ミー散乱さんらん

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おもにミー散乱さんらんによってこるチンダル現象げんしょう
火星かせい探査たんさキュリオシティゲールクレーター撮影さつえいした火星かせいあお夕焼ゆうや[1]
完全かんぜん導電性どうでんせい金属きんぞくだまレーダー反射はんしゃだん面積めんせき(RCS)の計算けいさんから、強度きょうど周波数しゅうはすう関数かんすうとなるミー散乱さんらん理論りろんあらわしたグラフ。左側ひだりがわ漸近ぜんきんせんみぎがり)の領域りょういきはレイリー散乱さんらんで、中央ちゅうおうから右側みぎがわ漸近ぜんきんせん水平すいへい)の領域りょういきはミー散乱さんらん

ミー散乱さんらん(ミーさんらん、どく: Mie-Streuung)は、ひかり波長はちょう程度ていど以上いじょうおおきさの球形きゅうけい粒子りゅうしによるひかり散乱さんらん現象げんしょうである[2]粒子りゅうしのサイズが非常ひじょうおおきくなると、ミー散乱さんらん幾何きか光学こうがくふたつの手法しゅほうによる計算けいさん結果けっか類似るいじするようになる。なお、波長はちょうたいして粒子りゅうし散乱さんらんたい)がおおきい場合ばあい回折かいせつ散乱さんらんが、ひかり波長はちょうの1/10以下いかになるとレイリー散乱さんらん適用てきようされる。

グスタフ・ミー英語えいごばんドイツばんにより厳密げんみつかいみちびかれたとされているが、どう時期じきルードヴィヒ・ローレンツピーター・デバイなども厳密げんみつかいていた。散乱さんらん特徴とくちょうとして、粒子りゅうしのサイズがおおきくなるにつれて前方ぜんぽうへの指向しこうせいつよくなる。そのさいには、がわかたおよび後方こうほうへはあまり散乱さんらんしなくなる。

ミー散乱さんらんかかわる自然しぜん現象げんしょう[編集へんしゅう]

くもしろえる一因いちいんである。これはくも構成こうせいするくもつぶ半径はんけいかず - かず10 µmおおきさで、太陽光たいようあきら可視かし光線こうせん波長はちょうたいしてミー散乱さんらん領域りょういきとなり、可視かしいき太陽たいよう放射ほうしゃがどの波長はちょういきでもほぼどう程度ていど散乱さんらんされるためである[3][4]

地球ちきゅうでは空気くうき分子ぶんしによるレイリー散乱さんらんあおそらせているが、地球ちきゅうくらべてひく重力じゅうりょく火星かせいでは、大気たいき空気くうき分子ぶんしすくないため浮遊ふゆうする土埃つちぼこり(ダスト)のミー散乱さんらん卓越たくえつそらちがったいろとなる。火星かせい昼間ひるまそらあかく、夕焼ゆうやあおいが、これは火星かせいのダストの粒子りゅうしみちでは可視かしこう領域りょういきにおいて長波ちょうはちょうのほうがつよ散乱さんらんされるためとかんがえられている。昼間ひるま散乱さんらんされた長波ちょうはちょう赤色あかいろこうそらあかいろづかせ、太陽たいようひく夕方ゆうがた赤色あかいろこう散乱さんらん過多かた減衰げんすい散乱さんらんされにくい短波たんぱちょう青色あおいろこうえる[5][6][7]

応用おうよう[編集へんしゅう]

がんの検出けんしゅつとスクリーニング[編集へんしゅう]

ミー散乱さんらん理論りろんは、角度かくど分解ぶんかいていコヒーレンス干渉かんしょうほう英語えいごばんもちいて、細胞さいぼう組織そしきからの散乱さんらんこうが、健常けんじょう細胞さいぼうかくまたはがん細胞さいぼうかくによるかどうかを決定けっていするためにもちいられてきた。

磁性じせい粒子りゅうし[編集へんしゅう]

