メカニズムデザイン

メカニズムデザイン (英えい: mechanism design) とは経済けいざい学がくの一いち分野ぶんやである。資源しげん配分はいぶんや公共こうきょう的てき意思いし決定けっていなどの領域りょういきで実現じつげんしたい目標もくひょうが関数かんすうの形かたちで与あたえられたとき、その目標もくひょうが自律じりつ的てき／分権ぶんけん的てきに実現じつげんできるようなルール（「メカニズム」とか「ゲームフォーム」とも呼よばれる）を設計せっけいすることを目指めざしている。い換いかえれば、与あたえられた関数かんすうが要求ようきゅうする目標もくひょうを、各かくプレイヤーの誘因ゆういんを損そこなうことなく実現じつげんできるようなゲームを設計せっけいすることをメカニズムデザインでは目指めざしている。メカニズムデザインは経済けいざい学がくのなかでも特とくに社会しゃかい選択せんたく理論りろんおよび非ひ協力きょうりょくゲーム理論りろん、さらには契約けいやく理論りろんやマーケットデザインと密接みっせつな関係かんけいを持もつ。

メカニズムは一般いっぱん的てきに次つぎのような基本きほん的てきな性質せいしつを持もつよう設計せっけいされる。

• 正直しょうじきさ（truthfulness）
• 個人こじんの利己りこ性せい
• 価格かかくの均衡きんこう
• 公共こうきょうの利益りえき（social welfare）

より進すすんだメカニズムでは、プレイヤーの談合だんごうも排除はいじょするよう設計せっけいされる。

メカニズムデザインの分野ぶんやでの功績こうせきのほとんどは経済けいざい学がくによってもたらされてきたが、近年きんねんでは数学すうがく、計算けいさん機き科学かがく、電気でんき工学こうがくもこの分野ぶんやで活躍かつやくしている。

メカニズムデザインの一いち分野ぶんやとして、市場いちばやオークション、組くみ合あわせオークションの設計せっけいがある。その他たにも、医学部いがくぶ生せいのインターンシップ配属はいぞくに利用りようされる安定あんてい結婚けっこん問題もんだいがある。更さらなる応用おうようとして、公共こうきょう財ざいの供給きょうきゅうや最適さいてき課税かぜいの設計せっけいなどについても研究けんきゅうされている。

メカニズムの例れい

オークション

オークションの設計せっけいでは、効率こうりつ性せいと耐たい戦略せんりゃく性せいをみたすオークションメカニズムの設計せっけいが重視じゅうしされる。ここで各かく用語ようごの意味いみは以下いかのようである。

効率こうりつ的てきなオークション

財ざいをもっとも高たかく評価ひょうかする入札にゅうさつ者しゃにその財ざいを配分はいぶんするようなオークション

耐たい戦略せんりゃく的てきなオークション

入札にゅうさつ者しゃが財ざいに対たいする自分じぶんの評価ひょうか額がく以外いがいの額がくを入札にゅうさつしても得とくをすることがないようなオークション。ゲーム理論りろんの言葉ことばでいえば、評価ひょうか額がくをそのまま入札にゅうさつすることが弱じゃく支配しはい戦略せんりゃくになっているようなオークションメカニズム

たとえば最もっとも高たかい入札にゅうさつ額がくをつけた入札にゅうさつ者しゃがその入札にゅうさつ額がくを支払しはらうことで財ざいを受うけ取とるファーストプライスオークション（第だい一いち価格かかくオークション）は耐たい戦略せんりゃく的てきではない。最適さいてきな戦略せんりゃくが他人たにん次第しだいであることは、各自かくじが自分じぶんの評価ひょうか額がく以下いかかつ2番目ばんめに高たかい入札にゅうさつ額がく以上いじょうの範囲はんいでできるだけ低ひくい入札にゅうさつ額がくを狙ねらうことから分わかり、実際じっさいに理論りろん的てきにも入札にゅうさつ者しゃは評価ひょうか額がくよりも低ひくい金額きんがくを入札にゅうさつすることが示しめせる。なお、このオークションは各かく入札にゅうさつ者しゃが互たがいの入札にゅうさつ額がくを知しらずに入札にゅうさつする封印ふういん入札にゅうさつオークションの代表だいひょう例れいでもある。

