていねつポルトランドセメント
ビーライトの含有がんゆうりつ中庸ちゅうようねつポルトランドセメントよりもさらにたかめたセメントであり、みずねつがさらに軽減けいげんされている。中庸ちゅうようねつポルトランドセメントと同様どうように、長期ちょうき強度きょうどすぐれる、収縮しゅうしゅくちいさい、化学かがく抵抗ていこうせいおおきいという特徴とくちょうがある。初期しょき強度きょうどひくい。マスコンクリートとして使用しようされる。
たい硫酸りゅうさんしおポルトランドセメント
硫酸りゅうさんしおたいする抵抗ていこうせいよわいアルミネートしょう極力きょくりょくすくなくしたセメントで、化学かがくてき耐久たいきゅうせいすぐれる。海水かいすいせっする護岸ごがん工事こうじや、温泉おんせんちかくの工事こうじ使用しようされる。国内こくない販売はんばいする企業きぎょうは、UBE三菱みつびしセメントのみである[2]
白色はくしょくポルトランドセメント
酸化さんかだいてつ含有がんゆうりょう低減ていげんしポルトランドセメントよりもさらに白色はくしょくとしたセメントである。
混合こんごうセメント
ポルトランドセメントに各種かくしゅ混合こんごうざいぜたセメントである。混合こんごうざい種類しゅるいにより、高炉こうろセメント、フライアッシュセメント、シリカセメントといった種類しゅるいがある。

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]
  1. ^ 日本にっぽんセメント『ひゃくねん日本にっぽんセメント、1983ねん 
  2. ^ たい硫酸りゅうさんしおポルトランドセメント”. UBE三菱みつびしセメント. 2024ねん9がつ24にち閲覧えつらん

外部がいぶリンク

[編集へんしゅう]