ミレトス

ミレトスの劇場げきじょう跡あと

ミレトスの位置いち（エえーゲ海げかい地図ちず）

ミレトス（古代こだいギリシア語ご: Μίλητος ミレートス、ラテン語らてんご: Miletus、トルコ語ご: Milet）は、エえーゲ海げかいをはさんだギリシア本土ほんどの対岸たいがん、アナトリア半島はんとう西海岸にしかいがん（今いまのトルコのアイドゥン県けんバラト近郊きんこう）メンデレス川がわ河口かこう付近ふきんにあった町まち（ギリシア人じんの植民しょくみん市し）である。青銅器せいどうき時代じだいから人ひとが住すんでいた。タレスなどミレトス学派がくはを生うんだことで有名ゆうめいである。

彫像ちょうぞう（イスタンブール考古学こうこがく博物館はくぶつかん蔵くら）

都市としの跡あとは、海岸かいがん付近ふきんの低湿ていしつ地ちから5キロメートルほど内陸ないりく側がわにある。現代げんだいでは海うみに接せっしていないが、これはメンデレス川がわの堆積たいせきによって湾わんが埋うまってしまったためであり、古代こだいにおいては港町みなとちょうだった。

歴史れきし

ミレトスには、2つの系統けいとうの建国けんこく神話しんわが伝つたわっている。そのひとつはコドロスの息子むすこネレオスに率ひきいられたイオニア人じんによって、先住せんじゅう者しゃであるカリア人じんを制圧せいあつし建設けんせつされたというイオニア系けい神話しんわで、ヘロドトスは戦たたかいによって夫おっとを殺ころされた寡婦かふたちが、入植にゅうしょく者しゃたちに強制きょうせい的てきに娶めとられたという屈辱くつじょくを記憶きおくするためにミレトスの婦人ふじん達たちに伝承でんしょうされている奇妙きみょうな風習ふうしゅうについて記録きろくしている。もうひとつは、クレタを追おわれたサルペドンもしくはミレトスという名なの半はん神かみが小しょうアジアに渡わたって建設けんせつしたというミノア系けい神話しんわである。考古学こうこがく的てきには、ミレトスが建設けんせつされる以前いぜんの後期こうき青銅器せいどうき時代じだいにはこの地ちにミノア人じんやミュケナイ系けいギリシャ人じんが居住きょじゅうしていた痕跡こんせきがあり、紀元前きげんぜん13世紀せいきのヒッタイト文書ぶんしょには、この地ちがアッヒヤワ人じんの勢力せいりょく圏けんである旨むねが記しるされている。

ミレトスの建設けんせつは紀元前きげんぜん12世紀せいき以降いこうのイオニア人じんの移動いどうと呼よばれる民族みんぞく移動いどう期きに行おこなわれ、オリエント世界せかいの結節けっせつ点てんという地ちの利りを活いかした貿易ぼうえきや黒海こっかいを中心ちゅうしんとした植民しょくみん活動かつどうによって、アルカイック期きのイオニア系けい植民しょくみん市しの中なかで最もっとも繁栄はんえいした。メソポタミアやナイルデルタの科学かがくや文化ぶんかはミレトスを通つうじてギリシャに流入りゅうにゅうし、ギリシャの思想しそうや科学かがくの草分くさわけとなる人々ひとびとを数多かずおおく輩出はいしゅつした。一方いっぽう、アルカイック期きのミレトスはトラシュプロスと呼よばれる僭主せんしゅが支配しはいする独裁どくさい制せいで運営うんえいされており、しばしば内紛ないふんが発生はっせいしていた。紀元前きげんぜん6世紀せいきよりリュディア王国おうこく、アケメネス朝あさペルシアと相次あいついで勃興ぼっこうした大帝たいてい国こくに対たいして貢みつぎ納おさめを条件じょうけんに一応いちおうの自立じりつを維持いじし、人口じんこう6 - 7万まん人にんに達たっする繁栄はんえいを見みせた。しかし、紀元前きげんぜん494年ねんに勃発ぼっぱつしたイオニアの反乱はんらんで主導しゅどう的てきな役割やくわりに就ついたため、ペルシアに武力ぶりょく鎮圧ちんあつされた。報復ほうふくとして神殿しんでんや市街しがいは破壊はかいされ、すべての市民しみんはバクトリアなど帝国ていこく内部ないぶに強制きょうせい移住いじゅうさせられたが、紀元前きげんぜん5世紀せいき前半ぜんはんに再建さいけんが許ゆるされ、内陸ないりくの市域しいきは失うしなったものの紀元前きげんぜん5世紀せいき後半こうはんには人口じんこうは約やく2万まん人にんにまで復興ふっこうした。