効率こうりつ性せいと耐たい戦略せんりゃく性せいをみたすオークションとしては、セカンドプライスオークション（第だい二に価格かかくオークション; Vickrey auction）が知しられている。これは最もっとも高たかい入札にゅうさつ額がくをつけた入札にゅうさつ者しゃが2番目ばんめに高たかい入札にゅうさつ額がくを支払しはらった上うえで財ざいを受うけ取とる封印ふういん入札にゅうさつオークションである。なぜ自分じぶんの評価ひょうか額がくをそのまま入札にゅうさつするのが最適さいてきかは、次つぎのように説明せつめいできる。いまオークションの対象たいしょうとなっている財ざいに対たいするあなたの評価ひょうか額がくが10,000円えんで、あなた以外いがいの入札にゅうさつ者しゃの入札にゅうさつ額がく (bid) で最高さいこうのものを b 円えんとする。

• b > 10,000円えん の場合ばあい。たとえば b = 10,700円えんとする。この場合ばあい、財ざいを落札らくさつすれば 10,700円えん以上いじょうを払はらうことになるため、落札らくさつしない方ほうが得とくである。そのためにはその額がく b 円えん未満みまんを入札にゅうさつしておけばよく、10,000円えんを入札にゅうさつするのはその条件じょうけんに適かなっている。
• b < 10,000円えん の場合ばあい。たとえば b = 9,800 円えんとする。この場合ばあい、財ざいを落札らくさつすれば支払しはらいが 9,800 円えんで済すむため、落札らくさつした方ほうが得とくである。そのためにはその額がく b 円えんより多おおい額がくを入札にゅうさつしておけばよく、10,000円えんを入札にゅうさつするのはその条件じょうけんに適かなっている。

要ようするに各人かくじんにとって、自分じぶんの評価ひょうか額がくをそのまま入札にゅうさつする戦略せんりゃくが常つねに最適さいてきであり、それ以外いがいの額がくを入札にゅうさつする戦略せんりゃくはこの戦略せんりゃくに弱じゃく支配しはいされている。

非ひ分割ぶんかつ財ざいの配分はいぶん

「オークション」といえば金銭きんせんの授受じゅじゅを伴ともなうメカニズムになってしまうが、状況じょうきょうによってはもっとも評価ひょうか額がくの高たかい人ひとに金銭きんせんの授受じゅじゅを避さけた形かたちで「財ざい」を配分はいぶんすることを目標もくひょうとした方ほうが自然しぜんなこともある。たとえばソロモン王おうのジレンマとして知しられる配分はいぶん問題もんだいがそれである。「自分じぶんがこの子この母親ははおやだ」と主張しゅちょうする二人ふたりの女おんながソロモン王おうの前まえに現あらわれたという旧約きゅうやく聖書せいしょのエピソードから来きている。ソロモン王おうの目標もくひょうは、赤あかちゃんを真しんの母親ははおやに返かえすことであり（ただし王おう自身じしんはどちらの女おんなが真しんの母親ははおやかは知しらない）、金銭きんせんの授受じゅじゅなしにこれを遂行すいこうすることである。ここでは話はなしを簡単かんたんにするため、真しんの母親ははおやがその子供こどもに対たいするもっとも高たかい「評価ひょうか額がく」を持もつと仮定かていする。

この問題もんだいを解決かいけつするメカニズムとしては様々さまざまなものが提案ていあんされている。ここではセカンドプライスオークションを利用りようした非常ひじょうに単純たんじゅんなメカニズムを取とり上あげ、一いち単位たんいだけある財ざいを n 人ひといる個人こじんのうちの最高さいこう評価ひょうか者しゃ（最高さいこう評価ひょうか額がくを持もつ個人こじん）に配分はいぶんできることを説明せつめいする。なお、各人かくじんは最高さいこうの評価ひょうか額がくと2番目ばんめの評価ひょうか額がくの差さがある値ね δでるた > 0 より大おおきいことを知しっており、自分じぶんの評価ひょうか額がくが最高さいこうかどうかも分わかるものとする。メカニズムは次つぎの2段階だんかいから成なる：