磁性じせいたい粒子りゅうしにおいて、多数たすう異常いじょう電磁でんじ散乱さんらん効果こうかしょうじる。誘電ゆうでんりつとおる磁率ひとしい場合ばあい後方こうほう散乱さんらん利得りとくはゼロである。また、散乱さんらん放射ほうしゃは、入射にゅうしゃ放射ほうしゃおなきでへんひからされる。粒子りゅうしサイズがミー散乱さんらんきる限界げんかいまでちいさい場合ばあいでは、前方ぜんぽう散乱さんらんがゼロであり、方向ほうこう散乱さんらん放射ほうしゃ完全かんぜんへんこうのために、前方ぜんぽう散乱さんらん後方こうほう散乱さんらんにおける非対称ひたいしょうせいしょうじる[8]

メタマテリアル[編集へんしゅう]

ミー散乱さんらん理論りろんメタマテリアル設計せっけい使用しようされている。このたねのメタマテリアルは、通常つうじょうてい誘電ゆうでんりつ構造こうぞうたい周期しゅうきてきまたはランダムにまれた金属きんぞくまたは非金属ひきんぞく介在かいざいぶつさん次元じげんふくあい材料ざいりょうからなる。

この場合ばあいまけ誘電ゆうでんりつ、もしくはとおる磁率は、介在かいざいぶつ共鳴きょうめいミー散乱さんらんあらわれるように設計せっけいされる。

まけ実効じっこう誘電ゆうでんりつ電気でんき双極そうきょく散乱さんらん係数けいすう共鳴きょうめいに、まけ実効じっこうとおる磁率は磁気じき双極そうきょく散乱さんらん係数けいすう共鳴きょうめいわせて設計せっけいされ、DNG(誘電ゆうでんりつとおる磁率ともにまけの)媒質ばいしつはこの両方りょうほうわせて設計せっけいされる。粒子りゅうし通常つうじょう以下いかわせをゆうする。

  1. 誘電ゆうでんりつとおる磁率のが1よりもおおきく近接きんせつしている1くみ磁性じせいたい誘電ゆうでんたい粒子りゅうし
  2. ひとしい誘電ゆうでんりつゆうするがことなるサイズをゆうする2つのことなる誘電ゆうでんたい粒子りゅうし
  3. おおきさはおなじであるが誘電ゆうでんりつことなる2つのことなる誘電ゆうでんたい粒子りゅうし

理論りろんてきには、ミー散乱さんらん理論りろんによって分析ぶんせきされる粒子りゅうし一般いっぱん球形きゅうけいであるが、実際じっさいには、粒子りゅうし通常つうじょう製作せいさく容易よういにするために立方体りっぽうたいまたは円柱えんちゅうとして作製さくせいされる。格子こうし定数ていすう動作どうさ波長はちょうよりもはるかにちいさいというかたちべることができる均質きんしつ基準きじゅんたすためには、誘電ゆうでんたい粒子りゅうし誘電ゆうでんりつは1よりはるかにおおきくなければならない。まけ有効ゆうこう誘電ゆうでんりつ、たとえばまけ誘電ゆうでんりつ(もしくはとおる磁率)を達成たっせいするためには誘電ゆうでんりつ(もしくはとおる磁率)は εいぷしろんr > 78(38) でなければならない[9][10][11]

アンテナ[編集へんしゅう]

ミー散乱さんらん理論りろんでは、さき磁性じせい粒子りゅうしこうげたとおり、前方ぜんぽうおよび後方こうほう散乱さんらんでは非対称ひたいしょうせいしょうじうるので、これを利用りようすることで指向しこうせいアンテナを作成さくせいすることができる。さらに、誘電ゆうでんたいちゅうにおける波長はちょう光速こうそく)の変化へんかによって、通常つうじょう空間くうかんしてアンテナは小型こがたになりうる。結果けっかたか指向しこうせい小型こがた両立りょうりつしたアンテナを作成さくせいできる[12]

また、誘電ゆうでんたい粒子りゅうし共鳴きょうめいミー散乱さんらん相互そうご結合けつごうわりにもちいることで、八木やぎアンテナ形成けいせいすることも可能かのうであり、これをもちいたナノスケールのアンテナを光学こうがく素子そしとしてもちいる方法ほうほう提案ていあんされている[13]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

  • レイリー散乱さんらん - ミー散乱さんらんことなり、ひかり波長はちょうよりもちいさいサイズの粒子りゅうしによるひかり散乱さんらん

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]