ペルシア戦争せんそう後ご、ミレトスはデロス同盟どうめいに参加さんかし、アテナイの指導しどうのもとに寡頭制せい政体せいたいとなった。その一方いっぽうで、ペルシア帝国ていこくとの関係かんけいも構築こうちくし、それはアテナイの支配しはいによる抑圧よくあつの捌さばけ口ぐちとしても機能きのうした。紀元前きげんぜん415年ねんのシケリア遠征えんせいの失敗しっぱい以後いご、アテナイの同盟どうめい支配しはいが揺ゆらぐと、ミレトスはスパルタのエえーゲ海げかい進出しんしゅつの拠点きょてんとなった。ペロポネソス戦争せんそうの後のち、小しょうアジアのイオニア系けい植民しょくみん市しの宗主そうしゅ権けんがペルシア帝国ていこくに返還へんかんされ、ミレトスはペルシア人じん総督そうとくティッサフェルネスの支配しはい下かに入はいる。紀元前きげんぜん334年ねんにアレクサンドロス大王だいおうの東方とうほう遠征えんせいが開始かいしされると、ミレトスは包囲ほうい攻撃こうげきを受うけ陥落かんらくした。

ヘレニズム時代じだいには戦略せんりゃく的てきな重要じゅうよう都市としの地位ちいを維持いじしたものの、ロろーマ帝国まていこく時代じだいには小しょうアジアの政治せいじの中心ちゅうしんはエフェソスに移うつり、ミレトスは15,000人にんを収容しゅうようできる劇場げきじょうやファウスティナ浴場よくじょうが建設けんせつされるなど、文化ぶんか都市としとして存在そんざい感かんを示しめした。しかし、土砂どしゃ堆積たいせきによる海岸かいがん線せんの後退こうたいが進すすみ、運河うんがによってかろうじて維持いじされてきた港湾こうわん機能きのうもビザンツ帝国ていこくの時代じだいになると完全かんぜんに喪失そうしつしてしまう。海上かいじょう交通こうつう路ろを断たたれたものの、近世きんせいに至いたるまでアナトリア方面ほうめんのキャラバンサライの中継ちゅうけい地ちとして命脈めいみゃくを保たもった。20世紀せいき中頃なかごろに起おきた地震じしんの被害ひがいによって街まちは放棄ほうきされたが、現代げんだいでは古代こだいギリシア、ローマ時代じだいの遺跡いせきは観光かんこうスポットとなっている。

植民しょくみん

ガイウス・プリニウス・セクンドゥスは『博物はくぶつ誌し』の中なかで（5.112）、ミレトスは（黒海こっかいやマルマラ海うみ沿岸えんがんに）90もの植民しょくみん地ちを作つくったと書かいている。

例れいを挙あげると、アポロニア(現げんソゾポル)、オデッソス(現げんヴァルナ)、トミス(現げんコンスタンツァ)、ヒストリア、ティラス、オルビア(en:Olbia)、パンティカパイオン(現げんケルチ)、テオドシア、タナイス、ピティウス(現げんピツンダ)、ディオスクリア(現げんスフミ)、ファシス(現げんポティ)、トラペズス(現げんトラブゾン)、ケラソス(現げんギレスン)、コテュオラ(現げんオルドゥ)、アミソス(現げんサムスン)、シノペ(現げんスィノプ)、キュトロス(en:Cytorus)、セサモス(現げんen:Amasra)、などである。

合同ごうどう植民しょくみん市しナウクラティスの植民しょくみんに参加さんかするなどエジプト方面ほうめんにも進出しんしゅつしており、ストラボンはプサンメティコス1世せいの時代じだいにはナイルデルタに「ミレトス人じんの城壁じょうへき」と呼よばれる要塞ようさいが存在そんざいしたと述のべている。

ミレトス出身しゅっしんの著名ちょめいな人物じんぶつ

• タレス - ミレトス学派がくはの哲学てつがく者しゃ
• アナクシマンドロス - ミレトス学派がくはの哲学てつがく者しゃ
• アナクシメネス - ミレトス学派がくはの哲学てつがく者しゃ
• ミレトスのヒッポダモス - 都市とし計画けいかくで知しられる紀元前きげんぜん5世紀せいきの建築けんちく家か
• アスパシア - ペリクレスの愛妾あいしょう、女性じょせい哲学てつがく者しゃ
• アリスタゴラス - イオニアの反乱はんらんの指導しどう者しゃ、僭主せんしゅ
• ミレトスのヘカタイオス - 歴史れきし家か
• レウキッポス - 原子げんし論ろんを唱となえた哲学てつがく者しゃ
• ミレトスのイシドロス - 6世紀せいき、ハギア・ソフィア大だい聖堂せいどうを建築けんちくした

出土しゅつど品ひん

• Artifacts
• 
• 
• 
• 
• 
• 

参考さんこう文献ぶんけん

• 田中たなかきく代よ、中井なかい義明よしあき、朝治あさじ啓三けいぞう、高橋たかはし秀寿ひでとし『境界きょうかい域いきからみる西洋せいよう世界せかい：文化ぶんか的てきボーダーランドとマージナリティ』ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼう〈西洋せいよう史しライブラリー〉、2012年ねん。ISBN 978-4-623-06122-8。 
• ポール・カートリッジ 著ちょ、新井あらい雅代まさよ 訳やく、橋場はしば弦つる 編へん『古代こだいギリシア 11の都市としが語かたる歴史れきし』白水しろみず社しゃ、2011年ねん。ISBN 978-4-560-08158-7。 

関連かんれん項目こうもく

• ミレトス学派がくは
• イオニア同盟どうめい
• セクストゥス・ポンペイウス