1. 各人かくじんはそれぞれオークションに参加さんかするかどうかを表明ひょうめいする。
2. 参加さんか表明ひょうめい者しゃが2人ふたり以上いじょうの場合ばあい、参加さんか者しゃは参加さんか費ひ δでるた を払はらった上うえでセカンドプライスオークションに参加さんかする。参加さんか表明ひょうめい者しゃが1人ひとり以下いかの場合ばあい、参加さんか者しゃがタダで財ざいを得える。いずれの場合ばあいも参加さんかしない者ものには支払しはらいも生しょうじないし財ざいも得えられない。

最高さいこう評価ひょうか者しゃへの配分はいぶんがこのメカニズムでうまく実現じつげんできることは、逆ぎゃく向むき帰納きのう法ほうで示しめせる。まず、第だい2段階だんかいのセカンドプライスオークションに参加さんかした個人こじんは自分じぶんの評価ひょうか額がくを入札にゅうさつするはずである（参加さんか料りょうはサンクコストとなって影響えいきょうを与あたえないため）。したがって最高さいこう評価ひょうか者しゃ以外いがいの参加さんか者しゃは、オークションへの参加さんか費ひを取とられる一方いっぽうで財ざいは得えられないことになる。これは彼かれらにとって参加さんかすることより損そんなので、彼かれらは第だい1段階だんかいで不参加ふさんかを表明ひょうめいする。一方いっぽう、第だい2段階だんかいで（参加さんか費ひを払はらった上じょうでも）損そんせずに財ざいを獲得かくとくすることが予想よそうできる最高さいこう評価ひょうか者しゃは、第だい1段階だんかいで参加さんかを表明ひょうめいする。以上いじょうから実際じっさいに第だい1段階だんかいで参加さんかを表明ひょうめいするのは最高さいこう評価ひょうか者しゃだけになり、金銭きんせんのやり取とりなしで財ざいがこの人ひとに配分はいぶんされることが分わかる。

メカニズムデザインのモデル化か

メカニズムデザインのモデルは、環境かんきょうとメカニズムによって表あらわされる。

環境かんきょう

$(N,\Omega ,\Theta )$ と表記ひょうきされる。

• $N={1,2,...,n}$ ：参加さんか者しゃの集合しゅうごう　ただし設計せっけい者しゃ自身じしんを含ふくむときは設計せっけい者しゃを$0$として加くわえる。
• $\Omega ={\xi ,...}$：実現じつげん可能かのうな結果けっかの集合しゅうごう
• $\Theta ={\mathbf {t} ,...}$：参加さんか者しゃタイプの集合しゅうごう　ただし$\mathbf {t} =(t_{1},t_{2},...,t_{n})$。

（各かく参加さんか者しゃ$i$ のタイプ（参加さんか者しゃの信念しんねんや価値かち観かん）の集合しゅうごう$\Theta _{i}$に対たいして$\Theta =\Theta _{1}\times \Theta _{2}\times ...\times \Theta _{n}$ ）

メカニズム

$(S,\omega )$と表記ひょうきされる。

$S={\sigma ,...}$ ：戦略せんりゃくの集合しゅうごう　ただし$\sigma =(\sigma _{1}(t_{1}),\sigma _{2}(t_{2}),...,\sigma _{n}(t_{n}))$

（各かく参加さんか者しゃ$i$ の戦略せんりゃくを$S_{i}$として$S=S_{1}\times S_{2}\times ...\times S_{n}$）

$\omega =[\omega (\sigma ),...]$ ：結果けっかの集合しゅうごう（つまり$\omega$は写像しゃぞう $\omega :S\to \Omega$）

ギバード＝サタースウェイトの定理ていりでは、支配しはい戦略せんりゃくで誘導ゆうどう可能かのうな結果けっかは独裁どくさいだけであるということが示しめされている。これに対たいし、ナッシュ均衡きんこうを社会しゃかいに適用てきようする際さいは可能かのうなものがいくつかある。

レオニード・ハーヴィッツ、エリック・マスキン、ロジャー・マイヤーソンの3人にんは、「メカニズムデザインの基礎きそを作つくり上あげた」として2007年ねんにノーベル経済けいざい学がく賞しょうを受賞じゅしょうしている。